裕子の車が家を出たのを見計らって、バイク部隊はその後を尾行する。車は
住宅街を抜けてやがて大通りへといたった。このあたりは交通量も多く、油断
すればターゲットを見失うかと思われがちだが、実はかえって尾行はやりやすく
なるようである。何より違和感を持たれることなく周囲の交通に溶け込むことが
出来るようになるからだ。密林の奥地からやってきたとは思えないほど、都市
交通に対する認識の高さを持つあたりはやはり油断ならない女達である。
「奴らはどこに行くんだろうね・・・」
「この先を曲がって入りそうなところといえば」
「夢ヶ丘デパートか・・・って、ちょっとアレ見なよ」
バイク部隊の一人が、デパートの壁面にかけられた催し物の垂れ幕を目ざとく
発見する。そしてそこには次の一文があった。
『失われた黄金の帝国〜古代インカ文明展・8階催事場にて開催中』
一瞬彼女達の脳裏によぎった考えはこうだ。「自分達の知る限りでは、考古学に
興味のある女というものはそうそういるものではない」。つまり、よほどの
変わり者で無い限り、少なくともこのデパートで開催されているこの博覧会を
目当てにデパートに出向く女などいるはずが無い。大方DCブランドのショップ
でも覗きに行ったのだろう、とそのくらいにしか考えていなかったのだ。
しかしそんな彼女達の眼の前で、車は立体駐車場の方へと入っていく。少なく
ともこのデパートに立ち寄るのは間違いない、そう踏んだバイク部隊は早速例の
赤ジューシャ二人組に連絡を取る。
「中澤と思しき女とアマゾンがデパートに入りました」
立体駐車場に停車したバイクに搭載した無線機を使って、バイク部隊の一人が
赤ジューシャに尾行の途中経過を報告する。
『デパートねぇ・・・大方買い物にでも行ったんじゃないのかい』
案の定、返ってくるべくして返ってきた答え。念のためバイク部隊の女は、この
デパートで行われている催し物についても報告した。ところが、それを聞いた
赤ジューシャは何かを閃いたか、バイク部隊に新たな命令を下す。
『いいかいお前達、よく聞きな。モグラの奴が腕輪の秘密を喋った。多分
中澤裕子とアマゾンは、手がかりになるような物を求めてインカ展に向かった
はずだ。どんなブツが置いてあるか知らないけど、秘密は知られちゃまずい』
「どうしましょう?」
『とりあえず二人から目を離さないこと。会場で注意深く動きを探るんだよ』
「了解」
かくしてバイク部隊の女達は巧妙な変装でデパートガールになりすますと、圭達
がやってくるであろう8階催事場へと先回りしてその動向を注意深く探ることに
した。
そしてそれから10数分後、古代インカ文明展が開催されているデパート8階の
催事場に、裕子と圭の姿があった。