怪しい女達を引き連れた改造人間の手から逃れるべく、少女達は病院内を
逃げ回っていた。火災報知器が作動し、けたたましく非常ベルが鳴り響き
サイレンが激しく明滅する。断続的に降り注ぐスプリンクラーの放水をくぐり、
明日香を連れて紗耶香は行く先も判らぬままに逃げた。
「がんばって外に出よう?外に出れは何とかなるから!」
肩にすがる明日香を励ましながら、紗耶香は病院の外へ出るべくロビーへと
急いだ。
しかし、その時二人は背後から近づいてくる者たちの姿に気づかなかった。
非常ベルの音と、スプリンクラーの水の音が二人の注意力を殺いでいたのだ。
二人がようやく自分達を探している者達の存在に気がついたのは、黒い手袋
のような手が少女の肩に伸びたその瞬間だった。
「いっ!!」
驚きと緊張、背筋を伝う冷たい感覚と共に振り返ると、そこには黒ずくめの
男達がいた。彼らは銃を構え、ただならぬ気配を放ち二人の背後に立っていた。
『福田明日香だな?』
間違いない、こいつらも敵だ。紗耶香はとっさにそう判断し、男の手を振り払う
と明日香を連れて黒ずくめの男達の前から全力疾走で離脱した。その直後、男達
は躊躇することなく銃を構え、二人に向かって発砲した。
「うそぉ?!」
自分たちの身柄を拘束できなければ殺すことも厭わない、男たちの意図を察し、
血の気の引く思いのまま紗耶香と明日香は走って元来た道を引き返す。
そして男達の銃声は、もう一方の追跡者であるコブラ男の一団にも聞こえていた。
二人の姿を求めてさまよっていたちょうどその時、階下からの銃声を耳にしたのだ。
「銃声・・・だと?」
病室から二人に逃げられた直後、アジトからの増援がやってきたことは知っていた。
そしてその増援部隊と合流し、現在の自分達の部隊編成は把握している。
「増援はお前達だけだったな?」
そう言ってコブラ男はベレー帽の男達の方を見やって言う。その時ベレー帽を被った
赤いスーツの戦闘員が歩み出た。彼は増援部隊のリーダーだったので、コブラ男の
前に歩み出るやこう言った。
「間違いありません、コブラ男様。本部からの増援は我々だけです」
「と、いう事は・・・」
コブラ男の眼が鋭い眼光を放ちながら周囲を見わたす。発砲した者達は自分達のそば
にはまだいないようだが、彼はある結論に達して部下達に言った。
「何者かは判らぬが、俺達以外にあの小娘を狙っている奴らがいる。そいつらも
見つけ次第殺せ!!」
「イーッ!!」
コブラ男の命令と共に、男女のゼティマ戦闘員が揃って奇声を挙げる。ここまできたら
もはや二正面作戦である。福田明日香の殺害と、謎の攻撃部隊の殲滅。やがて始まる
であろう戦いを思い、コブラ男は舌なめずりしてニヤリと笑う。
謎の攻撃部隊とコブラ男率いる軍団、ついにその両者が互いの存在を察知した。一方
紗耶香と明日香も、自分達を狙っている者たちが先ほどの蛇のような怪物たち以外に
存在することを知った。この両者から逃げ延びない限り、二人の命はない。