「圭ちゃん、出た!ゼティマが出た!!」
圭に届けとばかりに叫びながら裕子は走る。モグラ獣人が縛られていたあの場所
まではそう遠くはなく、ちょっとひとっ走りしたところで彼女は再び圭のところに
たどり着いた。息を切らせて周囲を窺うと、圭はそこらに生えている雑草と思しき
植物を摘んで、身に着けたベルト「コンドラー」の中央に配置されたすりこ木で
すり潰していた。だが、そんな彼女も裕子の声を聞き、作業の手を止める。
「ゼティマがどうしたの?」
「あの赤い女達が現れたんよ。そんで、今モグラと闘ってる!」
「モグラが?!」
「遅れは取らんって言うてたけど、なんぼ獣人でも病み上がりには勝ち目ないよ」
「・・・ちょっとあたし行って来る。モグラを助けなきゃ」
圭はモグラ獣人のために、我々文明圏の人間には雑草としか思えない草の中から
薬効を持つ植物を集め、薬を作っていたのだ。しかし、そのモグラ獣人は弱った
身体を押して赤ジューシャ達と戦っている。ソレを知るや、圭はすりこ木を再び
ベルトのバックルにセットしてすばやく立ち上がると、モグラ獣人を救出するべく
戦いの舞台へと駆けていった。
一方、赤ジューシャ部隊とモグラ獣人の戦いは一進一退の攻防の末、モグラ獣人
が数で勝る赤ジューシャ達をかろうじて撃退していた。精根尽き果てたその背中越し
に、這々の体で敗走する赤ジューシャたちの姿が見えた時、モグラ獣人は戦いの
終わりを悟った。
「チュチュ〜。ちょっと手こずっちまったい・・・」
膝を折り、そのまま前のめりに倒れこむモグラ獣人。赤ジューシャを撃退しなければ
自分が裏切り者として処刑されてしまう。そして何より、自分を助けてくれた圭と
裕子に恩返しがしたかった。避けられない戦いだったが、彼は辛くも勝利を収めた。
ひとまず二人の危機を回避できたことで、彼にしてみれば二人に恩を返すことが出来た
格好になるはずだった。ところがである。
「モグラ、貴様天日干しにされてバテたか?」
何者かの声が獣人の耳にとどく。疲労でおぼろげな意識にも、それは何者の声なのかが
はっきり認識できた。
「お前は・・・カニ獣人?!」
「その通り。アマゾンに切り落とされた、両腕の礼を言いたくてな」
暗緑色の巨大なカニの怪物がモグラ獣人の眼前に立ちはだかる。カニ獣人は、移植に
よって手に入れた鎌の両腕を打ち振い、弱ったモグラ獣人に襲いかかった。
「まずはお前から片付けてやるぞ、モグラ獣人!」
そう言うや、いきなりカニ獣人は立ち上がれないモグラ獣人を足蹴にする。カニ獣人の
強襲を避けるだけで精一杯のモグラ獣人は、殴られてもけられてもただ転がるだけしか
出来ない。