第三章 「愛」
林の中で小川は仰向けに眠っていた。隣に新垣が座っている。
「まこっちゃーん!里沙ちゃーん!」
スカイライダーが2人に駆け寄って来た。
「・・・あさ美ちゃん?随分様子が変わったね・・」
新垣は色が明るくなったスカイライダーを見て驚いた様子だった。
「あ、なんかちょっとね。」
「あさ美ちゃん、さっきすごかったんやから。・・それより小川さんは?」
高橋は変身を解いて言った。
「・・・あ、そうだ、まこっちゃんは大丈夫?」
紺野も変身を解いていた。・・・どういうわけか髪の毛の色も明るくなっていた。
「うん、疲れて眠ってるだけみたい。目立った外傷もないみたいだし。」
「そう、よかった・・・」
紺野は新垣の隣に座り、小川の顔を覗き込んだ。
「でも、どうして?」
「あっち・・・」
新垣が指差した方向に爆発の跡があった。おそらく怪人のものだろう。
「苦戦したのかな?まこっちゃんあんなに強いのに・・・」
「・・・それじゃあ、私あっち見て来るし。」
3人の様子を見ていた高橋は不機嫌そうに言うと、爆発跡の方に歩いていった。
それを紺野と新垣は黙って見送った。
「・・・里沙ちゃん。愛ちゃんのことだけど・・・」
「・・・うん、やっぱりそう思う?」
高橋の小川を見る目はどこか冷たかった。
新垣と紺野は「まこっちゃん」と呼ぶが、高橋だけはいまだに「小川さん」と呼ぶ。
「やっぱり加護さんと辻さんのことをまだ気にして・・・」
「うん。愛ちゃん、あの2人のことを尊敬してるし。何度か助けてもらったりしてすごく世話になってるからね。」
加護と辻は以前ZXに瀕死の重傷を負わされていた。
紺野は小川の方をちらりと見た。
「でも、あの時のまこっちゃんは脳改造されてたんでしょ?」
「うん。愛ちゃんもそれは分かってるはずだよ。でもあの時は加護さんも辻さんも
かなり危なかったし・・・いまだに割り切れないものがあるんじゃないかなあ?」
「でも、良くないよね。このままじゃ・・・」
「・・・私、ちょっと話してくる。」
新垣は立ち上がり、高橋の方に走っていった。
「愛ちゃん。ちょっと話が・・・」
「何?」
「まこっちゃんの事なんだけど。やっぱりまだ・・・」
そう言われて高橋は小川の方を振り返った。小川はまだ眠ったままだった。
さっきの激闘で疲れたのか、いつの間にか紺野も小川の隣で眠り込んでいた。
「うん・・小川さんはいい子やと思うし。それはわかってる・・・」
高橋は顔を伏せて言った。
「やっぱり。・・・でもこれから一緒にやっていく仲間なんだから・・・」
「あれは仕方が無いってことはわかるんやけど。そんでも・・・」
「一度話し合ってみたら?言いたいことを言えばすっきりするかもしれないし。」
「うん・・・でも・・・」
高橋はもう一度小川の方を振り返って見た。
「あれ?・・・」
高橋が異変に気付いた。
「あっ!・・」
新垣も驚いて声を上げた。
振り返るといつの間にか小川の姿が消え、紺野一人だけが眠っていた。
「大変だ!」
「あさ美ちゃん、起きて!」
高橋が紺野を揺り起こす。
「あ・・いつの間にか眠って・・・あれ?まこっちゃんは?」
「消えちゃったの!あんな体でどこへ・・・」
「・・あ、そう言えば・・・あの孤児院!」
紺野はあの建物のことを思い出した。
「多分こっちだよ!」
紺野に続いて2人も走り出した。
「ククク・・なにがパーフェクトサイボーグだ。ザコじゃないか。」
「・・・畜生!」
孤児院の建物に向かっていた小川は、途中「鉄腕アトラス」と遭遇した。
ZXに変身したものの、あっさりと組み伏せられ、腕をねじ上げられていた。
「こんな奴に・・どうして・・」
ZXはうめくようにつぶやく。どうしても力が出ない。
「時間が無い・・・」
ZXキックを使うしかない。
しかし今度はあの激痛に体が耐えられるかどうか・・・
でも他に方法は無い。ZXの体がだんだん赤くなっていく、
鉄腕アトラスもZXの異変に気付いた。
「何をする気だ・・・」
「待って!」
「だめ!まこっちゃん!」
その時、鉄腕アトラスの後方から叫び声が聞こえた。
「おまえの仲間か?」
「・・・・」
ZXは黙っていた。
鉄腕アトラスは振り向きながら言った。
「ふん!こいつを助けに来たのか?俺が相手をしてやる!まとめてかかって来い!」
「よしっ!」
「わかった!」
「・・・・ちょっと待・・・」
「サナギマンの・・・キーック!」
バキィ!
「ライダームーンサルト!」
ドガァ!
「ライドル脳天割り!」
グシャァ!
「・・・今だ!まこっちゃん!」
「ぜ・・・ZXぱんち・・・」
ペシッ!
鉄腕アクロスはその場で崩れ落ち、バッタリと倒れた。
(ライダームーンサルトで決着は付いていたのだが・・)
ZXの変身が解け、がっくりと両手を付く小川。
「まこっちゃん!」
あわてて紺野が駆け寄る。
「どうしてこんな無茶なことを・・・」
「だって・・・施設のみんなが・・」
「言ってくれれば手伝うのに・・・ねえ?」
新垣の言葉に高橋も紺野もうなずく。
「だって、これは私の闘いだもの・・・」
「何言ってんの!小川さん!」
高橋が大声を出した。
「私達、全員仲間やし!1人の敵はみんなの敵やし、ましてゼティマ相手やったら・・・
少しぐらい私達に甘えてくれたっていいやない!」
「・・・・」
小川は黙っていた。
「それに、ここのアジトは多分、私のお父さんの仇やの。あなただけの敵やない。
私の『獲物』でもあるんやから・・」
「え、そうなの?愛ちゃん。」
紺野は少し驚いた様子だった。そういえば福井県はすぐ隣だ。
何故か新垣だけは、高橋の話を複雑な表情で少し伏目がちに聞いていた。
「それと・・・小川さん。あなたに前から言いたいことがあったんやけど・・・」
「・・・ちょっと、愛ちゃん!」
「今ここで言うことじゃないよ!」
紺野と新垣が割って入る。
「いや、いいから。今言わせて・・・小川さん、あんたなあ・・・」
高橋はチラッと紺野の方を見た。
「・・・小川さん・・・ちょっとあさ美ちゃんとベタベタし過ぎやし!」
「はぁ?」
「へ?」
「え?」
3人はそれを聞いて固まった。
「あさ美ちゃんもあさ美ちゃんやん!そりゃ小川さんが来たばかりで寂しがっとるのは分かるけど・・・
最近全然私の相手をしてくれへんやんか!」
それだけ言うと高橋は黙り込んだ。
「・・・あの・・それで終わり?」
新垣が聞いた。
「そうやけど?・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・プッ!」
「キャハハハハハ!」
「アーハッハッハッハ!!」
「あ、愛ちゃんってかわいー!キャハハハハ・・・」
3人はたまらず大声で笑い出した。
「な、何よみんな。何がおかしいの?私真剣やのに!」
「ご・・ごめんって・・ごめ・・キャハハハ・・・」
紺野は謝ろうとするが、おかしくて言葉が出ない。
「く、苦しい・・・ヒー!」
小川も新垣も腹を抱えて笑い続けた。
「みんな・・・ひどい!」
高橋はその場にしゃがんで泣き出してしまった。
「・・な、泣くことないでしょ。愛ちゃん。」
新垣と紺野があわててなだめる。
「ご、ごめんなさい、高橋さん。私、ついあさ美ちゃんに甘えちゃって・・」
小川は高橋の前にしゃがんで言った。
「・・・もういいよ。言いたいことを言ったらスッキリしちゃった・・・
とにかく仲間なんやから、何でも相談してよね。・・『まこっちゃん』!」
「・・・うん。ありがとう・・『愛ちゃん』・・」
2人は立ち上がって握手をした。
「これでみんな仲間だよね。」
紺野が2人の手の上にポンと手を置いた。新垣も紺野に促され、遅れてその上に手を置いた。
4人はお互い手をつないだまま顔を見つめあう。
「これからは4人仲良く一緒に・・」
「頑張って・・いきまっ・・・」
「しょい!」
4人で「気合い」を入れた。
中澤家で出陣前によく行う儀式だった。
「・・じゃあ、早速なんだけど。みんな力を貸して。」
「わかってるよ。あの孤児院でしょ?」
「よし行こう!」
3人は元気よく駆け出した。
新垣だけは少し元気がない様子だった。