85 :
書いた人:
!!
あさ美ちゃん・・・・・・かな?
能天気に鳴り響く着メロを耳に、私はお風呂から飛び出す。
多分あさ美ちゃんだ、きっとあさ美ちゃん、絶対・・・
身体を拭き拭きリビングに駆け込んだ時には、
私の頭の中では、この電話はあさ美ちゃんからのもの、ということになっていた。
頭の中でポワワワと、電話をとった後のことがシュミレーションされちゃう辺り、ちょっと怖いけど。
『もしもし?あさ美ちゃん?』
『あ・・・まこっちゃん。今、大丈夫?』
『うん・・・あのね・・・今、私も電話しようと思ってたの・・・』
『・・・そう』
『そうなんだ・・・』
『あの・・・』
『『昼間はごめん!!』』
で、結局二人で昼間のケンカのバカバカしさを笑い飛ばしたら、
明日の仕事の後、お買い物に行く約束をして、そして二人の仲はもっと深まるのだ。
いや、多分だけど。
86 :
書いた人:03/11/26 23:39 ID:H05hy9P+
携帯を手にとるまでの間に、私の頭の中では二人で買い物帰りにお食事をするシーンまで事が進んでいた。
私の想像力ったら、素晴らしい。
きっとこうなるはずだ。
・・・ちなみに根拠はない。
携帯に埋め込まれたダイオードが蛍光色に点滅していて、その光に何か胸騒ぎがする。
ううん・・・きっとこれ、あさ美ちゃんからの電話だもん。
自分の心の中の黒色を必死で吹き飛ばして、信じられないような速さで携帯をすくい取る。
相手なんか確認しないで、通話ボタンを一気に押した。
「・・・・・・もしもし・・・」
声が掠れて心臓が高鳴る。
でも聞こえてきたのは、私の緊張感を打ち破るような声。
87 :
書いた人:03/11/26 23:39 ID:H05hy9P+
【おぅ、小川か? 夜遅ぅちょっとスマンけど、ええかな?】
電話口から聞こえてきたのは、軽薄な中年男の声。
つーか、つんくさんだ。
16歳の女の子に電話するのに、「おぅ」じゃね−だろ? 「おぅ」じゃ?
・・・という言葉を喉の奥にグッと飲み込んで、普段の8分の1の理性で、それでも一応の対応を試みる。
「ハァ・・・だいじょーぶですけどぉ・・・」
【いや、スマンな。ちょっと・・・頼みがあってな・・・】
つんくさんは5音節に1回は『スマン』を挟みながら、それでも要件を済ませていく。
私はつんくさんの、まるで『スマン』を合いの手に入れてるみたいな言葉を右耳に、エアコンのリモコンを探した。
つーか・・・別に怒ってもいない時って、何でこんなに『スマン』って言葉がむかつくんだろ。
スマン、って言われるほど、つんくさんの遠慮心が薄らいで感じられる。
身体をバスタオルで拭きながら、つんくさんの言葉を逃さない程度の真剣さで服に手を掛けた。
88 :
書いた人:03/11/26 23:41 ID:89FW9fCz
【小川、お前明日の仕事の後、ヒマあるか?】
「ヒマですかぁ・・・」
セーターを被った体勢のまま、少し返事に逡巡する。
明日のお仕事の後は・・・あさ美ちゃんとお買い物に行こうって思ってたんだけどなぁ。
別に約束してないけどさ。
私の口ぶりの微妙さに、鈍いながらにも感づいたのか、つんくさんは拗ねたような声をあげた。
安倍さん卒業の時の「イェイ!!」と同じように、延髄の裏の辺りが疼いて、その声に殺意が湧く。
【むぅ・・・ちょっと頼みがあったんやけど・・・もう予定入っとるん・・・・・・か?】
「いえ・・・入ってはいないですけどぉ・・・」
正確に言えば『予定が入るかもしれない』だ。
普段だったら私が電話して、それでちょっと言葉を交わせばすぐに『予定』が立つんだけど。
それも今日は、ちょっと可能性が低い。
89 :
書いた人:03/11/26 23:41 ID:89FW9fCz
「・・・明日じゃないとダメですかねぇ?」
クリスマスは一週間後。
できるなら、早いとこ買い物しておきたい。
これから年末になるに従って、多分「人権って何?」って位、酷使されることは目に見えてるんだから。
それに・・・早く、仲直りしておきたいもんね・・・
【できるんなら、明日の方がええんけどなぁ・・・】
つんくさんの声は、気持ち悪いほど頼りない。
どうせ禄でも無いことなんだろう。
大体お仕事の話だったら、私に『来やがれ!!』っていう権利だってある筈だもの。
こういう所、しっかり割り切ってくれるのは大変ありがたいんだけど、ここまで来ると気持ち悪い。
90 :
書いた人:03/11/26 23:42 ID:89FW9fCz
「あぁ・・・それじゃ、30分以内に決めますんで、それまで待っててくれません?」
【・・・それで決められるんか?】
「ハァ・・・明日そちらに行けるかどうか、後でメールしますから」
代官に直訴する農民Aのような、つんくさんの頼りない駄目押しを耳にしながら、電話を切る。
これで・・・30分以内に、あさ美ちゃんと仲直りしなくちゃいけなくなったわけだ。
大体12月の素敵な長い夜を、つんくさんと過ごす義理はいくらプロデューサーでもないもんね。
ちょっぴり考えて、あさ美ちゃんに電話を掛けようともう一度携帯を開いたその時。
「メール・・・」
「あさ美ちゃん」フォルダにメールが入っていた。
気付かなかったんだ、さっき。
殆ど無意識にメールを開く。
91 :
書いた人:03/11/26 23:44 ID:aOt1ZPfi
【まこっちゃんのバカ!!!!
――― END―――】
92 :
書いた人:03/11/26 23:44 ID:aOt1ZPfi
これだけですか?
多分私の頭には、ドッカーンって効果音でもついていたんだと思う。
しかも時間・・・私がお風呂入ってた時じゃん!!
まだ怒ってんの? ホントに・・・意地っ張りなんだから!!
もうイイ、決めたもん。
こっちから謝ってやるもんか。
私は恐ろしいくらいのスピードで、つんくさんに明日行ける、ってメールを打ち始めたのだった。