「どうしたんだ?」
「何かひき逃げらしいよ・・・女の子が」
「助からないかもね・・・」
野次馬の喧騒を掻い潜って、紗耶香は毛布に包まった少女を乗せたストレッチャー
へと駆け寄る。毛布に覆われたその下から、かろうじて覗く少女の髪と目が紗耶香の
視界に入り込んだその時、その刹那に彼女が己の目に焼き付けた残酷な事実が心を
激しく揺さぶり、どん底に叩き落とした。
「明日香っ!しっかりして!明日香っ!!」
突然現れてわめき散らす少女の姿に、怪訝な視線を送る野次馬達。そんな人々の
声など無論紗耶香の耳に届いているはずはない。なおも降りしきる冷たい雨が
紗耶香の身体を、そして心を叩く。とその時、そんな彼女を見かねたか一人の
救急隊員が声をかけてきた。
「あなた、この子の友達?」
「・・・明日香は、あの子は助かるんですか?!」
「とにかく乗って。あんたまで風邪を引いてしまう」
かくして一段と強さを増した夜の雨の中、雨粒が叩きつけるアスファルトに轍を
残し、二人を乗せた救急車は一路救急病院へと走り出した。生と死の狭間でゆれて
いるであろう親友の命。その身を案じ引き裂かれんばかりの思いを抱え、紗耶香は
ただひたすらに友の命の無事を祈っていた。