『現在総合受付付近を通過。数名の職員の死亡を確認・・・』
病院内部に進入した黒ずくめの特殊部隊は、各自が小銃を手に周囲を警戒しながら
施設内をさらに奥へと進んでいく。隊員はそれぞれ真っ黒なヘルメットを被っている
ため互いの表情を知ることは出来ないが、中に何者が待つとも知らず、外の男の
命ずるままに隊伍を組み明日香を捜索していた。
と、その時である。先頭の隊員が何かを見つけたか、手で後続の隊員を制する。
その動きに従って、隊員は壁に張り付く。先頭に立つ隊員は、銃の先端に取り付け
られたCCDカメラで異変を察知した方向を調べる。カメラに映し出されたのは、
戦闘員達を引き連れて二人の少女の行方を追う改造人間の姿だった。当初明日香と
紗耶香の前に姿を現したコブラ男の配下以外に、新たに黒いベレー帽を被った全身
黒尽くめの男達十名ほどが加わっていた。
『・・・真ん中のあれは、もしかして改造人間ってやつか?』
映像の内容は、既に他の隊員の知るところであった。各自が持っている携帯端末
によって、カメラの映像は隊員の間で共有されているのである。隊員たちは全員、
敵の一団の中に未知の者の姿があることを知っていた。この事が、作戦の遂行に
おいていかなる障害になるかは判らない。先頭の隊員が敵の動向を注視しながら
外で指揮をとる男への報告を促す。
『判らん。一応、村上さんに知らせたほうが良いかもしれないな』
すぐさま隊員の一人が表で待っている男と同じ形の携帯端末を取り出し、まるで
携帯電話でもかけるかのように端末のキーを操作すると、外で部隊を指揮する男に
対して報告を入れた。
「どうしました?福田明日香は見つかりましたか」
『いえ、それが少々厄介な相手が現れまして・・・改造人間と思しき敵の姿を発見
しました。蛇型の改造人間です』
そう言って中にいる隊員は男〜村上峡児に改造人間出現の報を知らせた。しかし
この事態の急転に際しても、村上は表情一つ変えることはない。隊員にはうかがい
知れるはずは無いが、やれやれと言った表情でため息を一つつくと村上は言った。
「言ったはずです。皆さん方は作戦部隊としては上の上の存在だと。ならば私の
期待に応えるべきでしょう・・・それに」
一瞬間をおき、怪しい笑みを浮かべて一呼吸置くと村上は報告を入れた隊員に対して
こう続けた。
「オルフェノクが『模造品』などに遅れを取るはずがありません。必要ならば
見せ付けてやればいい・・・あなた達との格の違いをね」
そう言って村上は一方的に通話を切る。ゼティマの改造人間、そして謎の集団。
二つの勢力が拮抗する病院内のサバイバルゲーム。その真っ只中に自分達がいる
ことなど、二人の少女は勿論知る由も無い。