第七章 「悪」
某地某所のゼティマ日本本部。今日はここで地方支部長の会合があった。
円卓に10人ほどの支部長と、数人の本部の中堅幹部が座り話し合いをしていた。
「北信越支部長、何か意見はないか?」
「・・そんな呼び方をするな。『GOD総司令さま』・・そう呼べ!」
北陸・新潟・長野を統括する「北信越支部」の責任者、呪博士は不機嫌そうに言った。
それを聞いて他の支部長から笑い声が上がる。
「何がおかしい?」
「貴様、ゼティマの軍門に下って何年になるのだ?GODなんて組織はもう存在しないのだぞ」
北関東支部長がそう言って睨みつけた。
「そう呼んでほしいのなら勝手に独立すればいい。別に止めはしないぞ。」
そんなことをすればあっという間に潰される。呪博士は黙り込んだ。
「今回は目をつぶるが、滅多なことは言わんことだな」
本部の中堅幹部が凄みながらそう言った。
「・・・おまえ、いつまでもそんなことを言っているからいまだに地方支部長なんだよ。
早く割り切って本部に来い・・」
その隣の幹部は知り合いらしかった。
「・・・それで、何か意見はないのか?」
「ライダーについてだが・・・」
呪博士がそう言うと会場の空気が変わった。
「いつまであんな奴らをのさばらせておくのだ!私に任せてくれればあんな奴らは・・・」
「この田舎者が!貴様はあいつらの怖さを知らんのだ!」
南関東支部長が声を荒げた。この支部はライダーの被害が最も大きい。
「好きであんな田舎にいるわけではないわ!私が関東にいればあんなやつらの好きにはさせん。」
「・・・フン!」
関東の各支部長は不機嫌になった。
「・・・ライダーについては今までどおり、『生かさず殺さず』だ。各支部で対応しろ。」
「待ってくれ!本部は何もしないのか?本部か関東の全支部で攻めに出れば楽に勝てるのでは・・・」
「楽に勝てるとは思えない。多かれ少なかれ被害が出る。我々の敵はライダーだけではないのだぞ。
デスパーやZ対、FBI、ICPO・・・隙を見せるわけにはいかん。今のようにライダーが襲ってきたら
対応するぐらいでちょうど良いのだ」
「じゃあ本部の改造人間を出してくれ!関東の支部の改造人間はライダーにやられてどこも数が足りないのだ
・・貴様少しは現場の苦労を知れ!」
本部の幹部の言葉に各地の支部長が噛み付いた。
「本部でも被害は出ているのだ!侵攻作戦用に温存している改造人間を警備に回すわけには・・・」
議論は荒れ出した。
「・・・ちょっと待ってくれ、緊急連絡だ。」
本部の幹部が議論を遮った。
「・・・北信越支部長。さっきは何か威勢のいいことを言っていたようだが・・」
「・・・それがどうした?」
「北信越支部がライダーの襲撃を受けているらしい。関東の各支部に救援の要請が来ているそうだ。」
「なんだと!」
「・・おい、助けてやろうか?」
北関東支部長はニヤニヤと笑っていた。
「助けなどいらん!あいつら何をやっているのだ!・・・すまんが私は帰らせてもらう。」
呪博士は慌てて席を立つと、会議場から出て行った。
会議場はざわついていた。
「・・・どうせ支部の近くで小競り合いでもあったのだろう。大げさな奴らだ。」
南関東支部長が笑って言った。
「・・念のため俺のところで助けを出しておこう。貸しを作っておいて損はない。」
北関東支部長は通信機を取り出し、自分の支部と連絡を取った。
そのころ敵のアジト、「ゼティマ北信越支部」では4人の快進撃が続いていた。
その勢いに何人かの怪人が逃げ出した。
「助けてくれ!」
「・・化け物だ!」
「待て!逃げるな」
4人が逃げた怪人を追う。
「ギャ!」
通路の角の向こうで怪人の悲鳴が聞こえた。
「今のは何?・・」
4人が立ち止まる。
角の向こうから赤い仮面の怪人が現れた。
逃げた怪人を掴んで持ち上げ、締め上げている。
各支部を巡回し、たまたまこの支部を監視に来ていたゼティマ秘密警察の怪人だった。
「貴様、何故逃げる!」
「あ、あいつら・・・不意打ちをかけてくるし、口上どころか俺達の名前すら
聞かずに攻撃するし、こちらの攻撃を『受けて』くれないし・・・
データにあるライダーとは闘い方が違いすぎる・・・もう嫌だ!」
「お前らは元寇の北条軍か!汚い攻撃はこちらの専売特許だろ・・
とにかくお前達の行動は本部に報告する。」
「お、お許しを・・」
「・・どうせ結果は同じだな。今ここで処刑する。」
赤い仮面の怪人は、掴んでいた怪人を地面に叩きつけ、持っている銃を撃ち込んだ。
見るからに非情、かなり強そうな怪人である。
「フフフ・・・なかなかやるようだな。しかしこのアポロガイストを倒・・」
「Xパンチ!」
バキィ!
Xライダーの不意打ちもだいぶサマになってきた。
「・・・・き、貴様らぁ!」
普段冷静なアポロガイストは激怒して銃を乱射した。
4人は四方に飛び避けた。
「・・・こいつ、今までの奴らと全然違う。」
「強いね・・・なかなかスキがない・・・」
ZXとスカイライダーが逃げ回りながら言った。
「ねえ!どうする?里沙ちゃん。」
Xライダーの言葉に3人とも一斉にイナズマンの方を見た。
「・・・どうせ私に『逃げろ』って言わせたいんでしょ?・・・ダメダメ、
私の意見は『どんな手を使っても勝て』。以上。」
「じゃあ私も同じ。」
「私も!」
「しょうがないなあ。じゃあみんな、一斉に行くよ・・」
「おう!」
Xライダーの声に全員が一斉に構え、跳び上がった。
「ライダー連続キック!」
「何っ?」
「加速が足りないけど、ZXキィーック!」
「天井低いけど、スカイキーック!」
「ライダーじゃないけど、イナズマンフラッシュキーック!」
「こっちが本命! X必殺キーック!」
「・・・グアアアア!!」
アポロガイストはもんどりうって倒れた。
「・・この私が不覚を取るとは・・・くそ・・最近の若いライダーは・・・」
アポロガイストはそう言って意識を失った。
「うわぁー!」
「逃げろ!」
アポロガイストが倒されたのをきっかけに、残りの怪人たちは一斉に逃げ出した。
「やったね!」
4人は手を叩きあって喜んだ。
その頃、北信越支部の反対側の山に4人の怪しい人影があった。
「気が進まねぇなあ・・・」
「上の命令だ、黙って進め・・」
救援に来た北関東支部最強の改造人間4人、通称「四天王」である。
4人ともただならぬ雰囲気に包まれ、相当の実力者であることは間違いなかった。
「あそこだ。一気に突っ込むか?」
遠くからトンネルを見つけた1人が言った。
「まあ待て、少し様子を探ってからでもいい・・」
4人はそこで立ち止まった。
Xライダーたち4人は支部のかなり奥まで進み、目の前の大きく重たい扉を空けた。
暗く広い空間があり、その奥にさらに大きなドアがある。
その扉にはドクロのマークが書かれ、よく見るとG・O・Dのアルファベットが見える。
明らかに今までの部屋とは雰囲気が違った。
「司令室とか、親玉の部屋かな?」
4人が扉の方に向かうと、その中から改造人間が現れた。
「よく来たな。・・・俺の名はタイガーネロ。ここが貴様らの墓場だ、ライダー!」
「まだいたんだ・・」
「こいつもかなり強そうだよ・・・」
「どうする?またみんなで・・」
「待って。」
イナズマンが3人を制した。
「どうしたの里沙ちゃん。まさか『逃げる』とか?」
「違うの。こいつは私1人で闘ってみたいんだ。」
「なんで?・・・里沙ちゃんらしくもない。」
「ちょっと試したいことがあって・・・」
そう言ってイナズマンは前に出た。
「試す?・・」
3人は心配そうにイナズマンの後ろ姿をみつめた。
支部の反対側の山中では4人の改造人間が中の様子を探っていた。
高性能な目と耳で、ずっと中の4人の様子を監視し、会話を聞き取っている。
「どうする?」
「もうちょっと様子を見よう・・・」
「いい度胸だ・・・」
イナズマンが前に出る。タイガーネロも前に出る。
部屋の中央で闘いが始まった。
タイガーネロは青龍刀で切りかかる。素早く力強い攻撃だがイナズマンはひらりとかわす。
「くそっ・・このっ!」
バシッ!
イナズマンは振り下ろした青龍刀を真剣白羽取りで掴むとタイガーネロの腹部に蹴りを入れ、
青龍刀を奪い取る。
「グウッ!・・なかなかやるな・・」
タイガーネロは体勢を立て直し、今度は殴りかかる。
しかしイナズマンはこれを全部よける。見事な身のこなしだ。
「すごい・・・」
3人はイナズマンの闘い方をみて驚いた。考えてみればイナズマンの本気の闘いを見るのは初めてかもしれない。
想像以上に強い。
しかし3人ともどういうわけか複雑な表情をしていた。
「・・こんなに強いなら、あんな闘い方をしなくてもいいのに・・・」
「貴様!逃げてばかりいないでかかって来い!」
痺れを切らしたタイガーネロが叫ぶ。
それを聞いたイナズマンは動きを止め、棒立ちになった。
「何のマネだ・・・」
「好きに殴ってみてよ。」
タイガーネロは一瞬躊躇したが、すぐに攻撃を再開する。
ゴツ!
ガツッ
パンチ、キックが次々と当たった。かなりの強打だ。
しかしイナズマンはそれを涼しい顔をして全部顔面で受け止めた。
「・・・くっ、この・・」
タイガーネロは驚いて一旦退いた。
「その程度なの?」
「何だと?」
「そんなんじゃ私は倒せないよ。あなたの一番強い技を出してみたら?」
イナズマンはそう言って挑発した。
「・・・俺をバカにするのもいいかげんにしろ!」
部屋中の空気がタイガーネロの方向に集まって行く。
「何が起きるの?」
「里沙ちゃん!気をつけて!」
3人は何があってもいいように身構え、加勢の準備をする。
タイガーネロが大きく構える、体が光る。
そして溜めていた気を一気に放出した。
「食らえ! タ イ ガ ー 竜 巻 地 獄 !」
「 逆 転 チ ェ ス ト !」
「・・ギャアアアア!」
イナズマンの逆転チェストにより、全ての攻撃がタイガーネロに跳ね返された。
自分の必殺技を受けたタイガーネロは派手に吹っ飛び、倒された。
「・・・き、汚ねぇ!・・・貴様、やっていいことと悪いことが・・・」
タイガーネロはそう言って力尽き、爆発した。
「・・さ、行こ。」
イナズマンはドクロマークの大きな扉を開き、中に入って行った。
「・・・クールさに磨きがかかってるね。」
「・・・便利な技だねえ・・」
「・・・・っていうかズルじゃん。」
3人は呆れてイナズマンの後を追った。