最終章 「先輩」
深夜近くになって、ようやく4人は中澤家に帰ってきた。
リビングに入るなり、いきなり怒鳴り声が響いた。
「あんたたち!勝手なことばかりして、危ないじゃないの!何かあったらどうするの!」
そのあまりの勢いに4人ともリビングの入口で固まってしまった。
「裕ちゃん・・・」
「まだ4人とも何も言ってないよ・・・」
「あ、そうか・・・」
飯田と安倍にそう言われると、中澤はゆっくりと深呼吸をした。
にっこりと笑い、4人に話しかける。
「・・お嬢ちゃんたちぃ、こんな遅くまでどこで遊んでたのぉ?怒らないからお姉さんにお話ししてごらん?」
「・・・こ・・・怖い・・・」
「・・今日一番怖い・・・」
「・・・そうか・・まあそういう成り行きやったらしゃあないな・・・」
「すいません・・・」
「これからはあまり無茶したらあかんで。でも4人ともいい経験になったやろ。・・・それと小川。」
「はい。」
「あんまり1人で突っ走ったらあかんで、ちゃんとみんなに相談しいや。」
「はあい。そうしまあす。」
小川は中澤の前ではなぜか甘えたような仕草を見せる。
「・・・・・新垣もな。」
「・・・・・はい。」
「じゃあ今日は遅いし、みんな早く・・・」
「あの、中澤さん。来週ぐらいにみんなで花巻に行きません?」
紺野が突然妙な提案をした。
「花巻?岩手の?なんや、わんこそばでも食べに行くんか?」
「あそこの支部は守りが薄いんですよ。」
「そうそう。私、お弁当作りますから。」
「・・人の話聞いとったんかい・・」
「でも〜、私、いま成長期なんですよお。闘う相手が欲しいんですう。」
小川が上目遣いで手をすりながらお願いした。
「あかん!あかん!来週行ったって、明日行ったってこの情報どおりなわけがないやろ!」
中澤がDVDを振り回して怒鳴った。
「・・・私も試したい技がたくさんあるのに・・」
紺野も残念そうな顔をした。
「あんたらなあ・・・」
「・・そんなに力が有り余ってるなら・・・」
「私たちが相手をしてあげる。」
4人の後ろから飯田とケイが声をかけた。
「・・・あ、いや、あの・・」
「あさ美ちゃん、今日の特訓サボったね?」
安倍がにっこりと紺野に話しかけた。
「・・・あ、ごめんなさい・・」
「お豆ちゃ〜ん・・・」
矢口がそう言って新垣に近寄る。
「待って、新垣は私が相手をしてあげるよ。」
間にひとみが割って入った。
「・・さあいらっしゃい。今日はたっぷりしごいてあ・げ・る。」
飯田が優しくそう言うと、全員地下室へ消えていった。
「・・・さて、どうしたもんか・・」
中澤は目の前のDVDや磁気テープを見て考え込んだ。
「さ、いつもどおり好きにかかっていらっしゃい」
「あの〜・・飯田さんたち、ひょっとして今日あそこにいました?」
Xライダーが聞いた。
「え?何の話?私たち支部の隣の山になんか行ってないよ。ねえ?」
「隣の山?」
「しまった・・」
「カオリぃ・・・」
「実はその隣の山で、怪人が倒されていたんですよ。」
「あ!あの4人は私たちじゃないよね!ね、みんな!」
「4人?」
「・・・みなさん、あそこにいたんですね?」
「なっちぃ・・・」
あまりに嘘の下手なスーパー1とストロンガーを見て、アマゾンと矢口は呆れていた。
キカイダーだけはキョトンとしている。
「やっぱり助けに来てくれてたんだあ・・・」
そう言ってZXが目を潤ませた。
「あの、ひょっとして私のことも・・・」
イナズマンが心配そうにつぶやいた。
「え?いや、知らないよ。里沙ちゃんのお母・・モガモガ!」
「知らない!知らない!新垣のことなんて何にも知らな〜い!」
あわててスーパー1がストロンガーの口を塞いだ。
「・・・・・」
とことん嘘の下手な2人の姿を見ながら、アマゾンと矢口はうなだれていた。
「・・・はい、わかりました!」
イナズマンはそう言って少しだけ嬉しそうに笑った。
「あの・・・先輩達から見て私たちの今日の闘い方はどうでした?」
「まだまだね。さ、その鼻っ柱を折ってあげるからかかってらっしゃい。」
「はい!よろしくお願いします。先輩!」
4人は元気に走り出した。
「どう?解析できた?」
中澤の部屋には石黒と加護、辻、梨華が集まっていた。
「DVDの方は簡単やったわ。・・・けっこうすごい情報やな。」
「すごいのれす。」
「愛ちゃんたちすごいやんか。」
「大戦果だよね。」
「・・・そう喜んでばかりもいられへんわ。支部の情報は充実してるけどな・・」
「本部の情報が少ないね・・・」
「じゃあ、まず支部を全部つぶすのれす。」
「あさ美ちゃんの言うとおり、花巻がええ感じやな・・」
「あんた達までバカなこと言ってんじゃないの・・」
中澤がはしゃぐ辻と加護に釘を差した。
「多分こっちが本命なんやろうな。・・」
中澤は映画のフィルムのような磁気テープを持ち上げながら言った。
「そっちのデータは読めないの?」
「データを吸い出そうとしたらあのザマや・・・」
中澤はガラクタと化したパソコン達を指差した。
テープを機械にかけ再生したとたんパソコンが沈黙し、二度と起動しなくなった。
他のパソコンに変えても同じだった。
「今うちでまともに動くパソコンはこのノート1台だけや・・・」
「あっ、私のVAIOまで!・・・裕ちゃん、ヒドイよ!・・・」
「大丈夫や、ちゃんとバックアップは取ってあるから。」
「そーゆー問題じゃないよ!・・・」
石黒は買ったばかりのノートを手にして泣きそうな顔をしていた。
「まあそんなわけやから、しばらくみんな食事はご飯と漬物だけやで。」
「う・・・」
「あう・・・」
「そんなことより・・・」
「うん・・・心配やな。」
石黒と中澤は顔を曇らせた。
「なにがれすか?」
「・・・向こうを本気にさせてなければええんやけどな・・」
地下室では特訓が続いていた。
「あさ美ちゃん、ちょっとタイム・・・」
「どうしたんですか?安倍さん」
「小川・・・今日は遅いし、そろそろ終わりにしない?」
「何でですか?ケイさんらしくないですよ?」
「高橋・・そのライドル使うのやめてくれない?」
「え?いつも使ってるじゃないですか。」
「だめ!とにかくだめ!今日からだめなの!」
「さあ、私の攻撃をよけてみなよ!・・・・」
「逆転チェスト逆転チェスト逆転チェスト逆転チェスト逆転チェスト・・・」
「・・ま、真面目にやれー!」
「えー?ひとみさんまでそんなこと言うんですかぁ?」
「こりゃマズイな・・・」
矢口は4人の予想以上の成長を見て戸惑っていた。
「今日の私、強いですか?」
スカイライダーが多彩な技を繰り出す。
「自信もって闘っていいですか?」
イナズマンが超変則的な、トリッキーな攻撃を仕掛ける。
「今日の私、力強いですか?」
ZXのパワーがみなぎる。
「まっすぐにぶつかって平気ですか?」
Xライダーのマーキュリー回路に火が入る。
4人はいったん離れて構えをとり、ほぼ同時に叫んだ。
「・・・先輩!」
特訓は深夜に及んだ。
翌朝、玄関の前・・・
「・・・あ、あれ?カオリも?」
「なっちも?」
「うん・・あれじゃどっちが特訓受けてるんだか分かんないもの・・」
「だよねぇ・・」
そこへあくびをしながらケイが現れた。
「・・あ!ケイちゃんも!」
「あれぇ?・・2人ともひょっとして・・・」
「うん、今日から朝錬するの。」
「あの4人に負けるわけにはいかないもんね・・」
「・・ということは、そろそろ・・」
3人が玄関を見ていると、矢口が赤いジャージにハチマキ姿でストレッチをしながら出てきた。
「・・やっぱり来た!」
「・・・あれ、みんなどうしたの?」
「あんたと同じよ・・・」
「・・みんな考えることはいっしょだねぇ。」
「じゃあ、とりあえず4人で走ろっか。」
「・・ちょっと待ってよ!」
その声に4人が振り向くと、白いスウェットに身を包んだひとみが立っていた。
「うそ・・」
「マジで?・・」
「どういう風の吹き回し?」
「・・なんでよ!別にいいじゃない。わたしにだって意地があるんだから・・」
「まあまあ、いいじゃん。みんな一緒にトレーニングしようよ。」
矢口がそう言うとようやく全員で走り出した。
ひとっ走りした5人は公園のベンチでへたり込んでいた。
「ふう・・・」
「結構しんどいね・・・」
突然、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「・・先輩〜!」
「げっ!」
「なんであんたたちここにいるの?」
「私たち毎日ここでトレーニングしてるんですよ。ねえ?」
紺野の言葉に高橋と小川と新垣がうなずいた。
「あ・・・そうなの?」
「先輩達は今日からですか?」
「いや、あの・・」
「一緒にやりましょうよ。」
「・・・冗談じゃない!」
「あんたたちはもう当分強くならなくていいの!」
5人は慌てて走り出した。
「あっ!」
「どうしたんですか?」
「待ってくださいよ!」
「先輩〜!」
4人が走って追いかけた。
まるで学校のクラブ活動のような光景だった。
普通なら全員そのぐらいの年頃である。
散歩やランニングに来ていた人達は、元気に走り回る彼女達の姿をにこやかに眺めていた。
まさか彼女達が命を懸けて正義のために闘う改造人間などとは誰も夢にも思わない・・・
柔らかい陽射しが降り注ぐ穏やかな朝だった。
季節はもう冬になろうとしていた。
「5」おわり