「キョエーイ!!」
カニ獣人の号令一下、赤ジューシャたちが一斉に襲い掛かる。モグラ獣人との
戦いを終えたばかりのアマゾンではあったが敵は待ってはくれない。鋭い光を放つ
爪で寄せ来る敵を切り裂き、またすばやいパンチで片っ端からなぎ倒す。手刀が、
そして回し蹴りが次々と赤ジューシャ達に炸裂し、強烈な一撃で叩きのめされた
敵はバタバタと倒れ伏していく。白のフリンジがひらひらと風に舞うように、
赤ジューシャ達は攻撃のたびにコマのように回りながら次々と地に伏す。
「えぇい、ふがいないヤツらだねぇ!」
「カニ獣人、出番だよ!」
そう言い残すと二人組みの赤ジューシャはそそくさと獣人の影に隠れる。いよいよ
カニ獣人のお出ましとなった。眼の前には好敵手、そして軍団の宿願である二つの
腕輪。大きなハサミを振りかざし、カニ獣人は機は熟したとばかりに勇んでアマゾン
に襲い掛かる。
「アマゾンライダー!腕輪はこのカニ獣人が頂く!!」
「そう言って奪えた奴は・・・一人もいない!」
両腕を大きくかざしてアマゾンを威嚇するカニ獣人。これに対してアマゾンも腰を
低く落とし、敵を引っかく仕草を見せて敵を威嚇する。獣人対野生の戦士、勝つのは
いずれの闘争本能か。
仕掛けたのはアマゾンだった。巨体をもてあまし鈍重なカニ獣人に対して、大跳躍し
飛び掛ると、雄たけびと共に必殺の噛み付きで獣人の固い甲羅に鋭い牙をつきたてる。
「ヴァァァァーッ!」
しかし、そこはカニ獣人の名の通り、固い甲羅は伊達ではない。アマゾンの噛み付き
攻撃も文字通り歯が立たず、懐に入り込んできたアマゾンの頭上から巨大なハサミを
振り下ろして一撃を加えた。
「バカめが、貴様の牙など俺の身体に効くものか!」
「ウガァッ!!」
苦痛にうめき声を挙げるアマゾンに対して、一気に攻勢に出るカニ獣人。腹部に蠢く
脚でアマゾンの身体を抱え込み、両腕のハサミを代わる代わるアマゾンの頭に、背に
とぶち込んでいく。思いがけない劣勢に立たされたアマゾン。しかし、まだ彼女は
諦めたわけではなかった。何度目かのハサミ攻撃が振り下ろされた、その時だ。
膝を屈して敵の攻撃を受けることしか出来ないでいるかに見えたアマゾンは、獣人
攻撃を見切ってその腕を見事にキャッチした。そして、反撃の一撃が炸裂する!
「ケエエエエエーッ!」
雄たけび一番、背びれが蠢く。叫びと共にアマゾンライダーは敵の腕めがけて手刀
一閃。アームカッターが骨身を絶つ必殺の荒業、大切断を放った。
「ギャアアアア!!」
その直後、噴水のように迸るオレンジ色の体液は獣人の血だ。苦痛にもがき苦しむ
カニ獣人の口から泡が飛び散る。アマゾンの必殺技でまずは左のハサミが血飛沫と
共に中に舞い、さらにアマゾンは続けざまにもう一撃とばかりに獣人の右腕にも
大切断を見舞う。ものの見事に両腕を切断されたカニ獣人にもはや攻撃の術は無く、
血を滴らせながら逃げ帰るしか出来なかった。
「おっ・・・おのれアマゾン・・・覚えておけぇ!!」
赤ジューシャ二人組に身を庇われるようにして、カニ獣人はアマゾンの前から
敗走した。
そして、2体の獣人が逃げ帰った先は富士の樹海。言うまでも無く、そこは彼らの
主である十面鬼ゴルゴスのアジトである。だが、十面鬼が敗走してきた獣人たちを
許すはずは無く、早々に2体は捕縛されて十面鬼の許へと引っ立てられた。最初に
裁きを受けるのは、戦意を喪失して逃げ帰ったモグラ獣人だ。
「おのれモグラ獣人めが!作戦をしぐじったのみならず、アマゾンに腕輪の秘密
を自ら明かすとは何事か!!」
「お許しを十面鬼様・・・つい喋っちまいまして」
うっかり口を滑らせてしまった、との獣人の弁解がますます十面鬼の怒りに火を
つけた。顔岩と重なった10人の悪しき者達、妖術師ゴルゴスと9人の悪人達を
総じて十面鬼と称するのだが、彼らのただでさえ不気味に赤い顔が怒気をはらんで
ますます真っ赤になっていく。
「殺せ!」
「殺してしまえ!!」
「死刑だ!!」
怒りにほだされて叫ぶ悪人達。そして九つの鬼面が全員一致で処刑の裁定を下す。
そしてゴルゴスの口からモグラ獣人への最終処分が下された。
「お前はモグラだ。日の光が苦手であろう。縛り上げて日干しにしてしまえ!!」
「十面鬼さまぁぁ、お助けを!」
命乞いもむなしく、そのままモグラ獣人は赤ジューシャに引っ立てられていずこかへ
と連れられて行った。
失敗者には死を。それが彼らの鉄の掟だ。そして、続いて十面鬼は無様な負けっぷり
をさらして帰還したカニ獣人に裁きを下そうと鋭い目つきで睨み付ける。跪いていた
カニ獣人は、切断された両腕を見せて許しを請おうと立ち上がる。
「カニ獣人よ。お前もふがいないものよ」
「両腕を失って不覚を取ったのも、腕輪を奪えなかったのも全てあのモグラのせい
です。このカニ獣人めにもう一度チャンスを!どうか命ばかりは!!」
カニ獣人の必死の弁明に、十面鬼はしばし黙り込んで思案する。そして、彼に対して
最終決定が下された。
「よかろう。ひとまずお前の腕を治してやる。カニ獣人を連れて行け」
数人の赤ジューシャがカニ獣人のもとへやってくると、獣人は直ちに獣人製造室
へと移送される。そして、それから数時間後。再び十面鬼の前に姿を現したのは、
切断されたハサミの代わりに切れ味鋭い鎌に両腕を交換したカニ獣人だった。
「ありがとうございます!これで奴に不覚を取ることはありますまい」
すでに次なる作戦に向けて東京へ出発した赤ジューシャの後に続いて、カニ獣人も
その後に続く。アマゾンに切断された両腕の借りを返すべく、獣人は復讐を胸に
東京へと向かった。