やがて二人を乗せた車は河川敷のそばを通りがかった。離合のため車の
速度を落とした裕子の目に飛び込んできたのは、ススキの穂の間に蠢く赤い
物体だった。
「圭ちゃん、あれ何やろ?」
裕子がそう言って指差したのと時を同じくして、強く吹きつけた風がススキを
揺らし、赤い物体の正体を明らかにした。それは両手両足をコンクリートの
基礎に縛り付けられた獣人の姿だった。
「ああっ!あれ、モグラだ!」
「モグラ?!」
「そう、モグラ。モグラ獣人」
圭は覚えていた。公園で自分を襲った地中からの刺客、モグラ獣人のことを。
腕輪の秘密を喋ったばかりか、敵前逃亡の罪を犯した彼は今まさに縛り上げられ、
日干しの刑に処されようとしていたのだ。圭の頼みで裕子は車で通れる所まで
緩やかな斜面を下り、二人は縛られて身を横たえたモグラ獣人の所へと駆けて
行った。
「あぁ、暑い・・・誰か水を・・・助けてくれぇ」
獣人の身体はすっかり乾燥しきっていた。わずかに残された水分も汗となって蒸発
し、体表に浮き出た塩分が赤い体毛に塩を振ったような様相を呈していた。獣人の
うめき声が耳に届いたか、まず圭は川まで走って水を汲み、それから裕子と共に
獣人のそばへと近づいていった。
「モグラ!あんたなんでしょ?しっかりしなさい!!」
手にしたペットボトルにはなみなみと水が湛えられている。圭は獣人の頭を
ゆっくりと持ち上げ、口の中に水を注ぎ、また頭へも注いだ。突然身体を潤す
水分に獣人が正気づくと、そこにいたのは憎き敵、アマゾンライダーこと圭
だった。圭は獣人の手足を縛っていたロープを解いていくが、モグラ獣人は
自由になった手で圭の手を払いのける。
「何すんのよ」
「止めろ!お前の情けなど受けるものか!!」
敵に情けをかけられるよりは死んだほうがましだ、と言わんばかりに獣人は圭の
助けを拒む。だが、すでに死にそうになっていた獣人の抵抗など二人の前では
何の意味も成さなかった。もがいて身をよじる様にも力はない。そんな獣人の
眼前に立ち、裕子が言う。
「『暑い〜』とか『助けてくれ〜』とか言うとったんはお前やろ?素直に飲みぃ!!」
「・・・・」
裕子に一喝され、モグラ獣人はそれっきり抵抗するのをやめた。圭の手から
ペットボトルを受け取るとそのままぐいぐいと水を飲み、ついに飲み干して
しまった。