プロローグ
発端はTVのワイドショーだった。
紺野と小川は中澤家のリビングでTVを見ていた。
遊んでいるわけではない。ワイドショーで情報収集である。
たかがワイドショーと言うが、この手の番組が一番ゼティマの情報が得やすい。
噂話や超常現象、怪奇現象、心霊現象・・・
時にはジャーナリストが情報操作や報道規制をかいくぐってゲリラ的に放送するものもあった。
しかし、そのようなものは滅多にあるものではなく、たいてい芸能人の色恋沙汰や
グルメ情報など、どうでもいいような内容ばかりだった。
当番の2人はあまり期待をせず、ボーっと数台のTVを眺めていた。
突然あるワイドショーが内容を変更して緊急特集を始めた。
日本各地の施設や孤児院で子供の失踪が相次いでいる。という内容だった。
特集はワイドショーらしくなく、地味に伝えられた。
「これって・・・」
「え?・・・」
紺野はこの事件のことを知っていた。以前に自分達が解決した事件のことが含まれていたからだ。
しかしマスコミで報道されたのはこれが初めてだった。
「・・・取材班によりますと、類似の事件は各地で起こっていまして、東京をはじめ
千葉、埼玉、群馬など首都圏の他、東北や日本海側の各地でも・・プツ」
キャスターが原稿を読んでいる最中に突然CMが入った。
そして長い長いCM明け・・・
「では続いて今日の星占いです・・・」
まるでさっきの特集など無かったかのように番組が進行していく。
明らかに不自然だったが、このようなニュースの後はいつもこうだった。
「・・・・やっぱり圧力かかっちゃったのかな?」
そう言いながら紺野は小川の方を向いた。
すると小川がこわい目でTVを睨んでいた。
「・・・まこっちゃん?」
「・・・どういうこと、あさ美ちゃん?」
「どうって?・・・」
「奴等なの?奴等の仕業なの?」
「落ち着いて。どうしたの?まこっちゃん!」
「日本海側って、まさか・・・私、新潟に行く!」
小川は突然立ち上がり、地下の格納庫へ走って行った。
「待って!・・・どうしよう。」
「何かあったん?・・・」
紺野がリビングに呆然と立っているところに、買出しから帰った高橋が現れた。
「あっ、愛ちゃん!ちょうどよかった。今、まこっちゃんがTVを見てて急に・・・
えーと・・・私追いかけるからみんなにそう言っといて!」
紺野は一方的にそう言うと地下格納庫へ走っていった。
「へ?なんて?・・・」
今度は高橋がびっくりした顔のままリビングに呆然と立っていた。
ヘルダイバーに乗り北へ向かう小川。
それを紺野がスカイターボで追いかけた。
数時間後、小川は新潟にいた。
しばらく前まで自分が住んでいた施設の前だ。
施設はひっそりと静まり返り人影がなかった。
ポストには郵便物がたまっている。鍵のかけられた門は何日も開いた気配が無い。
「やっぱり・・・みんな・・・」
小川はその場に座り込み、途方に暮れた。
しばらくしてヘルダイバーからの信号を追跡してきた紺野が到着した。
「まこっちゃん・・・」
紺野は小川の様子を見てすぐに事情を察した。
「・・・あさ美ちゃ〜ん!・・・」
小川は泣きながら事情を話し出した。
「・・・きっとみんな今ごろ奴等に捕まって・・・」
「・・・でもまだゼティマの仕業と決まったわけじゃないし。とにかく情報を集めようよ。」
紺野はそう言って小川をなぐさめるしかなかった。
2人は小川が通っていた小学校を訪ねた。
施設の子も何人か通っていたし、ここなら何か手がかりが見つかるかも知れない。
「あそこの施設はつい最近、富山県に移ったんですよ」
「えっ?本当ですか?」
学校の教師の説明に小川が嬉しそうな声をあげた。
「ほらやっぱり・・・心配しすぎだよ。」
紺野もホッとした様子だ。
「なんでも大きなスポンサーが付いたらしくて、北陸とか新潟からいくつもの施設が
まとまってあそこに移ったそうなんです」
「よかったぁ。みんな無事なんだ。」
「・・・でも、変なんですよね。」
「変?・・」
「うちのクラスの子が転校した子に手紙を書いたんですが、返事が来ないんですよ。
転校先の小学校も聞いたことがない名前だし・・・」
小川の顔が曇った。
「あ、いや考えすぎかもしれませんけどね。ただ、最近変な事件が多いし。」
「その施設の住所を教えて下さい!」
「あ、はい。・・・ところであなた、うちの卒業生の小川さんですよね。
確か陸上の特待生で留学したんじゃ・・」
「いやあその予定だったんですけど、飛行機事故にあっちゃいまして。あはは・・」
「え!事故?そんな話は聞いてないですよ!飛行機事故だなんて・・・よく無事でしたね?・・」
「いや、まあその、ええ・・・・」
ともかく2人は住所をもとに富山県に向かった。
「ここだよね・・・」
「間違いないと思うけど・・・」
2人の目の前には険しい山と深い森が立ちはだかっていた。
山道をどうにかバイクで登って来たが、ここからは歩くしかなさそうだ。
「やっぱりでたらめな住所なのかな?」
小川が住所のメモを見ながらつぶやいた。
「もしゼティマの仕業なら建物ぐらい作って偽装すると思うけど・・・どうしよう。
手がりもなさそうだし、一旦戻って先輩達に相談してみる?」
「相談するにも情報が無いとね。とにかく行けるところまで行ってみようよ。」
そう言うと小川は林の中へずんずん進んで行った。
「あ、待って!」
慌てて紺野がそれを追いかけた。
「もぉ〜疲れたぁ〜!こんなところに施設なんてあるわけ無いよ!」
1時間ほど山中をさまよったところで小川がへたり込んだ。
「でも、この山一帯がこの住所なんでしょ?範囲が広すぎるよね・・」
紺野は地図を眺めていた。
「山頂へ行けば回りを見渡せるかなあ?・・」
「それならいっそ・・・」
紺野は両手を交互に前に出し、左手を大きく回しながら掛け声を出した。
「変・身!」
ジャンプするとベルトが光り、スカイライダーに変身した。
「うお〜高い高い〜」
「はしゃいでないでちゃんと周りを見てよ」
「はいはい」
スカイライダーに変身した紺野は、小川を抱えて空中高く飛び上がっていた。
「それらしい建物は無いよねえ・・・」
「まこっちゃん、あれ見て」
紺野が指差した方向に白い大きな建物と広場があった。よく見ると子供達が遊んでいる。
「あ!ほんとにあったんだ、よかったあ・・」
「でもあれじゃ見つからないよね・・」
紺野が言うように建物は山の間にあり、深い林を切り開いて、
まるで何かから隠すように建っていた。
「・・あっ、みんながいた!」
広場のすみにバスが停まっていた。小川と同じ施設の子供達がちょうど乗り込むところだった。
「行ってみる?」
スカイライダーは滑空を始めた。
その時、反対側の山で何かが光った。
そしてスカイライダーに向かって高速で接近するものがあった。
先に気付いたのは小川の方だった。
「あさ美ちゃん、危ない!」
小川はスカイライダーを空中で突き飛ばした。
ビュン!
突き飛ばされたスカイライダーと小川のちょうど中間をミサイルのようなものが通過していった。
「今のは?・・・あ!まこっちゃん!」
スカイライダーから離れた小川はまっさかさまに落下していった。
つづく
第一章 「麻琴」
「変・身!」
小川は空中でZXに変身し、なんとか無事に地上に着地した。
「まこっちゃ〜ん!大丈夫〜?」
それを見ていたスカイライダーが上空から声をかける。
「大丈夫だよ〜!それより・・・」
ZXは反対側の山を指差した。さっきミサイルらしきものが発射された方向である。
「うん、わかった。行ってみる」
スカイライダーはZXが指差した方向へ向かって行った。
ZXはスカイライダーを見送ると、ゆっくりと振り向いた。
「さてと・・・まずはこいつか。」
「貴様・・・ゼクロスか!何故ここにいる!」
林の中から現れた怪人「ヘラクレス」は一瞬おびえたような表情を見せた。
「私を知っているのか?」
「貴様、本部にいたんじゃなかったのか?」
ヘラクレスはZXが脱走したことをまだ知らないようだ。それを察したZXは口調を変えて聞いた。
「・・・そんなことより、あの建物はなんだ?」
「あれか?あれは収容所だ。中にいる連中は孤児院だと信じてるがな。」
「・・・あそこにいる子供達はどうなる?」
ZXは怒りを抑え、なるべく落ち着いた口調で言った。
「あの山の中の支部に運ぶんだよ。労働力として我々のために働いてもらう。」
「人体改造もするのか?」
「貴様が知らないわけが無いだろ。あのうち何割かは実験体や改造人間になるんだ。
素性が良いのは直接本部へ・・」
そこまで話したところでヘラクレスはZXの様子が変わったのに気付いた。
目は赤く染まり、体がわなわなと震えている。明らかに怒りの色・・
簡単に言えば「こわい」状態だ。
「・・・ところでゼクロス、貴様ここに何をしに来た?」
「おまえらゼティマを・・・ぶっ潰しに来た。」
そのころスカイライダーはミサイルらしきものが発射された辺りに着地し、
まわりを警戒しながら歩いていた。
バシュ!!
突然林の中から発射音がした。
振り向くとミサイル・・・いや、「動物の角」が高速で迫っていた。
「くっ!」
スカイライダーはあわてて横に飛びのけた。
ドガァァン!
角は岩に当たり、巨大な岩はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「・・・ちっ、すばしっこい奴め」
「・・・誰だ!」
スカイライダーは声の方向に向かい身構えた。
林の中からゆっくりと、拳に盾をつけた巨大な怪人が近づいてきた。
「ライダーだな。俺の名はミノタウルス。・・・死んでもらう!」
ミノタウルスは大きな拳を振り上げ襲い掛かってきた。
「・・・貴様、本当にあのゼクロスか?」
「くそおっ!」
ZXは必死にパンチ、キックを放つ。
しかし全てかわされるかガードされてしまう。
逆にヘラクレスの攻撃をZXは避けることが出来ない。ガードするのが精一杯だ。
たまらず後方にジャンプし、一旦距離を取った。
「こいつ・・いつの間にこんなに強く・・」
ZXは驚きを隠せなかった。本部にいた頃は雑魚同然だったのに・・
「何だと?俺は何も変わってないぞ・・・貴様が弱くなったんじゃないのか?」
「私が?そんなバカな!」
「そうか。貴様、人間の記憶が戻ったのだな」
「それがどうした?」
「・・・だから弱くなったのだ」
「・・何だと!」
ZXはカッとなりヘラクレスに殴りかかった。
「バカめ!」
しかしやはり攻撃は通じない。
ついにはヘラクレスの剛腕に押さえつけられてしまった。
「ぐうっ・・・」
「何故貴様が弱くなったか教えてやろう。」
ヘラクレスはZXの体を怪力で締め上げる
「脳改造というのは改造人間の体を最も効率的に動かす『システム』だ。
人間や感情だの愛だのくだらないものは改造人間にとっては非効率。
簡単に言うと邪魔なだけなんだよ。」
「ぐうううう!」
ZXはヘラクレスからなんとか逃れようともがく。
「無駄だ。いくら強靭な体を持とうが、頭の中身が人間では俺には勝てん・・・」
「マイクロチェーン!」
ZXは手の甲から鎖を出しヘラクレスに絡みつけた。
その鎖を通してヘラクレスに高圧電流が流れる。
「グオオ!」
その隙をつき、ようやくZXはヘラクレスから逃れた。
再びZXはヘラクレスと距離を取る。
「何度やっても同じだ!」
「・・・人間の感情や愛がくだらないものだと言ったな?」
「そうだ。考えてもみろ、人間を一番多く殺しているのは誰だ?人間ではないか。
何故だ?くだらない感情のせいだ。人間は感情の赴くまま殺し合い、裏切り合う
ではないか。人間なんてそんなもんだ。」
「・・・・」
「人間は弱い。弱いから殺し合い、裏切り合う。人類が全員改造を受け、
我々のように強くなれば、争いのない平和な世界が築けるんだ。
俺たちは進化した人類の姿のなのだ。そうだろ?」
「・・・違う・・・」
「よく考えろ。貴様ももう一度脳改造を受ければまた強くなれる。
今からでもこちらに戻ることができるんだぞ・・・」
「・・・違う!」
ZXは紺野の言葉を思い出していた。
中澤家でみんなで話をしていた時のことだ。
「何故、何の為に闘うか」という話になった。
家族や友人の仇、正義のため、自分のため、宿命、運命・・・いろいろな意見が出た。
しかし政府や警察にまで裏切り者やスパイが大勢いる。政府すら敵なのか味方なのか分からない。
おまけに戦争は後を絶たない。ゼティマを倒せば本当に平和な世界が来るのだろうか・・。
何を信じて闘えばいいのか、正義とは何か。
そんな中最後に紺野が、静かにしかし力強く、まるで自分に言い聞かせるように言った。
「・・・私はそれでも人間を信じる。ただ私は人間のために闘う。・・・それだけでもいい・・・」
そこで議論は終わった。
「・・・・ただ私は人間のために・・・」
ZXはそうつぶやきながら顔を上げた。
「・・・そうだよね。あさ美ちゃん。・・・」
「何をブツブツ言っている!さあどうする。ここで俺に殺されるか、
もう一度俺達の仲間になるか・・・」
「・・・殺し合い、裏切り合う・・・でも・・それでも信じる・・それも人間だ!」
「・・・そうか、残念だよゼクロス。」
ヘラクレスが構えをとり、戦闘態勢に入る。
「『ゼクロス』だと?」
ZXはヘラクレスを睨みつけた。
「教えてあげる。私の名前は小川麻琴。そしてもう一つの名前は・・・」
体に力を込めながら静かに言った。
「 仮 面 ラ イ ダ ー ZX(ゼクロス)だ。」
ZXの体がみるみる赤く、熱くなっていく。
「ライダー・・・だと?」
「とおっ!」
踵のジェットエンジンが始動し、一気に100m近くジャンプ!
「うおっ?」
ヘラクレスはそのスピードに目がついていかない。
ジャンプしたZXはそのまま急降下。さらに加速しながらヘラクレスに向かって一直線に進む。
「 Z X キ ィ ッ ク !!」
「ギャアアアアアア!!」
ZXキックはヘラクレスの体を突き破った。
ヘラクレスは大爆発して炎上した。
「・・・やった・・・・・・・ぐうっ!」
ZXの体に異変が起きていた。
キックを放った瞬間に体がバラバラになるような衝撃が走り、全身に激痛が走った。
いつのまにか変身が解け、倒れこんでしまった。
「・・・あさ美ちゃん・・みんな・・・」
小川はその場で意識を失った。
同じ頃、スカイライダーの方も苦戦が続いていた。
つづく