家に帰り着いた圭は早速公園での出来事と、腕輪にまつわる話を居合わせた
仲間達に聞かせた。彼女の両腕をまじまじと見つめながら、少女達はそれぞれに
今後のことを話していた。
「この変な腕輪にそんな力があったなんてねぇ・・・おどろいたよ」
なつみはそんなことを言いながら、指先で腕輪をつつく。
「おじいちゃんにもらったものを変って言わないの、もう・・・」
腕輪をつつく指を避けるように身をよじる圭。その様が何となく面白かったのか
居合わせた少女達が一斉に腕輪をつつこうと迫る。指は腕輪を外れて二の腕や
脇に入るものだから、だんだんと圭はくすぐったくなってきた。
「こら、やめてってたら・・・ちょっと!」
と、そこへ外出から帰ってきたばかりの裕子が姿を見せた。ひとまず悪ふざけを
やめ、少女達は圭とともに腕輪の話を裕子にもして聞かせた。裕子は少女達の話
を一つ一つ聞き逃さず相槌をうちながら注意深く聞いていたが、ふと何かを
思い出したか、ハンドバッグの中から一枚の紙を取り出した。
「・・・ほんならちょうど良かった。こんなの貰って来たんだけど」
それは一枚のチケットだった。そしてそこにはこう書かれていた。
『失われた黄金の帝国〜古代インカ文明展』
それは夢ヶ丘のデパートで今日から開催されている、インカ文明の博覧会の
チケットだった。聞けば裕子は、このチケットを綾小路夫人に貰ったのだという。
綾小路夫人といえば、斉藤瞳の口利きで始めたペット探しの元依頼人であった。
「綾小路さんところのデパートで開催してる博覧会のチケット。もしかしたら
圭ちゃんの腕輪の謎に関わる展示品が、それと気づかれずに展示されてるかも
知れへんね。行ってみたら?」
裕子はそう言って、チケットを圭に手渡した。物珍しさでチケットを表にしたり
裏返したりとあれこれ眺めていた圭だったが、印刷されていた展示物の写真の中
にはやはり見覚えのある品があるようで、そのうちの幾つかを指差しながら、
これは見たことがあるとか、似たようなものが村にあったとか、懐かしそうに
語って聞かせていた。そして思い出話に区切りがついたところで、圭はチケット
を握り締めて裕子に言った。
「ありがとう、裕ちゃん。あたし、ちょっと行って見てくるよ」
「何かの手がかりになるとええね・・・そうだ、明日付き合うわ」
こうして、圭と裕子の二人は腕輪の秘密を解き明かす手がかりを求めて、明日
博覧会会場へ足を運ぶことに決めた。この時二人は、やがて知る驚くべき古代の
伝承のことなど、まだ知る由も無かったのである。