「さぁて十面鬼様から授かったこの鎌の腕、早速試し切りさせてもらおうか・・・
モグラ、貴様でな!」
体重をかけてモグラ獣人を踏みつけ、カニ獣人は腕の鎌を振上げる。散々打ちのめされ
もはや虫の息のモグラ獣人には、カニ獣人のこの攻撃を避けるだけの体力は残っては
いないだろう。
「十面鬼様の命令は絶対!そしてそれを守るのが我々獣人の本分なのだ。モグラ、
貴様はあまつさえ命令を遂行できぬばかりか、組織をも裏切ったのだぞ」
振上げた腕を重量に任せて振り下ろす。この他愛のない動作一つで、足元に倒れ付した
獣人の命をあっさりと奪うことが出来る圧倒的優位の状態。カニ獣人はその腕を、今
まさに振り下ろそうとしていた。と、その時だ。
「コンドラー!!」
どこからともなく聞こえてきた叫び声の直後、カニ獣人の腕に絡みつく一本のロープ。
それは通常ではあり得ないような力獣人の腕に伝えて敵の動きを止めた。
「ぐっ・・・もしやアマゾンか!」
カニ獣人が見やる先に、果たしてその姿はあった。モグラ獣人の危機を察して駆けつけた
圭がそこにいるのだ。
「アマゾン・・・助けにきてくれたのか」
モグラ獣人もまた、圭の出現に気がついたようだ。カニ獣人に踏みつけにされながらも、
その目はしっかりと圭の姿を捉えている。
「モグラ、あんた裕ちゃんを助けてくれたんだってね」
「チュチュ〜。礼にはおよばねぇ・・・それより、今は俺をなんとかしてくれよぉ」
「判ってる!!」
そう言うと圭はロープを引き絞った手に力を込め、自らの方へと獣人を引き込む。その
力はやがてカニ獣人をモグラ獣人から引き離し、その隙にモグラ獣人はかろうじて敵の
前から逃れることが出来た。
「お前の目的はあたしなんでしょ!だったら相手してやろうじゃない」
「自分から殺されに来たというわけか。いい心がけだなアマゾン。俺の腕の疼きを
止めるのは、やはりお前の血以外にはあるまい」
獣人とは人の知能を持つ獣。それを思わせる不敵な言葉を並べ立て、カニ獣人は
圭のほうへとにじり寄る。迎え撃つ圭の瞳も炎と燃えている。悪辣な十面鬼の企みに
対する怒りと、自らの両腕に託されたさだめ。この二つと逃げることなく対峙する
決意と共に圭は吼える。
「アァァァマァァァゾォォーン!!」
そして閃光の彼方から現れるのは、荒ぶる野生の魂。変身を遂げ仮面ライダーアマゾン
は大跳躍と共にカニ獣人の懐に自ら飛び込んでいく。
「ケェェーッ!!」
中空にその姿を認めたカニ獣人は、アマゾンを撃墜せんと腕を振上げて叩き落そうと
するが、その腕をもまるで鞍馬でも飛び越えるかのような身のこなしで飛び越えると
獣人の背後に着地したアマゾンは強引にカニ獣人を向き直らせ、固い外骨格も厭わず
パンチを叩き込んでいく。
この猛烈なラッシュに獣人はもんどりうって倒れ、反撃の機会を窺うべくカニ獣人
は一端大きく間合いを離す。やがて両者は戦いの場所を河川敷から川の中へと移して
いた。水しぶきを上げてカニ獣人の下へと走りよるアマゾンに対して、カニ獣人も
両腕を広げてこれを迎え撃つ。
「ケェーッ!!」
切れ味鋭い跳び蹴りを繰り出すアマゾン。しかし、ひとたび水の中にその身を置いた
カニ獣人の身体は、固いだけでなく若干ながら滑る。それは水棲生物の故であり、
獣人にとってはこれが幸いした。アマゾンのキックが有効打とならないばかりか、
打点において足が滑り、そのまま水の中に突っ込んでしまったのだ。こうなると
今度はカニ獣人のほうに分がある。水の中に倒れたアマゾンの上に、全体重を
かけて押しつぶさんとばかりにのしかかる。
「押しつぶしてくれるわ、アマゾン!」
獣人の下敷きになり、その身体は既に水の中。水中で脚を機用に使いながら、カニ獣人
はアマゾンの動きを封じていく。そして、獣人の視線は両腕の腕輪に注がれていた。
「いい事を思いついたぞアマゾン。腕輪を奪い取るために、俺はお前の両腕を
切り落とすことに決めた。覚悟しろ」
「くっ・・・させるかぁ・・・」
カニ獣人はアマゾンの腕めがけて両腕の鎌を振り下ろす。しかしアマゾンも黙って
やられているわけではない。下敷きにされた状態にあっても必死に抵抗し、獣人の
攻撃をしのぐ。そのたびに獣人の鎌が川底をえぐり、水面にしぶきが上がる。
「今度こそ最後だ、喰らえアマゾン!」
ひときわ強烈な斬撃を放つべく、カニ獣人が上体を起こして鎌を振上げたその時、
わずかにアマゾンの身体から獣人の身体が離れた。水の中に押しつぶした身体を
拘束する脚も、上体を起こしたことでその拘束を解いてしまっていた。その瞬間が
アマゾンにとって最大のチャンスだった。それはまさに一瞬の出来事。アマゾンは
すばやく獣人の足元から脱出すると、全身全霊の力を持って空中高く跳躍した。
「ケェェェェーッ!!」
ジャンプと共ににわかに吹き上がる水柱。まるで水中で爆発でも起きたかのような
そのあまりの勢いに、カニ獣人の動きが一瞬止まってしまう。そして、その水柱が
再び水面に叩きつけられるのとほぼ同時に、空中から襲い来る影はアマゾンだった。
背びれが蠢き、照りつける真昼の太陽にアームカッターが光を放つ。
「大ッ!切断ッ!!」
戦況は一瞬で逆転し、アマゾンのアームカッターがカニ獣人の頭に叩き込まれた。
落下の勢いはそのままアマゾンの腕を一気に水面の方向へと推し進め、その威力で
ひとたび頭蓋をぶち破ったアームカッターは一気にカニ獣人の身体を引き裂いていく。
そしてアマゾンが川面に着地したその時、カニ獣人の身体は血しぶきと共に真っ二つに
なって川の中へと崩れ落ちていく。もちろん、獣人には断末魔の叫び声を挙げる暇
などなかった。
戦いを終え、変身を解いた圭は作りかけの薬をモグラ獣人に与えて飲ませた。
あまりの強烈な青臭さにモグラ獣人は最初飲むのを嫌がっていたが、やはりここでも
裕子が獣人を一喝し、モグラ獣人は渋々薬を飲んだのである。そして、その甲斐
あってか獣人の身体に再び活力がみなぎってきた。
「二人ともすまねぇ。おかげで元気になれたよ」
「まぁ、元気になってよかったよ。ね、裕ちゃん?」
圭と裕子はそう言って互いに笑いあう。と、そこへ二人の帰りを心配していた少女たち
が、河川敷にその姿を見つけてやってきた。亜依と希美の二人だ。
「二人とも何してたんれすか・・・心配してたのに」
「気になってきてみたら・・・ってコイツは!!」
モグラ獣人の姿を見た少女達は一瞬で身構える。だが、そんな二人をいさめたのは圭だ。
「違うって二人とも。コイツはウチらの仲間。友達だよ」
「まぁ、そう言うとこやろな・・・あぁ、また食い扶持が増えよった」
裕子もそう言って苦笑いしてみせる。そんな二人の姿を見た亜依と希美は、獣人に対する
警戒を解いてそばへと歩み寄った。そんな二人を大きな目で見やると、圭は不意に両手を
差し出してこんな事を言った。
「いい機会だから、教えてあげるよ」
そう言って圭は両手の指を組み、そのまま小指を立てて外側に向けて見せる。圭に習って
亜依と希美、そして裕子も同じようにまねをしてみる。見たことのないハンドサイン。
しかし彼女が見せたこの仕草には、とても大切な意味があった。
「これはね・・・『友達』って意味なの。友情の証」
そして四人は互いに顔を見合わせ、ハンドサインを一斉に出す。一人だけモグラ獣人の
手ではやはり不恰好だが、それもまたご愛嬌である。四人は互いの絆を確かめ合うように
にっこりと微笑んだ。
戦いを終えて、仲間たちとの絆を確かめた圭。そして新たにモグラ獣人をその輪の中に
加えた圭は、戦いへの強い決意を秘めて太陽に叫んだ。いかなる敵がやって来ようとも、
決して負けることはない。共に戦う仲間たちとの友情と、育ての親に託された願いを
胸に戦い抜く。その誓いを込めた雄たけびは、いつまでも空にこだましていたのであった。
第45話 「狙われた秘宝伝説・インカ超エネルギーの謎!」 終