第六章 「4人」
「・・・それで、どうする?」
道路から少し離れた山中で小川が言った。
「何が?」
「あれだよ、あれ・・・」
そう言いながら小川はトンネルを指差した。
おそらくアジトの入口だろう。
「・・・チャンスだよね。」
高橋もやる気だ。偶然とはいえ敵のアジトを発見したのだ。これを逃す手はない。
「・・・でも、先に先輩達に相談した方がいいんじゃない?」
紺野が二人を抑えるように言う。
「これから東京に帰って?そんなのんびりしてたら入口が消されちゃうよ。
中にはさらわれた子供達もいるんだし。」
「あさ美ちゃん、いつも先輩先輩って・・少しは自分で判断せんとダメやよ。」
「そうだよ。自分の意見って物を持たないとさ・・」
「なんでよ!私は、今この4人であそこに潜り込むのが危険だ、って言っているんじゃない!
私は私なりに現状を分析して『先輩に相談するべき』って判断したのに・・・
あそこの中にどんな怪人が何人いるか分かんないんだよ?ムチャをするのが
カッコいいとでも思ってるの?」
高橋と小川の言葉に紺野が反発した。
「あ、いや・・・」
「ごめん、そんなつもりじゃ・・」
2人とも黙ってしまった。
「でも・・・」
新垣が口を開いた。
「このまま帰ったらもったいないよ。ちょっとでも中の様子を偵察して情報を集めて・・
先輩達に相談するにしてもそれぐらいはしておいた方がいいと思う。
危なくなったらさっさと逃げればいいんだし」
「そうだよね、何も今必ずアジトを潰す必要はないし。」
「そうしようよ、ね、あさ美ちゃん。」
「・・・うん。そうだね。いざとなったら逃げればいいよね。」
3人にそう言われ、紺野もしぶしぶ同意した。
「じゃあさ、ヤバくなったらその場で多数決を取ろうよ。進むか逃げるか、ね?」
高橋がそう提案すると3人は喜んで賛成した。
4人は慎重にトンネルの中を進んだ。
入口付近は照明が付いていたが、途中から真っ暗になった。
警戒されないよう変身をしていないので前が暗くてよく見えない。手探りでゆっくり進む。
しばらく行ったところで壁にぶち当たった。
「行き止まり?」
「わかんない・・・」
小川がペタペタと壁を触っていると、なにかスイッチのようなものに触れた。
カチャと音がして壁が少し開き、光が漏れた。
「・・・空いちゃった?・・」
壁の隙間から中をのぞくと通路の奥に検問がある。
検問の周りを4人の怪人と大勢の戦闘員がウロウロしていた。
「・・・どうする?」
「いい手があるよ。」
新垣が言った。
新垣は堂々と通路を歩いて行った。
戦闘員は誰も手を出そうとしない。
検問の前に来ると怪人の1人が声をかけた。
「おい待て、見ない顔だな。おまえの所属とIDを・・・」
「おまえ、何も聞いてないのか?」
新垣は怪人を睨みつけ、自信たっぷりに言った。
「・・・まあいい、通れ・・」
怪人がそう言うと新垣は検問を通過し、中に入っていった。
「・・・おい、今のは誰だ?・・・」
「・・・さあ、新しい改造人間じゃないか?あの態度はただものじゃないし。逆らわない方がいいぜ。」
怪人2人はヒソヒソ話し合った。
「・・・なるほどぉ!」
残りの3人は感心してそれを見ていた。
続いて高橋が同じように続く。
「・・・おい・・・」
「さっき女が通らなかったか?」
「あ・・・はい。あちらに・・・」
そう言って怪人は新垣が歩いて行った方を指差した。
同じように小川も検問を通過した。
最後は紺野だ。
「・・・あ、あの・・・」
怪人が遠慮がちに声をかけた。
紺野は大きな目でじっと怪人を見つめた。
「・・・・・・」
紺野は目を伏せ、何か言いたげに口を半開きにして固まってしまった。
「え・・えっと・・」
「・・・貴様!何者だ!」
ドガッ!
Xライダーが飛んで来て怪人を突き飛ばした。
後ろに小川と新垣もいる。
「あさ美ちゃん!しっかりやらなきゃダメじゃない!」
「・・ごめん!」
戦闘員がわらわらと集まってきた。100人近くいる。
「ええいしょうがない!変・身!」
「強 力 招 来!」
「みんなごめんね・・スカイ・・変・身!」
戦闘員の前にライダーとサナギマンが立ちはだかった。
「みんな、手をつないで!」
「え?どうして?」
「いいから早く!」
サナギマンの言うとおりに4人は手をつないだ。
「このまま突っ込むよ!」
「あ、そうか!」
「それー!」
4人は手をつないだまま横に広がり、戦闘員の群れに突入した。
ブルドーザーのように戦闘員を壁に押し込む。
グシャ!
大勢の戦闘員は4人と壁の間に挟まれ、バタバタと倒れていった。
「お〜、こりゃ楽だあ!」
ライダー3人は感心しながら言った。
「おのれぇ!ライダーめ!」
パニック、キクスロプ、イカルス、プロメテス・・・4人の怪人が一斉に襲い掛かった。
「・・・くそう!」
ZXはパニックを相手に苦戦していた。やっぱり力が出ないようだ。
「死ねえ!」
パニックは手にした棍棒を振り上げた。
グシャア!
・・・鈍い音がしてパニックがうずくまった。
「え?」
うずくまるパニックの後ろにサナギマンが立っている。
「まこっちゃん、大丈夫?」
「・・・うん」
後ろからの不意打ちであった。
「さあ、今のうちに!」
「ひ・・卑怯者・・」
ZXとサナギマンは2人がかりでパニックをボコボコにして倒した。
「貴様、なんてことを!・・お前の相手はこの俺だ!」
イカルスが叫びながらサナギマンに突進してくる。
「まこっちゃん、今度はあっち。」
「う、うん・・」
サナギマンはイカルスを無視して、スカイライダーとキクスロプのほうに向かった。
あっけにとられるスカイライダーの目の前で、後ろから2人で殴りかかりキクスロプを倒した。
「・・・次はあっち!」
サナギマンはイカルスを指差した。
スカイライダーは何か言いたそうだがサナギマンの後に続く。
それを聞いたイカルスはその場で固まった。
「ま、待て・・・」
3対1では相手にならない。あっけなく倒された。
「さあ、残りは1人だよ。」
3人はXライダーと対峙しているプロメテスを取り囲んだ。
「き、貴様ら・・卑怯ではないか・・・」
「卑怯って何が?」
「4対1だぞ!正々堂々と闘え!」
プロメテスは激しく動揺しながら言った。
正直3人のライダーも同じ意見だった。
(さっきは4人で鉄腕アクロスを倒したがあれは「緊急事態」だった・・)
「もともと4対4じゃない。それに先に何十人も戦闘員を出してきたのはそっちでしょ?」
「・・・あ!」
「・・なるほど。」
「そう言えばそうだね」
4人の意見はまとまり、プロメテスは無残に倒された。
・・どうやらこのクールな闘い方だけは新垣の「地」だったようだ。
「ちょっと納得いかないけど・・・」
「確かに楽だよね、この闘い方」
「でしょ?別にルールがあるわけじゃないし・・・」
「・・・・」
3人が盛り上がる横で、ZXだけが落ち込んでいた。
以前にライダー1号2号を2人まとめて圧倒したZXとは思えない。
「ZXが仲間になる」そう聞いてみんな実は心強かった。
しかし思ったほど力が出せない。
ドラフト1位、期待の即戦力がプロの壁にぶち当たったようなものだ。
スカイライダーが心配そうに声をかけた。
「まこっちゃん。どうする?『進む』?『逃げる』?」
「もちろん『進む』だよ!・・・でも、私が闘ったって全然強くないから
戦闘は愛ちゃんにさせて下さい・・・」
「・・な、何もそこまでイジけることないじゃない・・・」
「まこっちゃん、調子悪いの?」
Xライダーも心配そうに声をかける。
「ううん・・・体は何ともないよ。」
「じゃあどうして?」
ZXはヘラクレスの言葉を思い出していた。
「わからない・・ひょっとして記憶が戻ったせいかも・・・
やっぱり人間の脳ではZXをうまく制御できないのかな。」
「クスクス・・・」
それを聞いてXライダーとスカイライダーが笑い出した。
「何がおかしいの?」
「それ、私と同じだよ。」
「まこっちゃん、感覚がまだ人間のままなんやよ。簡単に言えば『慣れてない』ってだけ。」
「ジャンプする時もパンチを出すときも人間の体のつもりで考えちゃうんでしょ?
無意識のうちにZXのパワーを抑えちゃってるんだよ。ZXの体の感覚に慣れないと。
・・・今風に言うと『シンクロする』って言うのかな?」
「・・・なるほど。」
「偉そうに言うけど、私もさっき気付いたばかりなんだよね。」
スカイライダーは少し恥ずかしそうに言った。
「あさ美ちゃんみたいに荒療法より、少しずつ意識して慣れていった方がいいやよ。
今日は4人いるし、後ろに下がって闘ったら?」
「うん、そうさせてもらうよ・・・なるほどね。・・・ブツブツ・・・」
ZXはあれこれ考え始めた。
「・・・ところで、体が痛いのはどうするの?」
「それも我慢して慣れるしかないよ。」
「・・・あ、そう・・・」
「超 力 招 来!」
サナギマンは突然そう叫ぶとイナズマンに変身した。
「・・・私も少しは慣れておかないとね。」
「里沙ちゃん・・・大丈夫なの?」
「うん・・・ゼティマのアジトの中だし、ここまでデスパーの目は届かないでしょ。
今日は思いっきり暴れるからね!」
「じゃあみんな、とりあえず今は『進む』でいいよね?・・・がんばっていきまっ・・」
「 し ょ い !」
本日3回目の「しょい」だった。
4人はさらに奥へと進んだ。
「ライダーか!俺様はマッハ・・グアッ!」
「よく来たなライダー、ここが貴様の墓場・・ギャ!」
「飛んで火に入・・・グオオ!」
「俺様の力を見せ・・グハァ!」
次から次へと現れる怪人をドミノのようにバタバタと倒していく。
4人は火の玉となってアジトの奥へと進んだ。
「なるほどね・・・」
ZXは次第にパワーを回復しつつあった。
スカイライダーとイナズマンはその順応速度に舌を巻いた。
「なんか・・・自信なくすなあ。」
「ああいうのは、あさ美ちゃんみたいに考え過ぎるタイプより、
まこっちゃんみたいに単純な方が向いてるんだよ。」
「・・・何か言った?」
アジトの中は完全にパニックになっていた。
「ミノタウルス様は一体何処へ行ったんだ!」
「・・・連絡が取れないらしい。こんな大事な時に!」
怪人の「リーダー格」であるミノタウルスはスカイライダーによって既に倒されていた。
しかも責任者の呪博士は不在だった。