97 :
書いた人:
―――
「・・・あ、ねぇ、のんちゃんと紺野いた?」
「いたけど・・・ほら」
「あ・・・二人を待っててくれてるんだけど・・・どうしよ?」
「しょうがないですよ。そっとしていてあげましょ?」
「おいらもそのほうがいいと思うんだけどさ・・・聞いてる? 圭織?」
「・・・え? あ、そうだね。ゴメン・・・こんな時なのに、私ちっともちゃんとできないな、って思って」
「こんな状況でしっかりできる奴なんていないよ、気にすんなって」
「・・・そうだね・・・それじゃ、行こっか?」
―――
98 :
書いた人:03/11/29 20:15 ID:f4S7M5B9
〜 第2話 「再会」
99 :
書いた人:03/11/29 20:16 ID:f4S7M5B9
翌日
幸運にも、あのワガマママイペースお嬢様とは楽屋が別になった。
いいことだ、実にいいことだ。
のんちゃんや加護ちゃんが何とか仲直りさせようとしてたけど、ちょっぴりこっちにも意地ってもんがあるのだ。
大体、あさ美ちゃんとケンカしても、謝るのは8割がた私の方だし。
こうしておくのも、たまにはいい薬になるのかもしれないし。
「・・・・・まこっちゃんさぁ、いつまで意地張ってんのよ?」
お昼ご飯をパクついている時にも、のんちゃんが私の前でお説教。
多分、加護ちゃんがあさ美ちゃん担当になってるんだろう、楽屋に姿がない。
パックのオレンジジュースを飲みながらの熱弁に、少しグロッキーになる。
「だってさぁ・・・いっつも私が謝ってんだよぉ。
あさ美ちゃんの方が悪くっても、絶対謝ってくれないもん」
「・・・・・・ハァ」
100 :
書いた人:03/11/29 20:16 ID:f4S7M5B9
私の言葉に、のんちゃんは深く溜息。
その仕草が、何だかいつもより少し大人っぽく見える。
『桃色吐息』って感じだ、ちなみに意味はよく知らない。
「まこっちゃんの気持ちも分かるけどさぁ、『オトナ』になっておく所、ってのもあるんじゃない?
何て言うのかなぁ、折れておこうかなって割り切る、って感じ?
やぐっさんが『最近覚えた』って、言ってたけど」
「・・・・・・のんちゃん、熱でもある?」
「真面目に言ってんの!」
ウド鈴木のマネをする時や、セクハラまがいの事をしてくる時とは違って、その目は真剣そのもの。
そりゃ、私の方が一言謝れば終わる、っていうのも分かってるよ。
でもさぁ、それって、あさ美ちゃん得すぎない?
いっつも自分のペース貫いていれば、周りが折れてくれて終わりなんて。
101 :
書いた人:03/11/29 20:18 ID:4U/+tMnv
それを伝える私の言葉を、のんちゃんは一々頷きながら聞いてくれた。
多少は・・・私の気持ちも分かってくれたんだろう。
諦め口調だけど、少し憂いを残した感じでのんちゃんは立ち上がる。
「そっか・・・分かったよ。
けどねぇ・・・どうせ、いつでも謝れる、なんて思わない方がいいよ?」
「だいじょーぶ、私の方から謝んないもん」
「そうじゃなくて」
「?」
「時計の針は戻せないよ、きっと」
まるで子供に言い聞かせるように腰に手を当ててそう言い置くと、楽屋を出て行く。
最後の言葉がずっと耳の中で響いているみたいで、私はひたすらお茶を飲んだ。
102 :
書いた人:03/11/29 20:19 ID:4U/+tMnv
―――
「そりゃ、辻の言うことが正しいわ」
約束どおり、お仕事の後駆け付けたつんくさんのマンションで、私は今日何度めかの非難を浴びた。
こういうときだけ大人面して説教を垂れるつんくさんが恨めしい。
ふんだ、頭の中は禄でもない歌詞を作るシナプスしかないくせに。
「つんくさんはあさ美ちゃんのワガママっぷりが分かんないから、そういうこと言えるんです!」
「あぅ・・・そりゃ、そうなんやけどな・・・」
私の剣幕に気圧されたのか、少し上半身を逸らせてつんくさんは情けない目をする。
それでもコーヒーをズズッと啜ると、眼鏡の上から遠慮がちに目を向けた。
「そういう場合、どっちが悪いってわけとちゃうんよ。
どっちが謝れるか、それだけやと思うで」
「・・・でもぉ」
「仲直りした後で、『ああ、もっと早く仲直りしとけばよかったな』って、思うんとちゃうか?」
「はぁ」
私の倍以上生きてる人間の言うことだからなぁ。
女みたいな化粧して変な歌唄ってたとはいえ、一応人生の先輩だもん。
素直に頷いておくほかない。
感情が納得できないけれど、理性が頷かざるえを得ない部分が、つんくさんの言葉にはある。
103 :
書いた人:03/11/29 20:20 ID:4U/+tMnv
でも、やっぱり私の感情はちっとも納得できない。
なんかこう、自分の頭の中で処理できない色んなことがこんがらがって。
昨日までのぼーっとした感じと違って、今日は色んなことを考えすぎて、頭が痛い。
「あぁぁ・・・もういいです! この話は終わり!!」
「でもな・・・」
「これ以上言ったら、セクハラされたって中澤さんに言いますよ!!」
「あぅ」
いやぁ、『セクハラ』って便利な言葉だ。
つんくさんは叱られた子供みたいにしゅんとなっちゃった。
ちょっぴり気の毒だけど、私の精神衛生のためには仕方が無いのだ。
104 :
書いた人:03/11/29 20:20 ID:4U/+tMnv
気まずくなったのか、つんくさんはコーヒーの最後の一口を啜る。
そして指先とか、部屋の壁とか、いたるところに視線を移す。
「あの・・・で、今日は何で私を?」
本題。
って言うか、私の感情がこれだから、言うのを今まで躊躇っていたっぽい。
さっきっからそわそわしてて、外に出たら一発で職務質問されそうだ。
私の言葉に、つんくさんが唾をごくっと飲む音が聞こえた。
おもむろにジャケットの胸ポケットから、何か取り出す。
・・・・・・薬ビン?
青色のそのビンは、どこかで見たというか、あの時の薬と色違い。
人生で二度と見たくないものランキングで、堂々の1位に輝く、あれ。
つんくさんだって分かってるはずじゃないですか。
自分の肩の辺りから、殺気が湧き出るのがちょっぴり分かった。
105 :
書いた人:03/11/29 20:22 ID:qWwceBFE
・・・ダメ、笑顔を作ろうとしても無理。
妙な瘴気が出てるんじゃないか、って自分で思うもん。
「あ、小川・・・別に・・・そーいうわけとちゃうんやけど」
じゃあどーいうわけだ、って言うんだ。
大体あの時、つんくさんは言ったはずだ。
もうこんなことは止めるって、私たちに約束してくれた。
それは多分、あの機械や薬を全部廃棄することなんじゃないか、ってみんなで話したもん。
なのに、私の目の前にあるのは・・・
取り敢えず一発殴らせて欲しい、って思った丁度その時、
暴走しそうな感情がつんくさんの言葉にふっと止まった。
「あのな・・・未来、行ってみたいと思わんか?」
さっきまでの情けない顔はどこへやら。
つんくさんは、いたずらっ子みたいに笑っていた。
そして、それがどこかむかついたのだ。