第二章 「あさ美」
「くそっ!」
スカイライダーは逃げ回るのがやっとだった。
ミノタウルスの拳の破壊力は凄まじく、パンチ一発で周りの大木が2、3本も吹っ飛ぶ。
おまけに時々角のミサイルが飛んでくる。
「どうした、逃げているだけか」
ミノタウルスが叫ぶ。しかしスカイライダーは逃げながらもチャンスを狙っていた。
ミノタウルスの角は2本。生え変わるのには少し時間がかかる。
今、残りの一本が発射され、いったん角が無くなった。
「チャンス!」
スカイライダーは距離を詰めた。ギリギリでミノタウルスのパンチをかわし、その拳にしがみ付いた。
拳を掴んだまま高速で振り回し、一気に放り投げる。
「遠心投げ!」
ミノタウルスは木をなぎ倒しながら転げ回り、岩盤に叩きつけられた。
「今だ!」
スカイライダーはセイリングジャンプで一気に上昇。
そのままミノタウルスに向かって急降下しながらエネルギーを充填。一気に放出した。
「スカーイキーック!」
ガシィ!!
「グゥゥ・・・」
「そんな・・・」
必殺のスカイキックが、ミノタウルスの拳の盾に受け止められてしまった。
「・・・ククク。なかなかやるな。だがその程度では俺は倒せんぞ!」
そう言いながらミノタウルスはパンチを放つ。
バキィ!
「うわっ!!」
一瞬放心していたスカイライダーは、パンチを避けきれずそのままふっ飛ばされた。
「くそっ!スカイキックが通用しない?・・」
立ち上がりながら見ると、ミノタウルスの方もよろよろと立ち上がって来たところだった。
さすがに向こうもノーダメージではない。
「・・・ガアアアア!」
雄叫びを上げスカイライダーの方に向かって来る。
「セイッ!・・・シュー・・・・」
スカイライダーは空手の型と呼吸法で気を溜める。
「・・押忍ッ!」
両腕で十字を切って気合いを入れた。
「うあああああ!」
スカイライダーも大声を上げ、ミノタウルスに向かって行った。
バキィ!
「うわっ!」
「グアァ!」
両者のパンチがカウンターで入る。
ミノタウルスとスカイライダーはお互い後方に吹っ飛んだ。
「グググ・・・」
「ううう・・・」
「なんてタフな奴だ・・・おまけにだんだん強くなって・・」
少しだけ早くミノタウルスが立ち上がり。よろよろとスカイライダーに歩み寄る。
「まだまだぁ!」
それを見てスカイライダーも立ち上がろうとする。
ビシィ!
その時、2人の間に割って入るように衝撃音がした。
鞭のようなものが地面を叩いた音だ。
2人の動きが止まった。
「あさ美ちゃん!」
ライドルロープの音だ。Xライダーだ。
「愛ちゃん!・・・どうしてここに?」
「先輩達は帰って来んし、心配になったで追ってきちゃったんやよ。」
「私も来ちゃった」
後ろから新垣がひょっこり顔を出した。
「ありがとう。2人とも・・・でもこいつは私が」
「わかってるて。手出しはせんよ。でも1個だけアドバイスさせて」
「アドバイス?」
「安倍さんとの特訓を思い出して。」
「特訓?・・・」
この1ヶ月の間、紺野は安倍の特訓を受けていた。
「強くなりたい」というのもあったが、先に高橋がパワーアップを果たしたことで少し焦っていたのかも知れない。
最初は飯田に特訓を願い出た。
「飯田さん。私に必殺技を教えて下さい!」
「紺野、間違ってるぞ。」
飯田は冷たくそう言った。
飯田が言うには、ライダーの体質はそれぞれ全く違う。
自分の必殺技は自分で見つけなければならない・・・ということだった。
「正直、どうやったらいいか私にもわからないんだけどね・・ただ私の場合は、
最初のうちは必要な時に体が勝手に技を出したんだけど・・」
飯田の言うことは分かるような分からないような・・・次に紺野は安倍に頼んでみた。
安倍は紺野の特訓に付き合ってくれた。
だが安倍も飯田と言うことは同じだった。自分の技は自分で見つける。
そのかわりコツだけは教えてくれた。
「いい?何も考えちゃダメだよ。体の動きたいようにするの」
「どうやるんですか?」
「だからそうやって考えちゃダメなの。頭の中を真っ白にするの!」
「どうやって・・・」
「だからぁ!・・・」
特訓の甲斐も無く紺野は新しい技を見つけることも、パワーアップをすることも出来ないでいた。
「何も考えるな・・・・って。今、ここで?」
「そうやで。もう少しやから頑張って!」
Xライダーはそう言って後ろに下がった。
ドーン・・・
その時、山の向こうで爆発音がした。
「今のは・・・そうだ。まこっちゃんがあっちに!」
「私が行く!」
新垣は走って林の中へ消えていった。
「何をこそこそ話をしている!・・おまえら二人まとめて相手にしてやってもいいんだぞ。」
ミノタウルスは明らかに強がりながらそう言った。
「安心しろ、お前の相手は私1人だ」
再びミノタウルスと対峙するスカイライダー。
しかし、相手は強敵だ。この相手と何も考えずに闘うなど・・・
「・・これでケリをつけてやる。勝負だ!ライダー!」
ミノタウルスは最後の力を振り絞って向かってきた。
「さああ!来ぉい!」
スカイライダーも精一杯大声を出し、迎え撃つ。
「グオオオオオ!」
「やああああああ!」
お互いノーガードで強打を殴りあう。
巨大な拳で殴られ、筋肉が、骨が軋む。
スカイライダーの体のあちこちから悲鳴があがる。
オーバーヒート気味の動力源は限界に近付く。
苦しい・・・
・・・段々と意識が薄れてきた。考えている余裕はない。
頭の中が「真っ白」になって来た。
無意識のうちにパンチやキックが出るようになる。昔習い覚えた空手の技だ。
「あさ美ちゃん・・もうちょっとやで」
Xライダーは何かを待っているようだった。
シュバッ!
突然パンチが鋭くなった。
「グオッ!」
ミノタウルスの顔色が変わる。
さっきまでの空手のパンチとはまるで違うフォーム。
続いて蹴りがでる。
バシイィ!
これもさっきまでとは違う。バネのある蹴りだ。
まるで野生の獣のような。いや、昆虫のような・・・
荒々しくも無駄の無い、しなやかな動き。
とことん自分自身を追い詰めることで頭の中から「紺野」の意識を追い出した。
その結果、スカイライダーの「本能」が目覚めたのである。
「やったね。あさ美ちゃん!」
スカイライダーは一気に優勢に立った。
ミノタウルスはサンドバックのように打たれまくり、ついに膝を付いた。
スカイライダーはそれを見るとゆっくりと後ろに下がった。
「どうして?チャンスやのに・・・」
Xライダーは首をかしげる。
「グゥッ・・」
ミノタウルスはこのスキにわずかだがダメージを回復させ、ゆっくりと立ち上がろうとする。
「わかった・・・わかったよ愛ちゃん。安倍さん、そして飯田さん」
スカイライダーは両手を見つめながら全身の感覚を味わっていた。
紺野の意識によって押さえつけられていた細胞が、機械が解放され、狂喜するように躍動している。
「これがスカイライダーの力・・・」
スカイライダーは体の言うがままに、ゆっくりと頭の上で両手をクロスさせた。
クロスした手を戻し今度は左手を大きく回転しはじめた。
「・・・『スカイ』・・・変・身!」
スカイライダーの体が光に包まれた。
「・・・あさ美ちゃん!」
光の中から再びスカイライダーが現れると、体の色が濃い緑色から明るい黄緑色に変わっていた。
「とぉう!」
セイリングジャンプで一気に上空へ。速い!
今までの半分の時間で上空200mに到達する。
そこから反転し急降下。前方回転を繰り返しながらミノタウルスに迫る!
「 大 回 転 ス カ イ キ ー ッ ク !」
「・・・・チッ!・・」
ドガアァァァ!
ミノタウルスに直撃。致命傷だった。
スカイライダーは倒れたミノタウルスの横に立ち、上から見下ろしていた。
ミノタウルスはもう虫の息だ。
「・・・ありがとう。おかげで強くなれた。礼を言うよ。」
そう言うと背を向けてXライダーの方に歩き出した。
「・・・・フン・・」
ミノタウルスはそう小さくつぶやくと力尽き、爆発の炎に包まれた。
「愛ちゃん!」
「あさ美ちゃん!」
2人は走りより、抱き合った。
「愛ちゃん、ありがとう!おかげで強くなれたよ。」
「いや、私もあそこまでとは思わんかった・・・すごいよあさ美ちゃん!」
しばらく手を取り合い喜び合っていたが、スカイライダーは大事なことを思い出した。
「・・・そうだ!まこっちゃんが!」
そう言ってスカイライダーは林の中へ駆け出した。
Xライダーはその背中を見送った後、ちょっと遅れて走り出した。