第四章 「麻琴(その2)」
4人は孤児院の建物の前に着いた。3階建ての立派な建物だった。
バスはもう無くなっていた。
とりあえず建物の正面から入った。中に事務所があり、中年の女性が座っていた。
「あの!さっきここに停まっていたバス、どこへ行ったか知りませんか?」
紺野が声をかけると、女性は驚いた様子で答えた。
「今日は遠足ですけど・・あなた達は誰ですか?」
「この人は関係ないみたいだね。・・・どうしよう。」
「とりあえず責任者の所へ行ったらええんやない?」
高橋がそう言うと、4人は事務所の奥の「理事長室」と書いてある部屋に向かった。
「何ですか!やめて下さい!」
女性が間に入る。
「ギャッ!」
新垣がパンチで女性を吹っ飛ばした。
「里沙ちゃん!・・・」
3人が驚いて倒れた女性を見た。
すると女性は手に武器を持っている。
段々と変装が解け、戦闘員の姿になっていった。
「・・・やっぱり、全部『奴ら』みたいだね。」
「じゃあ遠慮なく・・・」
バキャ!
ドアを蹴破り、3人のライダーとサナギマンが理事長室になだれ込んだ。
大きな机にスーツを着た中年の男性が座っている。
「な、何だね君た・・・ぐわっ!」
男性が立ち上がるより早く、4人が一斉に押さえつけた。
「お前の正体はわかっている!」
「バスはどこへ行った!」
「な・・何のことだ!」
「答えろ!」
ボキッ!
「ぎゃあああ!!」
ZXが男性の腕をねじ上げ、一気に折った。
それでも男性は答えない。
グジッ!
今度はサナギマンが左の足首を破壊する。
「!!!!!!」
もう男性は声も出せない。
「もう一本!」
Xライダーが男性の右足に力を入れる。
「・・・・・わかった・・・教える・・・やめてくれ・・」
男性は口から泡を吹いていた。
「どこだ!」
ZXが詰め寄る。
「ここ・・だ。アジトの入り口になっている・・・」
男性は地図を指で差し示した。
「どうやって行くんだ!」
「・・・一本道だ。」
窓から外を見ると、正門から道がつながっている。
この建物から外に出る道はこの一本しかなかった。
「よし、行こう!」
4人は右手しか動かなくなった男性を置いて建物を後にした。
名前すらわからないこの怪人は、変身する暇さえ与えてもらえなかった。
「みんな・・無事でいて・・」
ZXは全速力で一本道を駆け上がった。
後ろからスカイライダーとXライダーが追う。
サナギマンだけはスピードが遅く、置いていかれた。
バスだと1時間ぐらいはかかりそうな山道を、ZXは数分で駆け抜けた。
前方にバスが見える。
「間に合った!」
ZXはバスの後部にしがみつくとエンジンを破壊し、強引に停止させた。
バスのドアが開き、中から運転手と孤児院の職員らしき男性が飛び出てきた。
ドガッ!
ZXは迷わず2人をぶちのめした。予想通りこの2人も戦闘員だった。
前方を見ると100mほど先にトンネルが見える。
中は真っ暗だ。おそらくここがアジトの入り口だろう。
ギリギリセーフだった。
「キャー!・・・」
バスの中から悲鳴が聞こえた。ZXは急いでバスに乗り込む。
「みんな!大丈夫?」
「ウワァー!!」
ZXがバスの中に入るとなぜか悲鳴がいっそう大きくなった。
見渡すと全員無事なようだ。怪人も戦闘員もいない。とりあえずホッとした。
突然、ZXの前に男性が飛び出てきた。
「こ・・子供達には手を出すな!」
小川がよく知っている、新潟の施設の先生だった。
「こわーい!」
「助けて・・・」
後ろで子供の悲鳴や泣き声が聞こえた。
ドカーン!・・・
ちょうどその時、遠くで爆発音が聞こえた。
バスの窓から見ると、孤児院の建物から煙が上がっている。
さっきの「理事長」が制裁を恐れて自爆したか、それとも始末されたのか・・・
「ああっ!なんてことを!」
先生が大声を上げた。
「あんた達は一体何なんだ!?どうしてこんなことを・・・やっとみんな不自由なく
暮らせるようになったのに・・・」
バスのあちこちから子供のすすり泣く声が聞こえた。
ZXは下を向き改めて自分の改造された姿を見た。
赤い仮面、緑の目、バッタのような顔、そして機械の体・・・ZXは言葉を失った。
「・・それは違います!」
スカイライダーとXライダーがバスに入って来た。
再び悲鳴が上がった。
「実はこの人は・・・」
スカイライダーが何か言おうとするのをZXは手で制した。
「・・・いいか!おまえたち、よく聞け!俺達はゼティマの怪人、仮面ライダーだ!」
「・・ゼティマ?」
「・・・まこっちゃん?」
スカイライダーとXライダーはキョトンとしてZXの方を見ている。
「孤児院は破壊した!愚かな人類どもめ、滅びるがいい!」
ZXがそう言うと子供達がいっせいに泣き出した。
「は・は・は・は!いいか、『いい生活がしたい』などと欲を出すからこんなことになるのだ!
お前らには貧乏な生活がお似合いだ!さっさと柏崎のボロい施設に帰れ!二度とくだらない夢など見るな!」
「そんな・・・」
「いいから言うとおりにしろ!もう二度とこの辺りをウロウロするな!今度あの施設から
出ようとしたら必ず殺す!覚悟しておけ!」
バスの中が一斉に静まり返った。
「・・・さあ、帰るぞ!」
ZXはスカイライダーとXライダーを連れてバスを降りた。
バスを降りる直前、チラリとみんなの顔を見た。
「(みんな、さよなら・・・元気でね・・)」
心の中でそうつぶやき、ちょうど到着したサナギマンと共に山の中に消えていった。
(ちなみにサナギマンが現れた時、子供達の悲鳴は最高潮に達した)
「・・・どうして『柏崎』って知ってるの?・・・」
「どこかで会ったことがあるような気がするけど。まさかね・・・」
先生と子供達はヒソヒソと話し合った。
みんなが全ての真相を知るのはかなり後になってからのことだった。・・
ZXは山の中を肩を落として歩いていた。
スカイライダーもXライダーも声をかけられないでいた。
「これでいいよね・・・あそこに私の帰るところは無いんだもの・・・」
ZXはつぶやくように言った。
「まこっちゃん・・・」
「でもさ・・いいんだ。今の私にはみんながいるよ!」
ZXは3人の方を振り返って言った。
「・・・立派だったよ。まこっちゃん・・」
スカイライダーとXライダーがZXに駆け寄った。
サナギマンだけはぽつんと1人で立っていた。
「う・・・・・・」
サナギマンの様子がおかしい・・・突然1人で走り出した。
「里沙ちゃん?」
「どうしたの?」
サナギマンは林の中に消えていった。
第五章 「里沙」
「里沙ちゃん、一体どうしたの?」
「わからへん・・どこへ行ったんやろ?」
「待って・・・何か聞こえる・・・」
遠くで誰かが泣いている声がした。
「うううう・・・うああああん!ああああああ・・・」
3人が声の方向に行ってみると、新垣があたりかまわず大声で泣いていた。
「・・・里沙ちゃん・・」
「どうしたの?」
3人は変身を解き、声をかけたが泣き止もうとしない。
涙と鼻水を流しながら顔をくしゃくしゃにして、まるで子供のように泣き続けた。
ここまで取り乱す新垣を見たのは3人とも初めてだった
・・・5分後、ようやく泣き止んだ新垣はハンカチで顔を拭き、
鼻をかむと何事もなかったように立ち上がった。
「ごめん、もう大丈夫だから。さあ行こ。」
「・・・大丈夫じゃないよ!」
「一体どうしたの?」
高橋と紺野が心配そうに声をかけた。
「・・・なんでもない。」
「どうして隠そうとするの?さっきみんなでなんでも相談しようって・・・」
小川は悲しそうな顔をした。
「・・・さっきのまこっちゃんを見て、デスパーシティの子供たちを思い出しただけだよ。」
「本当にそれだけ?」
「まだ何か隠してるよね・・・」
高橋と紺野が新垣の表情を見てそう言った。
「・・・・・」
新垣は黙っていた。
「・・・私達にも言えないようなことなん?」
「私達を信じてよ!」
「私に出来ることならなんだって・・・」
「・・・ダメだよ・・」
新垣が小さな声で言った。
「ダメって・・・そんな・・・」
3人はガッカリした表情で新垣を見る。
「・・・だってさ。みんなは・・・」
新垣は振り絞るように言った。
「・・・みんなは・・優しすぎるんだもん・・・」
「・・・一体どういうこと?」
「詳しく説明してよ、里沙ちゃん。」
「わかったよ・・・」
新垣は観念したように話し始めた。
「私がデスパーシティから逃げてきたことは知ってるよね。」
3人はうなずく。
「そこに残してきた人がいるの・・・」
「子供たちのこと?」
「うん・・・それもそうだけど・・・実は・・・」
新垣は少し間を置き、とても辛そうな表情で言った。
「・・・お母さんがいるの。」
「えっ?」
「お母さん、生きてるの?」
3人は驚きの声をあげた。
「うん。もう何年も会ってないけど、シティのどこかにいるはずなんだ。」
「・・・そうだったんだ・・」
「私が逃げたことでひどい目に遭っていないか心配で・・・まだ生きているのか・・
ひょっとしたら明日にも処刑されるんじゃないか・・・そんなことを考え出すと
気が狂いそうになって・・・」
「・・・そうやったの・・」
「普段は思い出さないようにしてるんだけど、さっきみたいなことがあるとつい
デスパーシティのことを思い出しちゃって・・・」
「・・・じゃあ、すぐ助けに行こうよ!」
小川が身を乗り出した。
「・・・そういうわけにはいかないよ・・・」
「どうしてさ?お母さんのこと心配なんでしょ?」
「デスパーは『私の敵』なの。」
「わかってるよ、でも一人の敵はみんなの・・・」
高橋が割って入る。
「・・・無理だよ・・」
「無理?・・」
高橋の顔が曇った。紺野は何も言わない。
「みんなはゼティマと戦っているんだもの・・・この上デスパーを相手にするなんて不可能だよ。
巻き込むわけにはいかない。」
高橋と小川は黙り込んだ。新垣の言うとおりだった。ゼティマだけでも手一杯なのに、
これ以上得体の知れない組織と戦うことは出来ない。
「デスパーは私が倒す・・・いつか必ずお母さんを助け出すんだ。」
3人は黙って新垣の言葉を聞いていた。
「だから、今はなるべくデスパーに見つからないようにしながら力をつけなきゃ・・・」
「そやからあんな闘い方を・・・」
「ひょっとして先週もそれで?」
紺野と高橋には心当たりがあった。
新垣は普段あまり積極的に戦闘に加わらない。
家のことや雑務は一生懸命にこなすが、怪人との戦闘では前に出ようとしない。
そしてその闘い方も、後ろから殴りかかったり、怪人を羽交い絞めにして二人がかりで
闘おうとしたり、不意打ちをしたり・・・
良く言えば地味に効率よく。悪く言えば汚い闘い方をしていた。
しかも相手が手強いと「一旦引いて立て直しましょう」と・・・つまり逃げろと一番に言う。
おまけにサナギマンのままで闘い、なかなかイナズマンに変身しようとしない。
本人は「なかなかエネルギーが貯まらない」と言うが・・・
「本来の敵はデスパーだからね。こっちは手伝ってもらってるわけだし・・・」
「ライダーの私達とは闘い方が違うし・・」
なるべく良心的に解釈しようとはしていたが、先輩達の評判は良くなかった。
紺野と高橋も「クールな闘い方」と表現していたが、あまり感心はしていなかった。
「それでいいんだよ。みんな真面目すぎるんだよね。」
ただ1人ひとみだけはそう言ってくれた。
「無理せず、効率的に闘うべきだよ。1人ぐらいそういう子がいた方がいい。」
そう言うひとみもキカイダーになると真面目に戦うのだが・・・
ともかく同じ「ライダーではない」ことと、変身後の姿形がなんとなく似ていることで
親近感を持ったのかも知れない。
ひとみは新垣を妹のようにかわいがってくれた。
そんな中、先週ちょっとした「事件」があった。
パトロール中の飯田と紺野から怪人が出たとの連絡が入り、応援を送ることになった。
そのとき、出動場所を聞いた新垣は出動を拒否した。
理由を聞いても答えない。ただ「嫌です」と言い続けるだけだった。
仕方なくケイと安倍が出動し事なきを得たが、飯田は激怒していた。
「なによあいつ!やっぱりゼティマと戦うのが嫌なんじゃないの?」
怒りに任せてそう言い放った。
「そんな言い方はないよ。何か理由があるんだって・・」
新垣の断り方を見て、ただならぬ様子を感じていた安倍は新垣を擁護した。
「じゃあ理由を言えばいいじゃない!なんで黙ってるのよ!・・・」
この日はさらに矢口とケイまで巻き込んで大喧嘩になった。
それ以来中澤家では重い空気が漂っていた。
「このままではいかんなあ・・・」
中澤はそう言って今朝あたりから心配を始めていた。
「・・・あの時の出動先って確か埋立地・・まさかあそこが?」
紺野がそう言うと新垣がうなずいた。
「あのすぐ先の地下がデスパーシティなんだよ・・」
「そうやったん・・デスパーに見つからんために・・・」
「あの普段の闘い方も、なるべく目立たないためなんだ・・」
2人はようやく謎が解けたといった様子だった。
「他にこのことを知ってる人はいるの?」
「・・・中澤さんには言ったよ。内緒にするって言ってたけど。」
「・・・でもさ、だったらなおさらちゃんと先輩達には説明した方がいいんじゃない?」
小川の言葉に、紺野と高橋がちょっと呆れた顔をした。
「まこっちゃん・・・」
「ちゃんと話聞いてた?」
「え?」
「今の話を先輩達にしたらどうなると思う?」
「・・・う〜ん・・・先輩達ってみんな正義感に燃えた熱い人たちばかりだもんね・・・」
「しかも熱くなると周りが見えなくなって突っ走るし・・・」
「熱血というか・・・」
「直情径行というか・・」
「・・・単純だもんね・・」
小川が笑って言った。
「・・さっき『すぐ助けに行こう!』って言ったの誰だっけ?」
紺野の言葉に小川が恥ずかしそうに頭をかいた。
その様子を見て新垣が少し笑った。
「あ、笑ったなぁ!」
小川が怒ったふりをして言った。
残りの二人もクスクスと笑い出した。
「・・・とにかく、今の話はしばらく先輩達には黙ってようよ」
「そうだね・・」
紺野がそう言うと小川と高橋も同意した。
「ありがとう。・・・なんかみんなに話したら気持ちがスゴく楽になっちゃった。」
新垣は笑って立ち上がった。紺野も小川もホッとした様子だ。
「里沙ちゃん・・・でもね・・・」
突然高橋が真剣な顔で話し始めた。
「これだけは約束して・・これからもし何かあっても1人で何とかしようなんて思わんといて。
絶対に1人で動かんといて・・必ず私達に相談して!・・」
「・・・・」
「もし里沙ちゃんがある日突然いなくなって、そのまま帰って来んかったら、
私・・・どうしたら・・」
そう言うと高橋はボロボロと泣き出した。
紺野と小川もつられて泣き出す。
「お願い!」
高橋は新垣をギュッと抱きしめた。
「お願いだよ!」
「里沙ちゃん!」
小川と紺野も駆け寄り、新垣に抱きついた。
「・・・痛いなあ、愛ちゃん・・」
「里沙ちゃん!・・・」
「・・わかったよ。絶対にみんなの前から黙って消えたりしない。」
「約束だよ!」
「・・・・うん。」
「よかった!・・・」
4人はしばらくそのまま抱き合っていた。
「・・・みんなさあ・・・いいかげん離れてくれない?暑いんだけど。」
しばらくして新垣が言った。普段の新垣の憎まれ口だ。
「あ、ごめん。」
3人は慌てて新垣から離れた。
そしてお互いの顔をみてクスクスと笑い出した。
「でも・・・」
しばらくして小川が口を開いた。
「これでやっとみんなが一つになれた気がするね」
「・・・そうだね。」
「今日はいろんなことがあるなあ・・」
「じゃあさ・・・」
高橋が片手を前に出した。
続いて紺野が、小川が、新垣がその上に手を重ねる。
「じゃあ・・」
「これから4人仲良く・・」
「頑張って・・・」
「いきまっ・・・」
「 し ょ い ! 」
4人の元気な声が澄み切った山の空に響いた。