第八章 「愛(その2)」
ドアを開くと中は機械だらけだった。大きなモニターがあり、
一段高いところには豪華で悪趣味な椅子が置いてある。
どうやらここが司令室のようだった。
・・・それから1時間後
「貴様ら、ここで何を!・・・まさか、ライダーか!」
やっと本部から帰って来た支部長、元GOD総司令の呪博士が司令室に入って来た。
「・・よくぞここまで来た。だがここが貴様らの墓場だ!」
「この台詞を聞くの、今日で何回目だろうね。」
「悪党ってボキャブラリーが貧困だよね。」
ZXとイナズマンが顔を見合わせて笑った。
「うるさい!・・・タイガーネロ!こいつらを始末してしまえ!」
呪博士がマントからスイッチを取り出した。
司令室の右側の扉が開く。
「・・・どうした?タイガーネロ!さっさと出て来い!」
壁の向こうは無人だった。
「タイガーネロなら倒したよ。」
「何?そんなバカな!」
呪博士はイナズマンの言葉を聞いて、慌てて椅子のモニターで怪人のステータスを確認した。
「・・・何てことだ!・・くそ、アポロガイスト!貴様ただ見ていただけか!」
またスイッチを取り出し、監視用モニタでアポロガイストを探す。
・・・しかし飛び込んできたのは倒れたアポロガイストの姿だった。
「まさか!・・・お前達は一体・・」
「・・誰か来てくれ!ミノタウルスでもいい!・・・誰でも・・・」
呪博士は全怪人のステータスを確認して落胆した。
半分以上が倒され、残りは脱走・・・
おまけにせっかく集めた子供達と研究員も残らず開放されていた。
「許さん・・許さんぞ貴様ら!」
そう言ってスイッチを押す。
後ろの壁が大きく割れ、音を出して開きだした。
「フフフ・・私がゼティマに復讐するため作った最強の巨人だ。まずは貴様達から血祭りにあげてやる!」
壁が完全に開ききると、呪博士は振り向きながら大声で叫んだ。
「さあ!キングダークよ!目を覚ませ!全世界を滅ぼすのだ!」
「・・・・・・」
「ね、壊しておいて正解でしょ?」
「さすがあさ美ちゃん、カンがいいね」
さしもの最強ロボットも、操縦者がいなければただのデカイ人形であった。
キングダークは徹底的に破壊され、ただのガラクタと化していた。
「そんな・・・私の何十年間もの苦労が・・」
呪博士はよろよろと倒れかかり、椅子にしがみ付いた。
「なんか哀れになってきたね・・・」
スカイライダーはちょっとだけ同情した。
「・・貴様ら!一体私になんの恨みがあって・・・」
「恨み?・・・」
そう言われると、ZXとXライダーが前に出た。
XライダーはZXを手で制し一人で前に進み出た。
「私たちは恨みだけで戦ってるわけやないよ。・・・でも、あなただけは違う。」
そう言って静かに変身を解いた。
「呪のおじさん・・・久しぶりやね・・・」
「お前は!高橋・・愛か!・・・お前がライダーだったとは・・・」
呪博士はまるで幽霊にでも会ったかのように驚いた顔をした。
「愛ちゃん。知り合いなの?」
「お父さんの親友やったんや。昔よく遊んでもらったし。・・・おじさん、なんで私とお父さんを殺そうとしたん?」
呪博士はしばらく沈黙し、やがてゆっくりと話し始めた。
「・・・私には野望があったのだ。この世界全てを手に入れるという野望が・・・
しかし親友であるお前の父親はそれを理解しなかった。その上邪魔までしようとしたのだ!」
「だからお父さんを殺したの?・・・」
「・・許してくれ、愛!私はどうかしていたのだ・・・私はゼティマに利用されていたのだよ。
・・・この組織も乗っ取られ、しかも今はお前達のために全てを失い、もう目が覚めた・・・」
「・・・・」
「この上は死をもって償おう。さあ愛よ、こっちへ来てお前の手でひとおもいに
私を殺してくれ・・・頼む・・・」
「おじさん・・・」
高橋はゆっくりと階段を登り、呪博士のそばに立った。
呪博士が顔を上げる。
その瞬間、高橋はマントの上から素早く呪博士の腕を掴んだ。
「おじさん・・・じゃあこの銃は必要ないよね・・・」
そう言ってマントの下の拳銃を奪い取った。怪人用の強力な銃だった。
「おじさんの気持ち、よく分かったよ・・・・・」
高橋は後ろに下がって銃を捨て、腕をまっすぐ上に伸ばした。
「大・変・身・・・」
「おじさん・・・じゃあ、望みどおりにしてあげる。・・・」
Xライダーは恐ろしく冷たい声で言うとゆっくり呪博士に近付いた。
「う、くそ!・・・」
呪博士はまたマントの下からスイッチを出した。
突然呪博士を囲むように、上から強化ガラスの箱が降りてきた。
ガラスの向こうで呪博士が不適に笑う。
「しまった!」
Xライダーは慌てて破壊しようとするがびくともしない。
「今日のところは見逃してやる。だが、必ずこの借りは返してもらうぞ!」
呪博士はマントからスイッチを出しボタンを押す。すると椅子が横に動き出した。
どうやらこの下に秘密の脱出通路があるようだ。
「・・・・あれ?・・」
呪博士は通路に入ることが出来なかった。すべて土砂で埋まってしまっていた。
ガラガラガラ・・・
おまけに強化ガラスの箱が勝手に上に上がった。
「・・・どうしたことだ?」
「地下通路も、その先の脱出用ロケットも、自爆用水爆も、全部使えませんよ。」
スカイライダーが司令室のパネルを操作しながら言った。
「くどいね、この人・・・」
イナズマンはその様子を見て呆れていた。
「・・くそおおお!!」
呪博士はまたマントの下に手を入れた。
それを見てZXは呪博士に飛びつき、体を持ち上げ足を持って逆さに降った。
マントの下からスイッチなどがバラバラと何十個も出てきた。
「・・・まだこんなにあったんだ・・・」
イナズマンが拾い集める。怪人用スタンガン、毒霧スプレー・・・スイッチ類は20個以上、
自爆用だけでも4種類ある。
「なんで1つにまとめようとしないんだろうね・・」
スイッチを見ると全部ボタンは1つ。「ON」だけだ。
「年寄りだからじゃない?」
「さて・・・」
4人は呪博士を取り囲んだ。
「・・・待て、取引をしよう。私が知っている限りのゼティマの情報を・・」
「ダウンロードしました。」
スカイライダーは磁気テープとDVD数枚と、念のためハードディスクまで持っていた。
「・・・おい、私の心臓が停止したらこの基地は無数の爆弾で吹っ飛ぶぞ。それでもいいのか?」
「あさ美ちゃん・・」
「うん、知ってる。停止後5分で爆発するんでしょ?この司令室から脱出ルートは6本。
私たちの足なら最短2分、最長4分」
「・・・・」
「残るパターンとしては、本人が怪人に変身して闘うぐらいだけど・・」
「でもそれって、たいてい隊長とか幹部より弱いんだよね。」
「そうそう、あっさり負けちゃうの。」
「・・・貴様らぁ!私をコケにするのもいいかげんにしろ!」
突然呪博士の体が青白く光った。
頭が裂け、虫のような目と口が姿を現す。
色は濃い紫だ。
腕も足も体中全てが巨大化していく。
足と腕はそれぞれ2つに裂け全部で8本になった。
4本の腕の先には刃物のように鋭い爪が光り、無気味にカチャカチャと音を立てている。
「グォォォォォ・・・・」
不気味な声を出し、上からライダー達を見下ろした。
口から粘液質の液体が落ち、ジュッという音を立てて床を焼け焦がした。
「・・・貴様ら、とうとう私を本気で怒らせてしまったようだな・・・」
見るもおぞましい、まるで巨大な蜘蛛のような姿だった。
・・・でもやっぱり弱かった。
4人が出口から脱出すると、直後に大爆発が起こった。
「ふう、危ない危ない・・・」
「愛ちゃん、しつこいぐらいに追い討ちかけるから・・・」
「ごめん、ああいうタイプって何度も生き返りそうで怖くて・・・」
「派手に燃えてるね・・・」
山のあちこちで爆発が起こり、北信越支部は跡形もなく吹き飛んだ。
おそらく「火山の噴火」としてマスコミは伝えるのだろう。
Xライダーはその様子をじっと見つめていた。
「お父さん・・・やったよ。」
しかし、呪博士の言葉が頭に浮かぶ。
『・・・私はゼティマに利用されていたのだよ・・・この組織も乗っ取られ・・・』
あれは果たして本当に父の仇だったのか・・・
いや、真の敵は他にいる。
「・・戦いはまだ始まったばかり、か・・・・」
「愛ちゃ〜ん。何してるの?帰るよ〜。」
後ろから3人の声がした。
高橋は大きく息を吐くと振り返って歩き出した。
「うん・・・今行く!」
「疲れたね。」
「長い一日だったね・・・」
「おなか空いた・・・」
「先輩達、心配してるかな?・・・」
4人はバイクの方へ歩き出した。辺りはすっかり暗くなっていた。
その様子を隣の山から監視していた4人の改造人間は驚きを隠せなかった。
「・・・壊滅か・・・」
「手を貸す暇もなかった・・」
「まさか・・・」
「・・・『勢い』ってすごいね・・・・」
赤い仮面の改造人間、V3が半ば呆れつつ言った。
「若いっていいよね・・・」
アマゾンがつぶやく。
「あの4人、強くなったね。」
ストロンガーは驚きながらも嬉しそうな様子だ。
「どうしよう、帰ってきたら褒めてあげる?」
スーパー1が3人に聞く。
「いや、そうするとあいつら調子に乗っちゃうから、少しシメてやろうよ」
「そうだね。私達から見たらまだまだだもんね・・・」
V3とアマゾンは顔を見合わせて笑った。
「でもさ、新垣のこと・・・」
「うん・・・放っておくわけには行かないね。」
「まったくもう・・それならそうと言ってくれればいいんだよ・・・」
「しょうがないよ、私達『単純』だもん」
ストロンガーがそう言うと全員が笑い始めた。
「言いたいことを言ってくれるよね。」
「・・・否定しないけどね。」
「たぶんおいらもすぐ助けに行っちゃうよ・・・」
「でも、本当にどうしよう・・・」
「困ったね・・」
4人は暗い顔で話し合いながら山を下り始めた。
すぐ近くには北関東支部最強の4人の改造人間、通称「四天王」が倒されていた。
「なんということだ!」
報告を受けた本部の会議場では悲鳴が上がっていた。
「いくら支部長が不在で統率が取れなかったとはいえ、決して弱い支部ではないぞ・・・」
「まさか奴らが攻めに出るとは・・予想外だ!」
「うちの4人も連絡が取れない。四天王までまとめて倒すとは・・・奴ら、化け物だ・・」
北関東支部長は頭を抱えた。
「・・今回のメンバーは『二線級』のはずだ。しかもたったの4人・・この分では主力は・・・」
「いや、実は奴らの隠し玉だったのかも・・・」
「どうするのだ?明日にでもうちの支部が襲われるのかも知れんのだぞ!」
「いや、まずは北信越支部の再建について考えねば。それと逃げた改造人間達の処分を・・・」
「処分だと?そんなもったいないことをするなら全部うちにくれ!あの4人がやられた代わりだ。
・・・今のままでは怖くて支部に帰れない・・・」
北関東支部長は情けないことを言い出した。
「・・・一から新しい支部を作る予算は当面出せない。周りの支部でなんとか・・」
「無理だ!本部から応援を出してくれ!」
「見殺しにする気か!」
本部の中堅幹部の発言に全支部長が一斉に抗議した。
「・・だいたいどうして支部長が不在だと知ってたのだ?まさかスパイが・・」
「・・・ライダーの情報が間違っていたではないか!本部の情報部の責任問題だ!」
「手を広げすぎだ!前のように関東だけに集中するべきではないのか?」
「支部で何とかしろと言うのなら上納金の金額を減らしてくれ!」
「その通りだ、あれだけの予算を本部は一体何に使っているのだ!」
「知っているぞ!莫大な予算を使って大幹部の通勤用に空間転送装置を作ってるそうだな・・」
「本当か?!無駄遣いだ!ジェット機やヘリで十分だ!」
「貴様ら!上層部を批判する気か!今の発言は許さんぞ!・・・・」
「やれやれ・・・」
ある支部長がウンザリした表情で言った。
「予算・責任・命令か・・・こういうことが嫌いだから外務省を辞めて、
改造手術まで受けて悪の道に入ったのに・・」
「まったくだ・・これでは議員をしていた頃と何も変わらん・・・」
隣の支部長も腕を組み、ブスッとした表情をして議論を眺めていた。
「これからいろいろ金がいるな・・また支部を奥に移して住宅地でも売るか?・・・」
「いっそゼティマの技術で特許を取って一儲けした方がいいんじゃないか?」
「強盗も最近リスクが大きいしな。すぐにライダーか守備隊が飛んでくる・・」
「しかも今度の首相はなかなか言うことを聞かん。Z対なんてものを作るし・・」
「・・・ちょっと待てやぁ!金沢はもともとうちのシマじゃけぇの!・・」
どこかの支部長が大声でわめき出した。
「はぁ・・・」
「はぁ〜あ・・・」
二人の支部長は大きくため息をついた。
会議はなかなか終わりそうになかった。