モーニング娘。の水着写真掲載について

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65書いた人



 〜 プロローグ


66書いた人:03/11/25 22:26 ID:Mo/7S2kk

「・・・・・・のの、紺野・・・時間だよ?」
「「・・・・・・・・・」」
「ねぇ・・・二人とも」
「・・・石川、そっとしといてやんなよ・・・な・・・?」
「・・・矢口さん。・・・ですけど・・・
さっきからあの子たち、ずっとああやってて・・・・・・」
「・・・何見てんの? あの二人」
「最後に、持ってたんですって・・・」
「・・・」
「最後に持ってたけど・・・あれだけは綺麗なままで」
「・・・」
「あれだけの衝撃で、よく壊れなかったって、お巡りさんッ、言ってました・・・」
「石川ッ!!!!」
「・・・・・・ごめんなさい・・・でもッ・・・なんであれはあんなに綺麗なままなのに・・・」
「・・・泣くなよ。私たちが泣いたらさ・・・下のやつら、止まんなくなる・・・」
「・・・・・・はい」
「・・・行こうよ。見送ってやんなきゃ。
石川、涙拭いて・・・ね? 
辻・・・紺野・・・。もし来れるんだったらさ、最後だから・・・・・・おいでよ・・・ね?」
67書いた人:03/11/25 22:27 ID:Mo/7S2kk



         昨日見た日々2  〜 砂時計 〜


68書いた人:03/11/25 22:29 ID:Mo/7S2kk



 〜 第1話 「ケンカ」


69書いた人:03/11/25 22:29 ID:Mo/7S2kk

―――  今日、あさ美ちゃんとケンカした。



原因は、とってもとっても些細なこと。
でも・・・とってもとっても、大事なこと。
いつもだったら笑って許せるようなことかもしれない。
ううん、いつも私は笑って許してた。

あさ美ちゃんは人の話をあんまりちゃんと聞いてくれない。
自分が話すときは、マシンガンみたいにバァーーーーッと話すくせに、私の話をちゃんと聞いてくれない。

今日だって、とっても大切なこと話してたんだよ。
それなのに、あさ美ちゃんは目の前のお菓子に夢中で。
私はいっつも物事つっかえつっかえ喋るから、やっと話せた、って思ったのに。
なのに、「え? まこっちゃん。なぁに?」って・・・・・・そりゃないよ。
70書いた人:03/11/25 22:30 ID:Mo/7S2kk

それとこの二・三日、なんだか頭がボーっとして、上手く働かなかったのも原因なのかも。
はい、そこ。お前の頭が働いていないのはいつもだ、って言わない。
微熱が出ているみたいにボーっとしながら、でも頑張って話したのに、あさ美ちゃんは上の空。

「ねぇ!! あさ美ちゃんもさぁ・・・ちゃんと人の話し聞いてくれたっていいじゃんさぁ!!」
「ッ・・・なんで怒ってんの?」
「ほらぁ!! いっつもあさ美ちゃん、分かってくれないもん!」
「だから何怒ってるのか、分かんないよ!! 言ってくんないと、私だって分かんないって!」
「言ってるじゃん! なのに全然分かってくれない!」

もうこうなっちゃうと、後戻りって利かないんだよ。
あさ美ちゃんの目は、今まで見たこともないくらいに鋭くて。
大きくてちょっと垂れてる、あの優しい目なんてもうどこにも見られないもの。
でも・・・悪いのは、あさ美ちゃんなんだよ!!
71書いた人:03/11/25 22:31 ID:Mo/7S2kk

「あぅ・・・あさ美ちゃんもまこっちゃんも、仲直りした方がいいよぅ?」
「そやで、二人とも。もうすぐクリスマスやって言うんに、折角楽しい季節なんやから。
ケンカなんかしとったら損やって」

私たちの言い争いにビクビクしながら、それでものんちゃんと加護ちゃんが宥めにかかる。
そりゃあ・・・これから先、楽しい季節が待ってるなんてこと、分かってるよぅ。
あと1週間で、クリスマスが待ってる。
別に彼氏がいるわけじゃないけど、それでも何だか、街のウキウキした感じが好きだから。
それは勿論、あさ美ちゃんやのんちゃん、加護ちゃん、みんながいてくれるから。

でも・・・

「だって、まこっちゃんが1人で怒ってるから、訳わかんないんだもん!!」

頭から湯気でも出しそうな勢いであさ美ちゃんが激怒。
ふーん、そんなこと言うんだ。
私だって、言いたいことは腐るほどあるんだから!!
72書いた人:03/11/25 22:32 ID:Mo/7S2kk

「じゃあなんだって言うの!? あさ美ちゃんだって、いっつもマイペースで私のこと考えてくれないじゃない!」
「それとは話が違うでしょ? まこっちゃんの言ってること、ちっとも分かんない!」

私の言葉に目を見開いて、頬を膨らませて、あさ美ちゃんは一気に吐き出す。
いつもなら可愛いって思う、その豊かな表情の変化も、今日感じるのは憎さだけ。
私たちに挟まれて、ぶりんこコンビは小さくなっていた。

それでも・・・まだ、ここまではいつもありうるようなケンカ。
でも、次の言葉に私は全てを打ち砕かれた。

「・・・・・・わかんないよ。 まこっちゃんは、私たちに変な薬飲ませたりしたもん!
そんなまこっちゃんの言うことなんか・・・分かんない!!」
73書いた人:03/11/25 22:33 ID:Mo/7S2kk


―――

夜になっても、まだ頭の中であさ美ちゃんの言葉が渦巻いていた。

「変な薬を飲ませて・・・か」

お風呂の中で響く声が、まるで数時間前のあさ美ちゃんの言葉が木霊しているみたい。
あの薬のこと・・・この半年近く、私、あさ美ちゃん、のんちゃん、加護ちゃん、
みんなが口に出すこともなかった、あの薬。
私が三人を騙して、3年前に送り飛ばしたあの薬。

胃袋が取れそうなほど、あさ美ちゃんの言葉がキツイ。
頭がキンキンと響いた。
あさ美ちゃんは一瞬、ハッとした顔を見せたけど、すぐにキッと私を睨みなおした。
私は静かに、唾を飲み込んだ。
74書いた人:03/11/25 22:33 ID:Mo/7S2kk

あのことは、本当に悪かったって思ってる。
それに、そのことはあさ美ちゃんにも言った。
それでも・・・だからって、『謝ったじゃない』って開き直れるようなことじゃない。

だからこそ・・・4人で約束したんだ。
これから先、絶対に後悔しないように、全てを打ち明けられるようになろう。
そうすれば、私たちはきっと、いや絶対、最高の友達になれる。
でも・・・今回は、どうも裏目に出ちゃったみたい。

あさ美ちゃんの言葉の後、しばらく頭のぼーっとした感じが止まなかった。
75書いた人:03/11/25 22:36 ID:Mo/7S2kk

「どうしよっかなぁ・・・」

お風呂に口までつけて考える。
来週はクリスマスだ。
いつものプレゼント交換がある日。
今年は飯田さんかられいなちゃんまで、歳の幅があるからプレゼントも大変。
そのことを相談しようと思ってたんだけど。

あさ美ちゃんがちょっとそのことを困っているって、いつだったか洩らしていた。
丁度いい小物屋さんをこの間見つけたから、誘おうと思ってたんだけど。

一人で行っちゃおうかなぁ・・・
でもなぁ・・・あさ美ちゃんに、今からでも謝ろっかなぁ・・・
私はそんなに悪くないと思うんだけどなぁ・・・

そんなことを考えていると、リビングに置いた携帯の呼び出しが聞こえた。
76書いた人:03/11/25 22:42 ID:Mo/7S2kk

今日はここまで。
お久しぶり、ということで。

この文章は、夏頃に書いたものの続編です。
できるならば、そちらを先に読んで頂いた方が、楽しく読めるかと思われます。
スレのほうは落ちてしまいましたので、
http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282.html の168以降で読めます。

夏のような更新速度はちょいと無理ですので、まったりと行きます。
上記スレを保全してくださった方、見ていらっしゃって、
もしこのようにリンクを張ることに問題がありましたら、仰ってください。

それでは、続きます。
77名無し募集中。。。:03/11/25 22:52 ID:VH5/Jhbv
書いた人さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

がんばってください
78名無し募集中。。。:03/11/26 01:38 ID:ItMOF7HY

(0^〜^)<作者さん、続編スタートおめです。
  つ日  うーん。予定より早めに復活されて何より。
      今回もまた楽しませていただきますYO。
79名無し募集中。。。:03/11/26 03:14 ID:0bgc9E+L
川o・-・)ノ<復活おめぇ〜!!!
       今回もマターリ読みながら小説の勉強をさせていただきます。
       それではがんばってください。
80名無し募集中。。。:03/11/26 15:05 ID:tczD7ji+
ノ お久しぶりで
81名無し募集中。。。:03/11/26 16:32 ID:Nyb+XOwV
待ってました━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
まさか続編が読めるとは思ってなかったので、面食らって大喜び
82名無し募集中。。。:03/11/26 17:38 ID:CT6QtgiO
“書いた人”さんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

で、さっそくで悪いんですが「記憶の中の『あの人』」のログってどなたかありませんか?
ぶっちゃけ自分キカイノココロしか読んでないもんですから・・・・・
83名無し募集中。。。:03/11/26 19:55 ID:5ukY48kv
>>82
>>76の1作目ではないかと
84名無し募集中。。。:03/11/26 19:59 ID:CT6QtgiO
>>83
_| ̄|○スイマセン・・・・・バカデシタ。
85書いた人:03/11/26 23:39 ID:H05hy9P+

!!

あさ美ちゃん・・・・・・かな?
能天気に鳴り響く着メロを耳に、私はお風呂から飛び出す。
多分あさ美ちゃんだ、きっとあさ美ちゃん、絶対・・・

身体を拭き拭きリビングに駆け込んだ時には、
私の頭の中では、この電話はあさ美ちゃんからのもの、ということになっていた。
頭の中でポワワワと、電話をとった後のことがシュミレーションされちゃう辺り、ちょっと怖いけど。


『もしもし?あさ美ちゃん?』
『あ・・・まこっちゃん。今、大丈夫?』
『うん・・・あのね・・・今、私も電話しようと思ってたの・・・』
『・・・そう』
『そうなんだ・・・』
『あの・・・』
『『昼間はごめん!!』』


で、結局二人で昼間のケンカのバカバカしさを笑い飛ばしたら、
明日の仕事の後、お買い物に行く約束をして、そして二人の仲はもっと深まるのだ。

いや、多分だけど。
86書いた人:03/11/26 23:39 ID:H05hy9P+

携帯を手にとるまでの間に、私の頭の中では二人で買い物帰りにお食事をするシーンまで事が進んでいた。
私の想像力ったら、素晴らしい。
きっとこうなるはずだ。
・・・ちなみに根拠はない。

携帯に埋め込まれたダイオードが蛍光色に点滅していて、その光に何か胸騒ぎがする。
ううん・・・きっとこれ、あさ美ちゃんからの電話だもん。
自分の心の中の黒色を必死で吹き飛ばして、信じられないような速さで携帯をすくい取る。
相手なんか確認しないで、通話ボタンを一気に押した。

「・・・・・・もしもし・・・」

声が掠れて心臓が高鳴る。
でも聞こえてきたのは、私の緊張感を打ち破るような声。
87書いた人:03/11/26 23:39 ID:H05hy9P+

【おぅ、小川か? 夜遅ぅちょっとスマンけど、ええかな?】

電話口から聞こえてきたのは、軽薄な中年男の声。
つーか、つんくさんだ。
16歳の女の子に電話するのに、「おぅ」じゃね−だろ? 「おぅ」じゃ?
・・・という言葉を喉の奥にグッと飲み込んで、普段の8分の1の理性で、それでも一応の対応を試みる。

「ハァ・・・だいじょーぶですけどぉ・・・」
【いや、スマンな。ちょっと・・・頼みがあってな・・・】

つんくさんは5音節に1回は『スマン』を挟みながら、それでも要件を済ませていく。
私はつんくさんの、まるで『スマン』を合いの手に入れてるみたいな言葉を右耳に、エアコンのリモコンを探した。
つーか・・・別に怒ってもいない時って、何でこんなに『スマン』って言葉がむかつくんだろ。
スマン、って言われるほど、つんくさんの遠慮心が薄らいで感じられる。
身体をバスタオルで拭きながら、つんくさんの言葉を逃さない程度の真剣さで服に手を掛けた。
88書いた人:03/11/26 23:41 ID:89FW9fCz

【小川、お前明日の仕事の後、ヒマあるか?】
「ヒマですかぁ・・・」

セーターを被った体勢のまま、少し返事に逡巡する。
明日のお仕事の後は・・・あさ美ちゃんとお買い物に行こうって思ってたんだけどなぁ。
別に約束してないけどさ。

私の口ぶりの微妙さに、鈍いながらにも感づいたのか、つんくさんは拗ねたような声をあげた。
安倍さん卒業の時の「イェイ!!」と同じように、延髄の裏の辺りが疼いて、その声に殺意が湧く。

【むぅ・・・ちょっと頼みがあったんやけど・・・もう予定入っとるん・・・・・・か?】
「いえ・・・入ってはいないですけどぉ・・・」

正確に言えば『予定が入るかもしれない』だ。
普段だったら私が電話して、それでちょっと言葉を交わせばすぐに『予定』が立つんだけど。
それも今日は、ちょっと可能性が低い。
89書いた人:03/11/26 23:41 ID:89FW9fCz

「・・・明日じゃないとダメですかねぇ?」

クリスマスは一週間後。
できるなら、早いとこ買い物しておきたい。
これから年末になるに従って、多分「人権って何?」って位、酷使されることは目に見えてるんだから。
それに・・・早く、仲直りしておきたいもんね・・・

【できるんなら、明日の方がええんけどなぁ・・・】

つんくさんの声は、気持ち悪いほど頼りない。
どうせ禄でも無いことなんだろう。
大体お仕事の話だったら、私に『来やがれ!!』っていう権利だってある筈だもの。
こういう所、しっかり割り切ってくれるのは大変ありがたいんだけど、ここまで来ると気持ち悪い。
90書いた人:03/11/26 23:42 ID:89FW9fCz

「あぁ・・・それじゃ、30分以内に決めますんで、それまで待っててくれません?」
【・・・それで決められるんか?】
「ハァ・・・明日そちらに行けるかどうか、後でメールしますから」

代官に直訴する農民Aのような、つんくさんの頼りない駄目押しを耳にしながら、電話を切る。
これで・・・30分以内に、あさ美ちゃんと仲直りしなくちゃいけなくなったわけだ。
大体12月の素敵な長い夜を、つんくさんと過ごす義理はいくらプロデューサーでもないもんね。

ちょっぴり考えて、あさ美ちゃんに電話を掛けようともう一度携帯を開いたその時。

「メール・・・」

「あさ美ちゃん」フォルダにメールが入っていた。
気付かなかったんだ、さっき。
殆ど無意識にメールを開く。
91書いた人:03/11/26 23:44 ID:aOt1ZPfi



【まこっちゃんのバカ!!!! 
――― END―――】


92書いた人:03/11/26 23:44 ID:aOt1ZPfi

これだけですか?
多分私の頭には、ドッカーンって効果音でもついていたんだと思う。
しかも時間・・・私がお風呂入ってた時じゃん!!
まだ怒ってんの? ホントに・・・意地っ張りなんだから!!

もうイイ、決めたもん。
こっちから謝ってやるもんか。
私は恐ろしいくらいのスピードで、つんくさんに明日行ける、ってメールを打ち始めたのだった。
93書いた人:03/11/26 23:49 ID:aOt1ZPfi

今日はここまで。ここまで第1話と言うことで。
常にこのようなペースではけしてありませんので。
連日なのは偶然です。

>>77 それなりにやっていきます。
>>78 忙しくなるのが来年度からなら、今年度はまだちょいとヒマなわけで。
>>79 勉強する要素は特にないと思いますが。
>>80 こちらこそ。
>>81 ちょいと書いてみたくなったテーマがあったので、続編です。
>>82 一応今までに5つ書いてます。見つけてみてくださいな。
94名無し募集中。。。:03/11/27 22:20 ID:NiUy/8LR
川o゚∀゚)<アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ…。>从・∀.・*从

私の願い
 HTML版 http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900.html
 かちゅ〜しゃdat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900.lzh
 かちゅ〜しゃdat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900.zip
 Janedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900-jane.lzh
 Janedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900-jane.zip
 ホットゾヌ2dat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900-zonu.lzh
 ホットゾヌ2dat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900-zonu.zip
 ABonedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900-abone.lzh
 ABonedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1038923900-abone.zip
95名無し募集中。。。:03/11/27 22:24 ID:NiUy/8LR
川o゚∀゚)<アーヒャッヒャヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャヒャッヒャッヒャ…。>从・∀.・*从

昨日見た日々 ジャッジメント・ジャッジメント
 HTML版 http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282.html
 かちゅ〜しゃdat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282.lzh
 かちゅ〜しゃdat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282.zip
 Janedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282-jane.lzh
 Janedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282-jane.zip
 ホットゾヌ2dat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282-zonu.lzh
 ホットゾヌ2dat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282-zonu.zip
 ABonedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282-abone.lzh
 ABonedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1053971282-abone.zip

*** ログを入れる場所 ***
かちゅ〜しゃ:(インストールフォルダ)\log\ex2.2ch.net\ainotane
(C:\Program Files\katjushaにインストールの場合[標準]→
 C:\Program Files\katjusha\log\ex2.2ch.net\ainotane)
Janedat:使っているjane2ch.brdにより異なります。
(インストールフォルダ)\Logs\2ch\芸能\愛の種[モ娘(羊)]
 ←http://hima2908.hp.infoseek.co.jp/で配布の拡充版jane2ch.brdを使っている場合
(インストールフォルダ)\Logs\2ch\芸能\モ娘(羊)
 ←デフォルト、あるいは上記以外のサイトで配布のjane2ch.brdを使っている場合
(JaneをC:\Program Files\openjaneにインストール、拡充版jane2ch.brdを使っている場合→
 C:\Program Files\openjane\Logs\2ch\芸能\愛の種[モ娘(羊)])
ホットゾヌ2:(インストールフォルダ)\users\[username]\log\2ch\ainotane
(C:\Program Files\hotzonuにインストールの場合→
 C:\Program Files\hotzonu\users\defuser\log\2ch\ainotane)
ABone:(インストールフォルダ)\log\ex2.2ch.net\ainotane
(C:\Program Files\Aboneにインストールの場合[標準]→
 C:\Program Files\Abone\log\ex2.2ch.net\ainotane
96名無し募集中。。。:03/11/29 07:59 ID:D+NcU5dR
保全
97書いた人:03/11/29 20:15 ID:f4S7M5B9

―――

「・・・あ、ねぇ、のんちゃんと紺野いた?」
「いたけど・・・ほら」
「あ・・・二人を待っててくれてるんだけど・・・どうしよ?」
「しょうがないですよ。そっとしていてあげましょ?」
「おいらもそのほうがいいと思うんだけどさ・・・聞いてる? 圭織?」
「・・・え? あ、そうだね。ゴメン・・・こんな時なのに、私ちっともちゃんとできないな、って思って」
「こんな状況でしっかりできる奴なんていないよ、気にすんなって」
「・・・そうだね・・・それじゃ、行こっか?」

―――
98書いた人:03/11/29 20:15 ID:f4S7M5B9



〜 第2話 「再会」


99書いた人:03/11/29 20:16 ID:f4S7M5B9

翌日

幸運にも、あのワガマママイペースお嬢様とは楽屋が別になった。
いいことだ、実にいいことだ。
のんちゃんや加護ちゃんが何とか仲直りさせようとしてたけど、ちょっぴりこっちにも意地ってもんがあるのだ。
大体、あさ美ちゃんとケンカしても、謝るのは8割がた私の方だし。
こうしておくのも、たまにはいい薬になるのかもしれないし。

「・・・・・まこっちゃんさぁ、いつまで意地張ってんのよ?」

お昼ご飯をパクついている時にも、のんちゃんが私の前でお説教。
多分、加護ちゃんがあさ美ちゃん担当になってるんだろう、楽屋に姿がない。
パックのオレンジジュースを飲みながらの熱弁に、少しグロッキーになる。

「だってさぁ・・・いっつも私が謝ってんだよぉ。
あさ美ちゃんの方が悪くっても、絶対謝ってくれないもん」
「・・・・・・ハァ」
100書いた人:03/11/29 20:16 ID:f4S7M5B9

私の言葉に、のんちゃんは深く溜息。
その仕草が、何だかいつもより少し大人っぽく見える。
『桃色吐息』って感じだ、ちなみに意味はよく知らない。

「まこっちゃんの気持ちも分かるけどさぁ、『オトナ』になっておく所、ってのもあるんじゃない?
何て言うのかなぁ、折れておこうかなって割り切る、って感じ?
やぐっさんが『最近覚えた』って、言ってたけど」
「・・・・・・のんちゃん、熱でもある?」
「真面目に言ってんの!」

ウド鈴木のマネをする時や、セクハラまがいの事をしてくる時とは違って、その目は真剣そのもの。
そりゃ、私の方が一言謝れば終わる、っていうのも分かってるよ。
でもさぁ、それって、あさ美ちゃん得すぎない?
いっつも自分のペース貫いていれば、周りが折れてくれて終わりなんて。
101書いた人:03/11/29 20:18 ID:4U/+tMnv

それを伝える私の言葉を、のんちゃんは一々頷きながら聞いてくれた。
多少は・・・私の気持ちも分かってくれたんだろう。
諦め口調だけど、少し憂いを残した感じでのんちゃんは立ち上がる。

「そっか・・・分かったよ。
けどねぇ・・・どうせ、いつでも謝れる、なんて思わない方がいいよ?」
「だいじょーぶ、私の方から謝んないもん」
「そうじゃなくて」
「?」
「時計の針は戻せないよ、きっと」

まるで子供に言い聞かせるように腰に手を当ててそう言い置くと、楽屋を出て行く。
最後の言葉がずっと耳の中で響いているみたいで、私はひたすらお茶を飲んだ。
102書いた人:03/11/29 20:19 ID:4U/+tMnv

―――

「そりゃ、辻の言うことが正しいわ」

約束どおり、お仕事の後駆け付けたつんくさんのマンションで、私は今日何度めかの非難を浴びた。
こういうときだけ大人面して説教を垂れるつんくさんが恨めしい。
ふんだ、頭の中は禄でもない歌詞を作るシナプスしかないくせに。

「つんくさんはあさ美ちゃんのワガママっぷりが分かんないから、そういうこと言えるんです!」
「あぅ・・・そりゃ、そうなんやけどな・・・」

私の剣幕に気圧されたのか、少し上半身を逸らせてつんくさんは情けない目をする。
それでもコーヒーをズズッと啜ると、眼鏡の上から遠慮がちに目を向けた。

「そういう場合、どっちが悪いってわけとちゃうんよ。
どっちが謝れるか、それだけやと思うで」
「・・・でもぉ」
「仲直りした後で、『ああ、もっと早く仲直りしとけばよかったな』って、思うんとちゃうか?」
「はぁ」

私の倍以上生きてる人間の言うことだからなぁ。
女みたいな化粧して変な歌唄ってたとはいえ、一応人生の先輩だもん。
素直に頷いておくほかない。
感情が納得できないけれど、理性が頷かざるえを得ない部分が、つんくさんの言葉にはある。
103書いた人:03/11/29 20:20 ID:4U/+tMnv

でも、やっぱり私の感情はちっとも納得できない。
なんかこう、自分の頭の中で処理できない色んなことがこんがらがって。
昨日までのぼーっとした感じと違って、今日は色んなことを考えすぎて、頭が痛い。

「あぁぁ・・・もういいです! この話は終わり!!」
「でもな・・・」
「これ以上言ったら、セクハラされたって中澤さんに言いますよ!!」
「あぅ」

いやぁ、『セクハラ』って便利な言葉だ。
つんくさんは叱られた子供みたいにしゅんとなっちゃった。
ちょっぴり気の毒だけど、私の精神衛生のためには仕方が無いのだ。
104書いた人:03/11/29 20:20 ID:4U/+tMnv

気まずくなったのか、つんくさんはコーヒーの最後の一口を啜る。
そして指先とか、部屋の壁とか、いたるところに視線を移す。

「あの・・・で、今日は何で私を?」

本題。
って言うか、私の感情がこれだから、言うのを今まで躊躇っていたっぽい。
さっきっからそわそわしてて、外に出たら一発で職務質問されそうだ。
私の言葉に、つんくさんが唾をごくっと飲む音が聞こえた。
おもむろにジャケットの胸ポケットから、何か取り出す。

・・・・・・薬ビン?

青色のそのビンは、どこかで見たというか、あの時の薬と色違い。
人生で二度と見たくないものランキングで、堂々の1位に輝く、あれ。
つんくさんだって分かってるはずじゃないですか。
自分の肩の辺りから、殺気が湧き出るのがちょっぴり分かった。
105書いた人:03/11/29 20:22 ID:qWwceBFE

・・・ダメ、笑顔を作ろうとしても無理。
妙な瘴気が出てるんじゃないか、って自分で思うもん。

「あ、小川・・・別に・・・そーいうわけとちゃうんやけど」

じゃあどーいうわけだ、って言うんだ。
大体あの時、つんくさんは言ったはずだ。
もうこんなことは止めるって、私たちに約束してくれた。
それは多分、あの機械や薬を全部廃棄することなんじゃないか、ってみんなで話したもん。
なのに、私の目の前にあるのは・・・

取り敢えず一発殴らせて欲しい、って思った丁度その時、
暴走しそうな感情がつんくさんの言葉にふっと止まった。

「あのな・・・未来、行ってみたいと思わんか?」

さっきまでの情けない顔はどこへやら。
つんくさんは、いたずらっ子みたいに笑っていた。
そして、それがどこかむかついたのだ。
106書いた人:03/11/29 20:26 ID:qWwceBFE

今日はここまで。
間隔空いた上に短くてスマソ。
ベガルタ仙台の弱さに涙が出てきました。

>>94-95 ありがとうございます。
  因みに>>95のスレに「キカイノココロ」と「ユキノヒ」
  >>96のスレに「記憶の中の『あの人』」と残り2つがあります。
>>96 保全乙です。
107名無し募集中。。。:03/11/29 20:59 ID:WU/DngxJ
川o゚∀゚)<アヒャ!>从・∀.・*从
108名無し募集中。。。:03/11/29 22:53 ID:aGy08o/I

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。そうですか。未来ですか。
       見たいけど怖いです。
109書いた人:03/12/01 02:31 ID:q7oRihaj



 〜 第3話 「心に決めたこと」


110書いた人:03/12/01 02:32 ID:q7oRihaj

――― 2013年 12月19日


頭が痛い・・・飲みすぎたかなぁ。
ベッドから転がり落ちるように降りた時には、もうお昼の日差しが差し込んでいた。
時計はもう午後1時を回った所。
そりゃそうだよねぇ・・・昨日、というか、今日の朝まで飲んでたんだもん。
まあ、今日お仕事が入っていないからこそできた芸当だ。
梨華ちゃんは今日も朝からお仕事だって言って、途中で、それでも1時ころまでいたっけ?・・・帰ってたし。
日頃私の私生活に干渉して止まないマネージャーに、今日は心から感謝する。
マネージャーうんぬんよりも、そもそも仕事がヒマだという話は、無しにしておこう。

お母さんは買い物かな?
ひんやりとした廊下をぺたぺたと音を立てて進んでも、誰の気配もない。
お父さんは会社だろうし、大体文子姉ちゃんはこの家にとっくにいない。

「・・・ちょっとぉ・・・すごい浮腫(むく)んでんだけどさぁ・・・」

洗面所の鏡の中にいたのは、『誰だよ、おまえ』って言いたくなるような、女って言っていいのか微妙な顔つきの人。
どーでもいいけど浮腫みすぎだろ、これは。
111書いた人:03/12/01 02:32 ID:q7oRihaj

頬のあたりを引っ張ったり、内側を噛んでみたり。
指先で瞼から顔全体をマッサージしてみたり。
まあ、直ぐに引くわけないけどね。
むかし中澤さんが言ってたよなぁ、『30過ぎると顔の浮腫みなんて取れんでぇ!!』って。
あの時は、顔が浮腫むってどーいうことだろう、ってぼんやり考えてたっけ。

「歳だよねぇ・・・・・・」

ちょっぴり自分で言ってみた言葉になおさら敗北感を感じて、シンクに手を付いていた肩が、がっくりと落ちる。
しょーがないか、まだ30は過ぎてないわけだし、まだまだ自然の回復力に期待しよう。
今日一日、お母さんとお父さん以外に顔を合わせなくても済む、ってことに心から感謝する。
嫁入り前だもん、当然でしょ?
112書いた人:03/12/01 02:34 ID:g9qgUavz

―――

コーヒーメーカーがポコポコと軽快な音を立てるのを聞きながら、ぼんやりとキッチンの椅子に埋もれる。
テーブルの上にはお母さんの用意してくれたお昼と、放り出したままのバッグ。
ごめんお母さん、はっきり言って食べれそうにない。
胃の方はこんなだけど、それでも頭の方は大分マシになってきた。
起きたばっかりの時は梨華ちゃんの歌声を間近で聞いてるみたいにむかついた思考が、次第に鮮明になってくるのが分かる。
鼻腔をくすぐるコーヒーの匂いが、なおさらそれを高めてくれるみたい。

いや。
もうひとつ、私の脳みそがクリアになった原因。
それは私の脳みそが、完璧に私のものになったからだろう。
誰かに聞かれたら即効で病院(鉄格子つき)に送られるような言い回しだけど、事実だもん。
久しぶりの、私だけの脳みそだ。
113書いた人:03/12/01 02:34 ID:g9qgUavz

「・・・・・・・・・・・・」

昨日まで頭の中で続いていた喧騒が、今は水を打ったように静かで。
それが今は、すごく寂しい。
演劇が終わったときのような、あのすごく切ない感じ。
ハッピーエンドでも悲しい終わり方でも、どっちでも感じるあの切なさ。
それとすごく似ている・・・・・・ただひとつ、今回は私が主人公の一人だってことだけ違うけど。
コーヒーメーカーがシューシュー音を立てているのが耳に響いた。

テーブルの上のバッグをまさぐる。
10年前の私だったら絶対期待できないような整理されたバッグ。
この10年間、バッグが変わっても絶対変わらなかった中身を取り出す。
色んな物を買っては壊し、貰っては壊ししてきたけど、これだけは・・・・・・ね。

シックなつくりの砂時計。
青い砂が、窓からの光にキラキラとざわめていて。
テーブルの上に立てると、片側に少し余っていた砂が一気に駆け下りる。
114書いた人:03/12/01 02:35 ID:g9qgUavz

コーヒーを注ぎ終わったときには、何事も無かったみたいに砂はすべて落ちきっていた。

「熱ッ・・・・・・」

まだ苦さよりも唇を刺す熱さの方が気になるけど、気にせず液体を口に含む。
まるで私の頭まで直接廻っているみたいに、口に含むごとに感覚が鋭くなっていって。

コーヒーカップ片手に、もう一度砂時計を見下ろす。
カップから蒸気が上がって、私の嗅覚が絶え間なく刺激されて、外を通る車の音が微かに聞こえて。
それなのに、砂時計だけは絶対に変わらない。

私は、いや、私たちはずっとこのままだったんだ。
この10年間、ずっとこの砂時計みたいに、砂が落ちきったままだった。
誰もひっくり返すことをせずに、みんなが落ちきった砂時計をずっと見つめていた。
115書いた人:03/12/01 02:36 ID:D1ltXrJH

頭をガシガシと掻くと、自分が鼻で笑ったのに気付いた。

「つーかさぁ、何で気づかなかったんだろうね?」

昨日までのが癖になったのか、声に出して言ってしまったのにもう一度笑った。
頭を掻いていた左手を下ろすと、砂時計をひっくり返す。
音も立てずに、さっきからずっとこうしてますよ? とでも言いたさげに。
青い粒子がくびれを伝って落ちていく。

その問いかけへの答えは、たぶん私自身が一番よくわかってるはず。
怖かったんだ。
また同じように、砂が流れるのが。
また同じように、悲しい時間が流れるのが。
そして、砂時計をひっくり返す力さえ失ってたんだ。
116書いた人:03/12/01 02:37 ID:D1ltXrJH

一人だっていうのに深く頷くと、残りのコーヒーをぐっと飲み干す。
その瞬間、今後の胃を考えて少し後悔した。

つんくさんに聞いたことが正しいなら、私は行かなきゃいけない。
昨日、確かに私たちは新しく砂時計を進め始めた。
楽しい時間がどれくらい続くかわからないけど、それでも今を精一杯やらなきゃ。
でも、10年前の私たちが、また同じことになるかもしれないから。
今度は私が、10年前のみんなを助ける順番だから。

今しかないんだよね。
上手くいくか分かんないし、私の推論に確証なんかないけど、それでも見当でやるしかない。
バッグからメモ帳を出すと、ページを破って書き付けた。
117書いた人:03/12/01 02:37 ID:D1ltXrJH


『お母さんへ
   まだ眠いので、もうちょっと寝ます。 起こさないでね

                                  希美』

118書いた人:03/12/01 02:41 ID:DRV8Tz5J

今日はここまで。
「〜2」といいつつ、禿しく作風が変わっていることに今更気づきました。

>>107 なんて返せばいいのですか、この場合。
>>108 考えつつやっていきます。ありがとうございます。
119書いた人:03/12/02 09:06 ID:VPjoEW+u

―――


「・・・っていうか、『俺はもう、こんなことやめる』って言いましたよねぇ?」

説教はいまだに継続中。
何が悲しくて30男を前に深夜に説教しなくちゃいけないのか分かんないけど、とりあえず説教。
ちなみに、私が椅子に腰掛けて、つんくさんはフローリングに正座。

「いや、その、やめるとは言うたんやけど・・・知的好奇心が出てきてもうたっつーか・・・」
「でも確か、涙流しながら『俺の考えが間違っとった・・・! ごめんな、みんな!』とか言ってましたよね?」
「いや・・・それは多少事実の認識に誤りが・・・俺、泣いてへんし。
ほら、あるやろ? 何で夕焼けが赤いんやろ、とか。『日常での些細な疑問』っちゅーんかな?
それと大体同じなんやけど・・・」
「30過ぎて、まだそんなこと言ってるから、碌な歌詞が書けないんです!」

テーブルを叩いて『ガオゥ!』と吼えそうな私に、つんくさんは肩を落とした。
こんなことに力を注ぐんだったら、妙な台詞回しや変な歌詞が入らない、まともな曲を作っていただきたい。
120書いた人:03/12/02 09:07 ID:VPjoEW+u

なぁ〜に考えて生きてるんだろ、この人。
そもそも同じ手が通じるとでも思ってるんだろうか?
半年前は、確かに私は軽く口車に乗せられた。
結果的には・・・まあ、いい方向に転んだけど、一歩間違えば私は永久に3年前に取り残されるところだったし。

「・・・で? 今回は毒薬かなんかですか?」

いつもは締まりの無い顔だと自分で自覚してるけど、目がキュウって細くなったのが分かった。
あさ美ちゃんほど賢くはないけど、つんくさんの考えることなんか、大体お見通しだ。
どーせこれ飲んだら、取り返しがつかないくらいとんでもないことになるに決まってるんだから。

「いや、それはちゃうで! これは正真正銘、未来に行ける・・・いや、勿論意識だけやけどな」

両手のひらを前にかざしてぶんぶん振るつんくさんが、ますます胡散臭い。
嘘がばれそうな子供が『嘘じゃないよぅ!!』って、顔を真っ赤にして必死に否定するときの、あの感じ。
121書いた人:03/12/02 09:07 ID:VPjoEW+u

必死で弁明をしてるつんくさんを見ると、みんなを呼んで一緒に鉄拳制裁をしたい衝動に狩られる。
ホントに、電話してやろうかなぁ、今すぐ。
あぁ・・・・・・・今、あさ美ちゃんとケンカしてるんだった。
ここでのんちゃんと加護ちゃんだけ呼んでもいいけど、それじゃ仲間外れにしちゃうみたいだし。
確かにあさ美ちゃんはむかついたけど、でもそういうのって好きじゃない。
これはあくまでも、私とあさ美ちゃんの問題だから。

「・・・・・・あの、小川? 聞いとる?」

膝の上に手を置いた情けない格好で、これまた情けない顔つきをするつんくさん。
何で私って、こういうくだらないことに、一番に巻き込まれるのかなぁ・・・
ちょっぴり神様を呪った・・・・・・ちなみに信じてはいない。
122書いた人:03/12/02 09:08 ID:VPjoEW+u

「・・・お願いやから、ちゃんと聞いてくれや。
確かにおまえらと約束したとおり、あの機械は全部壊したんよ。
で、薬も捨てようとしとったんけど・・・」

考え事に入っていた隙に、つんくさんがセールスマン張りのトークをはじめる。
聞いちゃダメ、って思うんだけど。
でも・・・・・・次第に引き込まれている私がいた。
私みたいなのが30万の羽毛布団を買って、消費者センターに駆け込む主婦になるんだろう、多分。

「そしたらな、あいつが・・・って、あの機械と薬作ったやつやけどな。
あいつが書いた、ノートが見つかったんよ」
「・・・・・・」
「で、それ見たらな・・・未来へ意識移動できる方法ってのが、載っとったんや。
過去に行くあの薬、あれを元にして、応用・・・・・・ってのがややこしかったから時間掛かってもうたけど」
123書いた人:03/12/02 09:09 ID:ItTJgjQP

とことん自分の駄目さ加減を痛感した。
半年前も、確か『これでお前は、ぎっくり腰も無かったことにできるし、娘。のセンターにだってなれる!』とか言われたっけ。
分かってるのに。
このまま話を聞けば、どうせつんくさんの口車に乗っちゃうって分かってるのに。
でも、私は身を乗り出さずにはいられなかった。

この半年で、私は随分成長したと思う。
テレビで使ってもらえるVも増えたし、半年前に持っていたような焦りなんかない。
そして何より、毎日をみんなと楽しくやっていってる。
それなのに、つんくさんの話から心が離れないのは、ホントに純粋な好奇心なんだろう。

見たことがないものに触れてみたくなって、何でそれがそうなってるのか知りたくなる、あれ。
小学校の理科の実験で、先生が魔法を使ってるみたいに見えたときの、ドキドキ。
まったく同じ感覚が身体を走る。
124書いた人:03/12/02 09:10 ID:ItTJgjQP

確かに本業ほったらかして、薬品合成に全精力を費やすのはアレだと思う。

お陰でレイナちゃんのユニット名は変なのになっちゃった。
「脳みそ大丈夫なんですか、あの人?」って、レイナちゃんは目を見広げたっけ。

「なっちの卒業ソングなのに、『アッパレ』はねーべさ」
っていう、安倍さんの阿修羅面怒りみたいな表情も。

プッチモニの曲が、いまだに一曲しか与えられていないのも。

すべてに今、答えが出せた気がする。
いや、正確に言えば最後のひとつには、ちっとも納得いかないけど。
早く書いてください、お願いですから。
とにかく、そんないい加減なつんくさんの気持ちも、ちょっとだけ分かる気がした。
125書いた人:03/12/02 09:10 ID:ItTJgjQP

何時の間にか、まだセールストークを続けてるつんくさんを見る自分の目が、少し柔らかくなったのに気付いた。
まだ子供なんですねぇ・・・いい意味にも、悪い意味にも。

「・・・っちゅーわけで、「あいつ」のノートで書いてあった通りに、作ることができたんや。
おかげで、過去に行く薬は全部、この原料に使ってもうたけどな」

最後の方は少し喉を枯らしながら、つんくさんは私の目を不安げに見上げる。
そうですか・・・そんなに、未来に行ってみたかったんですね。
多分つんくさんは、自分の未来をすっごく見てみたかったんだ。
だから私に、その様を見届けてほしいと思ったんだろう。
そして私にも、未来を見せたいと思ったんだろう。

「・・・で、小川を呼んだのは他でもない、是非試してみてほしいなぁ・・・と」
「はぁ?」
126書いた人:03/12/02 09:11 ID:ItTJgjQP

前言撤回。
『試す』って何?

「え? これ・・・まだやってみてないんですか?」

私の言葉にきょとんとなるつんくさん。
思わず椅子から立ち上がった自分に気付いた。

「いや、おかしくありません? つんくさん、自分でこれ使ってみたんですよね?」
「いいや、まだつこうてないけど・・・何で?」
「何で? って・・・何で私で効果を試そうとしてるんですか!!」

思わず叫んでしまった私に照れ笑いすると、つんくさんは頭を掻きながら立ち上がる。

「せやけど・・・辻や加護や紺野に頼んだら、絶対殺されると思わんか?」

自分で試そうとしないつんくさんの脳味噌に乾杯・・・と思いつつ、
あ〜でも、この三人に頼んだら、絶対殺されるよなぁ、と妙に納得するのだった。
127書いた人:03/12/02 09:13 ID:7HPAAl+N

今日はここまで。
短い更新で「第何話」もないな、と思ったので、いつもの形式に戻します。
いろいろ試行錯誤しつつ。
128sage:03/12/02 17:44 ID:syHPo18z
おなにーあいどるですか
129名無し募集中。。。:03/12/02 21:09 ID:01GCwsq6

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。ふむふむ。これは面白いことになって
       きましたね。続き楽しみですYO。
130書いた人:03/12/04 10:06 ID:rYqrNLIj

「お願いや! 俺を男にしてやってくれ!」

私の態度が最初よりもほぐれたのを見て、つんくさんが最後の押しに入る。
土下座するのもいいですけど、その台詞はやめてくれませんかね?
大体つんくさんは薬を飲まないんだから、男もへったくれも無いじゃないですか。

お代官様の前で平伏する町人みたいに、つんくさんは擦り付けた額を上げようともしない。
ここまでやられると・・・・・・正直困っちゃうなぁ。
椅子の上で、一人おろおろする私。
他のみんなだったら、こういう時どうするんだろう?

石川さんやシゲさんだったら、多分私みたいに困っちゃうんだろう。
吉澤さんなら、明るく声を掛けてうやむやにしちゃいそうな気がする。
藤本さんなら・・・・・・つんくさんの頭に足とか乗せちゃいそうだなぁ。
131書いた人:03/12/04 10:06 ID:rYqrNLIj

確かに試しに私を選んだっていうのは、あの4人の中では一番正しい。
でもなぁ・・・なんでまた、こんなことに巻き込まれないといけないんだろ。

「・・・6期の子達でもいいじゃないですかぁ・・・」

別にあの子達が危険な目にあってもいい、ってわけじゃない。
それなのにそんな言葉がつい口を突いて出てしまうほど、言い様の無い理不尽さ。
つんくさんはぴょこっと顔だけ上げると、まじめな顔して言い放つ。

「でもなぁ・・・亀井にやらせたら、また鬱になってまうし・・・
田中と藤本だとぶん殴られそうやろ?」
「・・・シゲさんは?」
「・・・・・・なんか後日、靴に画鋲とか入れられそうやし」
「ひどッ」

思わず出た私の言葉に、つんくさんは照れ笑い。
いやいやいや・・・笑うところじゃないですよぉ、そこ。
132書いた人:03/12/04 10:07 ID:rYqrNLIj

ひとしきり笑うと、もういちどつんくさんはフローリングに額をなすり付ける。
ダメだ、この人。
何が何でも私を実験材料にするつもりだ。

「・・・・・・やっぱりダメですよぉ。
もしかしたら、死んじゃうかもしれないじゃないですかぁ」
「そんなら大丈夫。
猫に飲ましてみたけど、一晩寝たあとピンピンしとったから」
「いや、もしかしたらとんでもない障害が残るかも・・・」

思いつく限り、断る理由を並び立てる。
私の言葉をのらりくらりと笑顔で交わしていたつんくさんの目が、一瞬いつもの鋭さを取り返したように見えた。
133書いた人:03/12/04 10:08 ID:rYqrNLIj

「でもな、小川。
それ言うたら、お前が半年前に紺野たちに飲ませた薬も、あの時初めてつこうたんやで?」
「あぁぁ・・・そうですよねぇ・・・」

昨日のあさ美ちゃんを除いて、この半年間誰も触れようとしなかったあのこと。
勿論、私はけして忘れたことはない。
あの時は、『体に絶対変な影響は出ない!!』っていうつんくさんの言葉を丸呑みにして、
のんちゃんに「やせ薬」って嘘ついたんだよなぁ。

自己嫌悪。
あの時から、ずっと続いていて、今でも時々私を襲う自己嫌悪。
134書いた人:03/12/04 10:09 ID:e3MqJZWb

あさ美ちゃんに思いっきりぶん殴られた次の日、3人が笑いながらお見舞いにきてくれたあの日。

元気に病室のドアを開けた後、のんちゃんと加護ちゃんが入ってきて。
で、すぐに振り返って、入り口のところで下向いたまま突っ立ってるあさ美ちゃんの手を二人で引っ張って。
あさ美ちゃんはちょっと顔を赤くして、『昨日は・・・ごめん』って言ってくれた。
その後『うちら考えたんけどぉ・・・』って加護ちゃんが切り出して、みんなで約束したっけ。
これからは、自分が思うままに、お互いに接していこう。
けして嘘は言わないで、信じあっていこう。

あの日の夜、私は病院のベッドの上で大泣きした。
私は何で、あんなことまでして薬を飲ませたんだろう、って。
あんなに素敵な3人に、何てことしたんだろう、って。
135書いた人:03/12/04 10:09 ID:e3MqJZWb

「つんくさん・・・私、飲みます」
「え?」

あまりに意外だったのか、つんくさんがぽかんと口を開けた。
つんくさんの役に立ちたいから? まさか、そんなことはない。
安全だって、信用できたから? 今までの完成品を見る限り、大丈夫だとは思うけど・・・
未来が見たいから? それは少しあるけど・・・

なんていうんだろ?
自分の中に広がる、この申し訳ない気持ちを治めるには、自分を傷つけないといけない。
それが一番近いのかもしれない。
この薬を飲めば、のんちゃんと加護ちゃん、そしてあさ美ちゃんと、同じラインに立てる。
バカバカしいって思うでしょ? 私だってそう思う。
でも・・・・・・そうせずには、いられないんだ。

さっき自分の言った言葉が私の気持ちを動かしたことに、ようやく気づいたんだろう。
つんくさんは少しだけ、すまなさそうな表情をした。
私が一番触れられたくない部分に触れたってことを、やっと分かってくれたんだろう。
136書いた人:03/12/04 10:10 ID:e3MqJZWb

―――

「・・・分量的には、多分10年かそこら移動できると思う。
戻すのはこっちでやるから、小川は向こうにいる間に戻るためにすることはあらへん」

私をソファーに座らせ、つんくさんは事細かに説明を始めていた。
よく考えたら、こんなレクチャーも吹っ飛ばしてあさ美ちゃんたちは過去に飛んだんだなぁ。
少し、悪寒がした。

「どんくらいやろうなぁ・・・? 向こうにどんくらい居られるか、ちょっと見当がつかん。
辻たちが過去に行ったときは、大体一月近く居ったんやけど・・・
大体8時間くらいで、そんくらいってとこかなぁ・・・でも、未来の場合はまた計算変わるやろうし・・・」
「いいです、好きなようにしてください」
「そうか? んなら、朝方起こすことにするわ」

つんくさんは腕時計を一瞥して、紙に何か書き付けた。
そして私に、無言でビンを渡す。
137書いた人:03/12/04 10:10 ID:e3MqJZWb

これで・・・未来が見られるのか。
これで、私の自己嫌悪は薄らぐのかなぁ?

ビンを開けて匂いを嗅いでも、何も感じない。
「無色無臭だった」って、あさ美ちゃん言ってたっけ?
つんくさんが目を大きく開いて見つめる中、一気に口に流し込んだ。

!?

いや・・・・・・これはまずいでしょ。
なに? この味。
飲み込んだあとも、渋柿を食べた後みたいな不快な感じが口の中に広がる。

『どうやろ? すっごく不味かった、って辻に言われたから、ちょっと味付けしてみたんけど』

つんくさんの声が、遠くで? いや、近くで? とりあえず聞こえてきた。
大失敗ですよぉ、この味付け・・・・・・
って、言おうとしたのに、ふわっと浮いたような感覚・・・
138書いた人:03/12/04 10:11 ID:tt9kanBT

―――

コトッ

小川の手から薬瓶が落ちて、フローリングを鳴らした。

「行ったか・・・」

少し苦しげに眉を寄せて、それでも安定した寝息を立てる彼女を眺めながら、つんくは呟く。
上手く行くに決まっている。
「アイツ」のノートの通り、薬の配合もした。成分もすべてあっているはず。
そして何より、自分の途方もない要求に応えてくれた、彼女の気持ちに報いたい。

さっきまで二人で話していた部屋が異様に静かに感じられて、何か妙な寒気を感じる。
これから朝まで、彼女の様子を見守らなければならない。
それが自分の責任だ、ということくらいは彼の軽薄な脳細胞も理解しているはずであるが。

「おぉう!!」

と、突然携帯のバイブに素っ頓狂な声をあげて飛び退くと、彼は通話ボタンを押し、機械を耳に押し当てる。
・・・・・・本当に理解しているのだろうか。
139書いた人:03/12/04 10:24 ID:wZeojw0E
今日はここまで。
初めて三人称で書いてみましたが、破滅的に書けません。

>>128 こんこんを性のry)
>>129 ありがとうございます。
    シリアスかコメディーか、迷いながらやっております。
140名無し募集中。。。:03/12/04 18:29 ID:sfL/w4HY
川o・-・)ノ<更新乙です。
       まこっちゃん、dじゃいましたか…。
       果たして未来で何を見てくるのか、楽しみに待っています。
141名無し募集中。。。:03/12/04 19:58 ID:+JYZ0f+Y

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。まこっちゃんの気持ちがよくわかりますYO。
       意外ですが、つんくさんが面白いです。
142書いた人:03/12/06 01:10 ID:0QynbIvB


―――

「・・・・・・紺野、大丈夫かな?」
「「?」」
「いや、辻はともかくさぁ・・・」
「目の前・・・・・・だったんですよね」
「紺野が喋るの・・・見た?」
「いえ・・・私は・・・。飯田さんは?」
「見てない」
「三日前からずっとああなんだって・・・加護が言ってた。
ずっと塞ぎ込んだままで・・・警察に事情聞かれたときも、ずっと下向いたままだったって」
「・・・さっきも、砂時計見たままだったよね?」
「・・・・・これからさぁ、どうなるんだろ」
「・・・・・・」
「ゴメン、変なこと聞いた」
「いいよ。気にしないで、矢口」

―――

143書いた人:03/12/06 01:10 ID:0QynbIvB

・・・おかしな夢を見た。

今年はクリスマスプレゼント、どこへ買いに行こうかなぁ、ってすっごく悩んでて。
あぁ! この間見つけた、あの小物屋さんだったら、いいの見つかるんじゃないかなぁ? って思いついて。
あさ美ちゃんもどこへ買いに行こうか困ってたから、一緒に行こう! 
って誘おうとして、ドキドキしてた。

なのに、私はあさ美ちゃんと大ゲンカ・・・

っておい、これは昨日までの私じゃないかな。
つーか、そのまんまだよ、これ。
藤本さん並みのツッコミを入れた途端、もう一度意識が途切れる。
その「バヒューン!」って飛ばされる感覚が、また気持ち悪い。

誓ってもいいよ・・・・・・もう絶対、この手の薬は飲まない。
144書いた人:03/12/06 01:11 ID:0QynbIvB


・・・

・・・・・・

・・・着いた・・・・・・のかな?

少しひんやりとした空気が顔にあたる。
体を包む毛布のフワフワ感が、たまらなくいとおしい。
着いた・・・・・・みたいだね。
何より、さっきまで腰の下にあったソファーのフワフワが無い。
取り敢えず・・・・・・起きて、日にちを見ないとなぁ・・・

って思ったのに、ちっとも身体が動かない。
あれ? どうなってんの? これ。
動かそうと思えば動かせそうなのに、でも頭からの命令がちっとも働かない感じ。
というか、目も開けられないじゃない。

うわぁ・・・着いた瞬間金縛りかぁ・・・先が思いやられるなぁ・・・
滅多に金縛りになんか罹らないのに、こういう時に限ってなっちゃうんだもん。
絶対運を余計な所に使っているとしか思えない。
145書いた人:03/12/06 01:12 ID:qK0+fIgb

どうしよっかなぁ・・・こういう時って、どうやったら脱出できるんだっけ?
確か、グワァッ!! と目を開けてみれば、すんなり行ったような気がするなぁ・・・
ちょっと怖いけど大丈夫。
まあ、いざとなれば、未来の私が助けてくれるだろう。

せぇ〜の、グワァッ!!

・・・あれ?
相変わらず私の視界は真っ暗なまま・・・っていうか、目が開かなかった。
本格的な金縛りだなぁ・・・これじゃ。
やだなぁ・・・未来の私、何かに呪われてたりしないよねぇ?
あ、でも「スカイハイ」の釈さんみたいになってたら、それはそれで嬉しいなぁ。

「・・・・・・まぁ、いいや。もう一度寝る!!」

こういう時は、二度寝に限るもん。
独り言みたいに呟いて(もちろん頭の中で、だけど)、
意識を落とそうとした途端、一気に目の前の風景が飛び込んできた。
146書いた人:03/12/06 01:13 ID:qK0+fIgb

おぉ!?

適度に片付いた部屋。
起きたばっかりでよく見えないけど、視界に広がる未来の私の部屋を見渡す。
少女趣味な物は殆どなくって、掛かってるバッグとかも、黒い落ち着いたヤツ。
あれシャネルかなぁ? いやぁ、未来の私はブランド物が似合う女になっちゃったのかぁ。

と、突然視界が動く。
ははぁ〜ん、まだ私が全部体を乗っ取れたわけじゃないんだなぁ?
その証拠に、「私」は勝手にキョロキョロすると、立ち上がって伸びをする。
自分の身体に命令できないのは不便だけど、でも不慣れな私が挙動不審なことをこの時代でしちゃうよりは、こっちの方がいい。

「私」は頭をガシガシと掻きながら、廊下をスタスタと歩き始めた。
まったく見覚えのない・・・廊下・・・あれ? どこかで見たことある気もするけど・・・分かんないなぁ。
147書いた人:03/12/06 01:13 ID:qK0+fIgb

「私」は洗面所に向かっているみたい。
いやぁ、起きて早速カガミチェックとは、お肌に気を使ってるね! 私。
・・・・・・ってことは、鏡が見れる?
やばッ・・・ドキドキしてきたなぁ・・・
よし、それじゃここが何年後か見る前に、私の顔でも拝んでおくとしよう。
そんな私のドキドキに構うことなく、「私」はごく当然の行為のように洗面所のドアを押し開ける。

・・・・・・・・・

え?
これが・・・・・・私?

あまりの顔の違いに、驚いて・・・いつもの可笑しなリアクションもできない。
148書いた人:03/12/06 01:15 ID:TufQDY+T

・・・・・・顔、違いすぎない?
下膨れに近かった輪郭は、すっとしてる。
でもなぁ・・・色はちょっと黒くなったかなぁ? 石川さんほどじゃないけど。
髪が肩甲骨くらいまで伸びてるのは変わんないけど、ストレートの黒髪。
っていうか、気持ち悪いくらいストレートだ。亀井ちゃんみたい。

ホントに元の私を見つけることが難しいくらいに変わってる。
これ・・・変わりすぎだよねぇ・・・
もしかして、いじっちゃったのかなぁ・・・顔とか。
でもいじったとしても、別に鼻とか特に高くなってるわけじゃないもんねぇ・・・
いや、むしろ目とか細くなったよねぇ、私。
どうなってんの? これがこの時代では、人気な目のサイズなの?

私が一人混乱してる中、「私」の方は、ほっぺや目尻の辺りをじっと見て、「よし」と呟いた。
何が「よい」んだ、何が。
149書いた人:03/12/06 01:17 ID:TufQDY+T

今日はここまで。
ちょい短めで申し訳なく。只今ハロモニ待ち。
地方はつらいですな。

>>140 しばらく己の想像力との戦いになりそうです。
>>141 彼のキャラは本気でもギャグでもどっちにも使えるので、楽です。
150名無し募集中。。。:03/12/06 15:36 ID:4lDTIaoo
川o・-・)ノ<更新乙です。
       未来のまこは自分のタイプかもしんないw
       やぐかお?の最初の会話も気になりますね。
151名無し@ネカフェ中。。。:03/12/06 15:42 ID:+GjtWCy0
更新乙ですー。

書いた人 さんの小説がまた読める!
うれしぃです〜!
152名無し募集中。。。:03/12/07 00:22 ID:Fge8xHNs

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。いいですねぇ。楽しいですYO。
153書いた人:03/12/08 02:23 ID:qiZ8VZNr

「私」は一通り洗顔を終えると、もう一度鏡に向かって頷いた。
なんだ、20歳台の私はこんなにもナルシスト入ってるんだろうか。
それとも、そこまで自分に自信がないのかなぁ?
つーか・・・見れば見るほど疑念が湧く。
ホントにこれ、私なんだろうか。
似てないなぁ〜

「ねえ、どー言うことよ、私」

聞こえるわけがないけど、自分に向けて突っ込み。
確かあさ美ちゃんたちも、昔の自分と話すことはできなかって言ってた。
まあ、私が頭の中で自分に向けて色々言う分には、何の問題もないだろう。

ほら、鏡に映る私も、目尻の辺りを見て眉を寄せてる。
聞こえてないみたい。
なんだぁ? 目尻に皺とかできちゃったのかなぁ?
154書いた人:03/12/08 02:24 ID:qiZ8VZNr

・・・別に何にもなってないじゃん。
目尻のあたりは・・・そりゃあ、16歳の時よりはちょっと張りがなくなってるけど、歳相応だろう。
10年移動したとして・・・26歳なら、十分若々しい。
保田さんより肌のキメは細かいと見た!

「なんだぁ〜、驚かせないでよぉ。てっきりすっごい皺でもできちゃってるのかと思ったじゃない」

が、

今度の「私」の反応は少し違った。
不信げにあたりをきょろきょろと、目だけ使って見回してる。
あれれ?
もしかして、聞こえてるのかな?

「おぉ〜い、私ぃ〜」

手をぶんぶんと振る勢いで、勿論振れないんだけど、呼び掛けてみる。
155書いた人:03/12/08 02:24 ID:qiZ8VZNr

聞こえてる?
「私」の反応は明らかにさっきまでとは違う。
私の言葉に頭をぶんぶんと振って、まるで打ち消そうとでもしてるみたい。

あ、そうかぁ。
確かに頭の中で突然別の声が聞こえたら、怪しさ120%だもんねぇ。
説明するのを忘れてた。
これじゃあ、応えてくれないわけだ。

「私だよぉ。あなた自身! つんくさんに変な薬もらって、2003年から来たんだよぉ!!」

やっと応えてくれるかな? と思いきや、今度は「私」は右手で拳骨を作って、頭を叩き始めた。
いやいやいや・・・痛いし。
156書いた人:03/12/08 02:26 ID:u+ob3f71

ガン・・・・・・・・・ガン・・・・・・・・・

一定のリズムを刻んで頭を叩きつづける「私」。
痛みは伝わるんだねぇ・・・
いや、呑気なこと言ってる場合じゃないや。
すっごく痛い・・・「私」って、めちゃくちゃ力強くない?
こんなに怪力になったんだぁ・・・つーか、この短絡的な思考はどうなのよ。
朝から洗面所でグーで自分の頭を殴りつづける・・・って、シュールすぎる。

「あのさぁ・・・・・・私の方にも痛み伝わるから、やめてくれない?」

私の声に、「私」は更に強い力で殴りつづける。
イタタタタ・・・・・・・思いっきり逆効果じゃん。
157書いた人:03/12/08 02:27 ID:u+ob3f71

って言うかさぁ、大体この時代の私だって、一度はこうやって未来に来たことある筈でしょ?
だよねぇ・・・だってさぁ、10年前の私から直接行けた未来ってことは、
当然この時代の「私」っていうのは、10年前の私のポイントを一度通ってるってことだもんね?

人間、危なくなると思考がちゃんと働くらしい。
いつもは休眠状態の脳みそが、こういう時にあさ美ちゃん並みに働く。
いやぁ、いつも脳みそ休ませといて良かったなぁ。
これを「麻琴⇒あさ美効果」と名付けよう。

・・・って馬鹿言ってないで、いい加減止めさせないとなぁ。
このままだと未来の「私」の頭蓋骨が、変形しそうだ。
158書いた人:03/12/08 02:27 ID:u+ob3f71

どうすればいい?

ポクポクポクポク・・・・・・・・・チーン

漫画で言えば頭の上で電球が輝き、「あばれはっちゃく」で言えばブリッジ直後の状態。
何でこんな古いことを知ってるかとか、聞かないように。
ちなみに中澤さんは、「昔ブリッジして考え事をしたことがある」って驚きの告白をしてくれた。
しかしはっちゃくの親父、暴力ふるい過ぎ。

って、そんなことはどうでもいいや。
私が喋りすぎるから、「私」が拒絶反応を示すんだ。
少し黙っておくとしよう。

「・・・・・・・・・」

ガス・・・・・・ガス・・・・・・・・・・・・

と、ようやく「私」自身による鉄拳制裁が終了。
多分かなりの数の脳細胞がご臨終になったと思う。
159書いた人:03/12/08 02:29 ID:izgNOFM7

「働きすぎかなぁ・・・・・・」

シンクに手をついて、「私」が本日初めての呟き。
なんか声まで変わってるのは気のせいかな?
なんつーか、こう・・・・・・低くなった? 多少ダミが入った? そんな感じ。
やばいなぁ・・・・・ハスキーボイスかぁ・・・って、もしかしたらジャズボーカルとかもこなせる大人になってるのかな?
単なる酒の飲みすぎかもしれないけど、実にいいことだ。

しかも「働きすぎ」とか言えちゃう身分らしい。
どうやらちゃんと職業には就いているらしいね。
どんな仕事か知らないけど、実にいいことだ。

「・・・・・・病院・・・・・・行ったほうがいいかな?」

こらこら、ダメだよぉ。
と、声に出そうか迷っているうちに、「私」は洗面所を後にする。
どうやったら・・・うまく伝わるのかなぁ?
160書いた人:03/12/08 02:32 ID:izgNOFM7

今日はここまで。
狼のゲーム音楽スレで「Love song 探して」をうPしてくれた方に感謝。
見てるとは思いませんが、規制で狼にかけないので、こちらで。

>>150 その辺は追々。今は秘密です。
>>151 そう言って頂けるのは、何よりの励みになります。
>>152 だんだん歳がばれそうになってくるこの頃。
161160 :03/12/08 20:50 ID:g548XwLC
>>160
死ね
162専守防衛さん :03/12/08 21:35 ID:6t/5733y
>>161
おまえが氏ね

作者さん申し訳
163名無し募集中。。。:03/12/08 22:18 ID:oBx1gwrj
>>162
自衛隊板の人?
164名無し募集中。。。:03/12/09 02:42 ID:3q49HCa9
今日のゴロッキでマコが、過去に戻れるならというお代で
「娘に入ったときに戻りたい」と語っていました。
書いた人さんの作品と余りにもかぶって見えて鳥肌がたちました。
という報告でございます!
165名無し募集中。。。:03/12/09 20:58 ID:0Hsfdkew
>>164
禿同。漏れもオモタヨ。でもミキティいい事言ったな。
書いた人さん更新楽しみに待ってますよ。
166名無し募集中。。。:03/12/10 01:40 ID:DR62ujdZ
       作者さん更新乙です。
(0^〜^)<うーん。私も見ました。不思議でしたねぇ。
  つ日  この作品のまこっちゃんが飛び出して行って
       喋ってるような錯覚を確かに覚えましたYO。
       作者さんの作品は人物の感情にリアリティを感じます。
167名無し募集中。。。:03/12/10 22:44 ID:Ze78u0eC
どーやら書いた人さんが書き込み出来ないみたいです。
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1053530764/897
更新はマターリ待ちましょう。
168名無し募集中。。。:03/12/10 22:50 ID:Q/Y1U0El
>「昨日見た日々2 〜砂時計〜」の作者、書いた人氏が、
>プロバイダのアクセス規制で書き込めなくなってしまったようです。
マターリもちつけ
     /\⌒ヽペタン
   /  /⌒)ノ ペタン
  ∧_∧ \ (( ∧_∧
 (; ´Д`))' ))(・∀・ ;)
 /  ⌒ノ ( ⌒ヽ⊂⌒ヽ
.(O   ノ ) ̄ ̄ ̄()__   )
 )_)_) (;;;;;;;;;;;;;;;;;;;)(_(
169名無し募集中。。。:03/12/11 20:12 ID:Ei/YmD2C
残念じゃ
お帰りをマターリとお待ちしております
170名無し@ネカフェ中。。。:03/12/13 13:37 ID:f+MN6M1n
保全!
アクセス規制が解除されるよう、お祈りしています〜
171 :03/12/13 23:46 ID:wcvOXkZi
高橋の水着画像ないの?
172名無し募集中。。。:03/12/13 23:50 ID:qVVllkSM
173 :03/12/14 01:05 ID:oh+lM1ci
>>172
サンクス
やっぱエロいね、この子は
174名無し募集中。。。:03/12/15 14:25 ID:OzRycFak
ほしゅります
175書いた人:03/12/15 14:48 ID:AFSXiX/L

―――

廊下を歩く「私」の視線を見ながら、まあ、ほとんど自分で見てるのと変わんないんだけど。
冬・・・かな?
冷たく引き締まった空気を感じて、私は考えていた。

ホントは聞こえてないのかな?
頭をガスガス叩いたのも、「病院」行こうかなんて考えたのも。
全然違うことを言ってたのかもしれないしね。

それにしても・・・人間10年でこんなに変わるんだろうか。
髪の色も、目の形も、輪郭も、声も・・・
ゆっくりと部屋に戻る視線も、心なし・・・低いような気がする。
背が縮んだのかなぁ?
まさかぁ・・・背が縮むのなんて、おばあちゃんくらいだ。
急激な老化が始まってるわけでもあるまいし・・・ねぇ。
176書いた人:03/12/15 14:50 ID:AFSXiX/L

「私」はパジャマを脱ぎながら、衣装ラックに手を伸ばして白いワイシャツを取った。
うーん、着るものからして大人っぽいなぁ。
・・・っつーか、何でワイシャツ?
OLさんじゃないんだからさぁ・・・

が、ブラジャーを着けるのに俯いた視界に入った風景に、凍りつく。

胸、ちっちゃッ!!
太ってもあんまり大きくはならなかったから、期待はしてなかったけどさぁ・・・
これは酷い。
これって、まだ・・・Aかなぁ? ちっちゃいとかの前に、「薄い」の方が正確かも。
こんなに顔変わってるんだから、胸も大きくなってくれたっていいのに。
あさ美ちゃんレベルじゃなくてもいいから、せめて人並みには欲しかったなぁ。
177書いた人:03/12/15 14:51 ID:AFSXiX/L

私が将来への気力を失っている間に、矢口さんにでも教わったんだろうか、
手際良く「私」は寄せて上げての作業を終え、あっという間に偽胸の出来上がり。
こうして世の男の人は騙されていくのだろう、私の胸じゃ騙せてすらいない、とは言わないように。

はぁ・・・・・・牛乳でも飲めばいいのかなぁ・・・
帰って仲直りしたら、あさ美ちゃんに「胸を大きくする方法」でも問い詰めてみよう。
でもなぁ・・・絶対、『女の人は胸の大きさじゃないよ!』とか言うんだ。
それがまた、嫌味に聞こえるんだよねぇ・・・

気が付くととっくに着替えは終わってた。
実にこざっぱりした格好。
ホント、OLって言われても納得しちゃう。
しかも黒髪のストレートだから、余計に真面目っぽさが際立つ。
石川さんが病的に夢見がちな視線で語ってた将来の夢、
『カーディガンを羽織ってランチを買いに行くOLさん』に近い。
178書いた人:03/12/15 15:05 ID:AFSXiX/L

・・・お化粧は朝ご飯食べてからかな?
またスタスタと廊下に出た「私」。
こっちの世界に下手に関わらないでいい、っていうのは楽だけど、ちょっとつまらない。
しかも突然視界が動くから、ちょっぴり酔いそうだ。
せめて、「私」と会話できれば楽しいんだけどなぁ・・・・・・

「コラッ! 答えろ、私!」

そんなシャイな人間じゃないでしょ?
冗談めかした言葉に、「私」の足が立ち止まる。
やっぱり聞こえてるのかなぁ?
そわそわと「私」は右手を頬に当てた後、手の甲で唇を撫でた。

・・・いや。
ちょっと待って、今・・・見えたのって。
179書いた人:03/12/15 15:06 ID:AFSXiX/L

今、ほんのちょっとだけど、視界に入った指。

爪が短かった。

ただの深爪じゃない、まるでちっちゃい頃から噛み癖があったかのような、変形した爪。
私が爪を噛むようになった? ありえない。
これがこの時代のトレンド? まさか・・・百歩譲ってそうだとして、この爪は昔から噛んでた風だし。

私が混乱してる間に、「私」は・・・いや、彼女は再び廊下を歩き始める。

「おかぁさ〜ん、朝ご飯なぁに?」

少しだらしなく、少し間延びした大きな声を廊下中に響かせて。

そうだ。
輪郭が変わってたのは、そもそも私じゃなかったからだ。
声が違ってたのは、これが彼女の声だからだ。
この家の風景、見たことがある・・・一度来たことあるもん、当たり前だ。
胸が小さかったのは・・・いや、これは私も同じだけどさ。
180書いた人:03/12/15 15:12 ID:AFSXiX/L

―――

「希美、あんたねぇ〜、26にもなって、ご飯を大声で聞くのはやめなさい」
「いいじゃん、別に。お父さんとお母さんしか聞いてないんだからさ」

食堂に待ち構えていたその人に、私は「お久しぶりです」と、頭を下げた。
エプロン姿は変わらない。ただ、頭に混じった白いものが歳を感じさせるけど。
そして・・・・・・屁理屈うまくなったねぇ・・・のんちゃん。
ごめんね、すぐに気づかなくって。

おばさんがトースターからパンを取り出すのをわき目に、のんちゃんは満足げに食卓を見回す。
10年前にお邪魔した日と変わらない、暖かい食卓。
ホットカーペットが足元を暖めていて、目玉焼きが湯気を立ててる。
多分、この何年間、変わらないであろう、のんちゃんの家の食卓。
ただひとつ、私が頭の中に居候していることを除いて。
181書いた人:03/12/15 15:13 ID:AFSXiX/L

「お父さん、もう仕事行ったんだ」
「あんたほど自由な職業じゃないのよ」
「私の方がよっぽど不自由なんだけどなぁ・・・」
「そんなの、この10数年で十分分かってます」

他愛のない、親子の会話・・・か。
のんちゃん、大人になったなぁ・・・・・・胸以外。
歯並びだって、あれって・・・矯正したよね?
表情やしぐさに落ち着きが出ていて、目線も相まって涼しげな感じがする。
つーかさぁ、私も気付いてあげようよ。
ちょっぴり自己嫌悪。

「希美、洗面所で何やってたのよ?」

おばさんの言葉に、のんちゃんはパンをのどに詰まらせる。
いやいや・・・私も苦しいから。
早くコーヒー飲んで、お願い。
182書いた人:03/12/15 15:18 ID:AFSXiX/L

大げさに二、三回咳をすると、ようやく自由な呼吸。
頼むからさぁ、私も一緒に殺さないでね。

「いや・・・あのね・・・なんかちょっと、今日調子悪くって」
「今日お仕事ないんでしょ? 医者行きなさい?」
「うーん・・・精神科行ったほうがいいような気がするんだよねぇ。
なんだかさぁ、頭の中で変な声が聞こえる・・・」

「精神科」という言葉に、少しおばさんが眉をひそめた。
なぁ〜んだ、聞こえてるんじゃない。
ちょっぴりうれしくて、声の限り叫んでみる。

「おぉ〜い、のんちゃぁ〜ん!! 私だよぉ! 小川麻琴!!
聞こえてるんだったら、返事くらいしてくれたっていいのにさぁ」

が、今度ものんちゃんはスルー。代わりに返ってきた言葉は、

「ごめん、お母さん。やっぱり神社に御祓いとか行った方がいいかも」

御祓いって何だ、御祓いって。
183書いた人:03/12/15 15:21 ID:AFSXiX/L

今日はここまで。
( T▽T)<規制って、悲しいね・・・・・・

動転して「プロバイダ規制」とか書いてしまいましたが、リモホ規制ですね。
ホスト側の迅速な対応に期待しつつ、もしかしたら1ヶ月この調子かも、と危惧。
とりあえず今日は、ネカフェから更新してみました。
しばらく更新不定期になると思いますが、マターリお待ちください。

>>161 病人に毒盛るタイプですね。
>>162-163 何があったのか、微妙に気になります。
>>164 しかしこんこんさんの答えは大外しでした。幼稚園って、あんた。
>>165 ああいう年上の先輩(?)が周りにいてくれるのは、凄く幸いなことだな、と。
>>166 私がネガティブなのが影響しているかもしれません。最後のマコの返しで救われました。
>>167 ちなみに更新情報の中の人も同じ人なので、しばらく止まったままになるでしょう。
>>168 芸スポ板荒らしが原因なのに、何故突如全板規制に及ぶのか、理解に苦しむところです。
>>169 更新の早さくらいしか売りが無かったのに、これでは悲惨すぎます。
>>170 人生初ネカフェがこの理由って、どうなんだ、私。
184名無し募集中。。。:03/12/16 00:40 ID:oLZ32kru
       作者さん更新乙です。
(0^〜^)<うーん。こんなに面白いお話の更新がアクセス規制の影響を
  つ日  受けるというのは許せませんね。
       私も短い期間規制されたことがありますがホントに辛かったです。
       作者さんは、かなり長く規制されているみたいですね。
       1日も早く規制が解除されますように
       ・・・って、お茶飲みながら喋っても説得力に欠けますけどね
185書いた人:03/12/17 12:53 ID:ZHN0oZYv
とりあえず、復活しました。
規制は未解除なのですが、APを色々いじってみて。
と、いうことで、またいつものペースで行きます。
ご心配おかけして、申し訳ありませんでした。
186名無し募集中。。。:03/12/19 00:52 ID:ofUh9wlt
復活オメ!!
まったり更新おまちしております。
187書いた人:03/12/19 22:44 ID:HR2wFxad

「いやいや!! のんちゃん! 駄目だってば。
別に取り憑いてるわけじゃなくって、10年前から来たんだって」
「あ〜、なんかまた聞こえてくる」

おばさんはのんちゃんの目を、真剣に覗き込む。
傍目には麗しき親子愛だけど、私からすればますます失礼な話だ。
もっと具体的に言わないと駄目かな?

「あのね、10年前・・・2003年の12月18日・・・正確に言えば、もう19日になってたけど。
とにかく、18日の夜につんくさんから薬もらったの! のんちゃんも飲んだでしょ?
あれの未来へ行くバージョンのやつ、つんくさんが作ったんだってば!!
ほら、なんだったら、この時代の私に連絡とって聞いてみなって」

一瞬、のんちゃんの目がぱちくりと瞬きをして、おばさんを見つめる視線が潤んだように見えた。
そして溜息を漏らしながら、頭を軽く振る感触。

「まだ・・・・・・何か聞こえるの?」
「うん」

あれだけ具体的に話をしたのに、のんちゃんは見事に私をスルー。
なぁに? もしかして10年前の仕返し?
188書いた人:03/12/19 22:45 ID:HR2wFxad

―――


「どうも・・・お待たせいたしましたな」
「あッ・・・ハイ!!」

・・・・・・ホントに来ちゃったよ。
神社じゃなくて正確に言えばお寺だけど、だだっ広い大広間に、のんちゃんはきちんと正座してる。
いやぁ・・・お葬式や初詣でもないのにお寺に来る人って、初めて見たなぁ・・・
・・・って、そんなこと言ってる場合じゃない。

「だからさぁ〜、のんちゃん! 何で分かってくんないかなぁ。
つんくさんが変な薬作ったでしょ! あれで来たんだってば」

私の言葉は聞こえているんだろう。
のんちゃんの体が一瞬身震いしたのが分かる。
・・・ん? 身震い? 失敬な。
189書いた人:03/12/19 22:45 ID:HR2wFxad

私の声が、外に出そうとしない限り聞こえないのと一緒で、
のんちゃんの思っていることも、のんちゃんが声に出さないと伝わらないらしい。
だからこそ、「私の声が聞こえてる」っていう確証が持てない。
どうすりゃいいのかなぁ・・・
っていうか、どうして私はのんちゃんの身体に入っちゃったんだろう。
過去に行ったときは、みんな自分の身体にちゃんと入ったっていうのに。

お坊さんはのんちゃんに向かって微笑むと、真向かいにゆったりと腰を下ろした。
昔みたいに、だらだらしないで、ちゃんとお辞儀をするのんちゃん。
う〜ん、大人だぁ・・・

と思ったのに、さっきからのんちゃんの視線はずっとただ一点を見つめてる。
・・・気にならない、って言えば嘘になるけどさぁ・・・
お坊さんの頭の・・・一本だけ生えてる毛、見つめるのは失礼だってば。
う〜ん、こういうところは子供だなぁ。
190書いた人:03/12/19 22:45 ID:HR2wFxad

「どうなされましたかな?」

お坊さんはもう一度ゆっくりと笑うと、少し身を乗り出した。
まぁ・・・ここでいきなり「お嬢さんに、憑きものがっ!!」とか言わないのだから、
それなりに信用できる人なんだろう。

「あのですねぇ・・・こんなこと言うと、嘘吐いてると思われるかもしれないんですけどぉ・・・」
「そのようなことは御座いません」
「そうですか? あのですね・・・今朝から、頭の中で声が聞こえるんです」

・・・やっぱり聞こえてるんじゃん!!
なんだぁ、のんちゃん薄情だなぁ。

「聞こえてるんだったら、返事くらいしてくれてもいいのにさぁ・・・」
「・・・あ、今も聞こえました」
「うむぅ・・・」

のんちゃんは思いのほか落ち着いた声で、一言だけ告げた。
191書いた人:03/12/19 22:47 ID:nKDbBHgO

「して・・・それは、どのようなお声ですかな?
差し支えない程度で結構ですので、お聞かせ願えますか」

お坊さんはますます神妙なオーラを纏って、のんちゃんにずずいっと身を乗り出す。
長年坊主やってても、あんまりこんなの見ないんだろうなぁ。

「えっとですねぇ・・・友達の・・・声です」

「友達の」の所だけ、ピアニシモにしてのんちゃんは目を伏せる。
私が小川麻琴だってことも、ちゃんと分かってくれてるのにさぁ・・・こりゃ酷い。
ランク王国の女子アナの演技より酷い。

「何で私の頭の中にいることになったのか、そのことも朝喋ってきました。
こっちのほうは・・・もっと信じてもらえないと思いますし・・・」
「話したくないなら、話さなくても結構です」
「そうですか・・・なら、すみません」
192書いた人:03/12/19 22:48 ID:nKDbBHgO

のんちゃんが・・・なんで薬の話をしなかったのか。
あまりに荒唐無稽だって言うのもあるし、秘密にしておいたほうがいい、って言うのもあるかな。
でも確実なのは、のんちゃん自身も、私の言うことを信じていないってことだ。
どういうことなんだろう。のんちゃんは、私から未来の薬のこと聞いてなかったんだろうか。

兎に角、のんちゃんの話に、お坊さんは腕を組んで眉を顰(ひそ)める。
ぶつぶつと、唇の端で何かを呟いているのが聞こえる。
私に聞こえるってことは、当然のんちゃんにも聞こえているんだろう。

「・・・・・・ご友人・・・何かの業か・・・いや・・・むしろ・・・・・・」

のんちゃんもその言葉にいちいち反応することなく、ただその様子を見つめてる。
実に大人の対応だ。
これが本当に、あの落ち着きのない、いつもてへてへしてたのんちゃんなんだろうか。
193書いた人:03/12/19 22:48 ID:nKDbBHgO

お坊さんはもう一度首を斜め45度に傾げると、のんちゃんの顔を覗き込んだ。

「・・・・・・その御友人に、何かこう・・・恨みを買うような覚えは御座いますかな?」
「いえ・・・・・・ないです。むしろ・・・・・・いい友達です」

少しだけ、胸を撫で下ろす。
この時代でも、私たちはいい友達でいられるらしい。
私とのんちゃんがこうなら、多分あさ美ちゃんも加護ちゃんも、
いや、モーニング娘。全員が、いい付き合いをしていられるんだろう。
のんちゃんの言葉に、お坊さんが軽く頷いた。

「いえ・・・と申しますのは・・・あなた様の知らぬ所で恨みを買っている可能性もあるわけです。
あなた様の方では、よいご親友と思っておられても、それがあちら様から見て、同じ関係とは言い切れませぬ」

・・・言ってくれるじゃない、タコ坊主。
大丈夫、私たちはそんな所、もう克服してるもん。
194書いた人:03/12/19 22:49 ID:nKDbBHgO

「いえ・・・それは大丈夫だと思います。
一時的に怒ったり、妬んだり、って言うのはあると思いますけど・・・
でも、そんなこういう形になるほど、って言うのはありません」

よっし! よく言った! のんちゃん!!
心の中では、何故かつんくさんまでが出てきて『イェイ!!』と声を挙げる。
ってことは、私とあさ美ちゃんも、ちゃんと仲直りできるんだね。

「そうですか・・・いえ、こう申し上げたのは、生きておられる方であっても、
その方の・・・念とでも申しましょうか。それのみが抜け出すこともありうるからです・・・
分かりやすい言葉なら、『生霊』とでも申しましょうか・・・」

のんちゃんはまさか、そんな生々しいものを指していると思わなかったんだろう。
目をぱちくりして、そして深く溜息をついた。
私が突然生霊で取り憑いたら、そりゃやだよねぇ・・・
195書いた人:03/12/19 22:50 ID:AlN5qWnv

「あ、そうですか・・・生霊・・・・・・そのことだったんですかぁ・・・」

やっぱり想像していなかったんだろう、のんちゃんは少し気の抜けた話し方をする。

「左様です、生霊です。もう一度・・・お心当たり、在りませんか?」

お坊さんがもう一度差し向けた問いに、今度はのんちゃんが毅然と首を振った。
そして私は、さっきののんちゃんの言葉、のんちゃんの仕草が、
けして「生霊」って言葉を聞いて、面食らったからではないことに気づいた。
のんちゃんがさっき吐いた溜息は、別の意味の嘆き。
のんちゃんの毅然とした態度は・・・それがあり得ないことへの確信。

だって、次にのんちゃんが漏らした言葉が・・・これだったから。

「・・・・・・それは・・・無いと思います。
私の中で聞こえる声の人は・・・・・・もう、亡くなりましたから」
196書いた人:03/12/19 22:53 ID:AlN5qWnv

今日はここまで。
とくばんが一時間で泣きそうでした。

>>184 ISPがなかなか不誠実なやつで、応対してくれないのです。
    直接のユーザーじゃないので、文句も言えませんしねぇ。
>>186 間空いて、申し訳ないです。ちょっぴりペースを掴めず。
197lilac:03/12/20 01:56 ID:Rlx4toak
加護の水着姿ありますか?
198名無し募集中。。。 :03/12/20 07:28 ID:ebG2a/Gx
画像アップローダーどれがいいですか?
199名無し募集中。。。:03/12/20 07:33 ID:AViJWr9t
更新乙です。

うみみ、まこっちゃんが・・・。

冒頭シーンの意味がわかりはじめてきましたね。

悲しい展開にはなりませんように。
200lilac:03/12/20 08:21 ID:pAec2s+D
加護の水着見てーーーーーーーーーーーーーーーーー!
201 :03/12/20 09:01 ID:ERV+xROv
書いた人キモい。
つまらない糞小説書かないでください。
202ナナシスン:03/12/21 01:08 ID:GDsID3g2
更新乙です。魚ー(うおー)これかはどうなっていくんだ。次の展開が待ちどうしいです。
203名無し@ネカフェ中。。。:03/12/21 16:56 ID:GAumFCOO
更新乙です!
復活できたんですね〜
ホント嬉しいです!
204名無し募集中。。。:03/12/23 19:39 ID:LXLNHibd
205書いた人:03/12/23 20:26 ID:9gLQ66/S

「ウソだぁーーーーーッ!!」

声帯が千切れるんじゃないかってくらいの私の叫びも、
のんちゃんは確かに聞こえている筈なのに、少しこめかみを抑えただけで無視。
私への返事の代わりに、もう一度じっとお坊さんの目を見ながら、
一言一言噛み潰すように、のんちゃんは言葉を紡ぐ。

「その人は・・・私の頭の中で聞こえる声の人は、もう亡くなりました。
そろそろ・・・10年になりますけど、もう亡くなりましたから」
「そうでしたか・・・」

その言葉に頷いて、少し微笑む。
でも、私は目の前のお坊さんのそんな表情とは正反対で。
ウソだ、ウソだ、ウソだ。
この時代ののんちゃんが26歳だから・・・
ってことは、10年前って、私がいたあの時代。
206書いた人:03/12/23 20:27 ID:9gLQ66/S

「違うよ、のんちゃん。死んでなんかない。
だって、今の私こんなにぴんぴんしてるじゃない。
10年前ってことは・・・私はあと何ヶ月かで死んじゃうってこと?
そんなはずない・・・絶対間違いだよ!!」

のんちゃんがここに向かう街並みは、クリスマスの緑と赤に溢れてた。
今日が12月の・・・何日か知らないけど。
そろそろ10年ってことは、私が出たあの12月19日から、もうすぐってことでしょ?
喚(わめ)き続ける私の声に、頬の辺りに手を置いて反応を僅かに示すのんちゃん。

「・・・今も私の頭の中で、自分が死んだなんてことあるわけがない、って言ってます」
「そうですか・・・既に亡くなられた方で・・・」
「モーニング娘。って覚えてますか? あの中にいた・・・」
「そんなことがありましたな・・・・・・もう10年になりますか。
確か・・・・・・小川・・・」
「その娘(こ)です」
207書いた人:03/12/23 20:28 ID:9gLQ66/S

のんちゃんとお坊さんのやり取りは、私の意識を掠めて過ぎていくだけで。
私はただ、その言葉に何の反応も示せずに、ひたすら晒され続けていた。

「そうですか・・・そのお方の声が、聞こえると・・・」
「すいません、本当はストレートに言えれば良かったんですけど・・・」
「いえ、確か10年前、大騒ぎになりましたな。
なるべく仰りたくないお気持ち、よく分かります」
「・・・・・・すいません」

少なくとも・・・少なくとも、このお坊さんも知ってるってことは、
もうのんちゃんが吐いているウソ、と言うわけではないんだろう。
このお坊さんがメンバーの名前をいちいち覚えていられたのかわかんないけど、
メンバーが亡くなったのは事実・・・そしてそれが、私?

私からの反応がなくなったのを認めて、のんちゃんは天井に目を遣って、唇をきゅっと噛んだ。
その刹那、私の視界は闇に包まれる。
208書いた人:03/12/23 20:29 ID:9gLQ66/S

「お願いします・・・別に、彼女の声が聞こえるの、嫌じゃないんです。
本当に久しぶりで、一瞬自分の気が狂ったのかと思ったくらい、
昔の・・・亡くなる直前のまこっちゃ・・・小川の喋り方にそのままで。
だから、私は別に、嫌じゃないんです。だけど・・・」

闇に包まれたのは、のんちゃんが目を閉じたからで、
おでこが感じる冷たい感触は、板の間の冷気だとこの時気付いた。
のんちゃんは・・・深く頭を下げているんだ。

「ですけど、もし・・・まこっちゃんが、本当なら行かなくちゃいけない所に行けなくて、
それで迷って私のところに来たんだったら、どうかそれをお手伝いして頂きたくて・・・」

最後の方の言葉は聞き取れなかった。
のんちゃんはそれ以上言葉も発せずに、ただ突っ伏していて。
209書いた人:03/12/23 20:42 ID:MkBYMY2R

複雑だった。
確かにもう死んだってことになってて・・・いや、多分私は死んだんだろう。
それがショックだったけど・・・でも、私とのんちゃんは、今でもホントの友達なんだ。
こんな所で分かってしまうのが、凄く複雑で。

大丈夫だよ、のんちゃん。
私は別に、あの世に行けなくてここに居るわけじゃないからさ。
そう言いたくても、声に出せなかった。
多分・・・私の体が今ここにあったら、私は泣いていただろう。

「どうぞ・・・頭をおあげになって下さい」

のんちゃんが涙で霞んだ目をもう一度お坊さんの禿げ頭に向けるのは、あと10秒ほど経ってからだった。
210書いた人:03/12/23 20:42 ID:MkBYMY2R

バッグから慌ててハンカチを取り出すと、のんちゃんは涙を押し拭く。
変なガムの包み紙も、飴も、レシートも、勿論お豆腐も入っていない、大人のバッグ。
・・・あれ? 今、何か木の細工みたいなの、見えたような・・・

「おかしいですね・・・別に、悲しくもないのに、涙出てきちゃって・・・すみません」

まるで私の泣きたい気持ちが伝わったみたいに、のんちゃんの視界は白く霞んでいた。
その始終を、お坊さんは優しく笑いながら見ている。
やっと落ち着いたのんちゃんに、子供に言い聞かせるように話し始めた。

「確かに・・・正しい場所にお導きするお手伝いをするのが、私どもの勤めでございます。
ですが・・・」
「?」
「お嫌でないのなら、もう少し、ご一緒に今現在を楽しまれれば如何ですか?
もしもいつまで経ってもお帰りにならず、お困りになったら、もう一度お訪ねください。
今のうちは、こちらにお出でになった理由も、もしかしたあるかも知りませんし・・・」
211書いた人:03/12/23 20:43 ID:MkBYMY2R

おいおい、坊さん、違うってば。
別に死んじゃいないし、私は別にのんちゃんに取り憑いてるわけじゃないのに。
それでも少しだけ、のんちゃんが私といることに納得し始めているのが、ありがたかった。

「ご命日が近いということは・・・もしかしたら、少しお心残りがあるのかも・・・」
「はぁ・・・あ! ハイ、ちょっと心当たりが・・・」
「ありますか?」
「ええ」

しっかしなぁ・・・のんちゃんも、薬の話くらい信じてくれてもいいのにさぁ。
どうもこう・・・思い込みが激しいっていうか、そんな感じ。
歳とって頑固になっちゃったのかな?
まさかぁ・・・おじいちゃんじゃないんだから。

ほんの30分の間にあんまりに色々ありすぎて、
私はのんちゃんがお坊さんにお礼してお寺を去るのも、殆ど心ここに在らず、といった感じで見過ごしていた。
212書いた人:03/12/23 20:44 ID:MkBYMY2R

―――

街のどの道を通っても、しつこいほどクリスマスソングが聞こえる。
つーか、10年経っても、山下達郎なんだ。
他にクリスマスソングって無いんだろうか。

まるで通り魔みたいに八つ当たりをしないと、不安に押し潰されそうになる。
のんちゃんはさっきから、じっと下を向いて唇を噛んだまま、早足で街を通り過ぎていて。
話し掛けていいものか、一応遠慮してしまう。
でもなぁ、この場合気を遣われるのは、『近いうちに死ぬ』って言われた私の方じゃないのかなぁ。

よし、しょうがない。
いい加減、のんちゃんも私が中にいることには納得してくれたんだから、私の声にも応えてくれるだろう。

「あのぉ〜、のんちゃん?」
「・・・・・・なに? まこっちゃん」
213書いた人:03/12/23 20:46 ID:jGk2cK1Q

漸く答えてくれたのんちゃんは、バッグから何か取り出すと、目の前に掲げた。
プッシュホンがあるから・・・携帯電話かな?
テレビ電話みたいになってるのが普通なのかぁ。
まあ、街中で一人でぶつくさ言ってるのは危ないから、電話してると思わせた方がいいかな。

初めて私に応えて、そして私の名前を呼んでくれたのんちゃんに、私は喜びを抑えきれずに嬌声を上げた。
意味不明なその声を聞きながら、ディスプレイにうっすら反射するのんちゃんが少し笑ったように見えた。

「まこっちゃん・・・・・・久しぶり」
「ホントにねぇ・・・このまま応えてくれなかったら、どうしようかと思った」
「誰だってさぁ、頭の中でいきなり声が聞こえたらこうなるって」

のんちゃんが言うことも・・・まあ、道理があると言えばあるかな?
214書いた人:03/12/23 20:47 ID:jGk2cK1Q

このまま喜び続けて、そして未来ののんちゃんに色々聞きたいのをぐっと抑える。
まずは・・・誤解を解かなくっちゃ。
私は死んでない。
少なくとも・・・今の私は、まだ死んでいない。
そして・・・できるなら、何で死ぬのか・・・・・・聞いておきたい。
ルール違反かもしれないけど、それだけは・・・やっぱり・・・

「あのさぁ・・・私、まだ死んでないよ。
って言うかさぁ、ホントに私死ぬの?」

その瞬間。
目線がじわっと滲む。
ウソ? 泣かした? 瞬殺じゃん、これ。
215書いた人:03/12/23 20:48 ID:jGk2cK1Q

「・・・・・・やっぱり、まだ自分が死んだの受け入れられないんだね。
大丈夫、来週の式に出れば、心残りもなくなるだろうしさ、それまで居ていいよ」
「いやいやいや・・・すっごく間違ってる。
死んでないし。そもそも、『式』って何よ?」
「ウソぉ? あの世の人って、この世の出来事みんな知ってるのかと思ってた。
知らないんだぁ・・・」
「だからぁ・・・死んでないんだってば。
五百歩譲って死んでるとしても、私は私が死ぬ前から来たんだよ。
さっきも言ったでしょ? 12月18日の真夜中・・・19日になったかそれ位なんだから」

今度の言葉に、のんちゃんは応えなかった。
代わりに、携帯を畳んでしまうと、もう一度、さっきよりも遥かに早足で歩いていく。
216書いた人:03/12/23 20:49 ID:jGk2cK1Q

「ちょっとぉ? のんちゃん? 聞いてる?」

ひたすら、下を向いて。つかつかとパンプスの音だけが聞こえる。
のんちゃんは地下鉄に駆け下りると、そのまま飛び乗る。
私の問い掛けには一切応えず、窓の外の光の筋だけを見つめていた。
5駅くらい行ったんだろうか? 電車を降りると階段を駆けあがる。

「この辺も・・・街変わったねぇ・・・見たこと無いお店ばっかりだぁ」

外は雪が舞い始めていた。
私の気を遣った言葉も無視していたのんちゃんが、不意に青信号の交差点で立ち止まった。
真後ろを歩いていたサラリーマンが、舌打ちをして避けて行く。
と、のんちゃんの視線が街灯の根元に移った。

・・・・・・花束?
217書いた人:03/12/23 20:51 ID:Yck4jFjb

「私も・・・・・・久しぶりに来た」
「ここに?」
「うん」

一言だけ返事をすると、花束の一つを拾い上げる。
もう枯れそうなものから、さっき置いたばかりみたいに色鮮やかなものも。

「今もさぁ・・・昔のスタッフさんとか、ファンの人とか、置いてくれるんだよ」
「ここ・・・で、私が?」
「そう。車に、はねられた」

拾い上げた花束にかかっていた雪を手で払うと、
刺さっていたカードを目の前に掲げた。
218書いた人:03/12/23 20:53 ID:Yck4jFjb

『2003年12月18日 夜23時
           俺たちのマコへ』

『俺たち』ってなんだよ、『俺たち』って。
ファンの人かな? 置いてくれた花束のカードが、私が死んだとき?
ん・・・・・・待ってよ・・・

「まこっちゃんさぁ・・・さっきから、12月18日の24時廻った位から来たって言ってたでしょ?
有り得ないんだよ。
まこっちゃんは、その時間、もう・・・・・・病院で・・・」
「違うよ、絶対違う!! 私は・・・確かに・・・・・・」
「でも、これが事実・・・なんだよ?」

涙が流れないのに、自分の声が泣いているのに気づいた。
そして、のんちゃんがハンカチで目を覆っていた。
のんちゃんは・・・いや、私たち二人は、ずっとそうやって立ち尽くしていた。
219書いた人:03/12/23 20:56 ID:Yck4jFjb

今日はここまで。
間を置いたので、少し長めに。

>>199 シリアス過ぎてごめんなさい。
>>201 あなたには読まない自由があります。
>>202 落ち着いてくださいな。
>>203 復活したくせに、ペース遅くてごめんなさい。
>>204 保全ありがとうございます。

もう冬休みですね。
220名無し募集中。。。:03/12/24 03:23 ID:WlVBhwbJ

(0;^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。すごく緊迫感があるお話なので
       途中で感想を述べ辛いですハイ。
       この後どうなるのだろう・・・
221名無し募集中。。。:03/12/24 11:26 ID:Nuzw+TCT
うひょ〜。前作とだいぶ雰囲気が違いますな。
期待sage
222名無し募集中。。。:03/12/26 20:57 ID:aG5MZA7P
保全
223専守防衛さん :03/12/26 21:34 ID:nhfKvNvh
泣けてきた
224名無し@ネカフェ中。。。:03/12/26 22:48 ID:WT0vennd
更新おつです。

今年は良い小説読ませていただきまして、ホントありがとーでした。
来年もよろしくです〜
225書いた人:03/12/27 23:10 ID:mi0FB9CF

―――

「ゴメン、まこっちゃんさぁ・・・いい加減、ちょっと落ち着いてくんないかなぁ?」
「・・・そんなこと言ったって・・・無理・・・」

手近に見付けた喫茶店。
まだお昼前で平日の店内は、のんちゃんの他はサラリーマンが何人かいるだけ。
のんちゃんは窓際の少し暖房の薄い席で、呆けたようにお冷をすする。

「なんかさぁ、まこっちゃんの感情? って言うのかな。
それが私の方にも響いてくるみたいなんだよね。
急に悲しくなったり、さっきっからどうもおかしいな、って思ってたんだけど」
「・・・そんなことッ・・・言ったってさぁ・・・」
「あぁぁ・・・泣かないでよ。私まで悲しくなるからさ。
まぁ・・・まだ、16歳だもんね。しょうがないか」

のんちゃんの啜るお冷のつめたさも、私の感情を冷ますには至らない。
諦めたように、のんちゃんが窓の外に目を移した。
226書いた人:03/12/27 23:11 ID:mi0FB9CF

窓際の席から見える街灯。
あ・・・・・・またひとり、サラリーマンが花束を置いて行った。
昔ファンだった人だって、もうおじさんなんだね。
10年前から、おじさんのファンだっていたけどさぁ。

のんちゃんが言うことが・・・いや、この世界の常識が正しかったら、あと1週間で私の命日。
命日に来れない地方の人は、あのサラリーマンみたいに今日置いていくんだ、ってことかな?
2013年12月11日の街角が、こんなに薄ら寒いとは思わなかった。

あそこで私が死ぬの?
車にはねられて?
2003年の12月18日、夜23時に?
227書いた人:03/12/27 23:12 ID:mi0FB9CF

そんなことは無い。
だって、私は確かに12月19日になった辺りから来たから。
私がカレンダーを見逃したのかな?
確かにこの時期、あまりに忙しくて曜日の感覚とか、カレンダーなんか頭のどっかに忘れちゃう。
でも・・・それもない・・・と思う。

のんちゃんがウソを吐いている・・・いや、さっきのカードやあのサラリーマンを見る限り、ウソってわけじゃない。

私は自分が死んでることに気付かなかった?
まさか、ハリウッド映画じゃあるまいし。
幽霊になったのに気付かないなんて、そんなの有り得ない。
だったら、私に普通に接してたつんくさんは何なんだ。
これでつんくさんまで幽霊だった、とかいうオチだったら、
深夜にやってる変な映画みたいだ。
228書いた人:03/12/27 23:14 ID:kfaQ5zIV

「分かんないよぉ・・・・・・」

思わず外に出た声に、のんちゃんが瞬きを一つ返す。

「なぁに? まだまこっちゃん、信じられないの?」
「信じられないも何も、私は12月19日から・・・」
「もう、いいよ。その話は」

のんちゃんはそれだけ言うと、すくっと席を立つ。
口の中で呟くような言葉は聞こえないらしく、ウエイトレスのお姉さんが笑顔で挨拶をしている。
お会計を済まして、お店を出ながらのんちゃんは私に言い聞かせた。

「いい? まこっちゃんは、10年前の1週間後亡くなったの。
それは紛れも無い事実。何なら、今から図書館行って新聞の縮刷版見よっか?」
「・・・・・・うん、行く!」
「行くのぉ・・・・・・?」

少し面倒臭そうに、のんちゃんが鼻の頭を掻いた。
229書いた人:03/12/27 23:14 ID:kfaQ5zIV

―――

「なんつーかさぁ、図書館に来る時って、大体碌でも無いことがあったときなんだよね」
「?」

冷たい電動書架の間に埋もれて、指で本の背表紙をなぞる。
何よ? 碌でもないことって。

「・・・あの時は・・・あいぼんと一緒だったなぁ」
「加護ちゃん?」
「2003年、あったぁ。ん?・・・・・・そう。元気かなぁ?あいぼん」
「お仕事で会わないの?」
「辞めちゃったからね、芸能界。奈良に帰ってるよ・・・12月、これでいいのかな?」

まだ聞きたいことがあったのに、ぐっと我慢する。
のんちゃんがページを捲る指先をじっと見詰めた。
230書いた人:03/12/27 23:15 ID:kfaQ5zIV

自衛隊、年金・・・滅多に見ない新聞だから、『聞いたことがある』程度の言葉。
19日の夕刊のところで、のんちゃんは指を止めた。

「ほら、見てごらんよ」
「・・・」

夕刊一面の真ん中ら辺。
私の顔写真・・・もうちょっと、いい顔の使ってよ、とか思っちゃうのは不謹慎だけど。

『小川麻琴さん(モーニング娘。)死去』

・・・・・・・・・
出そうとする声は、何故か脳みその奥で堰き止められた。
自分の訃報欄を見る人間なんて、この世に私くらいだろう。
のんちゃんが記事を最初からなぞるように目で追うのに、なぞっていく。
231書いた人:03/12/27 23:17 ID:v5Ro37u+

12月18日夜・・・確かに・・・
記事の中身はのんちゃんが教えてくれたのと一緒。
どうでもいいけど、『コミカルなキャラクターで人気を集めた』って一節が納得できない。
ピーマコやってたからさぁ、しょうがないって言えばしょうがないんだけどさ。

さっきから気になってた。
私は確かに死んでるらしい。
そして私がそれを無意識に認めようとしないから、19日から来たとか言ってる、
っていうのがのんちゃんの推理。
でも・・・だったら何で、この死亡記事を見ても私の心に何も響かないんだろう。
やっぱり自分は死んでたんだ! って言う感情があったっていいのに。

自分の死亡記事だからそれなりにショックだけど、
でもまだどこか、他人の死亡記事を見たようなのと同じ感覚。
リアリティが無いって言うのかなぁ・・・お話の中で自分が死んだ、って感じ。
232書いた人:03/12/27 23:17 ID:v5Ro37u+

何も声に出さずに考える私の視界で、縮刷版の死亡記事の上に水滴が垂れた。
今度は私じゃなくて・・・のんちゃん自身の涙。

「冬がね・・・嫌いになったよ。これで。
いっつもこの季節になると思い出すの。
だから、あの場所にも殆ど行ったこと無かった。
まこっちゃんのこと、忘れたいわけじゃないよ。
でも・・・思い出すたびに、押し潰されそうになるから。
私はホントに、まこっちゃんのいい友達でいられたのかな?って」
「・・・・・・・・・」
「・・・やっぱり、これ見ても何も思い出さない?
私だってさ・・・ホントは、まこっちゃんが死んじゃったって、ウソの方がいいよ」

のんちゃんは避けていたんだ。
あの街灯も、この新聞記事も。
233書いた人:03/12/27 23:17 ID:v5Ro37u+

『何言ってんの! のんちゃんは・・・ううん、みんな、私の最高の友達だったよ!』って言うのは簡単だ。
でもその言葉で、のんちゃんが救われると思わない。
だから私は、じっと口を閉ざしてのんちゃんの言葉を待った。

不信気(ふしんげ)に顔を覗かせた司書さんに、左手を上げてのんちゃんが応える。

「まこっちゃんが死んで、その後すぐにシングルを出したの。
みんなでの・・・つんくさんに頼んだんだ。
まこっちゃんへのお別れの歌だったけど・・・それが最後のシングルになって」
「・・・・・・」
「みんながね、考え始めちゃってさぁ・・・もう、お仕事できなくなっちゃって。
自分たちが、まこっちゃんに何をしてあげられたか。
本当に、後悔が無かったか・・・・・・無い人なんていなかったんだけどね」
「そっか・・・」
「ゴメンね、私はずっと、逃げ続けてた。
まこっちゃんのこと考えると、その後悔で泣きそうになるから。
だから、ずっと逃げてた」

書架の間に、のんちゃんのすすり泣く声だけが響いていた。
鼻の奥が、つんとした。
234書いた人:03/12/27 23:23 ID:igQac6m8

今日はここまで。
スーパーのお肉売り場で、石川さんのスキスキソングが流れて爆笑しました。
恐ろしいことに、小説書き始めて1年を超えてしまいました。

>>220 じゃんじゃん感想述べてしまってください。無いとショボーンとなるので。
>>221 冬になると、どうも暗い話になってしまいます。
>>222 ありがとうございます。
>>223 やっぱり自衛隊板の人なんですか?
>>224 他にやることは無かったのかと、よく自問自答します。
235名無し募集中。。。:03/12/28 05:04 ID:QZKwkXLp

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。感想ですね・・・私は殆ど肉を食べない人なので
       梨華ちゃんには申し訳ないと・・・・・これは、あとがきの感想でした。
       とにかく、洗練された小説の続き、とても楽しみですYO。
236名無し募集中。。。:03/12/28 18:13 ID:bNJem3fH
期待だけがつのります。マコには死んでほしくないよ
237書いた人:03/12/29 20:25 ID:G1A+UTpA
―――

「大丈夫?」
「・・・・・・うん、だいぶ落ち着いた」

図書館のブラウジング。
紙コップのコーヒーから上がる湯気が、嗅覚を突く。
誰もいないその一角で、ソファーに身を沈ませる。

のんちゃんの様子にホッとするのと同時に、私の脳みそはパンクしそうで。
私は死んでるんだろうか? 生きてるんだろうか?
この時代は死んでるらしいけど・・・じゃあ、出てくる前の私は、いったい何?
今ののんちゃんに、この疑問を投げかけるのはちょっと危ない。
・・・だから、頭で考えてるんだけど・・・ダメだぁ、成果ゼロ。
238書いた人:03/12/29 20:26 ID:G1A+UTpA

どんな天才だって、こんな問題解けるわけが無いよ。
私の脳みそがスポンジ状だからじゃなくって、これは絶対解けない問題。
・・・・・・ん?
なら、問題を作った張本人は?
考えた瞬間に、口をついて言葉が出ていた。

「あ、あのさ・・・のんちゃん、つんくさんに・・・・・・連絡取れる?」
「つんくさん? あぁ、寺田さん・・・・・・か」

『寺田』がつんくさんを意味してる、って理解するのに少し時間がかかった。
そう言えば、本名は寺田だったような気がする。
つんくさんの本名なんて、世界のミジンコの数よりどうでもいいことだから。

コーヒーを啜りながら、のんちゃんはもったいぶったように、一語一語区切って喋る。
まるで・・・・・・話しにくいみたいに。
239書いた人:03/12/29 20:27 ID:G1A+UTpA

「寺・・・つんくさんのね・・・番号は知ってるけどねぇ・・・」
「なら、早く電話して!!」
「・・・・・・・・・無駄だと思うよ?」

窓に映ったのんちゃんの顔つきが、凍りつくような涼しさをもっていて、私は息を飲んだ。
・・・・・・無駄?
私の答えを待つまでも無く、じっとガラス窓を見つめながら続ける。

「無駄・・・だと思う。
つんくさん、モーニング娘。が解散した後・・・あ、ラストシングル出したすぐ後、ね。
その後、芸能界辞めちゃったから・・・」
「・・・でも・・・連絡は、付くんでしょ?」

私の言葉に、のんちゃんが少し笑ったように感じた。
240書いた人:03/12/29 20:27 ID:G1A+UTpA

「・・・・・・まこっちゃん、もしかして・・・
過去から来たこと、証明しようとでも思ってる?」
「・・・・・・」
「なら、尚更、つんくさんに連絡とるのやめた方がいいよ」

のんちゃんの乾いた笑いが、私がその証明をやろうとしていることへの愚かしさを笑っているのか。
それとも、別の・・・どこか自嘲めいた意味なのか。
私には分からなかった。

「つんくさんね、私たちからの電話に・・・絶対出ないもん。
あの人も・・・私や、みんなと同じように、後悔で押し潰されそうになってたから」
「え? 別に・・・つんくさんとはいい友達じゃなくてもいいんだけど」
「そうじゃなくてさ」
241書いた人:03/12/29 20:33 ID:ThX0+2rr

「まこっちゃんさぁ、私たちが歌ってた歌、覚えてる?
あぁ、そうか。まこっちゃんの言う通りだったら、つい昨日まで歌ってた歌・・・かな」
「うん、昨日も・・・2003年の12月17日も、歌ったよ」
「あれってさぁ・・・マトモな歌だったと思う?」

いや、そりゃあ、あれをマトモと言える神経の持ち主は中々いないでしょ。
・・・多分、つんくさんくらいかな?
歌詞も、曲も、アレンジも、果てにはステージ衣装や、ヘアメイクも。
ケレンミでは済まされないものばっかり。
『こいつ、私たちに喧嘩売ってんのか?』って思ったこともあった。

けど・・・
242書いた人:03/12/29 20:33 ID:ThX0+2rr

「でもさ、芸能界で『マトモ』なことやったって、しょうがないでしょ?
今までに無いもの目指して、一か八かじゃないの?」

いつか・・・・・・加入した時かな? つんくさんが言ってた。
お前達は、今までいたアイドルになる必要なんか無い。
もちろん、モーニング娘。の先輩たちみたいになる必要も無い。
お前達は、お前達が持ってるものを出していけば、それで十分だ。
俺はそれを、全力で手伝うつもりだ、って

あの時は、『何かっこつけてんだ、この男女』とか、心の中でぶつくさ言ったけど。
つんくさんの作る無茶苦茶な曲も、『モーニング娘。』らしさを必死で出そうとした成果だ、ってことは理解できた。
・・・理解はしてても、やっぱり初めて楽譜をもらったときは、いつもみんなで顔をしかめるけど。

・・・のんちゃんだって、まぁ、10年前ののんちゃんが理解してるとは・・・ちょっと思えないけど。
でも、今ののんちゃんだったら、十分分かってるはずじゃない?
243書いた人:03/12/29 20:33 ID:ThX0+2rr

私の言葉を聞いて、のんちゃんは少しため息を漏らした。

「・・・・・・多分・・・そうだね。つんくさんもそう思ってたんだと思うよ。
飯田さんや安倍さんだって、口ではぶつぶつ言ってたけど、
でもつんくさんが、『いつも新しくなくちゃいけない』ってことにもがいてるのは、分かってたんじゃないかな」

確かに、新曲の楽譜をもらったとき、確かに安倍さんは『天晴れはねーべさ』って言ってた。
でもどこかその目も、しょうがないよね、って諦観と、やってやる!って決意。
どっちも秘めてた気がする。

「・・・・・・でも、ね」
「でも?」
「でも・・・まこっちゃんが、ホントにああいう曲を歌ってて満足だったのか。
CD聴いても自分の歌声がどれか、もう分からないくらいに加工されてて、
ぶつ切りのパート割で・・・そういう所で、ホントに満足してたのか、考え込んじゃって」
244書いた人:03/12/29 20:34 ID:ThX0+2rr

つい数時間前まで見ていた、あの軽薄なつんくさんからは想像もできなかった。
どっちかって言ったら、『反省』って言葉と無縁な人なのに。

「・・・・・・それで・・・最後に、死ぬ気で一曲書いたの。
レコーディングの時、みんな放心状態だったけど、でも・・・つんくさんが一番酷かった。
『幽鬼』っていうのがいたら、あんな感じだと思うよ。
その一曲だけ書いたんだけど・・・まこっちゃんへのお別れの曲ね。
でも・・・やっぱり後悔してるのは消えなくて、それで・・・芸能界も辞めちゃった」
「・・・・・・だから、昔のモーニング娘。を思い出させる人たちと、会いたくないってこと?」
「・・・うん」

私だけじゃなくて。
私だけじゃなくて、この時代のみんなが・・・なんで、こんな方向に行っちゃってるんだろう。
私が死んだことが原因だとしても。
10年前からは予想もつかないように、冷酷な10年後。
245書いた人:03/12/29 20:38 ID:Q8MrYr7f

「まだ・・・信じられない?」

コーヒーを飲む干して立ち上がった瞬間、のんちゃんが呟いた。
信じないわけじゃない、けど・・・

「ゴメン、ちょっと・・・・・・突然すぎて」
「そう・・・か」

のんちゃんは責める風でもなく、ただ頷いて見せた。
そして腰に両手を当てて伸びをすると、もう一度、窓の外を一瞥する。
のんちゃんの一つ一つの動作が、10年前からは考えられないほど大人のそれで。
ちょっぴり・・・ドキドキした。

「あのさ・・・まこっちゃんも、ラストシングル聴いてみれば・・・分かるよ。
あのシングルだったら、この図書館にも入ってるだろうし」
246書いた人:03/12/29 20:38 ID:Q8MrYr7f

―――

司書さんによく分からない手続をして、のんちゃんはブースに腰掛けるとヘッドホンをした。
パソコンから・・・聴けるのかな?
その辺の仕組みも、法律も、私にはちっとも分からない。
10年後はこれが普通なんだろうか。

「図書館とか・・・あとは・・・・・・カフェとか? そういう所なら、お金払えばすぐ聴けるよ」

私がボーっと口を空けていそうなのが伝わったのか、のんちゃんはくすくす笑いながらセッティング。

「まこっちゃん死んだ頃は、まだこんなの無かったもんね。
まぁ、でも・・・つんくさんがこの曲の著作権放棄したから、
図書館とかも仕入れやすい、って言うのもあるんだけど」
「何で放棄しちゃったの?」
「まぁ・・・多分、自分の曲に権利を主張するほどの価値があるか、って考え始めちゃったんでしょ。
それに・・・放棄したときには、もうミリオン超えてたし。
その前に稼いだ分もあるからねぇ・・・」
247書いた人:03/12/29 20:38 ID:Q8MrYr7f

そういうのんちゃんの口ぶりは、完全に大人のそれだった。
事務所の人とかが、お休みとかギャラの話をするときの、あんな口振り。
そんな話をするときの大人は、すっごく嫌いだ。
・・・・・・もう、大人なんだね。

と、のんちゃんがディスプレイを指で押した。
ヘッドホンから微かに聴こえる『サーーーー』って音。
そして・・・イントロ。

え?
これ・・・ホントにつんくさんの作った曲?
いつものピコピコした音とは全く違う、鋭く尖ってそして暖かい音。
多分・・・生バンドだよねぇ、これ。
スローテンポのピアノの綺麗な旋律の下で、ベースが白い音符を静かに奏でてる。

のんちゃんも久しぶりに聴くんだろう。
机の上にぎゅっと手を組んで、目を閉じた。
248書いた人:03/12/29 20:39 ID:Q8MrYr7f


――


時間(とき)が経つのは あっという間 そんなのウソだって思ってた
でも あなたと過ごした日々は 遥か 心の彼方
笑いながら 踊ったあの曲 ずっと終わらないって思ってた
でも あなたは踊った後も 目を 細めて笑う

さよならの日が いつかは来るって 気付かないふりして
Ah 今お別れを 言わなきゃダメなの?

ジングルベル もうそんな歌 歌えない
きっと 雪を見るたび 考えるから
ジングルベル もうそんな歌 聞こえない
ずっと 私いつでも 忘れないから
249書いた人:03/12/29 20:41 ID:iv0Hsi3v

いつかさよなら 言う時なんて ずっと来ないって思ってた
でも さよならの言葉 絶対 言いたくない

泣いたりしたよね そんな時でも 最後は笑って
Ah いつか笑える時が 私の来るかな?

ジングルベル もうそんな歌 歌えない
きっと 雪を見るたび 考えるから
ジングルベル もうそんな歌 聞こえない
ずっと 私いつでも 忘れないから

お願い ウソだって言ってよ 振り向けば
もう一度 笑ってくれるんでしょ?
―― もう帰らない もう戻らない
時間(とき)は 張り付いた 砂時計
時間は 凍り付いて 動かない


――

250書いた人:03/12/29 20:42 ID:iv0Hsi3v

最後のハイハットの音がやんでも、私ものんちゃんも黙っていた。
曲の終わりを告げるメッセージがディスプレイに流れる。

つんくさん・・・こんな曲書けたんだ。
あっけにとられるのと同時に、私のためにここまでやってくれたことに、感謝する。
なんかもう、これじゃ私の知ってるつんくさんと別人みたい。
いや、ちょっと待て。
これじゃ、私が死んだことが確定じゃない。

でもその前にもう一つ。
声に何のエフェクトもかかってないこの曲・・・
みんなの生に近い歌声だったのに。
あさ美ちゃんの声だけが・・・・・・聴こえなかった。
251書いた人:03/12/29 20:44 ID:iv0Hsi3v

今日は、と申しますか、今年はここまで。
年明けちょいと忙しく、1月7日くらいまで更新できそうに無いのですが、
ご容赦ください。

>>235 ちょっと話の展開が遅いような気がしてます。
>>236 どうなるでしょうね。お楽しみに。
252名無し募集中。。。:03/12/30 15:32 ID:/4FVgzUt
更新乙です
この曲リリースして欲しいな
253名無し募集中。。。:03/12/31 03:38 ID:tDYHVJOJ

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。今年は本当に楽しませてもらい感謝してますYO。
       来年もまたよろしくお願いします。良いお年を。
254名無し募集中。。。:04/01/02 08:36 ID:aOff2B+A
保全
255名無し募集中。。。:04/01/03 07:24 ID:T1mMTdsy
保全
256homepage3.nifty.com/kuun/otakara/2003.12.26ayaya.gif:04/01/04 00:26 ID:VvlnxpwM
homepage3.nifty.com/kuun/otakara/2003.12.26ayaya.gif
257名無し@ネカフェ中。。。:04/01/04 16:14 ID:7CbAh2T4
保全〜
あけましておめでとうです〜
258書いた人:04/01/05 09:51 ID:vZ6iq1et

―――

「・・・・・・あさ美ちゃん・・・の声かぁ」
「そう、聞こえなかった」

図書館を出たときには、もう日が暮れかけていた。
雪はさっきよりも勢いを増して、肩をそばめて早足でみんな通り過ぎていく。
私の疑問にすこしふっと微笑むと、のんちゃんは白い息を吐いた。
が、図書館を一歩出た瞬間、

「あぁぁぁーーーーーッッ!! 忘れてたぁーーーッ!!」

突然の絶叫。
数人が目を見広げて振り返ると、こそこそと耳打ちを始める。
それを見て慌てて、顔を伏せるのんちゃん。

こういうところの自覚って言うか、ガードが10年前と全く変わらず甘い。
まさに人生隙だらけ。
259書いた人:04/01/05 09:52 ID:vZ6iq1et

するとまるでさっきの絶叫は空耳ですよ、とばかりに颯爽と歩き出す。
いやいや、ばれてるって、絶対。
冷たい風を頬の辺りにピリピリ感じながら、のんちゃんはいっこく堂みたいに唇を動かさないで、

「ごめん・・・ちょっとその話の前に、寄る所あったんだぁ・・・」
「そっか・・・人通り増えてきてるから、しばらく話し掛けないよ」
「ありがと」

もう何年間ものんちゃんの頭に住み着いてるみたいに、阿吽の呼吸。
鬼太郎と目玉の親父も裸足で逃げ出すコンビネーションだ。
ちなみにかつて
『何で妖怪アンテナが立っても、親父はアンテナに刺されずに無事なのか』
という話題で、娘。内が『鬼太郎がしっかり者』派と、『親父黄金のフットワーク』派に分かれたのは内緒だ。
って言うか、自分から見えない頭頂部にアンテナ、ってどうなのよ。
260書いた人:04/01/05 09:53 ID:vZ6iq1et

のんちゃんが電車に乗って街を過ぎていく間、じっと考える。

・・・・・・つんくさんも・・・無理かぁ。
どうしようかなぁ・・・このまま、10年前のつんくさんが呼び戻してくれるまで、
幽霊って設定のままでもいいと言えばいいんだけど。
問題なのは、私が出てくる前の時間に死んでいる、ってことだ。
あの新聞記事にも『18日夜11時頃』って書いてあったから、多分間違いない。
何があったか、せめて分かっておきたい。
もし・・・・・・考えたくないけど、本当に死んでいるとしても。

せめてなぁ・・・・・・あさ美ちゃんと仲直りしてからがよかったなぁ・・・
兎に角、のんちゃんに私の言うことを信じてもらえないことにはねぇ・・・

私の思考は、のんちゃんがお店のカウンターで、ベルを鳴らしたところで途絶えた。
・・・・・・・・・ブティック?
261書いた人:04/01/05 09:56 ID:OtGn6Lhr

どこだろう?
ボーっとしてたから、分かんないけどぉ・・・
広い店内は暖色系の灯りに包まれて、何人かお客さんも見える。

うわ! あのストールとか、なに、あの値段。
安くない?
さっきから電車はスイカだし、レジはカードだったから、あまり値段に注意してなかったけど。
なんで、ストールが500円なの?
パシュミナ・・・だよね、あれ。
一応貧乏キャラを確立されつつも、それくらい判別する目は養っているのだ。
デフレーションとかやりすぎでしょ、これ。
262書いた人:04/01/05 09:56 ID:OtGn6Lhr

「ねえ! ちょっとぉ・・・値段設定おかしくない? 服飾業界のマック? ここ」
「はぁ?」

まるで頭の可哀相な人を見るような目をしているに違いない。
さっき私が見ていたストールを、のんちゃんは手で撫でる。
うわぁ・・・いい手触り。
なんでこれが500円なのよぉ・・・

「いや、だからさぁ・・・これがどうして・・・」
もう一度言い差した、その瞬間、
「ゴメンゴメン・・・・・・いらっしゃい、つーじー。遅かったわね」

少し上滑りな感じの、少し乾いた、それでも落ち着いた口調の声に、のんちゃんが振り返る。
263書いた人:04/01/05 09:58 ID:OtGn6Lhr

「出来た? おばちゃん?」
「ばっちり」

そう言って、キスとウインク。
私とのんちゃんが、「オエー」ってやるのは同時だった。
・・・・・・保田さん・・・!!

「あんたねぇ・・・・・・リアルなおばちゃんに、『おばちゃん』って言うの、やめなさいよ。
洒落じゃ済まないってば?」
「だってさぁ・・・じゃ、ケメちゃん」
「あぁ、それでもいいや。懐かしすぎて涙が出てくるけど。
いつもみたいに、圭ちゃん、って言いなさいって」
「ふふふ・・・ゴメン」

高いヒールに、真っ白な服・・・・・・そして、あまりに似合ってない黒のロングストレート。
・・・・・・カツラでしょ? それ。
いくら黒のロングがこの時代の流行だからって、お菊人形みたいだ。
・・・ちょっと太ったみたいだけど、目尻の辺りの白目が示す悪戯っぽさは変わらない。
264書いた人:04/01/05 09:59 ID:OtGn6Lhr

「とりあえず、一回着てみてよ。
それでもう一度、細かいところ直すからさ」
「うん」

保田さん・・・・・・デザイナーになったの?
一番その職業からは遠い存在だったのに。
この人の描く図面を読める人がいるんだろうか・・・まぁ、藤本さんなら読めそうだけど。
でも、メジャー片手にテキパキとした姿は、とっても似合ってる。
マックの店長じゃなかっただけ、良かったということにしておこう。

更衣室に入ると、

「まこっちゃん、目、閉じててよね」
「えぇ〜、いいじゃん、減るもんじゃないし。見せてよぉ」
「そこがキモイんだって。言われてたでしょ?」

チッ・・・
舌打ちをした直ぐ後に、自分の行為が恥ずかしくてカーッとなるのが分かった。
まぁ、朝の内に一回見てるわけだから、あれで満足しよう。
何を言ってるんだか、私も。
265書いた人:04/01/05 10:02 ID:pvUqNQFJ

―――

「いいよ」

言った瞬間、のんちゃんがカーテンを開いた。
目を開けた私の目に飛び込んできたのは・・・

「あ・・・いいんじゃないかな? 似合ってるよ」
保田さんの満足げな顔と、

「そう・・・・・・かな? ちょっと肩とか、出し過ぎじゃない?」
鏡に映った、黒いドレス姿ののんちゃん。

なんていうか・・・・・・惚れそうになる。
ホントにこのまま、舞踏会にも出れそうな感じ。
髪と服が黒いから重苦しくなるなんてこともなく、のんちゃんの涼しげな感じを引き立たせる。
等身鏡の前でクルッと廻ると、ドレスの裾がふわりと浮き上がる。

「きつくないよね? 大丈夫?」
「・・・・・・うん、ピッタリ・・・・・・かな?」

その声に満足げに微笑んだ保田さんは、ダンスが上手く決まった時の、あの顔だった。
266書いた人:04/01/05 10:03 ID:pvUqNQFJ

―――

店員さんにドレスを包ませている間、保田さんがコーヒーをご馳走してくれる。

「デノミ? ・・・・・・・・・って何?」
「いや・・・だから、デノミだって」

保田さんがのんちゃんに背を向けてコポコポとコーヒーを注いでいる間、
さっきの問いへの答えがちっとも分からず、私は間抜けな対応。

「なんて言うのかなぁ・・・手っ取り早く言うと、昔の1万円が、今は100円なの」
「そんなことしたんだぁ・・・」
「うん、3年前だけどね。まだちょっと、時々間違っちゃう」

すっごいなぁ・・・のんちゃん。
こんな難しいことも、ちゃんと説明できるなんてさぁ・・・バカ女のオーラなんかどこ行ったんだろう。
何の意味がそれに有るのかさっぱり分からない・・・
まあ、のんちゃんもそこまで分かってなさそうだから、聞かないでおこう。
267書いた人:04/01/05 10:05 ID:pvUqNQFJ

「ゴメンね、つーじー。一応こっちも商売だからさ。
これくらいになるけど・・・」

振り返った保田さんの手にある電卓。
うーん・・・・・・1200円かぁ・・・結構いい値段、ってわけだよね。
のんちゃんは保田さんの申し訳なさそうな顔に、首をブンブン振る。

「ううん・・・ちゃんと払うから」
「ゴメン」

もう一度言った保田さんの顔は、どこかすがすがしい笑顔。
こういうところの社交辞令も、もうお互いに修得済み、ってわけね。
テーブルの上に投げ出したバッグを開くと、ゴソゴソとカードを取り出す。
そんな風景を遠くの出来事みたいに見つめていた刹那、
保田さんが腰掛けながら発した言葉に、のんちゃんの脳内で今日何度目かの絶叫をあげるのだった。

なんでのんちゃんが、この黒ドレスを注文したか。
さっきのんちゃんが言ってた、私の心残り、って何か。
そして、『式』の意味。全てが、保田さんの一言で、まるで生物の様に結合して。

「・・・・・・・・・でもなぁ・・・紺野が結婚かぁ・・・」
268書いた人:04/01/05 10:06 ID:pvUqNQFJ

遠い目をして、保田さんがゆっくりと、噛み締めるように過ぎ去った昔を話しはじめる。
私の絶叫にのんちゃんは奥歯をぐっと噛んでこらえると、

「・・・・・・ケメちゃんの話聞いてた方が、色々分かるから・・・」
それだけ呟いた。

保田さんは一瞬、のんちゃんの態度に疑問符を浮かべたけれど、構わずに言葉を繋げていく。
そしてのんちゃんも・・・・・・保田さんの口から出てくる、『あの日』のに、身を委ねて行った。
269書いた人:04/01/05 10:07 ID:5bPCYnvB

「・・・・・・紺野か・・・・・・10年、会ってないけど・・・元気なの?」
「私もあんまり会ってないから・・・・・・だって、なっちゃんの結婚式とかも来なかったし」
「やっぱり・・・まだ・・・あの調子なの?」

カップに口をつけて、俯き加減に溜息を漏らす。
それに答えて、のんちゃんは静かに頭を横に振る。

「・・・・・・大分良くなった、って聞いたけど・・・
やっぱり・・・・・・ずっと、引き摺ってたみたい」
「・・・小川が、死んじゃった時の?」

今度は縦に揺らした頭から、さらさらと黒い髪が流れる。
保田さんはその様子を一瞥すると、ショーウインドの向こうの人の群れを見遣った。
270書いた人:04/01/05 10:09 ID:5bPCYnvB

「紺野の・・・・・・目の前だったんだもんね・・・
小川がちょっと先を歩いてて、それで・・・・・・」
「やっぱり、なんであの場ですぐに手を伸ばして助けられなかったかとか、
そういうこと、考えちゃったのかも・・・」
「そんな必要ないのに・・・・・・」
「それでも、本人は」

沈黙

あさ美ちゃん・・・・・・ずっとずっと、気にしちゃってたのか・・・
あれ? でも、そんな時間にあの場所歩いてたってことは、仲直りしたんだ。
私が見つけた小物屋さん、あの交差点のすぐ近くだもん。
二人で一緒に、クリスマスプレゼント買いに行けたんだね。
ほんの少しだけど、心残りがなかったと思うとホッとする。
勿論私が何でその時間に死んでるのか、さっぱり分からない。
271書いた人:04/01/05 10:10 ID:5bPCYnvB

「・・・・・・それで紺野、自分の中に閉じこもっちゃって・・・芸能界も辞めたんだっけか」

カップの中の黒色にじっと視線を落としたまま、唇を尖らせる。

「・・・・・・ラストシングルにも、あいつの声だけ入ってなかったでしょ?
紺野・・・・・・結局、東京出てきて、辛い思い出しか残らなかったのかな?」
「・・・・・・でも」

目の縁を微かに潤ませる保田さんの声を、のんちゃんの静かな声が遮る。

「でも、自分の結婚式に私たちを呼べるようになったんだったら、良くなったんだと思いますよ。
もしかしたら、あさ美ちゃんなりに蹴りをつけたいだけかもしれないけど。
モーニング娘。ってものと、私や、ケメちゃんや、まこっちゃんと、もうお別れしたいだけかもしれないけど。
それでもやっぱり・・・『蹴りをつける』所まで来れたんなら・・・」
「ん・・・・・・そうかもね」
272書いた人:04/01/05 10:12 ID:5bPCYnvB

満足げに、そして淋しげな目をして、保田さんが大きく頷いた。
そして伸びをしながら、

「いいなぁ〜、それだけ、紺野のこと大切にしてくれる人に巡り会えたってことでしょ?
素敵じゃない、女の心の氷の壁を、じっとあっためて溶かしていってくれた、なんてさ。
いい加減、おばちゃんもいい男、探さないとなぁ〜」
「・・・・・・いい人いないの?」
「ん? いない」

のんちゃんも保田さんも、声を出して笑っていた。
まるで10年前にずっと忘れ物してたみたいに、
10年分を一気に二人とも取り戻そうとするみたいに。
まだ笑いつづけるのんちゃんに、保田さんは右指を唇に当てて首を傾げた。

「でもさ・・・つーじー。あんたもなんだか、まるで吹っ切れたみたいだよ。
なんか今日のつーじー、全然違うって。
なんつーのかなぁ・・・あんたの心に張ってた膜が、取れたみたい」

その言葉に、にんまりと頬の筋肉を上げるのんちゃん。
ますます不思議そうに、30度ほど保田さんは首を傾げた。

「・・・・・・まこっちゃんが・・・多分、取ってくれたんだよ」
273書いた人:04/01/05 10:25 ID:JgWAgAFL

今日はここまで。あけましておめでとうございます。
時間が出来たので、取り敢えず更新してみた次第。
現実世界が小説を凌駕するのが、一番困りますな。

>>252 歌詞を書くのは死ぬほど大変だと学びました。
>>253 私こそ、お世話になりました。
>>254-256 保全乙です。
>>257 更新の分量少なくて申し訳ない。 
274名無し募集中。。。:04/01/06 00:18 ID:Wlbuboqf

(0^〜^)<あけましておめでとうございます。
  つ日  うーん。謎のある作品って、やっぱり面白いですね。
      波乱万丈の現実世界とのつじつま合わせに気を使って
      作品世界を窮屈にする必要は無いと私は思いますけどね。
275名無し募集中。。。:04/01/07 21:04 ID:GDYoVQlQ
保全
276名無し募集中。。。:04/01/08 20:59 ID:3udfVhfX
保全
277名無し募集中。。。:04/01/09 20:29 ID:yWEgxibS
保全
278書いた人:04/01/09 21:28 ID:0LFIlNOV

―――

「何で保田さんに、言わなかったの?」

駅を出て人通りが少なくなったことを確かめると、言いたかった言葉が口を突いた。
ドレスを入れた包みを抱きしめて、白い息を吐きながらのんちゃんは歩き続ける。

「・・・・・・だってさぁ、幽霊の声が聞こえます、なんて言うの危ないじゃない」
「だから、違うんだってば」
「もしもだよ? まこっちゃんの言う通りだとしても、あの薬のことみんな知らないんだから。
それに・・・私だって、過去に行く薬は知ってるけど、未来に行くのは見たこと無いし。
そっちの方がよっぽど信じられないって」
「そうだけどさぁ・・・」

10年前のバカ女の反動か、のんちゃんは妙に理屈っぽい。
その論理の一つ一つが妙に筋道だっているから、反論もしにくいのだ。
279書いた人:04/01/09 21:28 ID:0LFIlNOV

ふぅ、とため息をつく。
説得は・・・無理っぽい。
でもなぁ・・・あさ美ちゃんが結婚するのかぁ・・・
見たいなぁ〜

「ね、結婚式、みんな来るの?」
「うん・・・多分、あ、でも・・・」
「?」
「・・・・・・つんくさんは、来ないと思う」

あさ美ちゃんは娘。の・・・いや、自分が同じ時間を過ごした元娘。のみんなに招待状を送ったらしい。
あらかじめ電話で連絡したりもしないで、突然来た招待状。
それが二月ほど前で、のんちゃんに言わせれば『蹴りをつけるため』ってことらしい。
でもやっぱり、私の命日に合わせてくる辺りは『小川のためなんだよ』というのは、保田さんの言葉。
280書いた人:04/01/09 21:29 ID:0LFIlNOV

「つんくさん、なっちゃんの式にも来なかったから。
あさ美ちゃん・・・多分、招待状送ってると思うけど、来ないと思う」

そう言うと、うんうんと一人で頷く。
10年後のつんくさんとか、微妙に見てみたかったんだけどなぁ・・・無理か。
街灯の下まで来ると、のんちゃんは立ち止まって首を傾げた。

「でもさ・・・まこっちゃん。ホントに思い出せないの?
18日の夜に・・・あさ美ちゃんと一緒に歩いていて、確かに死んだんだよ?」

『死んだ』という言葉をダイレクトに使うのんちゃんに、少しだけむくれた。
むぅ・・・死者に対する敬意が足りない・・・って、私は死んでないけど。
どうもこの話題になると、私とのんちゃんは平行線をたどる。

「だからさ、死んでない」

自分でもびっくりするほど、ぶっきらぼうな返事。
281書いた人:04/01/09 21:29 ID:0LFIlNOV

私の声に反応せず、のんちゃんは再び歩き始める。
すれ違う車のヘッドライトに、少し目を細めた。
その沈黙が耐えられないのと、溜め込んでいた感情が噴き出して、

「あのね、何度も言ってるけど、私は死んでないの。
確かにあさ美ちゃんと行ったっていう小物屋さんも、目をつけといたヤツだけど。
大体、その前の日にあさ美ちゃんと大喧嘩して、仲直りできなかったんだから」

そう・・・死んだ私は今の私より遥かにリードしているところがある。
死んだ私は、キチンとあさ美ちゃんと仲直りしてるんだ。
『仲直り』の節に、ピクッとのんちゃんの肩が震えたように感じた。

「あさ美ちゃん・・・・・・悲しむよ。
仲直りなんかしてない、なんて言ったら」
282書いた人:04/01/09 21:35 ID:AeUzUwIl

それだけ言うと、なお速度を上げてスタスタと早足で歩き始める。
・・・・・・泣いてる?
頬の辺りを通る冷たいものに、のんちゃんが泣いているらしいことを初めて理解した。

「私だってさ・・・」

言い掛けた言葉に、のんちゃんは反応しない。
その態度が、却って私の言葉の続きを促す。

「私だって、あさ美ちゃんと仲直りしたかったよ。
でもあさ美ちゃんに電話する前に、つんくさんから電話が来て・・・
仲直りのチャンス、逃しちゃって・・・」

もうのんちゃんの家の前まで来ていた。
ピタッと立ち止まると、のんちゃんは街灯を睨み付ける。
283書いた人:04/01/09 21:36 ID:AeUzUwIl

「・・・・・・私の知ってる10年前と、全然違う」
「何で違うかなんて、私にも分からないよ。
でもね、私はつんくさんの薬を飲んだ、そして、あさ美ちゃんと仲直りしたかった。
・・・できなかったけどね。これだけは、本当なんだから」

自分でもびっくりするほど、毅然とした物の言い方。
普段からこれくらいの説得力がほしい。
額に手を当てて、のんちゃんは立ち尽くしたまま。

どれくらいだっただろう。
1分、いや・・・数十分にも、数時間にも感じられたその時間。
のんちゃんはもう涙を流していなかった、いや、ニヤッと笑っていた。
全然予想できなかった反応に、思わず息を呑む。
284書いた人:04/01/09 21:36 ID:AeUzUwIl

「もし・・・・・・さ、もし、まこっちゃんがつんくさんの薬を飲んだとすれば、
まこっちゃんは・・・・・・死んでないんだよね?」

唇の端を上げながら、言葉の間に含み笑いを入れながらの言葉に、怖いものすら感じる。

「そりゃ・・・・・・ね。事故の時間に、私はつんくさんと居たんだから」
「・・・・・・そう」

短く返事をすると、空を見上げた。
『光害』って言うんだっけ? いろんな光で青みがかった、藍色の空。
微かにだけど、オリオン座が見えた・・・って言うか、私がオリオン座しか分かんないだけだ。
視界に、のんちゃんの吐いた白い息が見える。

「ちょっとだけ」
「?」
「ちょっとだけまこっちゃんの言うこと、信じてみたくなった」

それだけ言うと、玄関のドアに向かってのんちゃんは駆け出した。
285書いた人:04/01/09 21:38 ID:AeUzUwIl

今日はここまで。
やっと重苦しいパートは終わりです。
次回より、いつもの文体に戻ります。

>>274 まあ、すこしラストを変えるくらいで済みそうですが。
>>275-277 いつもすみません、最近微妙に忙しいので、更新少なくて。
286名無し募集中。。。:04/01/10 01:02 ID:v0QRj2LZ

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。何かが始まりそうですね。楽しみです。
287名無し@ネカフェ中。。。:04/01/11 13:32 ID:Vjgf5C9Q
更新乙です!
保全しますー
288ベジータ ◇4/AitanxII:04/01/11 20:30 ID:7RUqiSmM
abon.net/up/img/abon005.jpg

289名無し募集中。。。 :04/01/11 21:20 ID:igWzGJta
上がってたから更新されたのかと思った
290名無し募集中。。。 :04/01/11 22:45 ID:dqMY/R+0
なっちの水着のください
291名無し募集中。。。:04/01/12 07:49 ID:BpUkAM+k
sage
292書いた人:04/01/12 16:30 ID:XdVa3xke

――― 翌日

「いやぁ・・・疲れたなぁ・・・」

テレビ局内の喫茶店で、のんちゃんは一人コーヒーを啜る。
収録後の優雅なひととき、と言うには程遠く、さっきからのんちゃんはおかんむり。

「つーかさぁ、絶対あのディレクターおかしいよね。
なんなの? トドとマナティー足して二で割ったみたいなくせに」

一日と少し、のんちゃんの脳内で過ごしてみて分かったこと。
・・・・・・口悪いなぁ、のんちゃん。
ポップコーンみたいに弾け飛ぶ悪口に、涙すら出てきそうになってくる。
トドとマナティーって、・・・多分、デブって言いたいんだ。

「あれだね、もし私が呪いとかできたら、確実にキツイの一つやっちゃうね」

加えて、妄想力まで最悪だった。
293書いた人:04/01/12 16:31 ID:XdVa3xke

大体、そんなに怒ることじゃないのだ。
今日収録したのは、お正月用の特番。
のんちゃんの着ていたライトグリーンの振袖に、盛大な文句をディレクターが付けたのが発端で。
どうやらのんちゃんはその色彩がお気に入りだったらしく、衣装を無理やり替えられて激怒。
いやぁ、凄い剣幕でびっくりした。
ホント、のんちゃんの脳内で失禁するかと思ったもん。

私は果たして、のんちゃんに影で何言われてるんだろう。
気になるけど・・・知らない方がいいこともあるのだ、うん。
ちょっと想像してみただけで、涙が零れそうになった。
294書いた人:04/01/12 16:31 ID:XdVa3xke

私とのんちゃんは感情面で共有する部分があるらしく、私も少しいらいらしてくる。
脳細胞を間借りしているわけだから、仕方ないと言えばそうなんだけど。
やっぱり・・・ちょっとは宥めてみないと私の精神衛生上もよくない。

「まぁほら、ディレクターさんもお仕事なんだから、さ」
「つーかね、センスが無いの、センスがッ!!
あんなのにディレクターやらせちゃ、ダメだって!!」

はい、説得失敗。火に油を注いだだけだった。
しばらく一人でプンスカと悪態をつくと、やっと落ち着いたのか深く息を吐く。
ほっとくのが一番なんだね、一つ勉強になった。
私の場合、勉強するたびに身も心もボロ雑巾のようになっていってる気がするけど。
295書いた人:04/01/12 16:32 ID:XdVa3xke

「つんくさんにさぁ・・・一応電話してみる?」

テーブルに両肘を突いて、頬を両手で包み込んでのんちゃんは呟く。
『私がもし過去から来たなら、それを立証できるのはつんくさんだけ』
昨日の夜、二人で話し合って出た結論だから。
尤ものんちゃんは、まだ私の言うことには半信半疑、って感じだったけど。
どっちかって言ったら、『そうであってくれれば嬉しい』って所。

「してみてよ・・・また留守電だったとしてもさ、
それを聞けば向こうから掛けて来るかもしれないよ」
「・・・・・・そうだねぇ」

鼻歌を歌いながらごそごそと携帯を取り出す。
昨日聴いた・・・ラストシングルの曲だよね。
心底楽しそうに鼻歌を歌うのんちゃんは、傍目から見るとちょっぴり頭が可哀相な人みたいだ。
って言うか、そんなにルンルン気分で歌う曲じゃないでしょ、これ。
296書いた人:04/01/12 16:42 ID:PNVhFnqN

ただ一つ、大きな問題があることにのんちゃんも私も気付いていた。
気付いていたけれど、解決できる見通しが無さ過ぎるから、言わなかっただけ。
どうしようもないことはスルー、人生での基本だ。

そう、どうやったらつんくさんに、この状況を信じてもらえるか。
私の声はのんちゃん以外には聞こえないしなぁ・・・
『私が知ってるけどのんちゃんが知らない、なるべくつんくさんのプライベートな部分』
この辺を突っ込むしかなさそうなんだけど・・・・・・んなもん、あるかな?
そもそもつんくさんのプライベートなんか知りたくもないし。

何だろう・・・つんくさんが時々、行きつけのキャバ嬢に赤ちゃん言葉で電話してたとか・・・
ダメだ、確か娘。全員でネタにしたしなぁ、これ。

『キショイから、そういうこと私たちの前ですんのやめて下さい!!』って言った飯田さんに、
『俺かて寂しいんや・・・むしろ、お前らにこの喋り方でやっていかせてくれ!』と返したつんくさん。
しばらくつんくさんのミドルネームが『変態』になったっけ。
あまりに気持ち悪い出来事で、記憶が引き出すのを拒否していたらしい。
297書いた人:04/01/12 16:43 ID:PNVhFnqN

「どうしよっか・・・一応、私の口で事情説明してみよっか?」

つんくさんとの強烈な記憶を矢鱈に思い出して、心にダメージを負う勇気はないらしく、
のんちゃんの出した答えは非常に大人のそれだった。
アフガンかどっかの地雷原の方が、もうちょっと地雷の数が少なそうな気がする。

「でもなぁ・・・口で言っただけで、引きこもりのつんくさんをおびき寄せることなんかできるかな?」
「そうだけどさぁ・・・手頃なのが思いつかないんだよね、
まこっちゃんだけが知ってる、つんくさんのことなんて・・・ある?」
「むぅ・・・・・・無いなぁ」
298書いた人:04/01/12 16:44 ID:PNVhFnqN

私のしょんぼりした空気を打ち破るかのように、のんちゃんは不意に両手を合わせた。
心地よい破裂音が耳を打つ。

「それじゃ・・・二回電話してみようよ。最初は私が事情を言って。
二回目は、まこっちゃんが話してみてよ。それをそのまま、私が言うから」

のんちゃんにしては珍しく、気持ちが悪いほどの名案だった。
ホントは私が運動感覚まで支配できれば一番良いんだけどね。
手馴れた手つきで携帯のアドレスを繰ると、

「そんじゃ、やってみるから」

とだけ言うと、私の耳にも途切れ途切れの発信音が聞こえてきた。
案の定留守電のそれに、落ち着いた感じで話し出す。

10年前からの意識だけの時間移動。
辿り着く実体が無かったから、のんちゃんに移動した私の意識。
薬はつんくさんが10年前に作ったもので。
ただ私が薬を飲んだのは、私が車にはねられた時間よりも後で・・・
299書いた人:04/01/12 16:44 ID:PNVhFnqN

ときどき事情を整理しながら、つっかえつっかえのんちゃんは言葉を紡ぐ。
そして最後に、

「もし・・・これを聞いたら連絡ください。
どうしてこんなことになったのか、頼れるの、つんくさんだけなんです」

それだけ言うと、通話停止を押す。
自分で言った内容にまだ心から納得できないのか、頭を少し傾けて。
いや、パーフェクトだったよ。
あさ美ちゃんの初期の名曲、「いつも完璧紺野です」が、頭の中でぐるぐる流れていた。

「さて・・・それじゃ、どんなこと言おっか?
一応、メモとか執っといた方が良いでしょ?」
「そだね・・・取り敢えず、やっぱり出だしが肝心だと思うんだ。
だからさぁ・・・こう、私は小川だ! って強烈に印象付けられるのが良いかな、って思うんだけど」
300書いた人:04/01/12 16:46 ID:yH6w1Iak

のんちゃんが電話している間に、無い脳みそを使って必死で考えたことだ。
いや、今のんちゃんの頭に居候しているわけだから、この言い方は失礼だけどさ。

「ふーん、まこっちゃんにしてはマトモなこと言うじゃない」

家主はもっと失礼だった。
むぅ・・・めげないぞ・・・

「で、具体的にはどんなこと言えばいいのよ?」
「んとね・・・やっぱり、ピーマコの挨拶とかいいかなぁ・・・と」
「却下」

つれない返事に目頭が熱くなる。
一生懸命考えたのになぁ・・・
301書いた人:04/01/12 16:46 ID:yH6w1Iak

「何? 周りにめっちゃ人がいる中で、あんな恥ずかしい挨拶しろっての?」
「恥ずかしいって何よ。んじゃあ、百歩譲って六郎さんで」
「できるわけないでしょ、あんなんやったら、この局に出禁になるよ」

自分はもっと恥ずかしい役柄ばっかりだったくせに・・・とは口が裂けても言わない。
今はそれより、つんくさんへの電話が先だもんなぁ・・・
しかし他に私を印象付けるものって・・・・・・あれ? 無いな。

「・・・どうすんの? ねえ・・・まこっちゃん?」
「ハハハ・・・いや、他に『私』って個性が無いな、って思ってさ」

ちょっぴり陰のある私の言葉に気付いたのか、のんちゃんは目を細めてコーヒーを最後の一啜り。
そして優しい声で、呟いた。

「そんなことないよ・・・いつもの気持ち悪い喋り方でいいんだよ」

優しい割に、内容的には失礼極まりないのだった。
302書いた人:04/01/12 16:48 ID:yH6w1Iak

今日はここまで。
乗っ取るスレ名を失敗したと思うこのごろ。

>>286 粗筋しか決まっていないため、結構適当だったりします。
>>287 ありがとうございます。
>>289 ごめんなさい、やはりちょいと間違ったかな、と。
>>290 買ってあげてください。
303名無し募集中。。。 :04/01/13 01:36 ID:m/ahUe1x
>>302
>乗っ取るスレ名を失敗したと思うこのごろ。
お気に入りに入れてあるのがちょっと恥ずかしいです
304名無し募集中。。。:04/01/13 23:32 ID:EuW+y0a3
保全
305名無し募集中。。。:04/01/14 00:10 ID:RvtBY5Af

(0^〜^)<作者さん更新乙です。
  つ日  うーん。絵が鮮明に浮かんできて楽しいです。
      ところで、こうやってAAを使って感想を述べるのは
      やや問題ありかなって最近思ってます。
306sage:04/01/14 07:53 ID:sbh21rWO
オナニーできればええやん。おかずやし。マス本人志。
307名無し募集中。。。:04/01/14 20:02 ID:R6wDyMTH
>>302
何に載っているんですか?
308書いた人:04/01/14 23:55 ID:+VZcfb12

―――

「・・・・・・じゃあ、掛けるけど・・・・・・準備いいね?」
「うん」

再び携帯を目の前にかざすと、少し凛とした口調で最後の確認。
その勢いに気圧されて、私の返事はどこか喉につかえた感じだった。
結局変に作ったことをせず、素のままの私でいけばいい、とやっと結論が出たんだけど。

最後の方、のんちゃんキレ気味だったもんなぁ・・・
『もういいよ!! さっさとまこっちゃんが決めちゃってよ!!』って。
恐ろしい投げっぱなし具合だ。
ドレミの歌の2番の『ラ』と同じくらい、投げっぱなしだ。
何だよ、『ラーララララララー』って。ちゃんと考えてやれよ。

もう一度途切れ途切れの発信音が聞こえると、
「いいよ、話して」
のんちゃんが小声で呟いた。
309書いた人:04/01/14 23:56 ID:+VZcfb12

「えーっと・・・つんくさん、お久しぶりです。
私は・・・・・・小川です。喋ってるのはのんちゃんですけど、意識だけ10年前から来てます」

私が言葉を区切ったと同時に、慎重に声のイントネーションをなぞらえてのんちゃんが続けた。
自分の話し方がどんなんかなんて知らないけど・・・ここは、のんちゃんの模写能力に期待しよう。
・・・・・・期待していいのか?
記憶をたどる限り、明らかに不安要素の方が濃いんだけど。

「未来へ行く方の薬は・・・つんくさんが薬を処分する前にその作り方のメモを見つけたはずです。
あの機械や薬を作った人のメモがあったって・・・言ってましたけど。
過去に行く薬を元の材料にして、それで作ったって聞きました」

のんちゃんが喋っている間も、相変わらず聴こえてくるのは絶え間ない無音。
ホントに・・・つんくさんはこれを聞くんだろうか?
そして、私の話を信じてくれるんだろうか?
310書いた人:04/01/14 23:56 ID:+VZcfb12

「つんくさんは言ってました。知的好奇心だって。
何で夕焼けが赤いのかとか、そういうのを知りたいっていうのと同じ感覚だったって。
まぁ・・・飲まされた私は堪ったもんじゃないんですけど」

『知的好奇心で』っていうのがのんちゃんのツボだったらしく、唇の端で笑いながら私の声を音にする。
もう・・・これじゃちっとも、私が喋ってるって感じが伝わってないじゃない。
少なくとも私は、こんなうぷぷぷ、って笑いながら喋ったりはしないもん。

「私が薬を飲んだのは、2003年12月18日の・・・もう、24時を回ったくらいです。
でも2013年に来てみたら、私は18日の夜11時にもう車にはねられてますし・・・」

これだけは、ホントにここだけは分からない。
現場も見た、死亡記事も読んだ、保田さんの話も聞いた。
なのに・・・まだ信じられないし、信じたくない。
311書いた人:04/01/14 23:58 ID:uOKe0gtS

・・・・・・ホントに、つんくさんはこれを聞いてくれるんだろうか。
話が核心に入った瞬間から、さっきから心の隅にあったこの懸念が急激に大きくなってきて。
それと同時に、いろんなことが頭の中に浮かんできた。

あさ美ちゃんはこの10年、どんな想いで過ごしてきたんだろう。
モーニング娘。はどんな風に終わっていったんだろう。
みんな幸せなんだろうか・・・もしかしたら、私のせいでみんなが掴むはずの幸せを逃していたら?
こんな状態で、私は本当に10年前に帰れるんだろうか。
もしかしたら10年前のつんくさんは私を見捨てたんじゃないだろうか。
デヘヘヘ笑ってポリポリ身体を掻いて、みんなにキショイとか言われてても楽しかった10年前は、本当に存在してたんだろうか。

心配は焦燥に変わって、私の心を支配する。
312書いた人:04/01/14 23:59 ID:uOKe0gtS

「ちょっと・・・ねえ、まこっちゃん・・・?」

のんちゃんが必死に私に呼びかけているのも全く耳に入っていなかった。
次の言葉なんか・・・何を言ったとしても無理だよ。

「・・・次何言うのよ?」

私の言葉なんか届かないんだよ。
私みたいに、この時代で実体を持たない人間の言葉なんて。
そもそもこんな電話・・・・・・意味あんの?

あとはもう衝動だった。
飛び出す言葉も、なにもかもが。

「・・・・・・つんくさん・・・どうなってるんですか? あの薬、完璧じゃなかったんですか?
ホントにここ、未来なんですか? お願いです・・・電話してきてください。
いっつもキショイって思ってました・・・けど、つんくさんの力が必要なんです」

それだけ一気に言い放つと、私は殆ど勢いで電話を切る。
・・・・・・電話を切る?
313書いた人:04/01/14 23:59 ID:uOKe0gtS

のんちゃんはまだ携帯を見つめていた。
そして私は、一瞬の出来事に何も分からずにいて。

今の言葉・・・私が言ったそのままの言葉だった。
そして今電話を切ったのは、間違いなく私だった。

「ウソ・・・今、のんちゃん何もしなかったよね?」
「口と身体が、勝手に動いた」

今度の言葉は、間違いなく脳内でのみ伝えられた言葉。
さっきと違ってのんちゃんの鼓膜を通しては、私の声は聞こえていないらしい。
まだ呆然としたまま、ようやく携帯を畳むとのんちゃんは目を伏せる。

もしかして・・・私がのんちゃんを動かすことができたの?
そう考えると、すっごく嬉しくて。
別に支配欲が満たされたわけじゃなくて、ただ自分が実体として存在できていることが嬉しくて。
歓喜の声をあげる私に対して、のんちゃんは何故か憮然としたまま席を立ったのだった。
314書いた人:04/01/15 00:06 ID:rkJ11muY

今日はここまで。
シゲさん似の女性を偶然服屋さんで発見しました。
なぜこんこんさん似は出ないのだろう。

>>303 今考えると、「私の願い」って、素晴らしいスレタイに思えてきます。
>>304 ありがとうございます。
>>305 そうですか? 私は楽しませてもらっていますから、構わないのですが。
    ご自分が納得できるようになさってください。まあ、「うーん」で分かる気もry)
>>306 愛が足りない。
>>307 ハワイ写真集でもお買いなさいな。
315名無し募集中。。。:04/01/15 02:55 ID:m+R1dhlG
作者さん更新乙です。
そうですか、シゲさん似の・・・いいですねぇ、って
またあとがきに感想言っちゃいました。
AAも「うーん」も使わずに透明人間になったほうが
気楽でいいんですけどねぇ・・・というような話は
全く正反対の立場の小説作者さんに言ったりしては
決していけなかったですねw
316名無し募集中。。。:04/01/16 06:10 ID:HtJbT95C
保全
317名無し募集中。。。:04/01/16 10:32 ID:/JKujWu3
作者さんの、前作知ってたほうがオススメですっていう言葉に興味を
覚えて読みに行ったのがファンになるキッカケでした。前作を読んで
感銘を受け、その他の作品もむさぼり読みました。「キカイノココロ」
では泣きました。今作も楽しみに読ませてもらってます。
318書いた人:04/01/16 23:28 ID:i/Fay0hE

―――

「だからぁ、悪かったてば」

ツカツカと局の廊下を歩くのんちゃんに、何度目の謝罪だろうか。
すれ違うADさんが『ヒィィィ!!』と壁際に飛び退くほどの勢いで、のんちゃんは廊下の真ん中を進む。
そりゃあ・・・勝手に体を使っちゃったのは悪いと思ってるけどさぁ、私だって意図して使ったわけじゃないし。
そんなに怒られてもなぁ・・・困るよ。

わき目も振らずに白い廊下を行く彼女は、私の声には応えてくれない。
年末特有の忙しい空気に溶け込むように、その速度もまるで走っているようで。

「ゴメンってば、私だって自分であんなこと出来て、びっくりしちゃったんだから。
もうさぁ・・・二度とやらないし、あんな風にならないように努力するし」

いや、まあ、どう努力すればいいのかなんて、分かんないけどさ。
319書いた人:04/01/16 23:29 ID:i/Fay0hE

さっき確かに、あの言葉を発したのは、そして電話を切ったのは私の方だった。
のんちゃんの身体を・・・一瞬でも乗っ取ったって言って良いだろう。

気分悪いだろうなぁ。
ただでさえ居候させてもらってる身なのに、その上身体まで乗っ取っちゃうなんて。
過去から帰ってきた後、病室であさ美ちゃんたちが教えてくれた。
3年前では過去の自分と未来の自分が鬩(せめ)ぎあって、時々主体が入れ替わったって。
そしてそれは、最高に気分が悪くて、まるで操り人形みたいな気分だったって。

多分・・・同じ状況が起こったんだろう。
ってことは、私が今ののんちゃんを乗っ取る可能性も・・・無いとは言えないわけだ。
なら、それを気味悪がって、嫌悪するのも当然。

相変わらず私の謝罪には応えず廊下を進んでいたのんちゃんの脚が、楽屋口でピタリと止まった。
320書いた人:04/01/16 23:29 ID:i/Fay0hE

ドアノブに手を掛けたままの姿勢で、その視線はノブを見つめたまま。
・・・許してくれるのかな?

「あのさ・・・別に、怒ってないよ」
「なんだぁ・・・じゃ、なんでそんなにつっけんどんなの?」

全く予想外の言葉に、思わず口調がババ臭くなる。

「いや・・・ね。さっきまこっちゃんに一瞬身体使われた時さ、10年前にあの薬使ったことを思い出して。
あの時も・・・中学生の私が意思を支配してたときも・・・同じ感じだったなぁ、って。
つまり・・・まこっちゃんは、ホントに10年前からきて、そして心だけ、私の頭に着いちゃって」

最後の方は、多分私にじゃなくて、のんちゃん自身に言った言葉だろう。
ドアノブを握り締めたまま、漏らし始めた言葉は止まらずに。
少しその手が、湿っているのが分かった。
321書いた人:04/01/16 23:31 ID:E8L7tQcK

「あの感覚って・・・まるでテレビでも見てるみたいに、ぼんやりとした感覚で」
「ずっと忘れてたけど、さっきの一瞬で思い出した」
「丁度、あんな感じだ」
「まこっちゃんが・・・10年前から来てるとしたら」
「あの時私が飲んだ薬を元にしてるから、おんなじ効果が・・・?」
「だとしたら、10年前死んだまこっちゃんは?」
「12月18日と・・・19日」
「有り得ない、有り得ない、有り得ない・・・だけど」
「だけど、現実なんだ」

『辻希美様』
顔を上げて、そう書かれた楽屋の扉を見つめる。
左手でこめかみを抑えて、必死に状況を整理しようとして。
のんちゃんは口の中に溜まった唾を飲み込むと、『ふふっ』と笑った。
私にはその笑いが、なんだか凄く懐かしく感じた。
322書いた人:04/01/16 23:34 ID:E8L7tQcK

今日はここまで。
私事で非常に雑多な事象が生じたので、短くて申し訳。

>>315 いや私が強制できることではありませんから。ご自由になさってください。
>>316 遅筆でゴメン。
>>317 ありがとうございます。1年もやっていると完全に文体等変わってますが。
     あと一月ほどかかると思いますが、見守ってやってください。
323名無し募集中。。。:04/01/17 00:01 ID:t3lmSLYx
忙しい中更新乙でした
324名無し募集中。。。:04/01/17 02:54 ID:ojWNmAdT
更新乙です。うーん。(・・・つい使ってしまう私)
不思議な記憶の物語。続き楽しみです。
325名無し@ネカフェ中。。。:04/01/17 15:05 ID:SiYuKT/3
更新乙ー!
書いた人 サン、遅筆なんてことありませんよ。
更新頻度・更新量ともに満足しています!
326名無し募集中。。。 :04/01/18 16:06 ID:rpbCt/c2
更新乙です
こんなのやってますね
    ↓
第4回モー板系小説人気投票(3月31日まで)
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1074341006/
327書いた人:04/01/18 17:06 ID:zGbon4eU

―――

「これ・・・見てみなよ」
「・・・砂時計?」

収録の合間、マネージャーさんが席を外した隙に、のんちゃんは静かに語りかける。

マネージャーさんは楽屋の扉を前にして、
『いい? 次の収録3時半からだからね? 私が戻んなくてもちゃんと行くのよ?』
と、しつこいほど確認を取っていた。
よっぽど普段から時間にだらしないのか、と思いきや、
『あのマネージャー、私が18のときからずっと付いてるからねぇ・・・子供扱いなのよ』
というのは、のんちゃんの弁。
どっちが正しいかは、流石に分からない。

のんちゃんがバッグの中から取り出したのは、木枠に凝った細工がしてある、砂時計だった。
ガラスに所々傷が見える辺り、結構古い物だと感じる。
328書いた人:04/01/18 17:07 ID:zGbon4eU

「見覚え・・・・・・無い?」
「うーん・・・・・・」

テーブルの上に置くと、砂がさらさらと流れ落ちる。
蛍光灯の光に反射して、粒子がざわめくように輝いていた。
砂時計ねぇ・・・見たことあるような気もするし・・・無いような気もするし。
木枠の細工は綺麗だけど、そんなに高いものじゃないでしょ、これ。
せいぜい2000円がいいところだ・・・この時代なら20円か。

私の反応が薄いのに、少し残念そうに息を漏らす。

「そっか・・・分かんないかぁ・・・まこっちゃんが最後に買った物だよ」
「・・・?」
「あさ美ちゃんと一緒に、クリスマスプレゼント買いに行って・・・その時に・・・」
「もしかして!!」
329書いた人:04/01/18 17:07 ID:zGbon4eU

その言葉で一気に記憶が蘇る。
店先のショーケースに飾ってあった、砂時計。
あさ美ちゃんと一緒に買いに行こうと思ってたあのお店にあったやつだ。
一人でお店の前を通り過ぎたときに、『あ、あれとかいいな』って思ったっけ。

「あの・・・私が死んだ交差点の近くの?」
「そう、あそこで買ったんだよ」

この時代から見た10年前では、私とあさ美ちゃんは仲直りして、一緒にクリスマスプレゼントを買いに行ってる。
そうかぁ・・・あれ買ったのかぁ・・・我ながらグットチョイスだ、私。
10年前なら、道理で傷もついてるわけだね。

「よく壊れなかったねぇ・・・」
吐息混じりに漏らした私の言葉に、
「ホント、ね」
少し懐かしそうに、目を細めて応えた。
330書いた人:04/01/18 17:08 ID:zGbon4eU

「これだけ綺麗に残っててさぁ・・・お葬式の時、あさ美ちゃんとずっとこれ見てたんだよね。
梨華ちゃんや飯田さんややぐっさんが呼びに来たけど、出棺にも立ち会えなくってさ」
「・・・・・・」
「あの時は幼かったんだろうけど、でもやっぱり、ショックで。
もしも今だったら、泣きはするだろうけど、あそこまで放心状態にはならないと思うけど。
でも、それは私が強くなったからじゃなくって、多分どこか麻痺しちゃってるからかもね」

自嘲気味に唇の端から漏れる笑い。
私はその笑いに、何も反応できなかった。

「ホントはこれ、あさ美ちゃんに持っててもらおうと思ったの。
やっぱり同期で、一番仲良かったの、あさ美ちゃんでしょ?
だけど・・・・・・さ」
「あさ美ちゃん、断ったんでしょ?」
「うん・・・私や梨華ちゃんが何度言っても、ずっと下向いたまま、首横に振っててさ」
331書いた人:04/01/18 17:10 ID:i5KhWVSu

昨日の保田さんの話を思い出して、その理由はのんちゃんに聞くまでも無かった。
その砂時計と一緒にいるってことは、それだけ私を思い出す時間が大きくなる。
それに耐えるには・・・あさ美ちゃんには酷だったんだろう。

「でもね・・・結婚式で・・・・・・」
「結婚式で?」
「うん、あさ美ちゃんに渡そうと思うんだ。
私はずっとこれ持ってたし、まこっちゃんとも変な形だけど、もう一回話せてるしね」
「でもさぁ・・・」

あさ美ちゃんが、『蹴り』を付けるためにみんなを式に呼んだんだとすれば。
これを渡すってことは、多分・・・あさ美ちゃんをずっと縛り付けることになっちゃうかもしれないのに。
332書いた人:04/01/18 17:10 ID:i5KhWVSu

私の疑問ものんちゃんには予想済みだったのか、まっすぐに前を向くと、強い口調になる。

「でも・・・あさ美ちゃんに忘れてほしくないから。
せめて、まこっちゃんのことだけでも・・・ね?
もしもずっと時間が経って、あさ美ちゃんが過去に歩み寄れるようになった時に、
何も身の回りに無かったら、悲しいじゃない?」
「そうだけど」
「大丈夫! もしなんだったら何かに包んで、中身言わずに渡すから!
『過去を見られるようになった時に開けて』って言えば、多分大丈夫でしょ?」
「・・・・・・うん」

のんちゃん、あんた、十分強くなってるよ。
だってのんちゃんだって、私との過去に苛(さいな)まれてたのに、
それでもずっと、バッグに砂時計入れて持っててくれたじゃない。

「あのね、言っとくけど、ずっと遺品持ってるのが嫌になったわけじゃないからね」

・・・その一言が余計なんだけどさ。
言わなくたって、分かってるってば。
333書いた人:04/01/18 17:10 ID:i5KhWVSu

しばらく私たちはお互いに黙っていた。
私は色んなことをずっと考えていて。
そしてのんちゃんは台本をペラペラと捲って。

所々に付けられた赤ペンでのチェックに、進歩の跡を感じた。
矢口さんに『台本覚えろ!』って怒られて、目を涙ぐませてたことなんか、想像もできない。
あ・・・エガちゃんも一緒に出るんだ。
今もあの芸風なのかなぁ・・・身体持つのか?
と、掛時計を一瞥してのんちゃんは台本を閉じる。

「じゃ、そろそろ行くけど・・・ゴメン、また少し黙っててね?」
「分かった」

私が過去から来たって信じてくれてから、ようやく優しい感じになったのが嬉しい。
334書いた人:04/01/18 17:11 ID:i5KhWVSu

テーブルの上を整理して、鏡の前で衣装とメイクをチェックすると、のんちゃんは笑った。

「やっぱり洋服の方が楽でいいね」
「そう? 和服もよく似合ってると思うけど」
「そりゃどうも・・・」

そう言ってテヘテヘ笑うのんちゃん。
和服は和服で、のんちゃんの涼しげな感じを引き立たせてくれるから、いいと思うけどな。

「あのさ、まこっちゃん」
「ん?」
「あいぼんにね・・・奈良から来てもらおうと思ってさ。
どうせ私たち3人集まっても碌な知恵出てこないと思うけど。
今は多分、電話に出れないから・・・収録終わった後にでも、電話してさ?」

何でちゃんと加護ちゃんのスケジュールを把握してるんだろう・・・と思いつつも、頷いておく。
私の肯定の声に満足げに頷き返すと、悪戯っぽく笑いかける。

「やっぱりOLさんに、仕事中に電話するのは悪いでしょ?」

・・・加護ちゃんがOLって・・・ちゃんと出来るのか? という声は、喉の奥に押し込めておいた。
335書いた人:04/01/18 17:16 ID:ayF2KtUn

今日はここまで。
>>327辺りのIDが期せずしてズゴぼんになってしまいました。
あいぼんさんごめんなさい。

>>323 しかもあまり有意義とは言えない多忙さであり。
>>324 話が暗くならない程度にするのが、また難しく。
>>325 前が異常と言えば異常だったんですけどね。
>>326 例年のように荒れないことを祈ります。
336名無し募集中。。。 :04/01/19 08:07 ID:K3QkZjIU
>>326
何げにこの作品投票されてますね
337名無し募集中。。。:04/01/19 23:31 ID:bh7dNDgD
更新乙です。うーん。
作戦を練ったり、計画立てたりするのって大好きです。
でも10分の1も実行出来たことが無いという・・・。
338書いた人:04/01/20 01:38 ID:QJGnR1Uq

―――

収録が終わった頃には日はとっくに暮れていて、頬を刺すような冷たい風が吹いていた。
これから夜の11時まで、自由時間・・・だそうだ。
ちょっと待て、4時間自由時間ってどういうことだ。

「えっとねぇ・・・夜の1時からラジオがあるから、ね。
23時までに局に行けばいいってこと」

マネージャーさんと別れる時に、ぶつくさと口の中で呟いて教えてくれる。
そっかぁ・・・もう26歳だから、ラジオも生でできるんだよねぇ。
マネージャーさんの夕食の誘いを軽やかに断って、のんちゃんはスタジオを背に歩き始めた。

「何食べたい? ・・・っつっても、私が食べるんだけどさ。
味覚も一応シンクロしてるんでしょ? 今までずっと私の好きなもの食べてたからさ。
だったら今夜は、まこっちゃんの好みも容れてあげるよ」

まるで羽根が生えたみたいに、26歳ののんちゃんは自由で。
娘。にいた時には、こんな自由なんて考えられない。
一番年長の飯田さんだって、ここまで軽やかに動いてはいない。
339書いた人:04/01/20 01:39 ID:QJGnR1Uq

「んっとねぇ・・・かぼちゃ!!」
「言うと思ったよ」
「だってさぁ、10年後のかぼちゃ料理って、何かすっごいの出来てそうでしょ?」

何かこう・・・胃が他の物を拒絶するくらい美味しいのがあるかもしれないし。

「大して変わんないと思うけど・・・そうねぇ・・・じゃ、お野菜系の料理が多いところ知ってるから、そこ行こっか?」
「うん」
「混んでないといいけどねぇ・・・」

そう言うと携帯を再び操作して、どこかにメールを打つ。
30秒もしないでバイブが震えたのは、メールの返事がもう来たんだろう。

「ん、大丈夫だって。席とっておいてもらったから、じゃ、行こう」

もし私の実体がここにあったら、バカ丸出しの尊敬の眼差しでのんちゃんを見つめていただろう。
行くお店を決めたらすぐにその場で連絡して、そして席をとるって。
誰でも26歳になれば、こんな万能になっちゃうんだろうか。
『ヨガがあればテレポーテーションも楽勝』ってくらい、荒唐無稽な考えだってことは分かってるんだけどさ。
340書いた人:04/01/20 01:39 ID:QJGnR1Uq

―――

「そ、あいぼんは今、奈良でOLさんやってるの」

食後のコーヒーを飲みながら、のんちゃんがひとりごちる。
他のお客さんから適度に離された、窓際の席。
下のほうでごちゃごちゃと輝くイルミネーションが、まるで玩具みたいで。

しかし・・・なんだったんだろう、あれ。
この世の奇跡としか思えない料理の数々・・・かぼちゃも泣いて喜んでいることだろう。
ちなみに『かぼちゃ料理で、適当に作ってください』などという、
インドのマハラジャにしか許されないであろう頼み方だったため、料理名が分からないのが悔やまれる。

のんちゃんはコーヒーを飲みながら、いろいろとメンバーの近況を話してくれた。
芸能界に残って頑張っている人、芸能界以外のフィールドで頑張っている人、
結婚した安倍さんに、もう子どもがいるっていうのは驚いた。

「なんかねぇ・・・ふにゃふにゃしてたよ」

と言うのはのんちゃんの弁。
いや、赤ちゃんは大体ふにゃふにゃしてるぞ。
341書いた人:04/01/20 01:41 ID:ZhP/ecSw

加護ちゃんは解散後もしばらく芸能活動を続けた後、奈良に帰ったらしい。
そして向こうで就職して、結構な案件を任されるくらいの大切なポストについてるらしくて。

「あいぼんはさ、元々頭いいからね・・・うん、要領っていうか、そっち方面の賢さがあるから」
「時々会ってるの?」

私の声に、のんちゃんは寂しそうにふるふると首を横に振って、溜息をついた。

「お互いに生活ペースが全然違うからね。殆ど会えないよ。
まあ、それでも1年に何回かは会ってるけどさ」
「そっかぁ・・・寂しいね」
「そう? 環境も場所も離れてるのに、よく続くよね、うちら、っていっつも言ってるよ」

実際、そうなのかもしれない。
私だって柏崎にいたときに仲の良かった友達とも、殆ど会えない。
私が向こうに帰った時くらいかな?
それでも段々私には私の、向こうには向こうの環境が出来上がって、会いにくくなって。
342書いた人:04/01/20 01:41 ID:ZhP/ecSw

時計の針は9時を指していた。
のんちゃんは掛け時計を仰ぎ見て、そして自分の腕時計をチラッと見る。

「じゃ店出たら、あいぼんに掛けてみよっか?」
「え? お店の中で掛ければいいじゃない。外寒いよ?」

私の言葉を無視して立ち上がると、のんちゃんはまた少し笑った。

「あのね、東京で条例が出来てさ。
『携帯拒否』店で使うと、罰金になるのよ」
「そんなん出来たの!?」
「まぁ、ファーストフードとかは大体拒否店じゃないけどね。
東京じゃなくても、殆どの所でおんなじような条例あんのよ。
こういうお店では『静かさも値段の内』って言うけどね」

なるほど、伝票を見るとちょっとばっかり高めのお値段だった。
しかしどうも・・・『高い』って実感湧かないんだよなぁ、この金額表記。
343書いた人:04/01/20 01:42 ID:ZhP/ecSw

―――

お店を出て通りをまっすぐに歩いて、
もう何度も行っているんだろう、のんちゃんは公園のベンチに腰掛けた。
流石にこの時間、周りにいるのはさっさと目の前から消えてよ、ってくらいくっついたカップルばかりだけど。
今度は携帯を耳につける。やっと私が見慣れた、携帯の使い方だ。

「あいぼんはテレビ電話の方は嫌いだからね・・・」
「何で?」
「あんなん、金掛かるだけやん、だってさ」

相変わらず似てない物真似を聞きながら、呼び出し音に耳を澄ませる。
また誰も出なかったらどうしよう・・・と、

「もしもしぃ?」

『息をするのもめんどくさい』と言い放ちそうな、気だるい関西弁訛り。
ちょっと声が低くなったけど・・・加護ちゃんだ。
344書いた人:04/01/20 01:43 ID:6e08f39y

「あ、あいぼん? 私、辻だけど」
「お、久しぶりやん。どしたの?」

のんちゃんの声を聞いて、さっきの気だるさを一変、明るい声を漏らす加護ちゃん。
ここの仲の良さは、相変わらずなんだね・・・

「ちょっとややこしい話になるんだけど、今大丈夫?」
「うん、大丈夫。どしたん? 深刻そうな声して」
「うーん・・・朗報っちゃあ、朗報なんだけどねぇ」

複雑そうに苦笑い。
そりゃそうだ。間接的にこんなこと言われて、信じる人のほうが珍しいもん。

「あのさぁ・・・あさ美ちゃんの結婚式、来るでしょ?」
「うん、行くで。二日前から東京入って、前の日はののと食事する、って約束したやん」

その声に頷きながら、ちょっと困ったような笑顔。
345書いた人:04/01/20 01:44 ID:6e08f39y

「あのさ・・・それより前・・・ホント、明日にでも、こっち来て欲しいんだけど・・・」
「はぁ? なんで? もしかしてののも結婚決めたん?
来週休みとんのに今から片付けないかん仕事いくつもあるから、ちょっと難しいで」
「んとね・・・実は、まこっちゃんが・・・」

私の名前を出した瞬間、二人の呼吸が止まったように思えた。
息を呑んだままの加護ちゃんに、のんちゃんは何とかブレスをすると続ける。

「まこっちゃんがさぁ・・・来たのよ。10年前から。
つんくさんが作った、あの変な薬あったでしょ? あれの未来行くやつ使ってさ」
「・・・・・・」
「だけどさ・・・まこっちゃん、死んでるじゃない?
だから何でか知んないけど、私の身体に来てるの」
「・・・のの・・・」
「でもね・・・まこっちゃんが薬飲んだの、まこっちゃんが死んだ時間よりも後で・・・」
「ののッ!!!」
346書いた人:04/01/20 01:45 ID:6e08f39y

叫び声に反射的に携帯を耳から離して、のんちゃんは通話口を見つめた。
私も聴覚がどうにかなっちゃいそうで。

「あんなぁ、のの。変な冗談言わんといて。
分かっとるやろ? 何であさ美ちゃんがうちらを呼んだか。
せめて式の前くらい、そういうの、自重せな」
「・・・分かってるけどさぁ・・・どうしよ・・・」
「んなん、こんな電話もらった、うちがどうしよ、や」

と、のんちゃんは携帯を少し遠ざける。
そしてその光景にきょとんとした私に、小声で呟いた。

「あのさ、まこっちゃん。昼間やったみたいに、やってみてよ。
私の身体のコントロール、そっちに預けるから」
「いやいやいや・・・やれ、って言われて出来ないって、あれ」

殆ど不可能な要求なのに、のんちゃんの口調は有無を言わせないものだった。
347書いた人:04/01/20 01:47 ID:6e08f39y

今日はここまで。
ちなみに私は、ヨガテレポートを出せません。

>>336 あんなに読んでる人いるとは思わなかったです。
>>337 私は失敗することへの恐怖感が激しく、殆ど計画魔です。
348名無し募集中。。。:04/01/21 04:24 ID:LXZC/nRG
更新乙です。うーん、スリリング。
349:04/01/22 07:24 ID:FDmtJqec

350書いた人:04/01/22 18:01 ID:ZX20lvkg

やれって言われてもなぁ・・・
どうすればいい?
さっきは不安で胸が一杯になって・・・それで、なんかこう、突き抜けるような衝動があって。

冷たい空気に包まれながら、のんちゃんはじっと携帯を耳に押し付けて待っていて。
電話の向こうでは、加護ちゃんの微かな息遣い。

がんばれ、私。
いっつも頑張って、何とかしてきたじゃない。
そりゃあ、失敗もしたけど、でも・・・今がチャンスなんだから。

「のんちゃん・・・」
「・・・」

のんちゃんは返事をせずに、ひたすら心の波を治めて私が来るのに備えていて。
だから私も、『行くよ』とは声に出さなかった。
351書いた人:04/01/22 18:01 ID:ZX20lvkg

自然に、自分の手が携帯を持っているように感じて。
頬を刺す空気も、吐き出す白い息も、全て私のように感じるんだ。
伝えたい、加護ちゃんに。
10年前の不思議なこと、そしてもう、私に悩まされないでもいいんだよ、って。
私の口で、私の言葉で、私の息で、私の鼓動で、伝えたい。
今しか・・・伝えられないから。

その刹那、眼球にあたる冷たい風にハッとなる。
恐る恐る、携帯を持つ手に力を入れてみて。
耳にぎゅっと押し当てられて、少し痛かった。
・・・上手く・・・いった。

「あのさぁ・・・加護ちゃん?」
「何が加護ちゃんや。のの、今日変やで、いつものことやけど」

そうか、声はのんちゃんのままなんだもんねぇ。
身も蓋も無い言葉に、ちょっぴり肩を落としてみた。
352書いた人:04/01/22 18:02 ID:ZX20lvkg

「加護ちゃんさぁ・・・元気?」
「あんなぁ、のの。うちもそろそろブチぎれるで」
「えっとさぁ、さっきのんちゃんが言ったこと、ホントなんだぁ。
つんくさんが薬をまた作ってねぇ、それでこっちに来ちゃったんだよぉ」
「はいはい、物真似上手ぅなったことは褒めてあげるから」

ダメだ・・・効果ゼロ。
生憎10年後の加護ちゃんにとってもナイーブな話なんだろう。
どうすればいいのかなぁ・・・と、私の頭の中でのんちゃんの声がする。

「あのさぁ・・・まこっちゃん。私とあいぼんの関係をややこしくするのだけは止めてよね」
「いや、全然そんなつもり無いよぉ。どうすれば加護ちゃんに信じてもらえるんだろう?」
「のの、何ぶつくさ言っとるん? もうええ?
さっきも言うたけど仕事溜まっとって、今日も家にお持ち帰りなんよ」

あぁぁ・・・何かもう、わけ分かんない。
携帯から聴こえる加護ちゃんも、頭の中で響くのんちゃんも、どっちもブチ切れ寸前なんだもん。
今まで逆の立場で、よくのんちゃんは平気でやってこれたもんだ。
素直に感心。
353書いた人:04/01/22 18:02 ID:ZX20lvkg

って、感心してる場合じゃないよ。

「そんならもう切るで? 16日の多分夜ごろ、そっち行くから」
「あぁぁ・・・ちょっと待って! どうしよう・・・」
「何がどうしようなん? この電話のことは、ぶりんこに免じて水に流してやるから・・・
うわ! 今うち、めっちゃハイレベルな洒落言ったでぇ!
ぶりんこだけに、水に流すって・・・今年一番の出来やな」

のんちゃん・・・おっさんがいるよぉ。
関西テイストが特濃でついてしまったのか、加護ちゃんは今年の洒落のベストアワードをハイテンションで語りだした。
どうなってんだ、この人。
が、のんちゃんはこんなのもう慣れっこらしく、冷静に考えをまとめだしていて。

「うーん・・・私のほうがまこっちゃんよりもあいぼんと付き合い長いからなぁ・・・
なかなかまこっちゃんしか知らないようなこととか無いもんねぇ・・・」

いやいや、のんちゃんもなんでこの加護ちゃんを放置できんのよ。
こっちはこっちで、どうなってんだ。
354書いた人:04/01/22 18:04 ID:ICA9dxeX

「そんでな、この洒落言ってみたんけど、新卒の子にはちっとも受けんかったんよ!
やっぱりジェネレーションギャップあんのかなぁ? 
あいぼんさん的には最上級の出来なんやけど・・・」
「あ、あのねぇ・・・加護ちゃん?」
「ののも今日はしつこいなぁ・・・そんなにまこっちゃんに脳内に居て欲しいんか?」

それだけ言うと、マシンガンのような言葉が止まる。
明るかった声は一気に沈黙に吸い込まれて。
さっきのテンションはどこへやら、加護ちゃんはふぅ、と小さく息を漏らした。
それが携帯を通して、私の耳にはノイズとして聞こえてくる。

「そりゃあな・・・そんなことあったら、うちもめっちゃ嬉しいで?
まこっちゃんが昔から来てて、それで・・・なんや、紺野ちゃんの結婚式にでも出るん?
そんなんあったら、すっごく嬉しい・・・・・・けど」
「・・・・・・・・・」
「けど・・・有り得へん」

鼻をグスッとすする音が聞こえる。
最後の方は涙声になってて。
355書いた人:04/01/22 18:04 ID:ICA9dxeX

明るさで・・・カバーしてたんだね。
自分が辛いときも笑い飛ばして、人にはそんな感情の片鱗見せもしないで。
気持ちが沈んでいても、いっつも前に前に出されてたから。
たぶん、加護ちゃんが娘。にいた頃につけた力・・・それがまだ抜けないで。

「・・・あいぼんが信じないなら、無理に説得しなくてもいいよ。
それがあいぼんの昔の心を抉(えぐ)るんだったら、なるべく守ってあげたいし」

のんちゃんの呟きを私の脳味噌は逃さずに。
私自身の感情で、のんちゃんの目から涙がボロボロと零れてくる。
そうだよね、のんちゃんの言う通りだ。

「ゴメンね・・・加護ちゃん。うん、信じられないなら、それでいいよ。
でもね・・・やっぱりホントに、私はのんちゃんの中に来ちゃってるんだ・・・
でもね・・・いいよ。ごめん。
10年経った加護ちゃんはきっと素敵な人になってて、撫で回し甲斐があると思ってたけど・・・
うん・・・・・・もう忘れて」
356書いた人:04/01/22 18:06 ID:ICA9dxeX

最後の方は涙でぐずぐずになってたけど、取り敢えずこれだけ言い切る。
言いたいことはもうこれだけだから。
と、脳内と聴覚で、殆ど同時に二人の声があがる。

「ちょっとまこっちゃんさぁ、あれじゃ私がキショイ人みたいじゃん」
「ハハハ・・・のの、まるでまこっちゃんみたいにキショイこと言うなぁ・・・ん?」

いや、正確には加護ちゃんの言葉はまだ続いていたんだけど。
狐に抓まれたみたいに、加護ちゃんは言葉を繋げていく。

「・・・・・・・・・・・・あれ? ん? のの、そんなキショく無いもんな?
いくら真似しとっても、そんなキショイ部分まで真似るほど、ののも壊れとらんし・・・
もしかして・・・ホントにまこっちゃんなん?」
「・・・まこっちゃん、でかした」

のんちゃんが心の中でガッツポーズをしているのが、まるで目に見えるようだった。
しかし・・・なんだか、酷く人間の尊厳を傷つけられた気がするのは、私の気のせいか?
357書いた人:04/01/22 18:07 ID:ICA9dxeX

今日はここまで。
考えるところがありまして、ちょいと個別レスは控えます。
358名無し募集中。。。:04/01/22 23:28 ID:KCvIV/9E
更新乙です。
359名無し@ネカフェ中。。。:04/01/23 18:18 ID:ag804iVg
更新乙でした!
保全しますー。
360名無し募集中。。。:04/01/24 22:19 ID:nHxfJxGE
保全
361書いた人:04/01/24 22:20 ID:B9cV3cZE

―――

次の日も、また次の日も、のんちゃんと仕事に行って収録をこなす。
やっぱりどんなに私がいるとしても、のんちゃんの日常を変えるわけにいかないから。
私は彼女の頭の中でその様子を眺めたり、時々話してみたり。
合間合間にのんちゃんは私を色々な所へ連れて行ってくれた。
10年後のファッション、音楽、原宿・・・
そんなにがらっと変わっているわけじゃないけど、それでもびっくりすることが多くて。
のんちゃんはそんな私の様子を感じて、ニコニコ笑いながら街を歩いていた。

「でもさぁ・・・折角信じてくれたのに、加護ちゃん来てくれないんだね」

『10年後のお菓子を食べたい!』という私の要望に応えて立ち寄った洋菓子店で、
私の言葉に苺に突き刺したフォークを運ぶ手が止まる。
リキュールに漬け込んでてらてらと光る赤い粒をお皿の脇に置くと、
のんちゃんはわざとらしく窓の外に顔を向けた。

「・・・意外だった?」

晴れているけど少し風の強い中を、コートの襟を立てて早足で通り過ぎる人たち。
その誰に目を留めるでもなく、のんちゃんはただ人並みを見つめていて。
362書いた人:04/01/24 22:20 ID:B9cV3cZE

一瞬その様子に見惚(みと)れて、私は慌てて意識を会話に戻す。

「あ・・・うん。だってさ、昔の加護ちゃんだったらお仕事ほっぽりだしてでも、
のんちゃんに会いに来そうな気がして」
「・・・・・・10年前は、そうかもね」

皮肉めいた笑い。
10年後ののんちゃんがよくする、唇の端だけを上げた、あの笑い。

「そんだけさぁ、責任感ってのが出てきたんだよ。
娘。にいた頃はさ、自分がやらなくても誰かがやってくれる、って心のどこかで甘えてたけど。
でもね、社会に出ればそんなの通じないし。
あいぼんみたいに責任のある立場になっちゃうと、尚更でしょ?」
「・・・そうだけど・・・・・・でもぉ」
「ま、お仕事片付き次第すぐに来る、って言ったんだから、それでOKにしないとさ。
あいぼんに申し訳ないって」

加護ちゃんは一昨日の夜、受話器越しにそう言った。
あれから二日、まだ連絡は無い。
363書いた人:04/01/24 22:21 ID:B9cV3cZE

「まこっちゃんは考えてみた?」
「・・・う〜ん、あんまり良く分かんないけど・・・やっぱり昨日言ってたので正しいのかな?」

私の様子を見取って、さり気なく会話を変えてくる。
何故私は死んでいないのか・・・いや、私からすれば、何故私は死んだことになってるのか、だけど。
つんくさんからもやっぱり連絡が来ない今、私たち自身で考えてみる他無い。

昨晩のんちゃんは、26歳の頭脳をフル回転してこう言った。

のんちゃんの頭の中にいる私が生きていて、この時代では私が死んだことになってるってことは、
もしかして私からしたら、この時代っていうのは全く異質な未来なんじゃないか。
つまり本当なら絶対に関わらないはずの未来であって。
なのに私がここに来ちゃったのは、薬が多分不完全で・・・

「ただ、もし私が言ったのが正しいと、ちょっと怖いんだけどね」

のんちゃんの出した結論を反芻していると、そう言って彼女は舌を出す。
その茶目っ気が、すっごく懐かしい。
ほんの2・3日前に実際にこの目で見ていたのに、10年ぶりに見たような感覚。
364書いた人:04/01/24 22:22 ID:B9cV3cZE

「昨日あれから考えたんだけどさぁ、どっちかなぁ、って思ってね。
今の時間って、まこっちゃんのいた時間と全然関係ない時間のかな?
それとも、まこっちゃんのいた時間から、ずっと前に分かれた一つの未来なのかな?」
「え・・・と、何を言ってるかさえ分かんない」

しょうがないでしょ、10歳も年上の人の言うことなんか、分かんないもん。
私の半分むくれた返事を聞いて、バッグからメモを取り出すと一枚ビリッと破きとる。
そして魔法のように、さっさと線を引いていった。

一つは平行線が書いてある図。
もう一つは、一本の線が途中で枝分かれして、そのあと平行に走っている図。
ペンで上の図をトントンと指し示す。

「いい? まこっちゃんがいたのが上の線ね。で、私がいるのが下の線。
こっちだと、最初から最後まで交わんないでしょ?
つまり私たちは、そもそも全く違うところにいる人間なの・・・ここまで分かる?」

ここまで賢いのんちゃんを見ると、全く違うと思わざるを得ないよ・・・とは言えない。
私の沈黙を諾とみなしたのか、次に示すのは下の図。
365書いた人:04/01/24 22:22 ID:B9cV3cZE

「も一つはね、私たちは元々、同じ過去を持ってたの。
でも、何かの拍子で二つに分かれて・・・まこっちゃんが薬を飲むより前、ね。
で、一つの未来だとまこっちゃんは死んで、一つの未来だと死ななかった、ってこと」
「・・・で、違いは何なの?」

私の間の抜けた返事に、窓に映ったのんちゃんの表情が一気に気の抜けたものになる。
むぅ・・・そんな顔することないのになぁ。
あまつさえ『バカだなぁ、まこっちゃん』とまで言われた。
むぅ・・・心外だ。それはのんちゃんを馬鹿にするときの、加護ちゃんの専売特許だと思ってたのに。

「いや、全く関係ない未来同士だったら、それでいいんだけどね。
向こうの時代でつんくさんが解除薬飲ませれば、まこっちゃんも帰れるでしょ?
それだったら、まこっちゃんが帰ればそれで終わりなんだけど・・・」
「けど?」
「もしさぁ、私たちが分岐した別の未来の人間だったら、何でまこっちゃんはここに来たの?
だってさぁ、未来の分かれ道なんて無限にあるはずなんだよ。
今私がこのお菓子じゃなくて、別の・・・例えばザッハトルテを頼んだかもしれない、
そんな些細な分岐だってあるはずなんだよ?
それなのになんでわざわざ、まこっちゃんが死んだ未来にまこっちゃんは来てんの?」
「さぁ? ・・・・・・偶然?」
「だといいんだけどねぇ」

漏らした溜息で、のんちゃんの目の前のガラスが曇った。
そして私には、のんちゃんがなんで溜息を漏らしたのかさえ、さっぱり分からなかったのだ。
366書いた人:04/01/24 22:24 ID:B9cV3cZE

今日はここまで。
ちと早いですが、安倍さん今までお疲れ様、そしてこれからも頑張ってください。
367名無し募集中。。。:04/01/25 01:53 ID:7QQ8rf0c
更新乙です。
368名名名無し:04/01/26 01:19 ID:u9O0MabO
更新乙。
369名無し募集中。。。:04/01/27 20:39 ID:XTir3+At
保全
370名無し募集中。。。:04/01/28 19:07 ID:EmN+xPPB
保全
371名無し募集中。。。:04/01/29 18:55 ID:2YdTCl2V
本当なら絶対に関わらないはずの未来から期待保全
372書いた人:04/01/29 20:36 ID:APL8pvC3

―――

夜。
今日も結局、つんくさんからも加護ちゃんからも連絡は無かった。
私はただ漫然と、のんちゃんの頭の中にいるだけで、それがもどかしい。

「のんちゃんさぁ、何で昼間、溜息ついたのよぉ?」

ストーブのファンが静かに回っている。
お風呂から出て・・・当然私はその間、ずっと目をつぶらされていたんだけど・・・
パジャマに着替えたのんちゃんは、化粧水をペシペシと顔に叩き付けている所で。

喉に刺さった小骨みたいに突っかかっていたこと。
昼間確かに、のんちゃんは溜息をついた。
『何で私がこの未来に来ちゃったのか』・・・その理由が分からない私についた溜息なのか、
それとももっと、別の理由なのか。
タオルで手を拭き取ると、『よし』と呟いて、鏡に向かってふっと笑う。

「溜息なんかついたっけ・・・? 覚えてないけど」
「ついたじゃんさぁ・・・あのケーキ屋さんで、何でこの未来に来たのか私には分かんない、って言ったときに」
「そうだっけ?」
「覚えてないならいいけどさぁ」
373書いた人:04/01/29 20:37 ID:APL8pvC3

私の問いに笑顔を絶やさないまま、さっさと化粧道具を片付け始める。
化粧道具もよく整理されてて、この変わり具合を見る限り、私の知ってるのんちゃんとは別人みたいだけど。

そうなのだ、この10年後が私のいた10年前と全く違うものでも、過去を共有していたとしても、
それでもつんくさんが元の時代で私に処置をすれば、すんなり帰れるはずだもん。
この薬もどうやら失敗作である以上、ホントに帰れるか、っていう保証は無いけどさ。
その辺は信じなくちゃしょうがない。

のんちゃんと昨日一晩中話して良く分かった。
お互いに思い違いが無ければ、やっぱり私たちは全く違う12月18日を過ごしている。
私とあさ美ちゃんは仲直りしてるし、大体のんちゃんがその仲裁に入った覚えも無いらしい。
そしてその夜、私はつんくさんのところではなく、あさ美ちゃんと買い物に行ってるってことも。
でもそれより前の記憶をたどってみても、大した違いは見当たらなくって。

・・・ってことは、やっぱり私たちは、同じ過去を辿ってたのかな?
二人の意見が一致しかけた瞬間、のんちゃんは大きく首を振ったのだった。
374書いた人:04/01/29 20:37 ID:APL8pvC3

―――

「でもさぁ・・・私たちが過去に行ったとき、ちょっとだけ未来が変わったでしょ?」
「そう? だって私はあさ美ちゃんの鉄拳制裁で、結局全治二週間だったよ」
「いや、そこは変わらなかったけどさ、でも私がお菓子で注意されまくってたのとか、
あいぼんの前髪が妙に多かったりとか、あさ美ちゃんが娘。ヲタになってたりとかさ・・・」
「そういやぁ、変わってたねぇ」
「・・・・・・呑気だねぇ。
ってことはさ、私たちが出発したときの2003年はどこ行ったのよ?」
「さぁ? のんちゃんたちが2000年に色々やったから、変わっちゃったんじゃないの?」

机に片肘をついて、その上に頬を乗せてのんちゃんは唇を尖らせる。

「でもね、私たちが出発したのは、そうじゃない方の2003年だったのよ?
もしまこっちゃんが死んだ未来とそうじゃない未来が両方ありうるなら、
私たちが出発したときの2003年だって、あったっておかしくないんじゃないの?
なのになんで、変わったほうの未来に帰ったんだろ?
もし私たちが同じ過去を過ごしてたとして、そこから分かれた先の未来にいるんだったら、10年前のことって説明・・・できるのかな? 難しすぎてよくわかんないんだけど・・・
まこっちゃんの言うみたいに未来が変わるんだったら、何で私たちの未来は並行に存在するの?」

結局二人とも、この答えを出せずに昨日は寝たんだった。
そして昼間、あのお菓子屋さんでの会話以外は、のんちゃんはあの手の話をしなくなった。
375書いた人:04/01/29 20:38 ID:APL8pvC3

ただ一つ、のんちゃんが携帯を確かめる時間が妙に増えた。
仕事が終わったあと、いつもだったらしばらくマネージャーさんと打ち合わせに入るのに、
すぐに携帯を取り上げて、熱心に着信履歴を調べる。
そして・・・その打ち合わせの最中であっても、ちらちらと携帯の窓を見つめる。
注意しようかと思ったけど、そのときはやめておいた。
どこか・・・その落ち着きのないところに、10年前の彼女の片鱗を見たからかもしれない。

「ちょっとぉ・・・辻ぃ、ちゃんと打ち合わせやってよ」
「へへ・・・ゴメン・・・ちょっと・・・ね」
「もしかして、男?」

『違うよぉ!!』と真っ赤になって否定するのんちゃんもどこか懐かしくて。
まあ、そのあとに『週刊誌とか、気をつけなさいよ』という言葉が続いたのにびっくりしたんだけどさ。
すげぇ・・・恋愛すらオッケーになったんだ・・・
26歳で禁止もおかしいもんね、当たり前と言えば当たり前か。
376書いた人:04/01/29 20:41 ID:9x1se8sn

―――

そんなところを除けば、のんちゃんはごく普通の生活を送っている。
あさ美ちゃんの結婚式を控えてるって言っても、特にこれといった準備もないんだろう。
今ごろはあさ美ちゃんは、てんてこ舞いなんだろうなぁ・・・
あの窮地に陥ったときの、あたふたと困った人形みたいな動作が目に浮かぶ。
多分『あぁぁぁ』とかよく分かんない音声を口に出しながら、目を泳がせているんだろう。
この時代のあさ美ちゃんに会ってみたい、という考えはけして口にはしなかった。

今ここであさ美ちゃんのことを口にするのは、どこか気が引けたのだ。
別にのんちゃんとあさ美ちゃんが喧嘩しているわけでもないし、
まあ、そりゃあ確かに10年間殆ど連絡してないみたいだから、聞いたところで無駄だろうけど。
でもそれ以外に、どこか、あさ美ちゃんの話になったときに、のんちゃんの頬に走る緊張感を感じたからだ。
こうして上機嫌にベッドに入る前のひと時を過ごしているのんちゃんからは想像もつかないけれど、確かに存在する緊張。
外から見たら気付かないだろう、私がのんちゃんの身体にいるからこそ感じるものなのかもしれない。
あさ美ちゃんの話題になったときには必ず、どこか首筋にひんやりとしたものを感じるのだ。
377書いた人:04/01/29 20:42 ID:9x1se8sn

「私はもう寝るけど・・・まこっちゃん、どうする?」

ご機嫌に音を奏で続けていたヘッドホンを外す。
私とのんちゃんの生活リズムは必ずしも一定じゃないから。
私が寝ているときに既にのんちゃんが活動していることもあれば、その逆もあるってわけ。

「んー・・・ちょっとしばらく、考えごとしてるよ」
「そう? 明日ちょっと早いから、私もう寝るからね・・・くれぐれも・・・」
「・・・寝てる間に勝手に身体使うな、でしょ? 分かってるよ」

比較的スムーズに身体のコントロールが出来るって分かった後、これだけは約束したんだ。
私だってのんちゃんに迷惑をかけるつもりもないし。
のんちゃんはいつも寝るときに念を押すけど、正直、神経質すぎるような気がする。
まぁ・・・勝手に体使われる不気味さからすれば、しょうがないよね。

「まこっちゃんさぁ、やっぱりつんくさんに聞かないとわけ分かんないんだから。
あんまり深く考えすぎない方がいいよ?」
「・・・・・・ん、ありがと」

部屋の電気を落として目を閉じた途端、のんちゃんの寝息が聞こえてきた。
凄いなぁ・・・のび太並に寝付き早いんだけど・・・
あんまり未来に関わりすぎてもしょうがないね。
のんちゃんだって、あさ美ちゃんが立ち直れるように頑張ってくれそうだし・・・
そう、私はあくまでも、何で私が死んじゃってて、何で私が生きてるか、それだけ分かればいいんだから。

のんちゃんの寝息に引きずり込まれるように、私の意識も徐々に薄らいでいった。
378書いた人:04/01/29 20:43 ID:9x1se8sn

今日はここまで。間空けてごめんなさい。
先日2chやってて初めて祭りに遭遇しましたが、面白いもんですね。
379名無し募集中。。。:04/01/30 00:29 ID:3PcT2h+c
更新乙です。
現在も新鯖獲得祭りが行われていますね。
380名無し募集中。。。:04/01/30 02:22 ID:40sIHIM0
いろいろ騒ぎとかあったので更新きびしいかな、とドキドキしてましたが、
無事?続きが。有難うございます。今後の展開も楽しみに。
381名無し募集中。。。:04/01/31 00:51 ID:iiuI202v
お待ちしております。
382書いた人:04/01/31 15:21 ID:M/lT/SwW

―――

「・・・・・・れは・・・分かってるよ・・・でもさ・・・」

あれ・・・?
やばいッ!! 寝すぎた!!

が、視界に飛び込んできたのは、テーブルの上のベーグルとコーヒー。
コーヒーの湯気がやわらかく上がって、サラダにフォークが刺さったまま。
ん・・・・・・そうか、私まだのんちゃんの頭の中にいるんだった。

「・・・そんなこと言うたって、いつまでもごまかせるもんちゃうで?
どうせ結婚式の時になったら、ののも紺野ちゃんに会わないかんのちゃう?」
「・・・ん・・・そうなんだけど・・・ね」

あれ・・・? 電話中・・・かな?
次第にハッキリしてくる意識が、周りの状況を整理し始めて。
耳に押し当てている冷たい機械は、電話中なのかな?
私が起きたことに気付かないのか、のんちゃんは電話を続けていた。
しょっちゅうテーブルの上に伏せられる視線が、どこか物憂げで。
383書いた人:04/01/31 15:22 ID:M/lT/SwW

「・・・ゴメン、うちそろそろ車乗らないかんから、もう切んよ?
とにかく、今日中には行けるように頑張るから・・・ののも、考えてみてや・・・」
「・・・あ、あいぼん・・・・・・」

あとに聴こえてくるのは、通話が切れたあとの機械的な音。
のんちゃんはその音をしばらく聞いた後、溜息をつきながら携帯をしまった。
しばらく・・・目の前の朝食に手をつけもしないで、カフェの外に見える街路樹を見つめる。
弱ったなぁ・・・起きた、って伝えるチャンスを完璧に逃したんだけど・・・

まだ8時前なんだろう・・・どこか朝なのに薄暗い景色。
それに溜息をついて食卓に目を戻したのんちゃんは、もそもそとベーグルをつまんだ。
今日の仕事は早い、って言ってたから・・・もう仕事場に来てるんだろう。
よくよく見れば、この4日間の間にも何度か来た、テレビ局のカフェだった。

あ〜、なんかもの苦しいなぁ。
灰色の空もそうだけど、何よりのんちゃんの感情状態が妙にブルーだからかもしれない。
384書いた人:04/01/31 15:22 ID:M/lT/SwW

よし・・・今起きたってことにしよう。
ごく自然に、ごく普通に・・・今ならオスカーも狙えるような演技が出来そうな気がする。
頑張れ、私。

「・・・・・・あ、あれ?」
「・・・ん・・・まこっちゃん、起きた?」
「うん、おはよう」

なんつーのかなぁ? 自分に惚れた。
外見が見えないからかもしれないけど、完璧に信じ込ませることが出来たみたいで。
ごく自然に・・・自然に・・・

「なんかさぁ・・・さっき、電話してた?」

その刹那、のんちゃんの皮膚の表面に汗が一気に浮かんだような気がした。
いや、多分冷や汗だろう・・・起きたばかりの私には、少し寒すぎる冷や汗。
視線はカフェの入り口やら窓の外やら、いたるところを彷徨う。

「まこっちゃん・・・聞いてたの?」
「え? ううん・・・何か夢の中でそんな風だったような気がして・・・」
「そっか・・・うん、さっきあいぼんから電話あってさ。
今日中にもしかしたら来れるかも、だって」
385書いた人:04/01/31 15:22 ID:M/lT/SwW

取り繕うかのように根元が無いのんちゃんの言葉は、一瞬で裏にある何かを予想させた。
さっきの電話・・・絶対、それ以外の何かで揉めていたと思うんだけど・・・
でもそれをストレートに突っ込むのはやっぱり勇気がいる。
加護ちゃんが来ることに喜びながら、私は少し訝しく思うと同時に、妙な詮索をして疑念を持った自分に後悔していた。
そんな私のことは予想もつかないのか、のんちゃんはしばらくして、またいつもの調子に戻ったみたいだった。

「このベーグル、美味しいでしょ?」
「うん、なんかねぇ・・・食べたことないやつだよ、これ」
「そりゃないよ・・・この会社が出来たのが、5年前だからね・・・」
「すごいねぇ・・・ベーグル通だねぇ、のんちゃん」
「嫌な通だね、それ」

どうやら既に収録は始まってて、今は朝ご飯の休憩、ということらしかった。
結構多めに時間を貰えたんだろう、テーブルの上を征服した後も、のんちゃんはのんびりと外を眺めて、行き交うコート姿のサラリーマンの群れを目で追っていた。
386書いた人:04/01/31 15:24 ID:Ppq4bzVt

朝なのにこんなにゆっくりした景色って初めてだなぁ・・・
時間とともに店内も少し混んできたけれど、その忙しさが私たちに伝わることもなくて。
一瞬、のんちゃんが店内のざわめきに反応したように感じた。

「どしたの?」
「いや、今、名前を呼ばれた気がした」
「私には聞こえなかったよ」

が、次の瞬間、

「ののぉ〜!!」

今度は私に聞こえた無遠慮な大声に、のんちゃんが、いや、店内の誰もが目を向ける。
・・・え? モモレンジャー?
全身タイツかと一瞬見紛(みまが)うほどの衣装・・・
いや、正しくは身体の線を強調しただけなんだけど・・・
まだお店に入ったばかりでかなり離れてはいるけれど、あのファッションで全てが分かる。

「石川さん・・・・・・30前でもまだあの格好なの?」
「痛いでしょ? もうみんな諦めてるけどね」
「あ、でも・・・やっぱり凄く綺麗だなぁ・・・」
「そうなんだけどねぇ・・・惜しいよねぇ・・・」
387書いた人:04/01/31 15:25 ID:Ppq4bzVt

テーブルに肘をついたまま、のんちゃんはぼんやりと石川さんを迎える。
石川さんは10年前と全く変わってなくて。
朝から何がそんなに楽しいのか、ご主人の前で尻尾を振る犬みたいに微笑んでいた。

「梨華ちゃんさぁ・・・他のお客さんいるんだから」
「あれ? 随分生意気な口聞くじゃない・・・一月ぶりだって言うのにさぁ・・・」
「うん、お久しぶり」

石川さんも芸能界で頑張ってたんだなぁ・・・
ちっとも落ち着きが見られないけど、それでも眉間の辺りに年齢と色っぽさを感じちゃう。
二人の会話の邪魔にならないように、黙って彼女を必死に観察してみる。
うーん・・・綺麗なんだけどなぁ・・・どこか、違うんだよなぁ・・・

さも当然のようにのんちゃんの向かいに腰を下ろすと、ウェイトレスにサラダだけ注文する。
本当に生きてるのが楽しい、ってくらいのテンション。
388書いた人:04/01/31 15:25 ID:Ppq4bzVt

「今日はもう入ってるの?」
「うん、5時入りだったよ・・・梨華ちゃんは?」
「私はこれから・・・」

運ばれてきたサラダを、反芻するみたいにゆっくりと食道に送り込んでいる。
明らかに周囲からは浮き上がっているのに、既にこのピンク色に目が慣れてきた自分が怖い。
まあ、10年前にもう見飽きてる、って言うのもあるかもしれないけど。
頼むから・・・マネキン丸ごと買いとかしてくださいよ。

「あ、そうそう・・・結婚式ね、全員来るらしいよ。つんくさん以外は・・・」

サラダボールのアスパラガスをフォークで弄りながら、妖艶といってもいい視線を向ける。
意味もなく、何故か私がドキドキした。

「紺野から・・・いつかな? 電話あってね。喜んでたよ。みんな来てくれるんですよ!! って」
「・・・・・・」
389書いた人:04/01/31 15:26 ID:Ppq4bzVt

また、あれだ。
のんちゃんの頬の辺りが、微かに震え始めた。
首筋の辺りがさぁ、っと冷たくなる。
その様子に気付いているのかわかんないけど、石川さんはなお、上目づかいを崩さない。

「それでね・・・」
「・・・」
「一番喜んでたのは、ののが行く、って返事したことだ、って言ってたよ。
『のんちゃんも来てくれるんですよ!!』って・・・あのぽやぽやした声で、すっごく嬉しそうだった」
「・・・・・・」

機械的にのんちゃんが頷いているのが分かる。
一瞬、石川さんが切なげに目を細めた。
サラダに目を落とした後、唾を飲み込んで、もう一度顔を上げる。

「出来たらでいいから・・・・・・謝んなよ・・・ね?」

石川さんのその目は、今まで見たどんな時よりも強さを持っていて。
のんちゃんは・・・コーヒーカップを持ったまま、その目を見つめ続けていた。
手が少し震えているのが分かった。
390書いた人:04/01/31 15:27 ID:0xEZwsy+

どれくらいそうしていただろう。

「・・・ッ!! なんで!?」

喉の奥から搾り出すような、嗚咽みたいな声がのんちゃんの口から出たのに、私はさして驚かなかった。
加護ちゃんとの電話の最後の部分が、少し見えたような気がして。
その問いに、精一杯石川さんは微笑んで返した。

「多分・・・私以外の誰も気付いてないよ。
あの時・・・小川の出棺が終わった後ね、私・・・トイレで聞いたんだ。
隣から紺野の泣き声が聞こえてさ・・・すぐに慰めようと思ったんだけど、聞こえたの。
『のんちゃん・・・ゴメンね』って。
日ごろ空気が読めないからその反動かもね・・・すぐに・・・気付いたの。
詳しいことは知らないけど・・・でも、何かがあったんじゃないかなぁ、って。
私たちが離れた、あの15分の間に何かが・・・」
391書いた人:04/01/31 15:28 ID:0xEZwsy+


「それじゃ、紺野の結婚式で、ね?」

という言葉を残して石川さんが去った後も、ずっとのんちゃんはカップを持ったまま虚空を見ていた。
石川さんの言葉からは、私はさっぱり何もわからなくて。
何がのんちゃんをここまで呆然とさせているのか分からないけど、でも、収録が再開する時間が近い。
遠慮がちに声をかけてみる。

「・・・・・・のんちゃん、収録始まるよ?」

突然耳元で大声を上げられたみたいに、のんちゃんはビクッと肩を震わせた。

「だから・・・収録、もうすぐ始まっちゃうよ?」

私の声に時計を確かめると、のんちゃんはテーブルの隅をじっと見詰めた。

「あのさ・・・まこっちゃん・・・」
「?」
「まだね、まこっちゃんに・・・言ってない部分があるんだ・・・」

のんちゃんが拳を握り締めて、爪が掌に食い込む。

「今はちょっと時間がないけど・・・すぐ、収録終わったらすぐに話すから・・・
だからちょっとだけ、待たせるけど・・・必ず言うから」
「・・・うん、待つよ」

私の声にのんちゃんがぎこちなく笑った。
ぎこちないけれど、この数十分では最高の笑顔だった。
392書いた人:04/01/31 15:30 ID:0xEZwsy+

今日はここまで。
一応私も投票してきました。
詳しくは下記参照、ということで。

【敵は】新鯖争奪スレ本部@羊【ラウンコ】
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1075177456/
393名無し募集中。。。:04/02/01 00:28 ID:YrYuPQ7Y
更新乙です。
394名無し募集中。。。:04/02/01 00:32 ID:vs8WkHfR
更新乙かれさまです。変な表現ですが、
紙芝居を見る子どもみたいな気持ちで、続きも楽しみにしています。
395名無し募集中。。。:04/02/02 02:27 ID:cGhUagW/
保全
396ねぇ、名乗って :04/02/03 00:16 ID:jO51Abrl
ぎこちなく保全
397書いた人:04/02/03 03:17 ID:6SEuVbF1

――― 2003年12月22日 


「辻・・・紺野・・・。もし来れるんだったらさ、最後だから・・・・・・おいでよ・・・ね?」

やぐっさんのその言葉に、私も紺野ちゃんも微動たりともしなかった。
二人とも控え室の畳に座ったまま、テーブルの上の砂時計をずっと見続けて。
微かな溜息が聞こえたけれど、それはいつもやぐっさんがするような、苛立ちを含んだものではなかった。
しばらく背中に寂しげな視線を感じたけれど、すぐにドアが閉まる音がした。

私も紺野ちゃんも、泣いていなかった。
いや、一声も発していなかった。
白い壁と緑の畳に包まれた部屋の中で、耳鳴りみたいな音だけが聞こえていて・・・
それが砂時計の砂が落ちる音だって気付いたのは、かなり時間が経ったあとだった。
398書いた人:04/02/03 03:18 ID:6SEuVbF1

こんなに静かな部屋の中にいても、頭の中ではこの3日間のことが渦巻いていた。
いや、静かな部屋にいるからこそかもしれない。
まるで実際にすぐそこで起こっているみたいに、音だけが私の頭の中で繰り返されていた。

深夜にマネージャーから来た電話。
暗くて長い病院の廊下を走る、私たちの靴音。
廊下の長椅子でうずくまる、つんくさんの漏らした溜息。
誰かが卒倒して、そして誰かがそれを受け止めた時の衣擦れ。
気違いとしか思えない人たちの切る、シャッター。
3分後には明るい話題を出すくせに、表面的に悲しんで見せるテレビの音声。
誰かの嗚咽、誰かの泣き声、誰かの叫び声。
それのBGMみたいに流れる、お経の声と鉦(かね)の音。

・・・・・・紺野ちゃんの声は、一切聞こえていなかった。

一瞬顔をあげた私に見えたのは、砂が落ちた砂時計を、ゆったりとした、でも無駄のない動作でひっくり返す紺野ちゃんだった。
事務的な目つきで仕事を終えると、また一粒一粒を数えるかのように、砂の流れを見詰める。

紺野ちゃんはこの3日間、一声も発していなかった。
399書いた人:04/02/03 03:18 ID:6SEuVbF1

私といえば、まこっちゃんはなんで死んだんだろう。
その馬鹿げた問いを、心の中で繰り返すだけで。

まこっちゃんをはねた車のドライバーのせい?
その人は車道に赤信号なのに出てきたまこっちゃんをはねた後、すぐに止まって必要なことをしたらしい。
私も一度だけ病院で、泣きながらつんくさんに謝っているその人を見掛けた。
20代半ばくらいのその人は、本当は大きい体格かもしれないけど、びっくりするほど小さく見えて。

今日もお葬式に行きたい、って本当は言ってたらしい。
でも・・・まこっちゃんのお父さんたちが断ったって聞いた。
お葬式であなたの顔を見て、そしてあなたに泣かれると、余計に悲しくなるから、お願いですから、って断ったって。
その人に異常な敵意の目を向ける人もいたけれど、でも私にはそう見えなかった。
裁判とか知らないけれど、まこっちゃんが死んだのはその人のせい、で終われると思わなかった。
400書いた人:04/02/03 03:19 ID:6SEuVbF1

もちろん、その場にいた紺野ちゃんのせいなわけがない。
紺野ちゃんはずっと押し黙ったままだから、なんでまこっちゃんが車道に出ちゃったのか、分からないままだった。
赤信号を見落としたのかもしれないし、いつもみたいにボーっとしてたからかもしれないし。
でもそんなことは、もうどうでもよくて。
とにかく紺野ちゃんがそこで、何かをしなくちゃいけなかったわけじゃない。

じゃあ、なんでまこっちゃんは死んだんだろう?
頭では分かっていた。
まこっちゃんと紺野ちゃんがたまたま買い物帰りで。
たまたまあの交差点を二人が通って。
そこに偶然、あの人が車で通りかかって。
色んなそういう偶然で、それで・・・・・・まこっちゃんが死んだ。
分かってはいたのに、ちっとも納得いかなかった。
401書いた人:04/02/03 03:19 ID:6SEuVbF1

砂時計を見ているだけで到底昇華できる想いではなくて。
気が付いたときには、声に出ていた。
そしてそれに気が付いてもなお、言葉を止められなかった。

「まこっちゃん・・・なんで死んじゃったんだろ」

紺野ちゃんは答えなかった。
いや微動たりともせず、じっと砂を見詰める視線を変えなかった。
私も紺野ちゃんの答えを求めてはいなかったと、今は思う。
自分の心の中のものを、吐き出せさえすればよかったんだから。

「まこっちゃん・・・なんで死んじゃったんだろう」
「この間まで、あんなに元気だったのに」
「・・・なんで、こうなったんだろう」

やっぱり紺野ちゃんは答えなかった。
到底答えられることではないし、私も別に答えてくれるとも思っていなかった。
砂時計の砂が、尽きた。

その時。
402書いた人:04/02/03 03:20 ID:6SEuVbF1

さっきと寸分違わない動作で、目つきで、表情で、砂時計をひっくり返すと、
紺野ちゃんは初めて視線を砂時計から外した。
それでも私にその視線を向けることはなくて、テーブルの端をじっと見詰めていて。
エアコンが再起動した音が、微かに聴こえる。

ごくっと唾を飲むと、紺野ちゃんは顔を上げて。
ただでさえ白いその肌が、ますます白く、殆ど透明にさえ見えた。

「・・・・・・なんで・・・私、守れなかったんだろう・・・」

紺野ちゃんの声は薄く掠(かす)れて。
リップの上からでも、その唇が蒼いのが分かる。

「・・・・・・私、ホントに何も出来なかったのかな・・・」
「・・・そんなことないよ」
403書いた人:04/02/03 03:21 ID:vlxR3qvA

色々あったのに。
もっともっと、言葉に出したかったのに。
紺野ちゃんのせいじゃない、誰のせいでも・・・ないんだ。
喉から出かかった声は、何故か押し止められて。

「・・・・・・ううん、いいの」

首をふるふると横に振ると、長い前髪が彼女の表情を隠して。
詰まった声で、紺野ちゃんが泣いているのが分かった。

「いいの、だって・・・分かってるもん。
私がまこっちゃんと一緒にいたから、一緒にお買い物に行ったから、
ちょっと何か食べたいって言って、寄り道していこう、って言ったから、
それで・・・あの交差点を通ったから・・・だから・・・」

俯いたまま、紺野ちゃんは泣いた。
髪で顔を隠していても、鼻をすするのが聞こえてくる。

「誰もそんなこと、思ってないよ」

我ながら下手な慰め方だって思ったけど、これしか言えなかった。
が、紺野ちゃんは顔を上げると自嘲気味に笑った。
404書いた人:04/02/03 03:21 ID:vlxR3qvA

「いいよ、無理しなくて。本当のことだから」

ただ腹が立った。
その言葉にも、自嘲にも。
誰もそんなこと思ってない、それは事実なのに。
それを素直に受け入れてくれない、紺野ちゃんのひねくれた所にも。
紺野ちゃんも数日ぶりに出した言葉は、止まらないみたいで。

「分かってるよ・・・みんな心のどこかで、思ってるに違いないから。
そうでしょ? なんで帰り道と逆の方向に進んだんだろう。
なんですぐ横を歩いてたのに、まこっちゃんを助けられなかったんだろう。
・・・・・・なんで、私じゃなくて、まこっちゃんなんだろう」

言い終わったとき、紺野ちゃんは笑った。
顔全体で笑っていた、なのに、最高にムカツク笑顔だった。

・・・ぱぁーん・・・

乾いた音と頬を抑えて下を向く紺野ちゃんに、自分が紺野ちゃんをひっぱたいたって初めて気付いた。
手が、痺れた。
405書いた人:04/02/03 03:22 ID:vlxR3qvA

一瞬自分の右手の掌を見たら、少し赤くなっていて。
同じくらい、いやもっと、紺野ちゃんの頬も赤くなっているのが指の間から見えた。

「そんなこと言わないでよ!! 誰もそんなこと、思ってなんかないよ・・・誰も・・・」

詰まる言葉に口元を拭うと手が濡れて、自分が泣いているのに気付いた。
構わずに・・・泣いていることにも、詰まって言葉にならないのも、紺野ちゃんがずっと俯いているのにも、何にも構わずに続ける。

「何でそんな風に言うの? まこっちゃんが死んだのなんて、誰のせいでもないのに・・・
なのになんで、自分のせいだとか、自分じゃなかったんだろうか、とか言うの?
・・・・・・紺野ちゃんがそんなんじゃ、まこっちゃんだって怒るよ!!
そんな紺野ちゃんなんか、大ッ嫌いなんだから!!」

言った瞬間に、拙(まず)いと思った。
この場でまこっちゃんのことを引き合いに出すべきじゃなかった。
でも口から出た言葉は、とうに紺野ちゃんの鼓膜を震わせて。
紺野ちゃんは両手で顔を抑えて、部屋から出て行った。

私は・・・・・・後を追えなかった。
砂時計の砂が落ちきっていたけれど、私はそれをひっくり返さなかった。
406書いた人:04/02/03 03:23 ID:vlxR3qvA

―――

「・・・でもさ、のんちゃんが悪いわけじゃないよ」
「うん・・・それは分かってるよ・・・でもね」

昼下がり、テレビ局の近くの公園で、のんちゃんはブランコに座ったまま薄曇りの空を見た。
カラスが何羽か、飛んでいくのが小さく見えて。

「でもね、今なら分かるんだ。なんで紺野ちゃんが、自分のせいにしたかって。
自責の念、とかあると思うけど・・・でもそれ以上に、まこっちゃんが死んだことの意味を探してたんだと思う」
「?」
「だから・・・まこっちゃんが何で死んだのか、何で死ななくちゃいけなかったのか、
分からないでいるよりは、それを自分のせいにしたかったんだと思う」
「よく分かんないなぁ・・・」
「その方がね、救いがあるんだよ、絶対」

コンビニで買ってきた缶紅茶を両手で包んで、のんちゃんはもう一度目線を下に落とした。

「私はね、謝んないといけないと思うんだ。
紺野ちゃんの気持ちを拾えなかったのは勿論だけど、叩いたことにも・・・ね」
407書いた人:04/02/03 03:23 ID:vlxR3qvA

自分のせいにしてそれで終わらせようとしてるのは、のんちゃんも一緒じゃないか。
そう思ったけれど、口にすることは止めた。
のんちゃん自身が気付いているような気もするし。

「でもね・・・やっぱり謝れなかったんだ。この10年間。
嫌ってほど携帯電話とか発達してるのに、ね。それでも無理だった。
だから・・・正直、結婚式のときにも謝れるかって言うと、自信は無いよ」
「でもさぁ・・・」
「謝る必要無い、って言うんでしょ? どうなんだろうね。
あいぼんは、『ののの気持ちの整理のために、謝れや』って言うけど。
まぁ・・・梨華ちゃんがああ捉えるのも無理ないけどね・・・
もう帰ろう? 風が出てきた」

そう呟いて、ブランコを飛び降りる。
さすが石川さん、10年経ってもやっぱり筋違いなこと言っちゃってるなぁ。
正直私には、どっちが正しくてどっちが悪いかなんて分からない。
そもそもそう割り切れるかだって、あやふやなんだから。
こればっかりは、10年後の二人次第って所かなぁ・・・
408書いた人:04/02/03 03:24 ID:vlxR3qvA

と、バッグの中のバイブ音にのんちゃんが急いで携帯を取り出す。
文面を読んで私とのんちゃんが笑ったのは、多分同時だっただろう。

「しっかし・・・味も素っ気もないねぇ・・・」
「30過ぎにもなって絵文字だらけのメール打ってくるやぐっさんより、数倍マシだよ」


【送信元:あいぼん
 仕事カタがつきそうな感じなので、今日中にそっち行く。
 新幹線乗ったらまたメールするから、駅に迎えに来てや。
 迎えに来なかったら、多分泣く。まこっちゃんによろしく】
409書いた人:04/02/03 03:27 ID:vlxR3qvA

今日はここまで。
連投規制、5/15に緩和されたんですね。快適でした。
回線いちいち切ってる身には、あまり関係が無いと言えば無いんですけど。
410名無し募集中。。。:04/02/03 20:43 ID:z0pQPtcm
411ねぇ、名乗って:04/02/03 21:19 ID:KYwHKoIf
更新乙です。
412ねぇ、名乗って:04/02/04 00:45 ID:SHjF6/TQ
ぼんの髪の毛が今より薄くなってない事を祈ってます
413ねぇ、名乗って:04/02/04 01:54 ID:fesoYxxr
堪能しました
414ねぇ、名乗って:04/02/05 01:15 ID:P16C5mSA
保全
415書いた人:04/02/05 19:14 ID:HW6TSnlL

すいません、人生の修羅場が明日から始まるので、
三日ほどお休みさせてください。
416名無し募集中。。。:04/02/05 19:41 ID:1TGFJcEY
一言

「生きて還って来るんだぞ!(小説楽しみにしてるんだから)」
417名無し募集中。。。:04/02/05 20:55 ID:hIgy7tzZ
受かれまくりの人生ガンガレー
418名無し募集中。。。 :04/02/06 20:10 ID:t7WKfP9E
ho
419名無し募集中。。。:04/02/07 09:21 ID:HHVetSHA
>>ID:CNHSv/0W
このスレの順番が来る前に言っておく。
小説スレはsage進行が慣例だ。ageるな。
420ねぇ、名乗って:04/02/07 09:25 ID:CNHSv/0W
水着でも着なきゃ注目されないからだろ
421名無し@ネカフェ中。。。:04/02/07 17:29 ID:56QpTB/0
更新乙ですー
2週間ぶりに保全〜
422ねぇ、名乗って:04/02/08 00:53 ID:pfgW0/uF
娘で抜いたら、報告しる。
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1076147253/l50
423ねぇ、名乗って:04/02/08 21:42 ID:WssraPwA
ze
424書いた人:04/02/09 16:15 ID:UTADwMeU

―――

「・・・って、何で東京駅?」
「いや、だってさ・・・あいぼん、東京は怖くて一人で歩けん、とか言うし・・・」

恐ろしい勢いで通り過ぎる人波を前に、溜息混じりにのんちゃんが呟いた。
東京駅の方が遥かに人が多くて怖いと思うんだけどなぁ・・・
大体娘。にいた時は、平気で東京だろうが原宿だろうが歩いてたのにね・・・
新幹線改札口の出口の本屋さんで、ファッション誌を立ち読みしながら、時折外に目を移す。

「いつもね・・・あいぼんが来る時は、ここで待ち合わせてるんだ。
改札口で待つと目立つしねぇ・・・」
「待合所とか使えばいいじゃない」
「でもさぁ、どうしたって目立つじゃん? 
それ以前にあいぼん、『あんな不気味な鈴で待ち合わせは真っ平』とか言ってたし」
「銀の鈴かぁ・・・まだあるんだ」

他愛も無い会話をしながら、私は考えていた。
どうなってるんだろ、加護ちゃん。
425書いた人:04/02/09 16:16 ID:UTADwMeU

石川さんはあまり変わってなかった。
10年経ってもずっと芸能界にいるから、やっぱり急激に変わることは無い。
保田さんは・・・スマートに変わってたなぁ・・・
それでもやっぱりずっと東京で過ごしているから、根元が変ってない感じ。

どうしよう・・・ビア樽みたいになってたら。
うーん、その時はなんて声を掛ければいいのかなぁ・・・
のんちゃんにそのことを尋ねたところ、
『ん? 見てのお楽しみだよ』
と、軽く流されてしまった。
なんだろう、お楽しみって。鳥獣戯画みたいになってるんだろうか。

私と同じで、のんちゃんもさっきからどことなく落ち着きが無い。
でもその落ち着きの無さは、私の持ってる不安感とは違う、
好物が給食の日の4時間目みたいな落ち着きの無さ。
さっきから本と路上との視線の往復が、嫌に頻繁になってきてる。
426書いた人:04/02/09 16:16 ID:UTADwMeU

「9時30分・・・もうそろそろかな?」

のんちゃんのその言葉に、心なし改札から吐き出される人並みが増えたように見えた。
もう本を持ってる意味なんて殆ど無く、のんちゃんの視線も人の群れを走査していて。
いや・・・今のんちゃんが一瞬目を止めた人、明らかにバーコード頭のサラリーマンでしょ。
そりゃ失礼だって、加護ちゃんに。
改札付近を視線が彷徨うけれど、一向にそれらしい人影は見当たらなかった。

「あれれ、おかしいね。いつもだったら、窓の外から手とか振ってくるのに・・・」
「ホントにこの時間だったの?」
「うん、さっきマネージャーに調べてもらったよ。
あいぼんが乗った電車、27分に駅に着いてるはずだけど・・・」

不安げに外を見やっても、次第に人ごみのピークは静まっているみたいだった。
さっきより落ち着いて改札から出てくる人を見るけれど、一向に加護ちゃんは現れない。
427書いた人:04/02/09 16:17 ID:UTADwMeU

「電車、遅れたのかな?」
「うーん、でもさっきの人の群れって、新幹線から降りた人だと思うんだけどなぁ・・・」
「ちょっと、ここから出て電話してみれば?」
「そだね」

思わぬ事態にのんちゃんも慌てているのか、雑誌を手荒く畳むと走り出さん勢いで振り返る。
が、振り返って走り出そうとしたのに、のんちゃんはピタッと止まった。

「あ」
「え? なに?」

振り返ったすぐ後ろには、若い女の人が立っていて。
一瞬、その人がいたから走り出せなかったのかと思った。
けど、

「のの、久しぶり・・・で、まこっちゃんも久しぶり・・・・・・でええんか?」
「あ、うん・・・」

こげ茶色のストレートの髪が肩の辺りまでかかっていて、白い肌を覆っている。
黒い細淵のメガネの先には、少し釣り目がちな、それでも優しい目が笑っていた。
卵形の顔の中で、薄い唇が笑みを浮かべていて。
そして・・・何より・・・・・・・・・細い。
・・・加護ちゃん?
428書いた人:04/02/09 16:18 ID:UTADwMeU

「のの、さっきから後ろにおったのに、ずーっと気付かんで、ぶつぶつ独り言言っとるから・・・」
「声掛けてくれたっていいじゃん。まこっちゃんと話してたの」
「うん、後ろでその様子見とって、確信持てたわ。やっぱりまこっちゃん、来とるんね。
なんかうち見て言うとる?」
「いや・・・・・・ほら、まこっちゃん。あいぼん・・・10年後のあいぼんだってば」

私の知ってる加護ちゃんと全然違って、呆気に取られていたのだ。
着ぐるみを二つほど脱ぎ捨てたのか、あまりにスリムになっていて。
ノースリーブのニットから見える腕も、スカートの下にストッキング越しに見える脛も。
10年前よりは、13年前に近い。
ただ、目だけは。
目だけはずっと変わらずに、悪戯っぽくて強くて優しい、あの目だった。

「・・・あいぼん、なんでニットなのよ。今はブラウス系が流行なのに」
「東京の流行が日本の流行とか思わんといてや。向こうでそのかっこすると、かなり浮くんよ」
「まこっちゃぁ〜ん・・・ダメだ、多分あいぼんの変わりようにびっくりしてるんだ」
「そんなに変わったかなぁ・・・? 昔からこのセクシーキュートな所は変わっとらんと思うけど」
「一時期ダニエルになりかけたけどねぇ・・・」
「なんか言うたか?」
429書いた人:04/02/09 16:19 ID:UTADwMeU

私はとっくに驚いてなんかいなかった。
ただ懐かしく二人の様子をしばらく見ていたかった。
でっかいバッグを両手で必死に持ちながら、加護ちゃんはのんちゃんの後をひーこら付いて来て。
それを見て少し笑うと、のんちゃんはバッグの一方の持ち手を無言で掴んだ。
シナリオに書かれていたみたいに当然にその好意を受け入れると、加護ちゃんはお礼も言わず、ただにっこりと微笑んで。
そんな掛け合いは、10年前と全く変わっていなかった。

「・・・・・・で、なに? やっぱり今日も新しいヅラなの?」
「ちょッ・・・まこっちゃんが変な誤解してまうからやめてや、そういうの。
地毛や、地・毛。なんか妙に生意気になったなぁ・・・」
「そう? まあ、まこっちゃん中にいるからかもね」

ずっと離れてた二人が再会したんだもん。
しばらくは、私は黙っていよう、そう思っていた。
のんちゃんも加護ちゃんも私の意図を察したのか、反応を求めることはせず。
思い出話のように、この10年のことを話してくれた。
430書いた人:04/02/09 16:23 ID:zXszB6My

「いや、でもねぇ・・・あいぼんがこんなに痩せたの見て、一番びっくりしたの、私だったけどね」
「松本さんに『今度までに痩せてくる』って言った手前、うちなりのけじめやと思っとったからな。
あの3年間で歌とかダンスとか色々させてもらって、心残りって言うたら、リベンジすることくらいやったし」
「見事、成功・・・・・・だったね」

クシシ、と顔を見合わせて笑う。
よっぽど痛快だったのか、私の目の前にもその光景が広がってきそう。

「うちが辞める、って言うた時も、随分ののと喧嘩したなぁ・・・」
「あいぼんが事務所と話しつけた後で、報告してくるからさ」
「うん、あれは悪かったと思っとる。
でもな・・・先にののに言うたら、絶対引き止められて、それで躊躇するのが分かっとったからな」
「で、今やあいぼんも、立派なビジネスマン、ってわけだ」

少し胸を張って、加護ちゃんはにんまりとする。
そしてすぐに、ちらっとのんちゃんをみて、恥ずかしそうに俯いた。

「不動産会社に勤めとるだけで、ビジネスマンって言うんとニュアンス違うけどな。
部下も二人おるで。こきつかっとるけど。でもののも、今じゃ立派な女優さんか・・・」
「立派かどうかは別として、ね。台本もちゃんと読むようになったし」
「お互いに道には迷いまくったけど、一応ちゃんと収まった、ってとこやんな」
「・・・そだね」
431書いた人:04/02/09 16:23 ID:zXszB6My

―――

「・・・うん、さっぱり分からん。伊達にののとバカ女争ってないからな」

のんちゃんの家、床に敷いた布団の上であぐらをかいて、加護ちゃんは首を傾げる。
『何で私が死んだはずなのに、ここに来ているのか』『十年前に死んだのはなんだったのか』
答えは簡単には見つからない。

「うーん、やっぱり分かんないかぁ・・・」
「あ、まこっちゃん落ち込んでるし・・・大丈夫だよ。
別にまこっちゃんがホントに生きてるか、疑ってるわけじゃないから」
「まあでも、最初に幽霊かと思うたんも、うちらからすればしょうがないなぁ」

そう言ってメガネを掛け直すと、頬だけで笑う。

「ののが言うように、まこっちゃんが出て来た2003年と、うちらが過ごしてた2003年は全然違うってのは確かやな。
まこっちゃんと紺野ちゃんがそんな喧嘩しとった覚えないし、大体つんくさんだって、全部薬捨てた、って言うとったし」
「・・・となると、私たちのいる時間と、まこっちゃんのいた時間がどんな関係か・・・」
「そこやな。その、まこっちゃんが飲んだ薬って言うのが、ホントはどんな効果なのか。
ただ単純に、未来に行くだけか・・・その辺整理せんとなぁ・・・」
「やっぱりつんくさん待ちかな?」

のんちゃんのその声に、私と加護ちゃんは同時に頷く。
そして溜息をつくのまでシンクロして、少し笑った。
432書いた人:04/02/09 16:24 ID:zXszB6My

「つんくさんには・・・もう電話したん?」
「うん」

灯りを消した後も、加護ちゃんはずっと闇の中から話し掛けてきた。
のんちゃんも見えもしないのに、頭だけそちらに向けて、目を閉じたまま続ける。

「電話したって言っても、留守電だけどね。
ハッキリ言って、反応してくるかどうかも・・・微妙じゃない?」
「まあなぁ・・・伊達にこの10年間、うちらの前に一度も姿現してないからなぁ・・・
って、あの人ちゃんと生きてるん?」
「訃報とかでないから、生きてんじゃないの? とりあえず」
「そっかぁ・・・やっぱり望み薄いのかなぁ・・・」

私の溜息混じりの言葉に、のんちゃんが慌てて首を振る。

「いやいや、分かんないってことだよ。あいぼん・・・まこっちゃんがなんか希望無くしてる」
「まこっちゃんなぁ・・・明日にでも、今度はうちから電話してみるから・・・
うちの証言も付けば、多少は信憑性も出てくるんとちゃう?」
「うん・・・そうだよね」
「・・・まこっちゃん、多少元気になったみたい」

ホッ、と安堵の吐息が二人の口から聞こえたのは、おそらく気のせいではないだろう。
433書いた人:04/02/09 16:25 ID:zXszB6My

今日はここまで。
久々に人前で泣くかと思いました。取り敢えず、修羅場修了。
あと・・・2週間くらいで終われるかな?
434ねぇ、名乗って:04/02/09 23:26 ID:srMQ6Q5Y
更新乙です。
435名無し募集中。。。:04/02/10 15:22 ID:zejvLA32
ho
436名無し募集中。。。 :04/02/11 15:12 ID:o522CIco
更新乙です
437名無し募集中。。。:04/02/12 18:01 ID:+q6Oc/y8
保全。
438書いた人:04/02/12 20:06 ID:yZrZwNJh

――― 翌朝

「まぁ・・・昨日は暗くてよく分かんなかったけど、亜依ちゃんホント、綺麗になったわねぇ・・・
うちの希美なんて、相変わらず子どもっぽくってねぇ・・・」
「いやいや、何言うとるんですか・・・ののもめっちゃ綺麗になってますって」
「・・・すっごいデジャヴなんだけどさぁ・・・取り敢えず二人とも、早く食ってくれない?」

至極当然のように、朝食を家族と囲む加護ちゃんの姿があった。
のんちゃんはすこぶる居心地が悪そうに、お味噌汁を啜る。

「ほら、あんたは26にもなって『食う』なんて言うんじゃないの・・・
見てみなさい、さっきから亜依ちゃんずっとよく噛んで食べてるじゃない。
ホントねぇ・・・少しは亜依ちゃんを見習いなさい、って言ってるでしょ?
あさ美ちゃん結婚するっていうのに。あんたは言葉遣い悪いから、いい人も見つかんないのよ」
「いや・・・絶対関係ないでしょ・・・」
「まあまあののもこれで、結構いい人おるんと違いますか?」
「ホントにねぇ・・・そうだったらいいんだけど。
この子、うちでそういう話全然しないから。
亜依ちゃん、いい人いたら、ちょっと希美に紹介してあげてねぇ・・・」
「ハハ・・・探してみますわ」
「・・・ああぁ、もう!! 何で二人とも息ピッタリなのよ!?」
439書いた人:04/02/12 20:06 ID:yZrZwNJh

―――

「いやぁ・・・のののおかん、相変わらず面白いなぁ・・・」
「あいぼん仲良すぎなのよ・・・もういいけどさぁ」

お昼少し前、今日は雑誌の取材でのんちゃんはひとまず事務所へ向かう。
相変わらず空気は冷たいけれど、陽射しが分厚いコートを着ることを許してくれないみたいで。
二人とも身軽な足取りで、人通りの少ない道を並んで歩く。

「取り敢えず、うちはつんくさんに電話してみるから・・・その後・・・そやな。
まこっちゃんのあの場所にでも、花でも持ってってあげるか・・・」

眩しそうに太陽を上目で睨みながら、加護ちゃんは眉を寄せる。
長めの髪が冷たい風に吹かれて、それが掛かって少しのんちゃんはくすぐったそうで。

「・・・ごめんね、ホントはあいぼんも仕事場に一緒に連れてってあげれればいいんだけど」
「まあ、しゃあないな。
うちはもう部外者なんやから・・・ののがうちの事務所に入れないんと一緒や。それに・・・」
「それに?」
440書いた人:04/02/12 20:07 ID:yZrZwNJh

「まこっちゃんのあの交差点、しばらく行ってないしな。
少なくともうちらの10年前では、まこっちゃんは確かに死んでもうてるわけやから、
折角東京来とるんやから手くらい合わせんと・・・それこそ、化けて出られる」
「・・・化けて出たりしないってば・・・」

私がぶうたれたのを聞いて、二人とも声を出して笑った。
つられて私もおかしくなって、思わず笑みが漏れる。
と、加護ちゃんは不意に真面目な顔つきになると、小首を傾げた。

「・・・もしなんなら・・・・・・ホンマ、できたらでええけど、ののも一緒に行くか?」
「・・・うん、そうしたいけどさ。まこっちゃんがこっち来たその日・・・もう5日前か。
その日に行ってるから・・・」

爽やかに笑ったのんちゃんに向けた加護ちゃんの目は、カッと見開かれて。
でもその表情は、驚きのほかに嬉しさを含んだそれで。

「ん・・・そうか・・・行けるようになったんか・・・確か前行ったのって・・・」
「あいぼんに無理やり引っ張って連れてかれた時だよ」
「そやな・・・そうか・・・あそこに自分の意思で・・・
まこっちゃんが中におったこと差っ引いたとしても、行けるようになったんか・・・」

腕を組んで一人でうんうんと頷く様は、とても満足げだった。
441書いた人:04/02/12 20:07 ID:yZrZwNJh

―――

駅で二人は別れると、のんちゃんはそのまま事務所で打ち合わせに入る。
道すがら、『加護ちゃんも連れてってあげたっていいじゃん』って聞いたんだけど、
『大人の事情だよ』と、かわされた。

からかい気味に微笑んだ後教えてくれたのは、辞める時に一悶着あったらしい、ってことだ。
つんくさんが人事不省(?)になっちゃったから、それの後を継げる人がいなくて。
加護ちゃんが辞めるって言うのにも、事務所は辞めるな、の一辺倒だったらしく。

「あいぼん痩せた後さ、恐ろしく人気出たからねぇ・・・そんなタレント、ほっとくわけないでしょ?」

というのは、のんちゃんの言葉。
その笑いに少しシニカルな部分が見えたのは、多分その時ののんちゃん自身と比べてみたからだろう。
442書いた人:04/02/12 20:08 ID:yZrZwNJh

「すっごい皮肉なんだけどさぁ・・・うちらが解散する直前って、多分・・・一番人気が出たときだったんだよね。
あのね一応言っておくけど、まこっちゃんがいなくなったから・・・ってわけじゃないからね。
だからねぇ・・・事務所のほうも必死でさぁ・・・今考えれば、分かんなくもないよ?
でもどんなに頑張ったって、一つにまとめられるわけないじゃん?
それでみんな散り散りになって・・・今も頑張ってる、ってわけよ」
「そっかぁ・・・やっぱり、大変だったんだねぇ」

そこそこ長くかかった打ち合わせの後、不穏当な会話を小声でしながら、廊下を歩いていたその脚が、不意に止まった。
その目線の先には新人さんだろうか、いかにも我侭ですって感じの女の子と、それにひたすら説教を垂れる長身の女性・・・マネージャーだね。
なんつーか・・・デジャヴみたいだなぁ・・・私もあんな風に、怒られたことあったなぁ・・・
と、のんちゃんはにやりと笑うとゆっくりと右手を上げてその二人を指差す。

「頑張ってるのよ・・・あんな風にね」
「?」
443書いた人:04/02/12 20:08 ID:yZrZwNJh

のび太のお母さんみたいにマシンガン説教をしていた人物が、不意にこちらに目を遣ると、パァッと顔中で笑った。
と、叱り付けていた女の子に大声で言う。

「ほら!! 先輩に会ったときは、どうするの?」

女の子はブスッとしながら、それでものんちゃんに軽く頭を下げた。
マネージャーさんの方は、「『おはようございます』は!?」と再び声を荒げる・・・けれど、
目が笑っているから、そんなにマジ切れってわけでもないんだろう。
それでも笑いながら、女の子のやりきれない態度に頭をがしがしと掻いて、妙な苛立ちを表現している・・・
あれ・・・そんなことをやる人っていうと・・・

「エヘヘ・・・よっすぃ〜、相変わらず厳しいね」
「最近の若いヤツはさぁ・・・礼儀とかなってないんだよねぇ・・・」

そう言って『ああ! もう!!』と、妙な咆哮を上げる。
余裕が有るんだか無いんだか分からない、不思議な表情。
短めに揃えた髪の間から見える薄い銀色のピアスに、大人の洒落っ気を感じる。
白い肌の上に、うっすらとだけど年齢を感じさせるものが見えて。

「・・・・・・吉澤・・・さん?」
「ん・・・マネージャーさんやってるのよ」
444書いた人:04/02/12 20:09 ID:yZrZwNJh

その間にも彼女は反抗的な美少女を叱り付けていて。
たださっきまでと違ったのは、なんだか不思議に嬉しそうだったところ。
呆気なく彼女を解放したのは、多分、のんちゃんと話す時間が欲しかったんだろう。

「よっすぃ〜、最近の若いヤツは・・・とか言うと、もうおばちゃんだよ」
「・・・そうなんだけどさぁ・・・急にあの子も掛け持ちにされちゃってねぇ。
どうしてもごっちんと比べちゃってダメだ」
「ごっちんの方は忙しいの?」
「まあ・・・ね。でも今は舞台メインだから、お稽古以外はそんなに忙殺される、ってほどじゃないからさ。
だから私が放り込まれたんだろうね」

二人で肩を並べながらまっすぐな廊下を歩く。
時折のんちゃんが見上げるその視線には、いつもニコニコと笑っている吉澤さんの唇があった。
話題はやっぱり明後日のあさ美ちゃんの式のことで。
二人が話している間は、のんちゃんの思考を混乱させないように、極力言葉を出さない。
吉澤さんは・・・今、後藤さんのマネージャーとかやってるってことかな・・・
芸能界、辞めたのかぁ。少し意外で、残念だった。
そしてそれを、伝えられないことも。
エレベータについたところで、二人は立ち止まる。
445書いた人:04/02/12 20:09 ID:yZrZwNJh

「紺野も驚くだろうなぁ。私みたいなのが、マネージャーとかやってるんだもん」
「でもごっちんは、『よっすぃ〜くらいの感覚の人と一緒の方がやりやすい』って言ってたよ」
「まあ、あたしら両方適当だからね」

軽やかなチャイム音とともに、エレベータの扉が開く。
すぐに足を踏み出したのんちゃんが、不意に振り向いた。
吉澤さんは、外から扉を手で抑えて、やっぱりにっこり笑っていて。

「私、まだ打ち合わせあるからさ。そんじゃ・・・明後日、また」
「あ、ゴメン」

その押さえている手を見るのんちゃんの視線が、少し悲しげに見えた。
それに気付いたのか、吉澤さんは歯を食いしばったまま少し苦笑いをして。

「あのね・・・別にマネージャーだから、こんなことしてるんじゃないからね。
なんつーのかなぁ・・・ダンディズム?」
「よっすぃ〜、女じゃん」
「けどね」
446書いた人:04/02/12 20:10 ID:yZrZwNJh

静かに閉まる扉の向こうで、吉澤さんがニコニコと手を振る。
それに片手を上げて応えながら、のんちゃんはぎこちなく笑った。
三半規管に堪える感覚の後、ゆっくりと減っていく回数表示を見上げながら呟く。

「よっすぃ〜も・・・だいぶ大変だった見たいだけどね。
私には年下だってのもあったんだろうけど、微塵もそんなところ見せなかった」
「でもさ・・・なんだかすっごく頼り甲斐があったよ!」
「ん・・・・・・多分、あの人の場合は強さだったんだよ。
私がまこっちゃんのことを無理やり避け続けてたり、
あいぼんが明るさで弾き飛ばしてたりしてたみたいに。
勿論、梨華ちゃんみたいにまっすぐ向き合ってる人もいたけどさ。
現実に向き合うには、よっすぃ〜には強さが必要だったんだと・・・・・・思うよ?
まあ、逃げちゃってた私が言うことじゃないか」

喉が少し渇いたのは、真冬の暖房のせいだけじゃないだろう。
大丈夫、この10年間を考えて、今はカラカラに喉が渇くとしても。
私は分かっているから、大丈夫だよ。
あなたはちっとも逃げてなんかいないから。

静かに下っていくエレベーターの中で私たちは始終無言だったけど。
たった5日しか時間を一緒に過ごしていない私が分かったんだもん、
加護ちゃんも、石川さんも吉澤さんも、近くにいないあさ美ちゃんだって・・・
きっと分かってるんだと思う。
447書いた人:04/02/12 20:12 ID:yZrZwNJh

事務所のビルを出たところで、空を見上げてのんちゃんは背伸びをした。
お昼前には暖められていた空気も、今は肺に入ると少し冷たかった。

「・・・さって・・・それじゃ、あいぼんに電話でもしてあげるかな」
「いや、さっきから言おうと思ってたんだけどさ、携帯の電源、ずっと切りっぱなしだよ。
打ち合わせ始まるときに、切ったんじゃなかった?」
「・・・マジで?」

偉そうな態度を一変して、慌てて形態を取り出すと電源をつける。

「うわぁ・・・あいぼんからのメールだけで15件来てるんだけど・・・
ストーカーじゃないんだからさぁ・・・」

ぶつぶつと呟きながらも、どこか笑いながら電話をかける。

「どうしよっか・・・あいぼん、スンスン泣いてたら・・・」
「のんちゃんじゃないんだから、そんなこと無いでしょ」
「偉くなったもんだねぇ・・・まこっちゃん」

1コールですぐに電話が繋がると、どうせ冷やかしの一言でも言おうと思ったんだろう、
のんちゃんがブレスをした・・・けれど。
その呼吸は飲み込んだままになった。
私だって、多分おんなじ反応だったと思う。

「・・・・・・のの!! 今すぐ・・・来てや!
つんくさんが電話に・・・・・・出た!!!」
448書いた人:04/02/12 20:13 ID:yZrZwNJh

今日はここまで
ネタ職人マジレススレで、むかし書いたやつの名前などあがっているのが、
妙に嬉しかったこのごろ。
449ねぇ、名乗って:04/02/13 04:03 ID:oM8Sp+oo
更新乙です。
450名無し@ネカフェ中。。。:04/02/14 12:42 ID:yGSGCCDx
更新乙
チョコの代わりに保全します
451ねえ、名乗って:04/02/14 21:06 ID:VTAGuygd
更新乙です。
結末が近づくのが嬉しいような悲しいような。
452ねぇ、名乗って:04/02/15 22:47 ID:HyeyAykP
test
453ねえ、名乗って:04/02/17 10:51 ID:a3TY48K6
保全
454ねぇ、名乗って:04/02/18 11:17 ID:x2J1L5B2
保全
455ねぇ、名乗って:04/02/18 23:19 ID:U5KVas4x
n日保全
456書いた人:04/02/18 23:50 ID:xv9zVfRn

ちょっと年度末で忙しいので、更新滞りがちですが、ごめんなさい。
うーむ、一週間空いちゃいかんですね。
457名無し募集中。。。:04/02/19 00:55 ID:IVG9RhR6
気にしない気にしない
おっさんは交信のんびり待つぞ
458名無し募集中。。。:04/02/19 12:25 ID:AbIez0Ym
ほしゅ
459ねえ、名乗って:04/02/19 23:33 ID:kyJr5UKe
ho
460ねぇ、名乗って:04/02/20 11:21 ID:wuc9mo0s
保全age
461ねえ、名乗って:04/02/20 23:09 ID:J7e/Lqje
Maintenance
462ねぇ、名乗って:04/02/21 13:15 ID:VIPAnBVL
463名無し@ネカフェ中。。。 :04/02/21 16:44 ID:2Bg0hetf
保全しときますね。
464書いた人:04/02/21 19:31 ID:F+Dpl2Pu

――― 夕方

「久しぶりに来た…な」
「まだこのマンション残ってたんだねぇ…あんまり10年前と変わってないよ」
「私とあいぼんは…過去から帰ってきた朝、殴りこんで…それ以来だ」

見上げたつんくさんのマンションは、つい先日見たそれと殆ど変わらずに聳え立っていて。
外の壁とかも特段汚れていたりしないで、まるでここだけは10年前そのもののような錯覚を覚える。
加護ちゃんは白い頬をほのかに赤くして、目を細めてはるか上を睨みつけて。
胸に感じるのんちゃんの鼓動は、走ってきたからだけじゃない。その高まりをいつまでも保ち続けて。
一瞬二人は顔を見合わせると、同時に右足を踏み出した。

「あ…ゴメン、ちょっと待って!」
「え!? あ、あいぼん! まこっちゃんが待って、だって」
「何や」

キッとこっちを見た加護ちゃんの目は、13年前私を渋谷で捕まえた時のあの目に似てた。
歳も外見も、何もかもが変わっているのに、まるであの日をそのまま持ってきたみたい。
…あれから13年経っていること、ここが渋谷じゃないこと、私の実体が無いこと、
そして…あと一人、あさ美ちゃんがいないこと…こんなにも違っているのに、彼女の目はそのまま。
465書いた人:04/02/21 19:32 ID:F+Dpl2Pu

「私は…なんでこの未来に来ちゃったのか、それだけ分かればいいから」
「?」

首を傾げながら私の言葉をのんちゃんが伝えると、見る見るうちに加護ちゃんの眉間に皺が寄る。
12月の早めの夕暮れのせいで、少し霞んで見えたけれど、確かに加護ちゃんは顔をしかめた。
のんちゃんはまだ私の言葉の意味が分からないみたいで、アスファルトの灰色に目を落とす。

なんとなく思っていたことだけれど、今加護ちゃんの顔を見て確信が持てた。
彼女がここに来たことには、多分二つの意味がある。
私が一体どこからどうして来ているのか…そして、つんくさんのこの10年間への非難。

「えーっと…まこっちゃん? もしあれなら、体貸すけど?」

自分の無力さに自嘲気味に笑うと、諦め口調でのんちゃんが漏らす。
ホントなら極力未来に関わるのは控えていたかったけど、当事者なんだもん。
唇の間から漏れる微かな音だけで応えると、意識を集中する。
…大分慣れてきたから、ゴメンね。また身体借りるよ。
466書いた人:04/02/21 19:33 ID:F+Dpl2Pu

凍えていた足の指をストーブに近付けたみたいな、あの痛痒さが体中を走る。
でも人として正常な状態にやっと戻っただけだから、けして不快なものではなくて。
二度三度瞬きすると、僅かに見下ろした加護ちゃんが口をぽかんと空けていた。

「ホンマ…顔つきまで変わるんやな…もう、まこっちゃんになっとんの?」
「うん、久しぶり」
「これなら…つんくさんも信じてくれると思うで。でもな…」

唾をゴクンと飲む音が私の耳にも聞こえた。
心の中ではのんちゃんが、静かに私たちを見詰めているのが感じられる。

「でも、うちは言わないかん」
「……」
「うちもののも、よっすぃ〜も梨華ちゃんも…あの時モーニング娘。にいたみんな、
多分あさ美ちゃんも、うちらは誰も逃げんかった。
芸能界に残ったんも辞めたんも、みんな世の中に向き合ってやってきたんと違う?
それなのに、つんくさんは……!!」

そこまで言って大きく息を吐く。
一瞬伏せた後にこちらに向けた目の色は、真っ赤だった。
のんちゃんが微かに肩を震わせて、「逃げる」って言葉に反応したのが分かる。
そして……私は何も返せなかった。
467書いた人:04/02/21 19:33 ID:F+Dpl2Pu

のんちゃんはあの図書館で言っていた。
逃げ続けていた、私が死んだことから逃れるために、ずっと逃げていた、って。
それでものんちゃんは、ここまでずっと頑張ってきて。
私には言わなかったけど、多分何度も他人(ひと)に心無い触れられ方をしたこともあっただろう。
それにも耐えてきたんだから、なにより、ずっと砂時計持っててくれたんだから。
のんちゃんはそうだった…そして……

「「でも…つんくさんだって」」

私とのんちゃんの言葉が重なったのに驚いて、一瞬息が止まった。
じっと私の眉間を睨みながら、加護ちゃんは続きを促す。

「…任せる、まこっちゃん」

そう、私はつんくさんも逃げていなかったことを知っている。
のんちゃんの受け売りだけど…つんくさんは私と向き合って、いや向き合い過ぎたから、殻に閉じこもった。
とても大人として誉められることじゃないけれど。
けれど、それは逃げてなんかいないんだって。
468書いた人:04/02/21 19:34 ID:F+Dpl2Pu

言葉を選びながら、頬にあたる夕暮れの風を感じながら、私はゆっくりと加護ちゃんに話し始めた。
私の言葉に何度か言い返そうとしたけれど、それを26歳の理性でグッと抑えて。
私を睨んでいたその目尻が、次第に下がってきた。

話し終わったときには、私は猛烈な疲れに襲われて。
やっぱり他人の体を使うのは、どうも体力を使ってダメだ。
私の様子には気付かず、加護ちゃんは腕を組んで空を見上げた。

「うちらは…あの時、捨てられたようなもんやったからなぁ。
10年間誰も口にせんかったけど、うちら何度壊れそうになったと思う?
何度、そん時つんくさんが守ってくれんかなぁ、って願ったと思う?
なぁ…まこっちゃんは10年前からふっときただけやから分からんと思うけど」

私の応えはとうに期待していなかったんだろう、静かに流れる言葉は止まらない。
それを聞きながら、のんちゃんの身体をそっと返した。

「そやな…責めるだけ無意味…か。
10年間何しとったか、聞くのそれだけにするわ。
言っとくけど、まこっちゃんに言われてから変えるんと違うからな。
この10年、一瞬でもつんくさんがまこっちゃんのこと忘れとったら、
梨華ちゃんも泣かせた関西弁でまくしたててやるんやから」
「……うん、そうしなよ。あいぼん」
「!? え? もう戻ってたん?」

まじまじとのんちゃんの顔を見詰める加護ちゃんの肩越しに、私は夕焼けを見ていた。
『何で夕焼けは赤いんやろ』ってつんくさんの言葉を、何故か思い出した。
469書いた人:04/02/21 19:34 ID:F+Dpl2Pu

―――

「それじゃ…押すよ」
「うん」
「いいで」

のんちゃんの指がインターホンを強く捕らえる。
小さく電子音が鳴り響いて………

……………

出ない。
何の反応も無い。

「あれ? つんくさん…いないのかな?」
「いやだって昼間に電話した時は、夕方からなら大丈夫やから来い、って言うとったで」
「もう5時半だしねぇ……おかしいなぁ…」

私の言葉に意を決したのか、もう一度のんちゃんがインターホンに指を掛けた、その時。

…カチャ
470書いた人:04/02/21 19:37 ID:2Q+39hxC

小さな音を立てて、厚いドアが開いた。
始めはゆっくりと、次第に速くその口を大きく開けていって。

「…お前ら…久しぶりやな」

つんくさんは立っていた。
髪も真っ黒で、10年前から更にやせ細って頬はこけていたけれど。
目はまるで死んでいるみたいに光が無かったけれど。
間違いなくつんくさん。

あの悪戯っぽい目つきも、いやらしい口元の笑いも、全てが失われていた。
のんちゃんや加護ちゃんを見たら、いつもだらしなく笑っていたのに。
少し下げた二人の頭に静かに手を挙げて応える。

「辻…加護……大人になったな」

つんくさんの口元が微かに緩む。
薄く青紫色の唇が1ミリずつ上がっていくその様は、10年ぶりに笑ったみたいに見えた。
471書いた人:04/02/21 19:37 ID:2Q+39hxC

「小川も…おるんか?」
「はい。なんなら、今すぐ身体の方、まこっちゃんに貸して見せますけど…」
「ああ、今はええわ…とりあえず、上がれや」

のんちゃんと加護ちゃんの前を行く彼の背中は、遥かに小さく見える。
10年間って年月は、人をこんなにも変えるんだ…
真っ暗な廊下をゆらゆらと亡霊みたいに歩きながら、つんくさんは何も喋らない。
加護ちゃんがピッタリとのんちゃんの右腕にしがみついていた。

私はといえば、すうっと期待がしぼんでいくのを感じていて。
つんくさんの青い顔、乏しい表情、骸骨みたいな指先。
10年前のつんくさんからはとても想像がつかない別人みたいで、
目の前のこの人が、私の問いへの答えを持っているとは思えない。
472書いた人:04/02/21 19:38 ID:2Q+39hxC

「まこっちゃん…」
「なに?」

のんちゃんの囁き声は、多分中にいる私以外には聴こえなかっただろう。

「大丈夫だよ。きっと…分かるって」
「うん」

気休めでしかないのは分かっていたけれど、頷いた私にのんちゃんは満足げに微笑む。
もう一言何か言い掛けて、ふと首を傾げた。

「何か…聴こえない?」
「?」
「さあ、入れや」

つんくさんがドアを開くと、ますますその音が増した。
どこかで聞いたことのある、この音。
冷蔵庫の回転音みたいな、何かが震える音。
何の音だったっけ…?

部屋に一歩入った瞬間、のんちゃんは立ち止まる。
いや、目の前の光景に呆然とした、って方が正確だろう。
私だって信じられなかった。
加護ちゃんが後ろで後ろで抗議の声をあげているのも構わずに、ただ立ち尽くしていた。

10年前に壊されたはずの機械、私を私の身体のまま2000年に送ったあの機械が、目の前にそびえていたから。
つんくさんが、ふっと笑った。
473書いた人:04/02/21 19:41 ID:2Q+39hxC

今日はここまで。
間空けまくってごめんなさい。
無駄に忙しいって嫌ですねぇ。
474ねえ、名乗って:04/02/21 20:29 ID:SZ7I+nO/
更新乙。
間空いてても読み返す楽しみがあるので苦になりません。

475ねぇ、名乗って:04/02/21 21:57 ID:TY7TXIsN
更新乙です。
今回・・・が…になっていますが、
私は・・・を変換すると・・・と・・・と…の3つから選択できたものが
今日突然、・・・と…しか無くなっていました。
・・・を他からコピペで持ってきて変換作業を1度やったら3つに戻りました。
全く関係なかったのかもしれませんが、
たまたま私と同じ現象を見ましたので一応書いておきます。
全く見当違いの何の意味もないことを書いているのかも
しれませんので悪しからず。
476書いた人:04/02/21 22:02 ID:6yr8iCy5
>>475
某小説添削スレで、黙点は「・・・」ではなく「…」がデフォだ、と注意を受けたからであります。
特に深い意味は無いです。
477ねぇ、名乗って:04/02/21 23:14 ID:atQLKnbK
>>476
そうでしたか。
ゾヌ以外のブラウザからは普通に見えるんですね。
ちゃんと見えないゾヌのほうがもちろん問題ですw
478名無し募集中。。。:04/02/22 13:03 ID:qqfZHzuF
ほしゅ。楽しみ。
479ねぇ、名乗って:04/02/22 22:41 ID:L1oMxDDP
保全age
480名無し募集中。。。:04/02/22 23:14 ID:d/HAwpkh
>>84
馬鹿すぎ
481ねぇ、名乗って:04/02/22 23:25 ID:JlQc8KCd
482名無し募集中。。。:04/02/23 00:21 ID:Colfz6o+
楽しみです!
483書いた人:04/02/23 02:31 ID:HJezsCQt

「これって…」
「あぁ…まあ、とりあえず座れや」

のんちゃんの肩越しに機械を見て声をあげた加護ちゃんに、つんくさんは静かに返した。
二人のこんな反応は予測済みとばかりに、その物腰は落ち着き払っていた。
そしてつんくさんのシナリオ通りに、ぺたんとソファーに腰を下ろす。
目の前では10年前のあの日と同じように、機械が低い音を奏でていて。
と、つんくさんは私たちの向かいではなく、のんちゃんたちの脇の床に静かに膝を突いた。
一瞬二人の目を交互に見ると、すっと手を床につく。

「二人とも…いや、小川も、今まで本当にすまんかった」
「…つんくさん! やめて下さい!」

悲鳴みたいなのんちゃんの声にも、つんくさんはぴくりとも反応せずに。
10年前に見たあの土下座よりも、遥かに真摯なそれはいつまでも続いて。
何とかやめさせようとするのんちゃんを他所に、10年前のつんくさんの土下座が冗談めいたものだったことを思い出した。
484書いた人:04/02/23 02:32 ID:HJezsCQt

「あいぼんも…なんか言ってあげてよ!」

つんくさんの身体を揺するのんちゃんが振り返った…けれど。
ソファーに座ったままの加護ちゃんの目は、突き刺さるように冷たくて。
薄い唇の間から漏れた言葉は、掠れていてもはっきりと耳に届いた。

「つんくさん…それ、何に謝っとんですか?」
「そりゃあ・・・」
「あいぼん!!」

何か返そうとしたつんくさんを、のんちゃんの叫び声が遮る。
でもその叫び声に首を振って、加護ちゃんは続ける。

「のの、違う。うちもまこっちゃんとののとした約束は守るから。
つんくさん、そのスマンって言うんは、何に謝ってるんですか?
まこっちゃんが生きてるときに碌な曲を作ってあげられなくて?
うちらを捨ててずっと閉じこもってもうたから?
それとも、今までまこっちゃんから…逃げてて?」
「……ッ!!」

つんくさんと加護ちゃんを交互に見ていたのんちゃんの肩が震える。
静かにつんくさんは立ち上がると、加護ちゃんにまっすぐに向かい合った。
485書いた人:04/02/23 02:33 ID:HJezsCQt

「……加護……
前の二つは謝らないかん。
確かに俺は碌でもないプロデューサーやったし、お前ら放って閉じこもったからな。
それに俺がずっと閉じこもったんを、逃げてたって言われればそうかもしれん。
でもな……これだけは信じてくれ。俺は、小川のことはこの10年忘れたことは無い」

二人は互いにその目の中の光を探り合っていた。
そしてキッとつんくさんを睨み上げていた加護ちゃんの目が、ふっと緩む。
2度3度懐かしげに頷くと、頭を下げた。

「それなら…ええんです。
もしもつんくさんがまこっちゃんのこと忘れようと閉じこもったんなら、容赦するつもりは無かっただけで。
で、それをスマンって言葉だけで片付けようとするんなら、許せんかっただけです。
生意気言って、すいませんでした」
「うん、俺は……小川のことは忘れたりはせんよ。これが…証拠や」

それだけ言ってようやく向かいのソファーに腰を下ろす。
つられて、のんちゃんと加護ちゃんも機械を目で撫でまわしながら、柔らかな感触に身を委ねた。
486書いた人:04/02/23 02:33 ID:HJezsCQt

話が読めた気がした。
つんくさんがこの10年間、何をやっていたか。
この10年間を何に賭けて、そしてその結果が…この機械なんだ。
のんちゃんの胸の鼓動が高まる。
加護ちゃんの左手をギュッと掴んで、二度三度、お互いに顔を見合わせた。
その顔はついさっきとは打って変わってだらしないほどの笑顔で…多分、のんちゃんの顔だって。
けれどソファーから身を乗り出したつんくさんは、下を向いて溜息を漏らす。

「これな・・・失敗作なんや」
「……失敗作?」
「ああ、昔作ったやつはお前らとの約束通り、バラして他のことに使えそうな部品以外は捨てたしな。
設計図も捨ててもうたから、記憶だけが頼りやったんけど…
やっぱり「あいつ」は天才だったわ。なかなかどうして、いい所まで行くんやけどな。
おんなじもんは、どうしたって作れん」

つんくさんは…未来を変えようとしたんじゃないか。
つまり…これで10年前に帰って、そして私が事故に遭うっていう過去を無かったものにして。
そしてこの未来を、変えたかったんじゃないだろうか。
487書いた人:04/02/23 02:34 ID:HJezsCQt

「…でも! いい所まではいっとるんですよね? だったら、可能性無いことないんじゃないですか!?」
「そうですよ、だって何年これ造るのに掛かっても、変わっちゃえば…」

下を向いたまますっと左手を前に突き出して、つんくさんが二人を制する。
口元が微かに蠢いて、ぶつぶつと何かを呟いているのが分かった。
その様子に一瞬顔を見合わせるのんちゃんたち。
と、大きく息を吸うと、つんくさんが真っ白な顔をこちらに向ける。

「俺もな…そのつもりやった…つい昨日まで。
辻から電話があって…その電話の中身を信じたくなくて、しばらく考えとったんやけど…」
「………」
「辻、ホンマに…小川は…来とるんか?」

すがるようなその目つき。
余りの勢いに気圧されて、のんちゃんが一瞬身を反らした。
息を飲み込みながら頷くと、極めて明るい声でつんくさんに微笑みかける。

「ええ! 来てますよ。つんくさんに電話したときにもやりましたけど、今ここでまこっちゃんに身体のコントロール渡すことも出来ますし」
「そう…か、やって見せてくれんか?」

まただ、またさっきの目つき。
「ほら、つんくさんが頼んでるから、まこっちゃん!」
その目つきには気付かないまま、
つんくさんの構想に期待を膨らましたのんちゃんの声は、底抜けに明るかった。
488書いた人:04/02/23 02:37 ID:LerhtoY3

一日に二度もやるのは正直疲れるけど…
意識を集中する、怒ったり泣いたりするときの、あの感情が爆発する感じを…
目を閉じたまま、のんちゃんの意識が次第に下がっていくのを感じる。
もう少し…
さあ!!

−−−

目を開ける。
つんくさんは相変わらず覗き込むようにこちらを見ている。
指を二回動かしてみると、一瞬の遅れもなくすらすらと残像が見えた。

「上手くいったみたいだね、まこっちゃん」
「うん」

のんちゃんの言葉が頭の中に響いた。
当然加護ちゃんとつんくさんには聴こえていないから、二人は私が頷いた意味を探ろうとしていて。

「つんくさん、お久しぶりです…って言っても、私はついこの間、会ってますけど」
「……ホンマに…小川か?」
「顔つき変わってますやん。ののはこんな、だらしない口元してませんって」

加護ちゃんの必死の援護射撃は身も蓋もないものだった。
489書いた人:04/02/23 02:37 ID:LerhtoY3

私の顔を穴が空くほど見詰めながら、つんくさんは小刻みに頭を横に振る。
唇だけが動いて何か言っているようにも見えた。
膝がガタガタと震えたのを認めて、必死につんくさんは両腕で自分を引き止めるけれど。
それでも、体全体に伝わる震えは止められないみたいだった。

「ウソや…俺は信じひん」
「…うちやののだって最初は信じませんでしたよ。
ののなんか幽霊に取り憑かれたと思ってお払いまで行ったんですから。
そんでも感じません? まこっちゃん特有のあの空気」

唇を曲げて私は顔全体に困惑を表す。
どうしよう…ちっとも信じてくれない…いや、信じる要素があるのに信じたくないみたい。
なんでだろう?

「困っちゃったねぇ…どうしよっか?」

頭の中ではのんちゃんの心底心配そうな声が聞こえる。
つんくさんはガタガタと、まるでホントに亡霊を見たみたいに恐れをあらわにしていた。
やせ細ったその外見のほうがよっぽどお化けっぽいのになぁ…

と、ぱん! と手を合わせる音。
490書いた人:04/02/23 02:38 ID:LerhtoY3

「そや!! つんくさん、これ…モーニングのラストシングル!」

ごそごそとバッグを漁ると、加護ちゃんは傷だらけのCDケースを掴み出す。
あれって…

「ああ、まこっちゃんも聴いたでしょ? ラストシングルのジャケット。
図書館じゃ見れなかったからねぇ…確かあれに…」
「つんくさん、この歌詞カードの真ん中のページ、まこっちゃんの手紙の文字と違います?」

のんちゃんの言葉の最後は、興奮気味な加護ちゃんの嬌声で掻き消される。
つんくさんは辛うじてソファーにしがみ付いたまま、虚ろな目をこちらに向けた。

「…『砂時計』…か。
お前、いつもそれ持ち歩いとったんか…」
「ええ、うちは東京離れるから、せめてこれくらいは傍に置かないかんと思うて…」

もう加護ちゃんは歌詞カードを抜き出して、ページを繰っているところだった。
いつもみたいに派手な仕様じゃなくて、セピア色が矢鱈に目に入る。
と、一つのページを指でグッと抑えると、こちらに向かって突き出した。
491書いた人:04/02/23 02:38 ID:LerhtoY3

【あさ美ちゃ〜ん
  クリスマスプレゼント買うお店見つかった!? なんと私が見つけてしまいました。
  明日収録終わったら、行こうじゃないか…】


ダメだ、恥ずかしくて最後まで読めない。
自分の書いた手紙をあとで読み返すのって、拷問に近いよ。
私が書いた覚えのない手紙…多分あさ美ちゃんと仲直りしたら、この手紙を書いていたんだろう。
しかしなんだ、このテンションは。
なんでクリスマスの所に吹き出しで『トナカーイ』って書いてあるのよ、ホントに。

手紙を遠目から写した写真が、つやつやのコーティングの向こうで輝いていた。
充分中身が読めるそれには、左下に小さく「小川麻琴の手紙」って注釈。
全体をセピア色に加工してあるから、妙に古臭い手紙に見える。

「まこっちゃん、それ…まこっちゃんが書いたもんやろ?」
「うーんと…私は書いてないけど、私の字だね」
「つんくさん…もし今…外見はののですけど、まこっちゃんが字を書いてこの字と一緒やったら、信じてくれますよね?」

「考えたねぇ…あいぼん」
のんちゃんの独り言を聞きながら、私はメモ帳を受け取る。
加護ちゃんに力なく頷いたつんくさんを見ながら、私は考えていた。
何故…つんくさんは、こんなにも私が来ていることを信じてくれないんだろう。
いや、信じようとしないんだろう。

……何で、信じたくないんだろう?
492書いた人:04/02/23 02:41 ID:LerhtoY3

今日はここまで。
小川さんの手紙は完全に想像の産物でして。
女子高生の書く手紙って、ホントはもっと輝いていそうですけど。
493ねぇ、名乗って:04/02/23 04:06 ID:8II6yGmx
>>書いた人
失せろボケ!
「あぁ」のスレで怒られたくせに懲りてないのか、あぁ?
494名無し読者:04/02/23 08:02 ID:9W4wTQU1
>>493
なに怒ってんの?
リンク張れ
495名無し募集中。。。:04/02/23 08:18 ID:bJGNxfVo
更新乙
つんくとぼんさんのやりとりが緊張感あって.。゚+.(・∀・)゚+.゚イイネ!!

>>493
マジレスするとそのスレとは違う作者だよ
496名無し募集中。。。:04/02/23 11:07 ID:fmDcAIxS
>>493
プ
497ねぇ、名乗って:04/02/23 11:10 ID:ZXvBZm2B
つんく♂が一睡もしないのは覚醒剤でも使っているのか?
http://www.musicnet.co.jp/whatsin/editor/index.html
●P.88のウラ側★つんく♂★
 1月7日の今年初取材。担当(編)は、まだお正月気分が抜けていなかったが、つんく♂さんは、今年に入って一週間も経っているのになんと一睡もしていない、とのこと。それでもつんく♂さんはまだ8割の力しか出してないらしい。
取材後「彼は止まってしまうと死んでしまうんじゃないの?」とライターさん。実際、僕もそう感じた。(編 中)
498ねぇ、名乗って:04/02/23 17:42 ID:kuwfY3k0
更新乙です。
499名無し募集中。。。:04/02/23 23:16 ID:9W4wTQU1
>>493

> 「あぁ」のスレで怒られたくせに懲りてないのか、あぁ?

これは駄洒落ですか?
500名無し募集中。。。:04/02/23 23:27 ID:9nMj84+4
> 書いた人さん
頑張って下さい
と、言う訳で500get?
501書いた人:04/02/24 01:28 ID:iP3/giOZ

【小川麻琴 モーニング娘。 紺野あさ美 加護亜依 辻希美
 クリスマスプレゼント お店 収録 …………】

思いつくままにテーブルに突っ伏して文字を連ねる。
少し悪いのんちゃんの視力、この手だって私のじゃないから、私自身の字が書けるか不安だったけど。
私の手元を前のめりに覗き込んでいた影が、ふっと引いたと思うと、静かな吐息が聞こえる。

「……辻…いや、今は小川やな。もう、ええ」
「…信じてくれました?」
「ああ、加護。もう分かったから…もう、やめてくれ」

顔を上げたそこには、片手で目の辺りを抑える真っ青な顔。
全身の血の気が引いたみたいに、つんくさんは虚ろな目を向ける。

「確かに…小川……なんやな?」

加護ちゃんと私が図ったように同時に頷くと、彼は大きく息を吸う。

「…それで小川、お前は…電話で言うとったみたいに、
12月19日、お前が死んだのよりも後の時間から来た、こういうわけやな?」

今にも髪をかきむしって叫びだしそうなのを、理性で抑えているみたいに。
つんくさんは一つ一つの言葉を区切りながら続ける。
502書いた人:04/02/24 01:28 ID:iP3/giOZ

「……おかしい……ね」
のんちゃんもその様子に気付いたらしく、訝しげな声をあげた。
私の隣の加護ちゃんの顔からも、能天気な笑顔はとうに消え去っていて。

「…今は死んどるけれど、お前が死んだ時間にはお前はまだ生きとった…そうやな?」
「……はい」

口から出た返事は、私のものとは思えないような、押し殺した吐息で。
つんくさんはさっきまでの挙動を不意にやめると、静かに笑った。
静かに、正確には口元だけで笑っていた。

「多分……時間が分岐したんやと思う」
「分岐…っつーと、分かれるってことですか?」
「そう、その分岐や。
いつくらいからか詳しく聞かんと分からんけど、小川が死ぬ未来と死なん未来が分かれたんや」

何日か前、のんちゃんが紙に書いたあの絵を思い出した。
一本だった線が二つに分かれて、そのまま平行線になって…

「ほら、まこっちゃん。私の頭も舐めたもんじゃないでしょ?」
頭の中でのんちゃんがガッツポーズしているのが、目に浮かんだ。
503書いた人:04/02/24 01:29 ID:iP3/giOZ

「…小川、そして辻も加護も。
10年前の12月18日…辻と加護はもうえらい昔のことやけど、思い出してくれんか?
どこが同じで何が違うか…そこが分からんと…」

さっき私が字を連ねたメモを裏に返して、真ん中にピッと線を引く。
天井の隅を睨みながら加護ちゃんが腕組して。
私はのんちゃんと身体を入れ替えながら、あの日を思い出す。
私にとってはつい一週間ほど前だけど、二人にとっては遥か昔。
16歳の私に6歳のある日を思い出せ、って言ったって、土台無理な話だ。

それなのに、メモ帳の裏はすぐに真っ黒に埋まっていった。
二人とも私が死んでからお葬式までの記憶は酷く曖昧なのに
、私が死ぬ前のことはつい昨日のように克明に覚えていて。
メモを取りながらつんくさんが…
つんくさんも10年前に保田さんから聞いただけで受け売りだそうだけど、理由を教えてくれる。

「なんやったかな…自分にとって大きな意味を持ったことがあると、その周辺の記憶は凄い鮮明に残るんやと。
保田が…懐かしいな、久しぶりにこの名前も口にしたわ。
ともかく、保田が心理学の本抱えながら自慢げに話しとったわ」

10年前のことも詳しく出来たのは、それ以上にのんちゃんと加護ちゃん、二人いるのが大きかったんだろうけど。
504書いた人:04/02/24 01:30 ID:iP3/giOZ

充分すぎるほどの資料を前に、つんくさんは大きく溜息をつく。

「俺が薬を完全に捨ててへん…ってところが始まりっぽいな。
そこが始まりで……完全に分かれたのがどこかはちょっと分からんな。
ギリギリ12月18日に薬を捨てる可能性もあったわけやしなぁ…」

寂しそうに後ろにそびえる機械を見上げると、じっとこちらを見詰めた。
いつものあの保護者としての目線。
上目遣いではない、そして見下す風ではない、私たちと対等に接しようとするあの視線。

「小川、大丈夫や。お前が来てもうたここは、本来のお前たちの未来と違うところや。
だから10年前の…めんどいな、お前が出てきた所の俺が解除薬を飲ませれば、問題無く元に戻ると思う」
「けど…なんでまこっちゃん、こっちに来たんですかね?」

加護ちゃんの疑問は尤もで。
そりゃそうだ。私はつんくさんに、未来に行く薬、って聞いてこれを貰っていたのに。
なんでこんな、別な未来に来なくちゃいけないんだろう。
それなのに、つんくさんは床に目を落とすと吹き出した。
…失礼な。

「そりゃあ…多分、薬の正常な効果…ちゃうんか?」
「これがですかぁ?」

ついつい間抜けな反応もしてしまうってもんだ。
のんちゃんが頭の中で「これが『正常』なら、世界の殆ど異常だよねぇ」と毒づいていた。
505書いた人:04/02/24 01:30 ID:iP3/giOZ

それなのに至極当然、とでも言いたさげにつんくさんは笑う。

「ああ、本物の薬見てへんからなんとも言えんけど.
過去に行く方を原料にした…って言うとったよな?
……ある程度過去に戻った上で、そこから未来に一気に飛ぶ、っていう薬なんとちゃうかな。
小川だって薬を飲む前のしばらくの間、ボーっとした…丁度今の辻みたいに、
頭の中でもう一人がいてるような感覚あったと思うけどな?」
「…どうなん? まこっちゃん?」

加護ちゃんに向かって『まさかぁ、そんなわけ無いじゃん』と言おうとしたその瞬間。



思い出した。
薬を飲む三日前くらいから、随分頭がボーっとしていた。
それでムカムカしててあさ美ちゃんと喧嘩しちゃったんだし…
丁度今みたいに頭が重かった、のんちゃんの身体なのにこんなこと言うのは失礼だけど。
あの時も…私が中にいたってこと…?

「まこっちゃんさぁ…中に自分以外のがいるんだったら、気付けよ」
のんちゃんの声が呆れ半分だったのは、まあ気のせいということにしておこう。
506書いた人:04/02/24 01:32 ID:W9f1glVJ

「…覚えあったか?」
「はぁ」

私の気の無い返事に、つんくさんは目を細める。
でもそのすぐ後、すぐに保護者の顔は消え失せて。
言葉を喋ろうとしているのに、つんくさんの唇はわなわなと震えたまま。
歯がカチカチと鳴っているのが、微かに聴こえる。

「そやな…お前が来たんは、分かれた全く違う未来の方や」

その言葉に自然に頷いたけれど、つんくさんが私のそれを見ていたのかは分からない。
そしてその後の彼の言葉に、私たちはやっとつんくさんの白い顔の意味が分かった。
彼が今まで何をしていて、そして何故、私が来ていることを信じられなかったか。
いや、信じたくなかったか。

「俺はな…これで小川が死ぬの、止めるつもりやった」
507書いた人:04/02/24 01:32 ID:W9f1glVJ

「小川が死ぬのを止められれば、この未来も変わるんやと思ってた。
加護、辻。お前たち、2000年から帰ってきた時、言うとったやろ?
ちょっとだけ、未来が変わってますよ…って。
それみたいに俺が過去に戻って、防げば済むと思うとった」

私たちが期待していた、そして予想していたこの機械に対する答え。
そしてつんくさんのこの10年間の答え。
なのに。

「けどな…小川がここに来てる……ってことは、時間は分岐するんや!
過去を変えたかて、そこから新しく別に未来が出来るだけで。
俺たちのいる時間は、そのまま存在しつづける」

途中から声に涙が混じって、聞き取りにくかったけれど。
つんくさんが泣いたのを…ふざけないで泣いたのを、初めて見た。

「この機械作ってても可能性は捨てきれんかった…もしかしたら、時間は一本道じゃなくて、分かれてるんちゃうかって。
そうやもんな、お前らが変えた未来と違って、俺が変えるんは不可逆的なもんなんやから。
仮定が真実だって…認めるのが…怖かった。
でも…もう、認めざるをえん。時間は分岐する。俺が過去行って何しようと、俺たちの時間は別々に存在しつづける」

私たちは何も言わなかった、いや、言えなかった。
つんくさんはテーブルに肘をついて、顔を両の掌で覆った。
最後の声はかすれたような、途切れ途切れの声。

「…認めざるをえん……………俺の10年間は、無駄やった」
508書いた人:04/02/24 01:35 ID:W9f1glVJ

今日はここまで。
通り魔に刺された気分ですな。
取り敢えず叫んでおきますか ( ^▽^) <キャー
509書いた人:04/02/24 01:40 ID:W9f1glVJ

言い忘れ。
保全してくださっている皆様へ。いつもありがとうございます。
n日までに終わりにしようと思っていましたが、到底無理でした。

ところで保全の効力において、ageさげ関係ありませんので、
出来ればsageでお願いできませんでしょうか。

例の如く宣言した時限を軽やかに越えて続いてしまいそうなので、
手の掛かる作者で申し訳ございませんが。
510ねぇ、名乗って:04/02/24 12:06 ID:ZzxXsGZJ
>>509 書いた人
楽しみにしてまっせ
511ねえ、名乗って:04/02/24 23:39 ID:9VN6vLNf
テーブルに突っ伏して保全
512ねぇ、波乗って:04/02/25 00:46 ID:bwEWEH+8
保田大全集
513ねぇ、名乗って:04/02/25 01:04 ID:gtf4y6N0
更新乙です。
514名無し募集中。。。:04/02/25 13:44 ID:gk14PFQs
ほしゅ
515ねえ、名乗って:04/02/26 00:28 ID:fBWjOgUF
ho
516名無し募集中。。。:04/02/26 06:57 ID:JuF+ZUm1
517名無し募集中。。。:04/02/26 18:14 ID:JuF+ZUm1
518書いた人:04/02/26 19:08 ID:EpaSX1Bx

痛かった。
漏れ聴こえる嗚咽を私は耳を塞ぐこともせず、ただじっと受け入れるしかなかった。
この10年間の中で初めて、つんくさんは感情を暴発させたのかもしれない。
その気持ちを受け入れることも、そしてつんくさんに何の慰めの言葉も持っていない自分も、すべてが悲しくて。
その悲しみが、痛い。

加護ちゃんはただ優しく、つんくさんを見詰めていた。
ソファーに浅く腰掛けて、前のめりに手を組んでいるその様は、
16歳の加護ちゃんからは連想も出来ないような大人の様(さま)で。
30分ほど前の怒りの表情はもう遠く彼方へ捨て去ってしまって。

つんくさん、あなたの考えたことは、確かに間違っていた。
時間の分岐の可能性を考えなかったし、そもそもこの機械を復元することも難しいから。

でも………

でも私は今、最高に嬉しいんですよ?
10年間、一瞬たりとも私から目を背けずにいてくれたことが。
確かに色んなものを失って、色んな人を傷つけたけれど、それでもずっと一点を見詰めて走りつづけていたことが。
519書いた人:04/02/26 19:09 ID:EpaSX1Bx

色んな感情が頭を駆け巡ってごちゃ混ぜになって。
何から声に出せばいいのか分からずに、少しオロオロする…と、

「まこっちゃん…ちょっと一回バトンタッチ」

え……?
返す間もなく、私の意識はのんちゃんの身体の奥底へと引きずり込まれていく。 
ちょっと…一瞬声をあげたけど、
それにも構わずにまっしぐらにのんちゃんは意識の最上部を目指す。


―――

「……つんくさん」

つんくさんの肩に手を触れた瞬間、のんちゃんの指先が微かに震える。
布を通して触れたそこは、肉付きなんか無いって言っていいほどガリガリで。
でも…それに驚いて手を引きかけたけど、のんちゃんは却ってぐっと力を込めた。

「……のの…か?」

斜め後ろから、前髪に遮られる顔を僅かに覗き見て加護ちゃんが声をあげたのと同時に、つんくさんも顔を上げた。
ただでさえ男の人にしては小さめのその身体が、萎(しぼ)んじゃったみたいに見える。
520書いた人:04/02/26 19:10 ID:EpaSX1Bx

のんちゃんを見上げるつんくさんの目は、病人のような赤。
のんちゃんの表情は分からないけれど、瞬きすらせずにじっとつんくさんから目を離さない。
と、頬の筋肉が少し上がって、ふっと静かな吐息が漏れる。
のんちゃんが、笑った。

「つんくさん…頑張ったんですね」
「でもな…辻、お前かて分かるやろ? 全部無駄だったんよ。
俺の考えた理論も、この10年間も、この完成してない機械も、みんな…」

悲しい時って、優しい言葉をかけてもらえばもらうほど、余計に涙が出てくる。
家までグッと涙をこらえてきた子どもが、母親を前に堰を切ったように泣きじゃくるように、つんくさんは泣いた。
その言葉の一つ一つに、のんちゃんは微笑みながら頷いて。

「…でも…えっと…だからこそ、つんくさん」
「……」
「もう頑張らないでいいんですよ」

ハッと顔を上げたつんくさんの顔に浮かんでいたのは、おそらく絶望の色。
521書いた人:04/02/26 19:11 ID:EpaSX1Bx

その絶望を認めたはずなのに、いいや、受け入れたからこそ、のんちゃんは続けた。

「まこっちゃんが別の…まこっちゃん死んでない所から来たから、
確かにつんくさんがこれを完成させても、もう何の意味も無いかもしれません。
でも…それって、もう十分だって。
これからはつんくさん、
自分のために時間を使っていけばいい、ってことを知らせてくれたんだと思いますよ」

言葉を選び選び、つっかえたり途中で考え込んだりしながらも、のんちゃんは言い切る。
そしてつんくさんの脇に回りこんでしゃがみこむと、加護ちゃんはつんくさんを見上げた。

「もうまこっちゃんにいい曲作ってあげることは出来ないですけど、
でもうち、『砂時計』めっちゃ気に入ってますよ?
まこっちゃんも多分これ聴いたら、きっと喜ぶと思いますし。
もううちらも、まこっちゃんが死んでもうたことは静かに受け入れな、と思うんです」

ゴメン…加護ちゃん、もう聴いちゃったんだ、その曲。
つんくさんがこんなメロディーかけるんだって思うほど、ホントにびっくりしたよ。
そしてモーニング娘。がこんな歌い方できるんだって素直に驚いた。

二人の言葉が余計につんくさんの感情に触れるらしく、また彼は顔を手で覆い隠してしまった。
でも……その表情にもその声にも、もう後悔は無くて。
まるでこの10年間にお別れを言っているみたいな、そんな感じ。
522書いた人:04/02/26 19:11 ID:EpaSX1Bx

―――

「……俺のこれから…か。想像もつかん」
「誰かて想像もつきませんよ。できることから、ですって」

玄関先、もう午前0時を回ってかなり経つ時間。
暖かい光を放つ照明も、広いホールのすべての闇を埋めるには不十分みたいで。
つんくさんの顔つきはすこし光が翳っていたけれど、
私たちは…少なくとも私は、安心していた。

「小川は…いつまで居れるんや?」
「分かんない、って言っといてくれる?」
「……分かんない、ですって」
「そっか…ホンマはもっと話したかったんやけど、実体が居候やからな。
辻の仕事に影響出してもあかんし。
俺が元あった薬使うて作ったんやったら…そんなに長く居れんと思うで」

寂しそうに人差し指で頬を掻く。
その顔はやつれてはいるけれど、あの保護者ぶった10年前のつくんさんにそっくりで。
523書いた人:04/02/26 19:12 ID:EpaSX1Bx

「え……長くいないって、どれ位ですか?」

何だのんちゃん、そんなに居候を追い出したいのかい…
と思いきや、その声の切迫感にそんな感情が無いことに気付いた。
のんちゃんの勢いに気圧されたのか、僅かにつんくさんは身を反らす。

「いや…完璧に推測やけど。
残っとった薬って、安倍が返してきたんとちょっとだけやったし。
同じくらいの量でお前らが3年前に2か月分帰ったこと考えればなぁ…
10年移動しとるしなぁ…いやでも、未来やったらまた計算違うかもしれんし…
長くて2週間、ってとこちゃうか?」

2週間かぁ…
軽い溜息を漏らしたのんちゃんと一緒に、私も溜息を漏らしておく。
残り…10日無いなぁ…
524書いた人:04/02/26 19:14 ID:+DcG8NXM

私たちはいつまでも、玄関先でブーツを履いたまま立っていた。
ここにいれば、10年間を埋められるような気がして。
次第に途切れていく話題に、徐々に沈黙の占める幅が増えていって…

と、加護ちゃんはパンと両手を合わせると、突然のんちゃんの耳元に口を寄せる。
…ちょっとドキドキしたのは内緒だ。

「…のの、つんくさん、紺野ちゃんの結婚式に…」
「…ッ!!」

顔を放した加護ちゃんに満面の笑みで頷く。
悪戯を始める前みたいに、加護ちゃんは目を細めて笑った。
そしてつんくさんを見上げると、大きく息を吸う。

「つんくさん…これからのつんくさんが始まる第一歩、見つかりましたよ」
「……なんや? その悪巧みしてますぅ、って感じの顔は」
「…ふふ、うちとののの最後の悪戯ですわ」
「つんくさんのタバコに爆竹包んだのに比べれば、可愛いもんだよね」
「…あれお前らやったんか…死ぬかと思ったで、ホンマ」
525書いた人:04/02/26 19:14 ID:+DcG8NXM

一瞬の静寂を経て、のんちゃんと加護ちゃんが頷きあった。
そして…私も、声を揃える。

「「紺野ちゃんの結婚式、出ましょうよ!!」」
「あさ美ちゃんの結婚式、出てください!」

鳩が豆鉄砲食らった…その表現は今の瞬間を捉えるためにあるんじゃないか。
血走った目をまん丸にして、つんくさんはぽかんと口を開けた。
でもそれもほんの一瞬、すぐに真面目な顔つきに戻ると諭すようにかがんで目線を私たちに揃える。

「あんな…辻、加護。紺野の結婚式あさってやろ?
常識的に、三日前に『やっぱり出ます!』ってんは、通用せんで?」

つんくさんにしては常識的な発言に、二人は顔を見合わせてニマー、と笑った。
笑ったまま、つんくさんの反論なんかものともしないように、のんちゃんは首を傾げる。

「そこで非常識にやっていくのが、つんくさんなんですよ」
「……!!」

瞬間、つんくさんの馬鹿笑いが玄関を包み込んだ。
それにつられて、加護ちゃんものんちゃんも、そして私も笑った。
こんなに笑ったの、久しぶりってくらいに笑った。
526書いた人:04/02/26 19:15 ID:+DcG8NXM

―――

「寒い寒い寒い寒い寒い……」
「寒いって言うなや! 余計に寒くなる」

東京だって言っても流石に深夜の路上の風は冷たくて。
マンションを出た瞬間、私たちは少し足を速めた。
もうつんくさんのことは誰も言わなかった。
あの場でつんくさんは「うん」って言わなかったけれど、多分大丈夫。
あの笑い方は、「馬鹿げたことを」っていう笑いじゃなかったもん。

「タクシー捕まえないとなぁ…捕まるといいけど」

幹線にを前にして、行き交う車のランプを遠目に眺める
と、加護ちゃんがのんちゃんの前に踊り出た。

「なぁ、のの?」
「?」
「何で最後に、あんなこと聞いたん?」

さっきまで道路に置いていた視線を加護ちゃんの真っ白な顔に合わせる。
527書いた人:04/02/26 19:15 ID:+DcG8NXM

つんくさんの家を出る直前、のんちゃんは振り返った。
『何でまこっちゃんは沢山ある分岐の中で、ここに来ちゃったんですかね?』
私は別に疑問にも思っていなかったけれど、のんちゃんはそう口にした。
つんくさんは当然のことながら何も答えられずに首を振るだけで。
加護ちゃんに至っては何でそんなことを聞くのか分からずに、宇宙人を見るみたいな目付きをしていた。

「…いや、なんかね。なんとなく不思議に思っただけ」
「そうか…んならええけど」

それだけで二人のやり取りは終わって。
そして毅然と道路に向かって右手を上げる。

二人の会話やその挙動を私は脇に見ながら考えていた。
もしもあと少ししかここにいられないんだったら、何かできることは無いんだろうか。
私は私の一番やりたいことを、やらなきゃいけないことを…

タクシーの軽いブレーキ音が私の心を引き戻す。
528書いた人:04/02/26 19:16 ID:+DcG8NXM

今日はここまで。
「ラブシーン来たらやります」って言った紺野さんに、軽くショック。
529ねぇ、名乗って:04/02/26 20:32 ID:Js9eJF8I
ましゅ
530名無し募集中。。。:04/02/26 22:25 ID:h/basC5B
>>528
>「ラブシーン来たらやります」

「将来的には女優としても仕事の幅を狭くしたくないから、今ここで”やりたくない”と言うわけにはいきませんよね」って
意味だと解釈することにしました。
531ねぇ、名乗って:04/02/27 04:19 ID:RwifoiIV
更新乙です。
532名無し募集中。。。:04/02/27 15:16 ID:41TWJCCO
533ねぇ、名乗って:04/02/28 00:30 ID:WnlC926L
ほしゅ
534名無し募集中。。。:04/02/28 12:22 ID:TOSbRdA7
535名無し@ネカフェ中。。。:04/02/28 16:26 ID:svJjnO+I
大量更新乙です!

>>528
自分は、仕事に対しての前向きな気持ちの表われ・・・ってことで、納得することにしました。

536名無し募集中。。。:04/02/29 00:29 ID:YXFHvEXP
ほしゅ 
537ねぇ、名乗って:04/02/29 13:18 ID:Ze1x11Pk
538ねぇ、名乗って:04/02/29 21:55 ID:n2ct6pEW
念のため。
539書いた人:04/03/01 02:24 ID:7cbuHX7y

―――

すれ違う車のヘッドライトが、網膜にかすかな残像を残して飛び去る。
のんちゃんはタクシーの後部座席でそれに振り返りすらしない。
二人は何かホッとしたような安堵と、そして高揚感に今更ながら触れているらしかった。

まだ余り実感は無くても、でも確実に予感はしているんだ。
10年間止まっていた何かが、次第に動き出しているってこと。
つんくさんが過去を見詰めつづけるのをやめて、のんちゃんがこの10年間を肯定できるように。
まだそう言い切れないし、ちょっと歩き出しただけかもしれないけれど。
それでもそんな予感を二人とも感じているらしかった。

それなのにまだ…私自身には影がある。
あさ美ちゃん…どうなってるんだろう?
明後日、もう明日…か、あさ美ちゃんは結婚する。
相手が誰か、私は知らない。のんちゃんに案内状を見せてもらったけど、知らない人だった。

結婚するんだもん、一生その人と過ごしていくんだもん。
とってもその人のこと、好きなんだよね?
あさ美ちゃんが過去から目を背けるだけのために、明日を迎えるわけじゃないことは分かってる。

なのに…私の頭から影が離れない。
540書いた人:04/03/01 02:24 ID:7cbuHX7y

『過去に蹴りをつけるためかもね』

のんちゃんはそう言っていたけれど、でも…それってホントに正しいことなのかな?
新しい一歩を踏み出すときに、全部後ろにあったものを捨てちゃう…そういうこと?
それって…私と買い物したり、歌ったり踊ったり、おしゃべりしたり、時々喧嘩したり。
いやあさ美ちゃんのあの輝かしい2年半、全部忘れちゃうってこと?

コンビニの冷たい灯りが目に入って、その瞬間に後方に消え去った。
私は…小川麻琴は今、ここにいない。
もしもあさ美ちゃんが全部忘れちゃったら、私はもう永久にあさ美ちゃんに想い出だしてもらえないんだろうか。

その瞬間、猛烈な恐怖感が精神全体を駆け抜ける。
私がここにいないのなら、そして私が二度とここに来れないのなら、あさ美ちゃんは私のこと…

嫌だ、嫌だ、嫌だ
541書いた人:04/03/01 02:25 ID:7cbuHX7y

「……寒い」
「え? そうですか? 暖房上げます?」
「…お願いします」
「なんや、のの。寒いんか?」
「ちょっと、ね」

私のこころの騒擾が伝わったのかもしれない。
加護ちゃんが押し付けてきたコートを膝にかけて、のんちゃんは小声で「ありがと」と呟く。

今ここで、『あさ美ちゃんに会いたい!!』なんて言えない。
多分のんちゃんは自分自身が抱えることを全部打ち消して、会いに行ってくれるだろう。
加護ちゃんだって『結婚式の前日やで? 非常識やん』とか言いながら、それでも携帯を開いてくれるだろう。
私があと少ししかここにいられない。
それを聞いたあの時の二人の調子を考えれば、
二人がそう言ってくれることがもう表情や言葉の調子まで一緒に予測できる。

けれど私は口をつぐんだ。
542書いた人:04/03/01 02:25 ID:7cbuHX7y

私はあくまでも過去の…いや、別の時間軸の…人間なんだ。
わがままを通して私が満足しても、それが変な結果を残すとしたら。
そんなの、絶対に嫌だ。
のんちゃんや加護ちゃんは結婚式の前の日の深夜に突然電話をするとんでもない人、ってことになっちゃう。
あさ美ちゃんはお父さんやお母さんと過ごす最後の日を、永久に逃すことになる。

やり直しは利かないんだ。
タクシーはバックできるけど、私たちは絶対に後戻りできない。
私がこの時代で悔いを残したくないのと同じくらい、みんなが幸せであって欲しいから。

………そしてその二つだったら、私が選ぶのは勿論…

二人が何かを話し始めたけれど、それを聞き流しながら考えていた。
みんなに変な影響を与えないで、それでいてあさ美ちゃんに私を忘れないでいて欲しい。
矛盾だらけでとってもわがまま願いだってこと分かってる。
分かってるんだけど…どうしたらいいかなぁ…
543書いた人:04/03/01 02:26 ID:7cbuHX7y

「ま・こっ・ちゃ・ん!!!」
「!!」

と、突然の咆哮にぎっくり腰が再発しそうになる。
危ないなぁ…実体がここに無いことを、神様にちょっとだけ感謝する。
脳内の居候と話すってサイケな行動が運転手さんにばれないように携帯を耳に当てて、のんちゃんが吠えていた。
加護ちゃんが眼鏡越しに、すこし気の毒そうな視線を送っているけれど、これは多分私宛だろうね。

「…返事くらいしてよねぇ。
明日夕方まで仕事だから、その後あいぼんとご飯食べるけど…どこがいい?」
「あ、ゴメン。ちょっと考えごとしててさぁ…うーん、なんでもいいよ」
「そう? 折角だから腰抜かすほど美味しいものでも食べようよ」

あんたのさっきの怒声でもう腰なんか抜けてるよ…とは当然言わない。
加護ちゃんは握りこぶしを口に当てて、くすくすと笑っていた。

「まこっちゃん、もうあと少ししかおれへんのやろ?
10年前の収入じゃ食べれんもんでも食べとけばええやん」

また昔の話を…
今はそれなりにお給料貰ってるけどなぁ…自由に使える分少ないけどさ。
お金の話をするときの加護ちゃんの三日月状の目つきが、無性に懐かしく見える。
544書いた人:04/03/01 02:27 ID:UtGFZdPu

「そうねぇ…ご飯はどうでもいいって言うかさぁ…二人ともっと色々話したいね」
「…分かったよ」

そうだよ。
美味しいものなんか、いつでも食べれるじゃん。
今はもっと、二人と話していたいからさ。
のんちゃんから私の要望を聞いた加護ちゃんが、
『なんや、折角ののの奢りでいいもん食べれると思ったんけどな』
と、とんでもないことを言っていたのは、気のせいということにしておこう。

モーニング娘。のみんなとは結婚式で話せるけど…でも、私が来てるなんて言えないよね。
こんな与太話、普通の人間は信じてくれないし。
出来れば…私自身の言葉でみんなと話したいよねぇ…
でも今話してもなぁ…意識を変わってもらったところで、のんちゃんが喋ってるようにしか見えないし。
545書いた人:04/03/01 02:28 ID:UtGFZdPu

私が私であること、私が今ここにいること…それを何で証明すれば…

「あ」
「何? どしたの、まこっちゃん」

思いついちゃった。
これだ、これしかない…って言うか、これしか思いつかない。
自分の脳味噌の優秀さが身に染みる。まさに自分で自分を褒めてあげたい。
やっぱりあれだね、日頃からバカやってると、いざって時に凄いね。

「いやぁ〜、加護ちゃん、誉めてつかわすぞよ」
「どしたん? のの?」
「いや…なんかまこっちゃんが殿になってる」
「はぁ?」

遂に大脳がご臨終したかのような目付きをしている二人をそのままに。
私は自分のひらめきを前に、だらしない笑いを止められなかった。
546書いた人:04/03/01 02:30 ID:UtGFZdPu

今日はここまで。
なんとか終われそうな気がしてきました。
547名無し募集中。。。 :04/03/01 02:40 ID:GsDZ0l09
更新乙です
548ねえ、名乗って:04/03/01 12:07 ID:LOB9/to9
更新乙です。
紺野が登場するかどうかドキドキして待ってます。
549名無し募集中。。。:04/03/01 15:11 ID:6UMwD9Q9
更新乙です。
養成塾に書かれました? 勘違いなら申し訳。
550ねぇ、名乗って:04/03/02 00:08 ID:0WFFrrpG
ほしゅ
551名無し募集中。。。:04/03/02 12:46 ID:+3gcCTXz
552名無し募集中。。。:04/03/02 21:40 ID:bKlApYuJ
553書いた人:04/03/02 21:49 ID:5JspDMDm
>>549
分かっちゃいましたかぁ…
もう添削期間終わったからいいでしょう。時卵、書きました。
短編は勉強になりますな。
554ねぇ、名乗って:04/03/03 12:17 ID:WCtELMyY
ほしゅ
555書いた人:04/03/03 23:14 ID:c9+K8IJQ

――― 朝3時

闇の中で私は目覚めた。
何も聴こえない、そして何も見えない静寂。
いや…かすかに二人の寝息が聞こえてくる。
のんちゃんと加護ちゃん二人の寝息。

あの後段々上がってくる興奮を抑えきれず、二人は祝杯をあげた。
ホントはそれに付き合って、酔った姿とかも見ておきたかったんだけど。
でも二人がビールの蓋を起こしてすぐ、さっさと寝かせてもらった。
今起きれたことを考えると、やっぱり寝ておいてよかった。
ちょっぴり頭がくらくらするのはお酒のせいかな?
気のせいか、加護ちゃんの寝息が昨日よりも少し大きいような気もする。

私がここに来ていたことを伝えたい。
そしてあさ美ちゃんにずっと私のことを覚えていて欲しいから、そのために出来るたった一つのこと。

………手紙を、書こう。
556書いた人:04/03/03 23:14 ID:c9+K8IJQ

でものんちゃんが起きている内にそれをやるのは、ちょっぴり気が引ける。
身体貸して、って言うのは簡単なんだけど。
何よりのんちゃんと加護ちゃんにも、手紙を渡しておきたかったから。
全て秘密にやり遂げるには、やっぱりこれしかないよね。
本当は身体を勝手に使うのなんて、ちょっぴりルール違反だとも思ったけど…

うん、やっぱこれしかない。

意識を集中する。
中に潜んでいる私の周りをふわふわと飛ぶ、蒼い光の群れ。
その光の間に風を起こして、ゆっくりと同じ方向に動き出すみたいに。
何回かやってるから自信がある、のんちゃんが寝ててもきっと出来るはず。
「気を練る」とか言うのって、多分こんなんだろう。
今なら気功砲だって出せそうな気が…ゴメン、ウソ。
すうっ、と光の群れが上に向かっていったように感じた。

静かに目を開くと、橙色の豆電球が暖かく浮かんでいた。
そのままじっと光を見つめる。
隣では加護ちゃんの呼吸の音だけが静かに繰り返されていて。

…次第に周りの輪郭だけがぼんやりと見えてきて…いいかな?
557書いた人:04/03/03 23:15 ID:c9+K8IJQ

足音を、いや、パジャマの衣擦れの音さえ立てずに。
心の中でゴメンを言いながら加護ちゃんを跨いで、目指すは机の引出し。
いつもなら聴こえないような、カーペットを踏みしめる音が鼓膜を痛いほど打つ。
すーっと脚を進めて、そして下ろすときには細心の注意を払って。
引出しまでが異様に長く感じられた。こんなに距離あると思わなかったなぁ。

「まこっちゃぁ〜ん、あんたの方が太っとんで…」

!!

…寝言、か。
部屋の端まで来て振り返ったけれど、加護ちゃんが起きた気配はない。
むしろ、すやすやと眠っている。しかしどういう寝言よ、それ。
そしてのんちゃんも…大丈夫、心の中で何にも声は聞こえてこない。

電気スタンドを点けると、ぼわっと広がる黄色い光。
一瞬目を細めて、そしてすぐに引き出しの中を弄った。
558書いた人:04/03/03 23:15 ID:c9+K8IJQ

椅子に腰掛けて便箋を広げて…考える。
あさ美ちゃんへ、最初の行にこれだけ書いて、筆がピタリと止まっちゃった。
そのままずーっと光を見つめている。

何を、伝えよう。
私が今、ここに来ていること…うん、それは伝えないといけないか。
でも今更あのおかしな薬のことや、私の状況、そんなことを延々と書き連ねたってしょうがない。
手紙が届くのって、多分私が帰るか帰らないか、ギリギリのところ。
もしも私が帰っちゃった後、『実は来てた』って聞いたら、あさ美ちゃんどう思うだろう。

私だったら、何で言ってくれなかったの!! 
そうやってのんちゃんにブチ切れちゃいそうな気がする。
大切なのは、そこじゃないんだ。

私はこの世界では死んだ。
しかも突然に、何の前触れも無く。
私は…あさ美ちゃんやのんちゃん、加護ちゃん……いや、モーニング娘。のみんなに何も言わずに行っちゃったんだ。
その時の私は、何を伝えたかったんだろう。
559書いた人:04/03/03 23:16 ID:c9+K8IJQ

さよなら?
それはそうだけど。確かにまた会おうね、とは言えないけど。
お別れの挨拶だけじゃない…

私は…この時代の私もそうだし、2003年の私もそうだけど、伝えきれていただろうか。
何を? ……ホントの気持ちってやつを。
そう、私がいつもみんなに思ってる、その気持ち。
私はみんなを、世界で一番好きだったってこと。
それをしっかり伝えられていたかな?

うん。

大きく頷くと、筆を進める。
考え考えだけど、それでも想っていることをそのままボールペンが浮かび上がらせていって。

初めて会ったときのこと。
一緒にお買い物に行ったときのこと。
初めて喧嘩したときのこと。
あさ美ちゃんが怪我したときのこと。
私がぎっくり腰になったときのこと。

あの薬の事件。
そして…冬の日のこと。

私が今なんでこの手紙を書いていられるか、そしてのんちゃんへの弁護を書いて。
560書いた人:04/03/03 23:16 ID:c9+K8IJQ

―――

ふぅ…
ペンを置いて、キツく持ちすぎてちょっぴり痛む中指をさする。
便箋6枚…長ッ。
読み返してみようとしたけれど、最初の一文で赤面しちゃう。
伝えたいことは全部書いたんだもん、大丈夫だよ。

さて…でもどうしよう。
このペースで書くと、確実に便箋が足らない。
しかも全く考えてなかったんだけど、これ、どうやって出せばいいんだろ?

あぁぁぁぁ…いいや、どうにかなる!! …かもしれない。
取り敢えず手紙を書けるのは今しかないんだから。
できるだけやるさ!!

次はそれじゃ、大家さんののんちゃんに…

のんちゃん…
ホントにお世話になりっぱなしだなぁ、今回。

何を伝えておこうかなぁ…

……なんだろうなぁ…

……



561書いた人:04/03/03 23:17 ID:c9+K8IJQ

―――



ん?

鼻腔をくすぐるお味噌汁の香り。
のんちゃんのおばさん、もう朝ご飯の支度してるのかぁ…
でもさぁ…今、夜の3時だよね?

「あいぼん、だしってこんくらいでいいよね?」
「ええけど…やっぱり白味噌使ってくれひんの?」
「うち関東だからさ、置いてないよ」

あ、そうか。
のんちゃんたちが自分で作ってるんだ。
いやぁ大人だもんねぇ、二人とも。
夜の3時から朝ご飯の用意とは、感心感心。

「まこっちゃん起こさんくてええの?」
「うん、昨日色々疲れただろうし」

…って、ちょっと待て。
562書いた人:04/03/03 23:18 ID:c9+K8IJQ

「え? あれ?」

私の視界に飛び込んできたのは、豆腐を手の上で賽の目に切っている絵。
台所の小さな窓から差し込む光の中、横では加護ちゃんがリズム良くネギを蹂躙している。
トントン、って音がとっても軽快で。

ウソでしょ!?
昨日…寝ちゃったの? 私!!
「あ、まこっちゃん起きたみたいだ」
のんちゃんの呑気そうな声が聞こえた。

「ゴメンな、まこっちゃん。起こしてもうた?」
「……ウソ…」
「うーん、まだ寝ぼけてるね、こりゃ」

それじゃ、あの手紙は?
もしかして二人に見られたの!?
ダメじゃん、それじゃ…折角秘密の計画だったのに。
手紙は…どうなったんだろう。

私の動揺が伝わるはずも無く、二人は出来たての朝ご飯を食卓へと配膳していく。
563書いた人:04/03/03 23:21 ID:c9+K8IJQ

「…のんちゃん…あれ、見た?」
「?」

お箸を並べながら、のんちゃんは無言で少しだけ頭を縦に振った。
はぁ〜、と溜息をつこうとした瞬間、彼女は口の中で呟く。

「…大丈夫、中身なんか読んでないから」
「でも…まだあれ…みんなの分も…」

私ってば朝から泣きそうで。
もう声が詰まってるのが自分で分かった。
それなのにニヤッと笑うと、のんちゃんはくるっと振り返る。

と、欠伸を大きく一つ。

「なんや、のの。朝から眠いんか」
「何かねぇ〜…これじゃ、楽屋で2時間は寝ないとダメだねぇ。
それとちょっと文房具屋さん、行かないとなぁ〜」
「なんやそれ」
「ほら、あの…なんつったっけ? ご祝儀包む布、まだ買ってないんだ」
「アホ、用意しとかな」

呆れ半分の加護ちゃんが食卓に着いたのを見て、のんちゃんはくすくすと笑う。
私はその意を察して、別の意味で泣きそうだった。
564書いた人:04/03/03 23:26 ID:c9+K8IJQ

今日はここまで。

帰り道の横断歩道で信号待ちをしていたところ、隣に女の子とそのお母さんが並びました。
と、女の子が夜空を見上げて「お母さん、月にウサギ!」って叫びまして。
お母さんが空を見上げて、私や他のサラリーマンもつられて空を見て。
でも半月をちょっと太らせた月には、ウサギなんか全然見えなくて。

「見えないよ〜」ってお母さんがその子に言ったんですが、
その子はにこりと笑うと「私にしか見えないんだよ! お母さんは大人だから見えないの!」って。
月にウサギがいることなんか忘れてましたね。

…って何を書いてるんだ、私は。
以上、今日ちょっと感動したことなど。
565ねえ、名乗って:04/03/04 01:24 ID:bumF6R7o
更新乙です。
私的には“ネギを蹂躙”に感動しました。
566ねぇ、名乗って:04/03/04 01:31 ID:EwYY+KjC
更新乙です。
567書いた人:04/03/04 01:40 ID:zPIt+vmD
今ちょっと読み返したんですが、ご祝儀包む布って文房具屋には売ってませんな。
「ご祝儀袋」ということで脳内変換をば。
初歩的ミスですな。
568名無し募集中。。。:04/03/04 13:16 ID:W5L7EApx
更新乙です
569名無し募集中。。。:04/03/04 22:10 ID:kqw4EPfl
570ねえ、名乗って:04/03/05 00:32 ID:MEa2NVY6
ho
571ねぇ、名乗って:04/03/05 02:43 ID:X/GXheuP
関東の味噌汁って白じゃないんですか?
名古屋以外どこの地域でも白味噌使ってるんだと思ってました。
572ねえ、名乗って:04/03/05 14:46 ID:9rU9aopv
ze
573書いた人:04/03/05 23:30 ID:PyWdg6GN

―――

遠足や運動会の前日…そんな感じ、かな。
いつもと全く変わらない一日の筈なのに、私とのんちゃんの動悸は少しだけいつもより早く。
そして日常の隅々には、ちょっとだけ違う何かが潜んでいて。
さり気ない「忙しなさ」ってやつを私たちは一日中感じていた。

「ちょっと辻!? つんくさんがスーツ一式作れっていきなり言ってきたんだけど、どういうこと?」

そんな保田さんからの電話があったのは、ランチにアラビアータを食べているときだった。
そのテンパリ具合がホントに「おばちゃん」って感じで、あたふたとする保田さんが面白くてたまらなくって。

「紺野ちゃんの結婚式、出てくれるんだって」
「いや、それは電話で聞いたけどさ、いきなりどうしたんだろう? ってこと」
「さぁ? …で、おばちゃん、明日までに出来そうなの?」
「やんなきゃなんないでしょ。従業員総出なの!!」

電話の後ろから『保田さん! この寸法…!』って女の人の声が聞こえて、また保田さんが壊れる。
くすくす笑いながら、のんちゃんは電話を切って。
574書いた人:04/03/05 23:30 ID:PyWdg6GN

トマトに赤く染まったパスタをクルクルとフォークに巻きつけながら。
とっくに一口大を越えてるのに、それでものんちゃんはずっと笑いながらフォークを回していた。
外から見ればかなり危ないその風景も、止める気はまったくしない。

テレビ局近くのこのお店、のんちゃんが何度足を運んでいるかは知らないけれど。
多分のんちゃんの目には、このお店を流れる空気は全く違ったものに映るんだろう。
それだけじゃない、軽やかなジャズピアノの音も、この胡椒の効いたパスタの味も。
全てが生まれ変わったみたいに見えているんだ。

それはあさ美ちゃんの結婚式を控えた忙しなさだけじゃない。
きっと新しい何かが始まった、それを頬の辺りにぴりぴりと感じているから。
つんくさんは伏せた目をゆっくりと上げて、のんちゃんはしっかりと過去を掴み始めた。

砂時計はひっくり返った。
10年を過ぎて、今ようやくひっくり返ったんだ。
575書いた人:04/03/05 23:31 ID:PyWdg6GN

でも…あと一つだけ。
これが終わればのんちゃんの砂時計は確実に流れ始める。
これだけはなぁ…のんちゃん次第なんだけどなぁ…

ピタリとフォークを操る手が止まる。

「なぁ〜に考えてんの? まこっちゃん」
「え……いや、ハハハ、なんだろう?」
「どーせ、私がちゃんとあさ美ちゃんと話できるか、心配になってたんでしょ?」

図星。
えへへと、締まりのない笑いを返すことしか出来ない。
いつもだったら『脳味噌大丈夫?』とか言ってきそうなもんなのに、
ふっと視線を窓の外に向けた。
576書いた人:04/03/05 23:31 ID:PyWdg6GN

「……大丈夫だよ」
「え?」
「手紙を書くのは伝えたいことがあるから、でしょ?
私はここに実体があるのに、それなのに伝えられないなんて馬鹿げてる」

すこし刺のある風にも聞こえるその口調は、少なくとも私に対しての怒りではない。
お冷を口に含んで少しその冷たさを味わって、そして手で長い髪を一度梳いた。

「おかしいよねぇ…十年前に学んだはずなのに。
伝えたいたいことがあったら、友達だったらすぐに伝えよう、って。
脳味噌の皺は増えてるのに、こういうことってどんどん忘れてっちゃう」
「…うん」
「結婚式でちゃんと言うよ。あの時叩いてゴメンね、って。
できればまこっちゃん来てる、ってことも伝えたいなぁ」

いや新婚ほやほやなのに、そんな衝撃でかいこと言わない方が…
そう言いかけた瞬間、自分のバカさ加減に気付いた。
伝えたいってことが彼女の気持ちなら、それに逆らうことなんて私には出来ないって。
伝えてどんな結果になっても、伝えないで後悔するよりは何百倍もいいじゃない。
577書いた人:04/03/05 23:32 ID:PyWdg6GN

私の反応がないのに微笑むと、飲みかけのコーヒーを静かにソーサーに置く。
そしてぱんっと手を合わせて、軽く頭を下げてごちそうさま。

「行こっか。まだ便箋買ってないし……楽屋で2時間くらい寝れるから、その時書いてよ」
「ホントに寝んの?」
「だって私が私宛ての手紙読んだってつまんないじゃん。
私が見てたら照れくさくて書けないことだってあるでしょ?
明日も朝早いし、今のうちに寝とく」

午後からの仕事を遠くに見てか、お店から出てのんちゃんは大きく伸びをして。
そして薄青色の空をしばらく見上げて、笑った。

「だってさ、まこっちゃんの方が伝えられる時間が少ないんだから。当然でしょ?
まこっちゃんに残されたのがどれくらいか分かんないけど、今出来る内にやっちゃわないと。
さもないと、私はこれから残りの人生、ずっと後悔しちゃいそうだよ。
こればっかりはもう、取り返せないからね」
「…うん」

足元の鳩が一羽、ポップコーンみたいな音を立てて飛び立つと、
ビルの狭間の空に向かってまっすぐに上がって行った。
その絵がとても綺麗で、のんちゃんも私も鳩が視界から消えても、じっと空を見ていた。

「せめて…あと少し、私が紺野ちゃんと仲直りするまでは、見守ってよ」
「……うん」

努力じゃどうしようもないことだって事は分かってるんだけど。
だからこそ私は両手を組んで、年末にしかさして気にしない神様にお願いしたんだった。
578書いた人:04/03/05 23:35 ID:PyWdg6GN

頭の中でのんちゃんの寝息を聞きながら、私は一文字一文字丁寧に手紙を書いた。
みんな…私がモーニング娘。に入ってからお世話になったみんなに。
こんなバカな話信じないかもしれない、悪戯と思われるかもしれない。
それでも10年前に言い忘れたことが伝えられる、それだけを信じて。

「……終わった?」

最後の手紙に封をした丁度その時、のんちゃんの欠伸交じりの声が聞こえた。
秘密文書みたいに大事にその束を抱えて、局のポストを一心に目指して。
一通一通ポストに入れると、その度に紙の擦れる音が微かに耳を打つ。
みんなの砂時計を滞らせているかも知れない何かを、この手紙が吹き飛ばしてくれることを祈って。

過去に目を瞑らないで、未来に歩いていけるように。
そして私の言い忘れたことが、しっかり伝えられるように。
579書いた人:04/03/05 23:36 ID:PyWdg6GN


――― そして、2013年12月18日



チャペルの前の石階段で、泣きながら空を見つめる私がいた。
ウエディングドレスに包まれて、私の肩をギュッと抱く紺野ちゃんがいた。
笑顔で泣きながら、両手にいっぱい花びらを乗せたあいぼんがいた。
そして、少し俯き加減で、それでも優しくみんなを見守るつんくさんがいた。

中澤さんも飯田さんもなっちゃんも、
おばちゃんもやぐっさんもごっちんも、
梨華ちゃんもよっすぃ〜も愛ちゃんも、
マメも美貴ちゃんも亀ちゃんも、
シゲさんもれいなも、みんなみんないた。


けれど

彼女だけはいなかった。


一週間ぶりに、頭の中からは何も聴こえなかった。
すがすがしい気分のはずなのに、私はただ空を見上げて、はるか彼方を睨みつけた。
580書いた人:04/03/05 23:39 ID:PyWdg6GN

今日はここまで。
名古屋は豆味噌です。ちょっと赤とか白とかという範疇とは違うわけで。
関西も関東も基本は米味噌でして。
米味噌ならば、基本は関西は白、それ以外は赤で差し支えないかと。
何で味噌談義?

あと10回ほどで終わると思われます。
581名無し募集中。。。 :04/03/06 02:00 ID:4ZxLWGWb
更新乙です
582名無し募集中。。。:04/03/06 08:57 ID:rSwOEyD6
583ねえ、名乗って:04/03/06 12:47 ID:e/nNuqJs
nn
584名無し@ネカフェ中。。。:04/03/06 15:48 ID:S42/iwQA
更新どーもです
保全ですー
585名無し募集中。。。:04/03/07 03:33 ID:sIUBozR2
更新乙です。
586ねえ、名乗って:04/03/07 12:30 ID:AAjJrX1c
保線
587名無し募集中。。。:04/03/07 23:39 ID:oEPcQsMO
楽しみです。
588書いた人:04/03/08 04:10 ID:8MPEuFgg

――― 時間は少しだけ遡る

「……あ、ほら!! 飯田さん!!」
「いぃ〜ださ〜ん! アハハ……照れてる照れてる」

周囲の視線に真っ赤になって、飯田さんは唇をひん曲げながら歩いてくると、
「ちょっと、大声で叫ばないでよ、恥ずかしい」と、ぶぅたれた。
気だるさが増して、そして少し痩せたかな?
長い髪と大きな瞳は相変わらず、妖艶さが2倍増し。

同窓会ってこんなんなのかも…出たことないけど。
10年経ったからって、流石に『これ誰?』って言うほど変わってたりはしない。
それでも式場に入ってからというもの、のんちゃんもまるで10年前に戻ったみたいにはしゃぎ始めていて。
彼女の瞳に映るみんなを見るのが、すっごく楽しい。
589書いた人:04/03/08 04:11 ID:8MPEuFgg

石川さん石川さん、結婚式の主役はあなたじゃないんですよ? 分かってます?
ピンク色のドレスは眩しいくらいに目を引くけど…まあ、白じゃないだけ良しとしよう。
おマメ…何だ、その妙な貫禄は。飾った風じゃない、でもおしゃれなパンツスーツがよく似合う。
…ってあんた、何でタバコ吸ってんの!? 不良だ不良。

一人一人に心の中で挨拶と突っ込みを一通り入れ終わった後、、
のんちゃんも私に気兼ねしたのか、みんなの近況をそっと教えてくれる。
ロビーのソファーに腰掛けて、アイドルをとうに辞めてもそれでも華のある集団を見るのは楽しい。
だってほら、通り過ぎる男の人たち、すぐに振り返ってるもん。
590書いた人:04/03/08 04:11 ID:8MPEuFgg

「どう? みんな全然違うでしょ?」
「ううん、そんなことない」

少し笑いながら、それぞれの顔と全体をスキャニングしていく。
その絵を一緒に見つめながらの私の返事に、ちょっと驚いた風に肩をすくませた。
でも満足げに頷いて、大きなガラスの向こうに見える外に目を凝らす。
いい天気、蒼い空がほんのちょっぴりだけ見える。

「今ンとこ、マスコミとかも大丈夫だねぇ」
「……そういえば、誰もいないね」
「マメが色々手ぇ回してくれたからね」

……おマメ、あんた一体今何やってんだ。
私の疑問を予想したのか、のんちゃんは口を両手で包んでその中に笑い声を封じ込める。

「いやいや、ただの…ただの、か? ともかくプロダクションの社長さんだよ。
うちの事務所の子会社だけど、ね」
「あぁ、そーいうことね」
「バカにできないよ? すっごいから、マメの実力。
いつか独立すんじゃない? 競業避止がネックだけど…」

『実力』って言ってのんちゃんは右腕をぱんぱんと叩くけど…おっさんくさいって、それ。
最後の言葉の意味がさっぱり分かんなかったけど、おマメの貫禄の意味は十分。
ただタバコは止めときなさいよ?
591書いた人:04/03/08 04:12 ID:8MPEuFgg

10年前みたいにみんながみんな、同じ衣装を着てるわけじゃない。
ドレスもいれば、スーツもいるし、安倍さんの着物はホントに綺麗。
髪型だって思い思いに、結ってる人もいれば、綺麗にセットしてる人もいる。
でもこの不揃いな感じが、私の目には眩しい。
みんなが10年前同じ衣装を着ていたのは、ホントにただの偶然だったんだ。
私が死んでからみんなは衣装を脱いで、そしてそれぞれの道を歩み始めて。

不揃いでもこんなにロビーの一角が輝いているのは、きっとみんながそれぞれの道で輝いているから。
……あさ美ちゃんも、輝いているといいな。

「つーじー…お疲れ様」

私の思考は、保田さんの声で断たれた。
目は真っ赤で、塗りたくったファンデの下にうっすらとクマが見える。
それだけ見れば、昨日の激闘を聞くまでもなかった。
のんちゃんもそれを悟ったんだろう、ソファーから下りるとぺこりとお辞儀。

「おばちゃんこそ…お疲れさま……できた?」
と、保田さんはウインクをして親指をグッと立てる。
顔はヘロヘロなのに、その誇らしげな立居振舞いがとっても面白くて。
592書いた人:04/03/08 04:13 ID:8MPEuFgg

「すぐにタクシーで届けさせたから…ほら、私は自分の準備もあるからさ。
3時間も前に届いてると思うんだけどなぁ…」

保田さんは髪を撫でながら、ロビーの一団を見遣る。
つんくさんの姿だけ、まだここにはない。
そして入り口の大きなガラス張りのドアにも目を遣るけれど、つんくさんの影は見当たらずに。

「ホントにさぁ、つんくさん来んのかな?」

保田さんの声は高い天井に跳ね返ると、絨毯の床に吸い込まれた。
その言葉は絨毯からじわーっと広がって、壁を伝って私たちを包み込むような錯覚を覚える。

その言葉を今すぐにでものんちゃんが否定してくれると思ってた。
「そんなことない」って、怒ったみたいな調子で。
早く否定してくれないと、私たちをオムレツみたいにぱっくりと包む言葉が、そのままホントになっちゃいそうで。
でものんちゃんは保田さんに目を向けずに、じっとガラスの向こうの青空を見ていた。
593書いた人:04/03/08 04:13 ID:8MPEuFgg

「……今までずっと外に出てこなかったのに…今日いきなりここ来れるのかな?」

やめてやめてやめて。
声を振り絞って叫んだけど、この声が保田さんの耳に届くはずもなく。
のんちゃんは私の声にピクリともせず、さっきから視線を動かさないで。

「やっぱり…私が届けに行った方が良かったかな?」
「どうして今日いきなり来る気になったか知らないけど」
「それって、何があっても変わらないくらい強いものだったのかな?」
「ねぇ、辻?」

悪意も何もない、淡々としたその声が余計に響く。
保田さんは知らない。
つんくさんがこの10年間何をしてたか。
一昨日、つんくさんは何を失ったか。
でもそれを知らないからこそ、希望的観測を伴わないからこそ、余計にその言葉は鋭くて。
耳を塞ぎたくても塞げない。
594書いた人:04/03/08 04:15 ID:LVVMB7q9

「うん」

それだけ答えると、のんちゃんは斜め上を見上げて保田さんに向き直る。
それだけの返事に呆気にとられたのか、保田さんはきょとんとしていた。

「うん……大丈夫だよ」
「?」
「何で遅れてるのか知らないけど…大丈夫だよ」
「でも…」
「だってさ、来て欲しいじゃん。つんくさんに
……だから、大丈夫だって」

毅然とそう言ったあと、エヘヘへ…と、照れたように笑う。
何か言いかけたけど唇の端から言葉を息にして漏らして、保田さんも笑った。
595書いた人:04/03/08 04:15 ID:LVVMB7q9

―――

ステンドグラスとキャンドルの灯りだけが、ほのかにあたりを照らす。
チャペルの中の薄暗さって何かに似てる…そう、ステージ裏のあの感じかな。
前の方でパイプオルガンとセロが聴いたことのある曲を奏でていた。
私たちが入った一瞬、ちょっとしたどよめきが所々から上がったけれど、
でもその声も、教会の静謐さの中に吸い込まれていく。

一番通路寄りに陣取ったのんちゃんに、隣で加護ちゃんが時計を睨みつけながら呟いた。

「なぁ…のの、つんくさん遅すぎん?」
「うん…心配だけどさ、やっぱり待つしかないよ」
「一応さっき電話してみたんけど、出ぇへんし」
「………でも、きっと来るよ」
「そやね」

あさ美ちゃんのおばさんの後姿が最前列に見える。
あさ美ちゃん、どうなってるんだろう。
痩せたかな? 太ったかな? 変わってないのかな?
ドキドキする。
オーディションの結果を聞いたときと同じくらい、3人が待ってる屋上のドアを開けたときと同じくらい。
いや…私だけじゃない。このドキドキは、のんちゃん自身のそれ。
心なし早まる鼓動を抑えきれずに、きょろきょろと辺りを見回す。
596書いた人:04/03/08 04:16 ID:LVVMB7q9

「なんでののが緊張してんの?」

怒られた……と思った瞬間、演奏が止んだ。
余韻が微かにだけど、私たちを包み込む。
神父さんが祭壇に立って、満面の笑顔で私たち一人一人の顔を見回した。

もうすぐ、あさ美ちゃんに会える。
神父さんの言葉は私の頭には殆ど入らない…多分それは、のんちゃんも一緒なんだろう。
彼女の視線はきょろきょろと一点に定まらないで。
さっきから左手にはギュッと、砂時計が握られていた。
あさ美ちゃんに渡すんだもんね…きっとチャンスあるよ。
そしてその時絶対、仲直りできるからさ。

「それでは結婚式の前に、いくつか大切なことをお伝えします」
……あさ美ちゃんはどんな10年間を過ごしてきたんだろう。
「式の中で賛美歌を歌いますが、その時は是非、みなさんも二人の幸せを祈って…」
……ただ過去を忘れようと、あがいた10年間?
「もっとも大切なことですが、私が『アーメン』と言ったら、皆さんも…」
……それとも何か未来を見据えた10年間?
「『アーメン』というのはキリスト教でもっとも大切な言葉、その通りになってくださいという…」
そのどっちもなのかもしれない……けれど。
「…それでは新郎はご用意を…みなさんは中央をお向き下さい!」
そう! 大切なのはこれからだから。
597書いた人:04/03/08 04:16 ID:LVVMB7q9

すくっとバージンロードに人影が立つ。
この人が…あさ美ちゃんのお婿さんか…
高めの背、落ち着いた感じの口元…そしてなにより、優しそうな二重の目。
腰が抜けるほどかっこいいってわけじゃないけど、あさ美ちゃんが選んだ人。
あさ美ちゃんよりちょっと年上かな…緊張しているのか、じっと正面を向いたまま。

…くぅ、この幸せ者め。
あさ美ちゃんをお嫁さんにできるなんて…でも優しそうだから大丈夫だね。
と、バカなことを考えていたら…なんか妙な視線を背中に感じる。

「…のんちゃん、ちらっとでいいから後ろ向いてくんない?」

のんちゃんが後ろを一瞥すると、そこには15人が一斉に新郎を睨みつける視線。
いやいやいや…なんで睨みつけてんのよ。
と、真後ろの加護ちゃんの呟きが微かに聴こえる。

「……紺野ちゃん泣かしでもしたら、許さへんからな…」

……そういうことね。
向き直ったのんちゃんの目付きも、多分焼きそば食べられなかったときみたいなあの目線。
お婿さんが前しか見てないのが、ちょっぴり分かる気もした。
598書いた人:04/03/08 04:17 ID:LVVMB7q9

今日はここまで。
切り所が難しく。
599ねえ、名乗って:04/03/08 16:56 ID:6rRrRmwV
更新乙です。


600名無し募集中。。。 :04/03/08 20:19 ID:7E9FG59i
更新乙
600
601名無し募集中。。。:04/03/08 22:53 ID:HATrKuiU
更新お疲れ様です。
602ねぇ、名乗って:04/03/09 12:51 ID:rzdobIM9
ほしゅ
603名無し募集中。。。:04/03/09 23:49 ID:eFMgKZfc
604名無し募集中。。。:04/03/10 12:31 ID:5Bk1g3c1
hozen
605名無し募集中。。。:04/03/10 12:58 ID:XxYaKjIb
605じゃなかったら
北朝鮮に亡命する
606ねぇ、名乗って:04/03/10 15:08 ID:h8SM2poq
安部なつみだそうです。
http://www.yumenoondo.com/abe.jpg
607書いた人:04/03/10 22:47 ID:WQczLepF

音楽が、始まる。
結婚行進曲とかべたなのじゃない、落ち着いた感じの綺麗な曲。
長い法衣を来た聖歌隊が、澄んだソプラノで歌い始める。

ゆっくりと後ろのドアが開かれると、隙間から外の光が容赦なく差し込んできて、
のんちゃんは思わず目を細めた。
真っ白な背景の中に佇む二つの人影。
ひとりはおじさんで……そして、もうひとりは……
まだ眩しくて顔は見えないけど、でもシルエットだけで分かる。
そしてシルエットだけで、私はこう言い切れる。

……あさ美ちゃん、とっても綺麗。

ゆっくりとまるで勿体つけるように足を進めて。
おじさんはもう泣きじゃくっているのに、それでも凛と背筋を伸ばしたままあさ美ちゃんの半歩前を行く。
608書いた人:04/03/10 22:48 ID:WQczLepF

真っ白な肌に白いウエディングドレスが溶け込んでいる。
ベールと相変わらず長いままの前髪で、細かくは分からないけれど。
でも少し伏目がちなその睫毛はうっとりするほど長く艶やかで。
露わになった華奢な肩と、健康的な鎖骨。
何度私がドキドキしたか分からない胸元をほんの少しだけ覗かせて。
そしてその全体が薄暗い光に照らされて、神秘的にさえ感じる。

ちょっと背が伸びて、ちょっと痩せて、ちょっとスタイルが良くなって…
たったそれだけなのに、私が知ってるあさ美ちゃんとは全然違って見えて。
多分それは、ウエディングドレスのせいかもしれない。
いや…あさ美ちゃんのあの落ち着き払った佇まい、そのせいかな?
私たちに見せつけるようにゆっくりとゆっくりと、バージンロードをあさ美ちゃんが染めていく。

「紺野ちゃん…綺麗やな」
「「うん」」

嘆息めいた加護ちゃんの言葉に私とのんちゃんは虚ろに返事。
瞬きすらせず、ひたすらのんちゃんはあさ美ちゃんのすべてを網膜に焼き付けていく。
609書いた人:04/03/10 22:48 ID:WQczLepF

相変わらずあさ美ちゃんは長い睫毛でその瞳を隠している。
どんどん近付いてきてるのに、いや、近付けば近付くほどに、その心を読めない。
これが…「10年間」なんだろうか?
肩の動きだけで何考えてるか、すべて分かった時間(とき)は遠く過ぎ去って、
10年間がその力を奪い去ったんだろうか。


でも

次の瞬間、そんな心のもやもやが一気に吹き飛ぶ。
私たちの前に差し掛かったとき、あさ美ちゃんはちらりとこちらを見たから。
いや、「ちらりと」じゃない。私たちの一団にしっかりと視線を向けて、そして

あさ美ちゃんは、笑った。

大きな目をこちらに向けて、少しはにかんで、照れくさそうにとっても幸せそうに。
みんなの目をしっかり見つめて、黒目を大きく揺らめかせながら。

あさ美ちゃんは笑った。

そしてその口が小さく動くのを私は見逃さない。
それはのんちゃんも同じみたい、その動きに合わせて思わず言葉を辿る。

「ありがとう……?」

あさ美ちゃんが私たちの前を通り過ぎてもまだ、ブーケと彼女の匂いがバージンロードに残っている。
610書いた人:04/03/10 22:48 ID:WQczLepF

この10年間があさ美ちゃんにとってどんなものだったか。
辛かった? 哀しかった? そんなこと、どうでもいいじゃない。
だってあさ美ちゃんは今、ここにいるんだから。
今こうやって幸せに、そして私たちをしっかりと見つめていてくれるんだから。
少しずつ、私の中で溶けていく何か。

「のんちゃん…もう、大丈夫だね」
「……」

小さく首を縦に振って、のんちゃんは頷く。
私からは見えないけれど、その顔は多分とっても優しい笑顔を浮かべていたんだと思う。

丁度その時、あさ美ちゃんは祭壇の手前で新郎に並ぶ。
彼の差し出す肘に、まるで生まれた時からそうすることが決められてたみたいに、
すっと…白い手袋に包まれた腕を差し入れた。

もう、大丈夫。
私がどうこうする必要なんかないんだ。
だって二人とも仲直りしたい、もう一度しっかり話して、そしてちゃんと向き合いたい、
そう願っていたんだから。
式が進んで二人が話をする時が来れば、きっと元のように話を始めるに違いない。
あさ美ちゃんだって…砂時計がひっくり返るのを願ってたんだから。
611書いた人:04/03/10 22:49 ID:WQczLepF

あさ美ちゃんが式に娘。のみんなを呼んだその意味、今ようやく理解できる。
過去に蹴りをつけるためなんかじゃない、むしろその逆で。
上手く言葉に出来ないけれど、あさ美ちゃんが向けた背中も同じことを言ってる。

のんちゃんに言いたかったけれど、それはグッと我慢した。
だってもう、とっくにのんちゃんだって気付いているんでしょ?
賛美歌を歌うあなたの声は、こんなにも澄んでいるから。
まるで10年前のコンサートを今やってるみたいに、新婦側から聞こえる歌声はとても一生懸命。
そう…みんな一生懸命だ。
あさ美ちゃんにおめでとうって、そしてこれから幸せにねって伝えたいから。

さっきまで新郎の背中を睨みつけていた面々の顔は、とっても今は穏やかで。
笑いながら、照れながら、泣きながら…あさ美ちゃんの背中を見つめている。
一段上に上がったあさ美ちゃんは眩暈がするほど眩しい。

今なら…私が来てること、言っても大丈夫かなぁ?
612書いた人:04/03/10 22:50 ID:WQczLepF

「誓います」

あさ美ちゃんの透明な声が聖堂の中を吹き抜けていく。
のんちゃんがその軌跡を追うかのように、一瞬天井を見上げた。
隣の加護ちゃんを筆頭に、もう元娘。のみんなはハンカチをあてて泣きじゃくっていて。

「小川にも見せたかった…」

保田さんのしゃくりあげた声が微かに耳を打つ。
大丈夫です、ホントの私じゃないけれど、でも私は今、ちゃんと見てますから。
多分こっちの私だって、いいや、きっと見に来てるはず。
だってあさ美ちゃんの結婚式なんだよ?
私が来ないわけ、ないじゃない。
613書いた人:04/03/10 22:51 ID:WQczLepF

指輪を手に向かいあって、視線を交差させる二人。
あんなに自信がありそうなあさ美ちゃん、見たことない。
あの人を選んだ、その確信? そして寄せることができる信頼?
悔しいけど、私に向けたことがない視線。

すべてに安心しながら誓いのキスを見たけれど、一つだけどうしても拭えない不安。
あさ美ちゃん…私のこと、ちゃんと覚えていてくれてるのかな?

そう考えると、私は泣きそうで。
パイプオルガンと拍手に送られるあさ美ちゃんとすれ違ったとき、本当に叫びそうになった。
大丈夫、すぐにのんちゃんが確かめてくれる。
そう自分に言い聞かせて、そして想いを口にしなければしないでいるほど、不安は加速度的に増していく。
614書いた人:04/03/10 22:51 ID:WQczLepF

―――

鐘が鳴る。
薄く溶かした青色の空の中へ、その音すら空の一部になるみたいに。
でもそんな音の行方を見つめることもなく、のんちゃんは忙しなくあさ美ちゃんが石段を下るのを待っていて。

「大丈夫やで、のの」
「……」
「紺野ちゃんも、きっとののと仲直りしたいって」
「そうだよね」

のんちゃんのその返事は、きっとアーメンの意味。
そうあってください、きっとそうなります…大丈夫、神様にお願いしなくても大丈夫。
右手にはあさ美ちゃんの上に降らせるお米と花びら。
砂時計を握る左手に力がこもって、少し痛い。

元娘。のみんなと一言二言交わしながらゆっくりと…
そして、あさ美ちゃんの足が止まった。
615書いた人:04/03/10 22:52 ID:WQczLepF

…………

あさ美ちゃんの瞳の中にのんちゃんがいる。
のんちゃんの瞳の中にあさ美ちゃんがいる。

何秒も何十秒も、空白の時間を埋めようとするみたいに、ふたりはじっと見つめあう。
その光景の異様さに、石段に並び立つみんなが一斉にこちらを眺めていた。

「……のんちゃん、がんばれ」
「……」

私の言葉に、ブレスをして彼女は応える。
そう、あの言葉を言うための、「ごめんなさい」って言うための最後の助走。
10年間ずっと走って、今、のんちゃんは跳んだ。

でも

その言葉は音にはならなかった。
あさ美ちゃんがゆっくりとのんちゃんに歩み寄ると、ぽてんとその額をのんちゃんの肩に預けたから。
616書いた人:04/03/10 22:52 ID:WQczLepF

「……え?」

折角跳んだのに、のんちゃんの口から漏れたのは戸惑いの吐息。
でも逡巡したのはほんの一瞬、のんちゃんは砂時計を握り締めた左腕で、あさ美ちゃんをギュッと抱き締めた。
お婿さんがことを察したのか、微笑みながらあさ美ちゃんの腕を放した。
すぐにその腕はのんちゃんの首に巻きつく。

…私たちは、何でいつもこうなんだろう?
何でいつも、こうも遠回りするんだろう。
もうごめんなさいなんか要らなかったんだ。
そんなことずっと前から分かってるはずなのに、なのに相手の心が読めない振りして。
心の底からお互いを憎むことなんかあるわけ無いのに。

謝ろう。
10年前に戻ったら、すぐにあさ美ちゃんに電話しよう。
二人は10年も気持ちを溜め込んだから、ごめんなさいは要らなかったけど。
多分私たちの場合は、言わなきゃいけない。
でもそれはただのきっかけ、本当にどっちが悪いわけじゃないから。

炭酸みたいに私の心から悪い何かが抜けていくのが分かる。
その時、ゆっくりとあさ美ちゃんが頭を離して、潤んだ目を向けた。
617書いた人:04/03/10 22:53 ID:WQczLepF

「ありがとう…来てくれて」
「来ないわけないじゃん」

それだけ言うと、二人はふふっと笑いあう。
もう全く違う道を行った二人の笑顔は全然違う笑顔だけど、でもそれぞれに輝いて。
と、のんちゃんが左手を差し出すと、掌を開いた。

「あの…さ、あさ美ちゃん…今度はこれ、あさ美ちゃんが持っててあげてよ」
「?」

もう傷だらけの、10年前の砂時計。
陽の光を受けて砂が星みたいにきらきらと煌く。

お願いあさ美ちゃん…私のことを忘れたなんて言わないで。
それはもう過去のものだから、要らないなんて言わないで。

それを見たあさ美ちゃんは、ふっと微笑む。
でも…あさ美ちゃんが砂時計に手を差し出すことはなかった。
618書いた人:04/03/10 22:53 ID:WQczLepF

今日はここまで。
あと…3・4回でしょうかね。
619ねぇ、名乗って:04/03/10 22:54 ID:FT1wt9Z2
更新乙です
620初カキコ。。。:04/03/11 01:49 ID:DQDqu3w2
更新乙
この小説から読み始めたんだけど、携帯なんで旧作が読めない
ちょっと鬱…
621ねぇ、名乗って:04/03/11 22:03 ID:EE8ZynBY
更新乙です。
622ねぇ、名乗って:04/03/11 22:37 ID:V/M6nLbD
更新乙です。楽しみです。
623名無し募集中。。。:04/03/11 23:03 ID:j25wYG6e
>>620

読めないdat落ちスレのhtmlミラー作ります [47]
http://that.2ch.net/test/read.cgi/gline/1078677177/

↑で↓の携帯用ミラーを作るように頼めば読めるかもしれません。

http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1053971282/
携帯用ミラー作成お願いします
624nanasisan:04/03/12 04:44 ID:tQIkcej1
>>65->>75
>>85->>92
>>97->>105
>>109->>117
>>119->>126
625nanasisan:04/03/12 04:47 ID:tQIkcej1
ごめん、ミスった。
>>65-75
>>85-92
>>97-105
>>109-117
>>119-126
626nanasisan:04/03/12 04:50 ID:tQIkcej1
627nanasisan:04/03/12 04:52 ID:tQIkcej1
628nanasisan:04/03/12 04:53 ID:tQIkcej1
629nanasisan:04/03/12 10:25 ID:bZ4pQdv4
630nanasisan:04/03/12 10:30 ID:bZ4pQdv4
631nanasisan:04/03/12 10:35 ID:bZ4pQdv4
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>>555-563
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>>588-597
>>607-617
これで全部ですかね。ミスってたらごめんなさい。
632ねぇ、名乗って:04/03/12 16:38 ID:Jc9dlSeH
とりあえず更新乙&保全
633ねえ、名乗って:04/03/12 16:39 ID:Jc9dlSeH
ごめんなさい下げ忘れだ
634名無し募集中。。。:04/03/13 00:45 ID:6tMBCoPI
続きを楽しみにしつつ保全
635書いた人:04/03/13 02:41 ID:vbTt+a7y

あさ美ちゃんは手を出さなかったけれど、その顔は不思議と爽やかで。
過去を急に突きつけられたことへの嫌悪もなければ、過去に追われつづける切迫感も無かった。
のんちゃんはあさ美ちゃんの眼をじっと見ながら、相変わらず手を伸ばしつづけていた。

「……のんちゃんも…まだ持ってたんだね、それ」

のんちゃんの掌を見つめてあさ美ちゃんは精一杯微笑む。
そう言って、胸元に隠れていたネックレスの先端を引っ張り出して…

「「あっ…」」
「…うん」

私たちの嘆息にあさ美ちゃんはもう一度、大きく頷く。
ネックレスの先にぶら下がる、少し大きめの木とガラスの細工。
いいや、のんちゃんが毎日見ていたものと全く同じ、あれ。
掌の中にある砂時計と全く同じものが、ゆらゆらと銀色の鎖の下で揺れていた。
636書いた人:04/03/13 02:42 ID:vbTt+a7y


「のんちゃんにぶたれて…で、まこっちゃんの最後のお別れの歌も歌えなくって…
私なりに考えたんだ。
あの時はすぐに走り出せなかったけど、
でも…せめてまこっちゃんのことはいつも近くに感じたいな、って。
もしももう一度走り出そうとしたときに、私からまこっちゃんがいなかったら嫌だから。
だから…最後に一緒に行ったお店で最後に一緒に買ったもの…
近くに置いておきたくって」

鎖を離すと、白い胸の上で砂時計が弾んだ。
のんちゃんのと同じくらい傷ついて、汚れちゃってる砂時計。
ウエディングドレスの上では汚さが際立って見えるはずなのに、
私には…いや、多分のんちゃんや加護ちゃんたちにも、それは輝いて見えた。

「私にはこれがあるから…これがまこっちゃんだから。
だから…のんちゃんはそれ、持っててあげて。ずっと…ね?」

みんな…みんな、戦ってたんだね。
くじけそうになっても自分で考えて、だから時々傷つけあって。
637書いた人:04/03/13 02:42 ID:vbTt+a7y

今度はのんちゃんがあさ美ちゃんに抱きつく。
あさ美ちゃんの温度を右頬に感じて…

あれ?
なんでこんなにあさ美ちゃんの感触が弱く感じるんだろ?
この一週間で大分馴染んだはずののんちゃんの身体。
いつもだったら、まるで私自身の身体を使ってるみたいに、すぐそこに全てを感じる。
なのに、今はまるでゲームセンターにいるときみたいな、あんなふわふわした感触。
638書いた人:04/03/13 02:43 ID:vbTt+a7y

何かを…内容が聞き取れないけれど、何かをのんちゃんとあさ美ちゃんが話している。
いや、話しているような気がする。
あさ美ちゃんの顔が、ぼんやりとしか見えない。

あれ…?
なんだ、あさ美ちゃんじゃん。
あさ美ちゃん……16歳のあさ美ちゃんがウエディングドレスを着ているように見える。
ぼんやりとした、殆ど何も見えない世界。

エヘヘ…あさ美ちゃん、なにびっくりしてんのよ?
あさ美ちゃんが驚くのって、すぐ分かるよ。
だってさぁ…片手を口に持っていって、それでちょっと固まるんだもん。
それでキョロキョロしてさぁ…でも、それがすっごく可愛いよね。

いやいやいや…そんなに肩揺さぶられても困るよ。
酔っちゃうから…ただでさえぼんやりとしか分かんないのにさぁ…
639書いた人:04/03/13 02:44 ID:vbTt+a7y

あれ?
加護ちゃんかな?
いやぁ…痩せたねぇ…
何泣いてんのよ?

…………あさ美ちゃんも何で泣いてんの?
折角ウエディングドレス着てるんだから、泣いちゃダメでしょ?

……ウエディング…
…砂時計?

……そうか
10年後に来てたんだっけ。
薬の効果が切れるんだね。

なんとなく分かった。
私の周りを渦巻いていた青色の光の筋が、段々小さくなっていってるから。
そろそろお別れかな…
640書いた人:04/03/13 02:45 ID:kBu2SiMK


―――

「まこっちゃん! 身体貸すから…最後に…」

周りの人たちのことなんか一切無視して、私は自分に叫びつづけた。
それなのに、ちっとも何も言ってこない。
まこっちゃんが私の身体を使いやすいように、私の意識をどんなに鎮めても、
それでもまこっちゃんは何の反応もしてこない。

「……のの、諦めや」
「まこっちゃん…最後まで諦めないで!」

折角…折角、紺野ちゃんと喋れるようになったんだよ?
紺野ちゃんにいつまでも忘れないでいて欲しいんでしょ?
大丈夫、紺野ちゃんはきっとまこっちゃんのこと忘れないから…だから!
だから…最後に、お別れくらい自分の口で言っていきなよ…

641書いた人:04/03/13 02:46 ID:kBu2SiMK


―――

意識の下のほうから、段々何かに吸い込まれていくような感触。
そっかぁ…3人が2000年から戻ったときは、寝てる間に戻ったんだもんね。
私みたいな経験したこと無かったんだよなぁ…
まあ、金輪際こんな経験したくないけどさ。

伝えたいことは全部手紙に書いたから。
だから………だから、思い残すことは……

思い残すことだらけだよ。
多分実体がここにあったら、顔が涙でぐしゃぐしゃになってる。
伝えたいことは伝えられても、それでもやりたいことってあるじゃない。
手紙にはおめでとうもありがとうも、元気でねも好きだよも、そしてさよならも全部書いた。
でも…言いたいことは全部書いたとしても、それでも私から言いたいことがあるじゃない。

もう殆ど消えかかった青い光が、一瞬だけ輝いたように見えた。

642書いた人:04/03/13 02:46 ID:kBu2SiMK

―――

目を開けると、石段に並んだ全員が私を不思議そうに見ていた。
あさ美ちゃんは涙で顔をぬらして、そして私の肩をギュッと掴んでいて。
もう…そんなんじゃ、あとでお化粧直すの、大変だよ?

「……のの…?」

加護ちゃんに向き直って、そしてニヤッと笑ってみる。
彼女は気付いたんだろう口をぽかんと空けて、しばらくするとぶわっと泣き出した。
それに頷いて、そして花嫁さんを眺める。

「あさ美ちゃん……」
「?」
「あさ美ちゃん…私だよ」
「……まこ……っちゃん?」
「うん。花嫁さんがそんなに泣いちゃダメだよ。
もう、行かなくちゃいけないから…元気でね」

私の声は、多分涙でぐずぐずになっていただろう。
私の顔は、いつものあの、情けない泣き顔になっていただろう。
のんちゃん…ごめんね、化粧あとで直してね。
643書いた人:04/03/13 02:47 ID:kBu2SiMK

「ッ!? ……行かないで! 折角また会えたのに…」

分かってくれた?
そうだよね、あさ美ちゃんだって私のせいであの薬飲んだんだもんね。
膝から崩れ落ちそうになる彼女の肩を、しっかりとお婿さんが抱き止める。
とっても、とってもお似合いだよ。

「うん…元気でね」

あさ美ちゃんがいやいやをした。
でも…もう笑うしかないよ。

晴れ上がった空。
灰色の石段。
居並ぶみんなの顔。
あさ美ちゃんの晴れ姿。

私は…この光景を一生忘れないだろう。
644書いた人:04/03/13 02:48 ID:kBu2SiMK

「…のんちゃん、色々ありがと」
「うん、面白かった…元気で」
「のんちゃん…これからはのんちゃん次第でどうにでもできるんだよ。
だからさぁ…前だけ向いていってよ…それこそノン・ストップってヤツで」
「…バカ」

頭の中でいつものあの声が聞こえた。
こっちにいるうちに喧嘩もしたけど、でも最後にここまで来れたのは、あなたのお陰だから。

次第に足元から何かが崩れ去っていく感覚。
そして代わりに、何かが浮かんでくる感覚。
のんちゃん、そうだよ。これからはあなた次第で全てが決まる。
私の意識が無くなって崩れ去るこの身体、受け止められるのはあなただけ。

……そして、すべてが吹っ飛ばされる、あの感触。

645書いた人:04/03/13 02:50 ID:HI8VWZUG


―――

「…辻ッ!! 小川は…!?」

教会の芝生の向こうから、駆けてくるひとつの影にみんなが振り返る。
つんくさん…大遅刻ですよ。
一昨日のヘロヘロの感じからは打って変わって、そう、これでこそつんくさん。
保田さんの作ったスーツが、まるで何年も前からずっと着ていたみたいにぴったし。

「今…帰りました」
「そう……か…」

不思議と、彼の顔は爽やかだった。
紺野ちゃんが私に抱きつく。
あいぼんは、掌に花びらを包んだまま、泣いて笑っていた。
つんくさんの顔は、何かしらの達成感に包まれていた。

中澤さんも飯田さんもなっちゃんも、
おばちゃんもやぐっさんもごっちんも、
梨華ちゃんもよっすぃ〜も愛ちゃんも、
マメも美貴ちゃんも亀ちゃんも、
シゲさんもれいなも、みんなみんないた。

彼女だけが、いなかった。
鳩が一羽はばたくのを、私はずっと目で追っていた。
646書いた人:04/03/13 02:50 ID:HI8VWZUG


――― 2003年12月19日 早朝


気持ち悪い…ジェットコースターに何周も乗せられたみたいな…そんな経験無いけど。
目を開いた私の前には、私が行ったときと同じように、つんくさんが立っていた。

「小川……お帰り…でええのかな?」
「あぁ…えっと…はい」
「それで…未来には…」
「行けましたけど…でも、ちょっと失敗ですね、これ」

私の言葉につんくさんははにかむような、微妙な顔をした。
10年後のあのつんくさんとは全く違う顔。
647書いた人:04/03/13 02:51 ID:HI8VWZUG

「まあ、それは追々聞くとするわ」

それだけ言うと、彼は手を差し出した。
その中にあるのは、見慣れた私の携帯。
私の目をじっと見ながら、つんくさんは笑いつづける。

「紺野と仲直りする気、ちょっとは出たんちゃうか?」
「……」
「もう紺野、起きとるやろ?」
「……」
「出来る内にやっておく、基本とちゃうか?」
「はい!」

携帯を開くと、着信が何件か入っていた。
全部が全部、あさ美ちゃんで。
ゴメンね、出れなくって。だから今度は私が電話する番だよね?
リダイヤルを押す、二回だけ電話が鳴ると、不安そうな声が聞こえてきた。

「…もしもし? あさ美ちゃん!? あのね…」
648書いた人:04/03/13 02:54 ID:HI8VWZUG

今日はここまで。
残り2回。
649名無し募集中。。。:04/03/13 05:20 ID:RBvHOMPm
。゚(゚つД`゚)゚。
650名無し募集中。。。:04/03/13 11:28 ID:WKEOlHBb
乙です。やばいくらい泣いた。
651書いた人:04/03/14 03:10 ID:MJ+hZG0t

―――

「あんなお店よく見つけたねぇ〜、全然知らなかった」
「エヘヘ…結構いいとこだったでしょ?」

遠くにネオンが光る街を並んで歩く。
吐く度に白い息が上がると、夜空に溶け込んでいった。
私の横にはいつもの顔。
わがままだけど、時々人の話聞いてくれないけど。
でも、とっても大切な親友がいる。

「ちょっと重いなぁ…」
「あさ美ちゃん買い過ぎなんだよ。持ってあげるから、ほら」

小声で「ありがと」と言ったあさ美ちゃんの声は、なんだかとっても愛しかった。
プレゼント交換のだけでいいのに、あさ美ちゃんはよっぽどあのお店が気に入ったらしくて。
自分の分まで色々吟味してたみたいだしね。
652書いた人:04/03/14 03:12 ID:MJ+hZG0t

私たちが行ったのは、あのお店。
あっちの未来の私が最後に行った小物屋さん。
あさ美ちゃんと仲直りしたら、一番にクリスマスプレゼントを買いに行きたかった…

それに

どうしても…砂時計を買っておきたかったのだ。
昨日まではホント、『あ、あれいいな』ってくらいにしか思っていなかったけど。
でも私の中でこれはもう、欠かせない何かになっていたから。
のんちゃんが握り締め、そしてあさ美ちゃんの胸で揺れていた物よりも遥かに綺麗なそれは、
お店のショーウインドの中で鈍く光って。
砂を包むガラスは傷も無く滑らかに輝いていた。

4つ…私とあさ美ちゃんとのんちゃんと加護ちゃんの分。
私からの4人お揃いのクリスマスプレゼントのつもり。
多分これを受け取っても、みんなは何の事やら分からないだろう。
10年後の話は私しか知らないから。
そう、つんくさんは私に昨晩あった全てを話すのを禁じた。
653書いた人:04/03/14 03:12 ID:MJ+hZG0t

『むぅ…そっか…一旦過去に戻って…』

薬のこと、未来のこと、あの1週間のこと…
全ての結果を伝えたとき、つんくさんは顎に手を当てたまま天井を見つめた。
私やつんくさん自身のショッキングな未来も伝えたのに、
それなのにつんくさんは取り乱したりもせずにただ首を傾げていた。

『でも、なんでわざわざあの未来に行っちゃったんでしょうかねぇ?』

のんちゃんが最後までぶつぶつ言っていたことを一応聞いてみる。
でもつんくさんは少し顔を蒼くして、そのまま考え込んじゃって。
そうだよね、10年後のつんくさんが分からなかったんだもん。
今のつんくさんが分かるわけ無いじゃん。

『なんやろうなぁ…『行き易かった』んとちゃうか?』

…適当言ってますよね、つんくさん。
654書いた人:04/03/14 03:13 ID:MJ+hZG0t

『スマン、やっぱ分からんわ』って笑いながら頭を振る。
またこの薬使うならともかく、今はもういいですもんね。
つんくさんのどうでも良さそうな表情を見る限り、多分もう使う気は無いんだろう。

『とにかく…また俺のせいで変なことに巻き込んでもうたわけやな。スマン』

土下座なんかわざとらしいやり方じゃない。
すっと上半身を45°傾けただけなのに、いや、だからこそ、
つんくさんが心から謝っているのが痛いほど伝わる。

私が『もういいですから』って言っても、彼はずっと頭を下げつづけていた。
私が死んだ未来を見せたの、そんなに悪いと思ってたんだろうか?
あの未来はもう別ものだから気にすること無いと思うんだけどなぁ。
でも未来の話をすることを禁じた彼の目は、びっくりするほど真剣で。
655書いた人:04/03/14 03:14 ID:MJ+hZG0t

「それじゃ…まこっちゃん、ここで」
「うん…駅、反対だもんね」

残業帰りのサラリーマンが僅かにいるくらいの、静かな交差点。
こんなところに高校生がいてもそんなにおかしく映らない、東京って街は凄い所だ。
街灯に照らされたあさ美ちゃんの顔はとっても素敵な笑顔。
10年後も可愛かったけど、やっぱり今も可愛いよねぇ…

荷物を返すと、彼女は何度も手を振りながら遠ざかっていった。

やっぱり、私と仲直りしたかったんだね。
電話したら2秒で前みたいにすぐに話せるようになったもん。
あと5日でクリスマスイブ。
楽しみだなぁ…
みんなでケーキも食べよう。クラッカーも鳴らそう。
656書いた人:04/03/14 03:15 ID:MJ+hZG0t

それを考えるだけで、顔の筋肉がだらけるのが感じ取れる。
あさ美ちゃんが角を曲って視界から消えたところで、振っていた右手を下ろした。
さて、それじゃ私も帰るかなぁ…回れ右を………

その刹那




………何だろう、この感覚。
デジャヴ?
そんな感じ…まるで、いつかこんなことがあったような…

「ツッ………!!」

慌てて振り向いた先にはスーツ姿の人がちらほらいるだけで、あさ美ちゃんはとうに見えなくなっていた。
あさ美ちゃんが帰るには…あの角を曲ったら次にずっと真っ直ぐ行って…
でも確か…その道を真っ直ぐ行くと。

……あの先は、私が死んだ交差点……?

657書いた人:04/03/14 03:16 ID:s6A14mmC

つんくさんは言ってた。時間は分岐する。
じゃあ何で分岐した…幾億もの、それこそ無限の分岐の中で、私はあの未来に行ったんだろう?
のんちゃんが最後まで気にしていたこと、最早どうでもいいと思ってたけど。

あっちの未来では、誰のせいでもなく私は昨日死んだはずだ。
その出来事がなくなったとして、本当にもうその未来とさよならできたんだろうか。
のんちゃんが書いたあの図。
一本の線が二つに分かれて、そしてお互いに永久に平行線を辿る。
でも…本当にずっと平行線なんだろうか?

もし私たちのいるこの時間が、あの時間にもう一度、交わるとすれば?
いや交わらなくても、殆ど同じような状況を作って並走するとすれば?
限りなく分岐した上で、そしていつか、同じような未来に収束されるとすれば?
私じゃなくっても、似たような結果になることを欲しているとすれば?


それが……そこで死ぬのが……私じゃなく…

最後まで考えず、私は駆け出した。
658書いた人:04/03/14 03:17 ID:s6A14mmC

アスファルトに響く靴音は、夜の闇に飲み込まれる。
角を折れて必死に走った遥か先に、あさ美ちゃんの背中が小さく見えた。

「あさ美ちゃんッ!! 待ってッ!!」

その声すらも彼女の鼓膜を震わせてはいないみたいで。
走りながら叫びつづける私に、すれ違う人々が一瞬奇異の眼差しを向ける。
そんなのに構うことなく、私は更に走りつづける。
それなのに、ちっともあさ美ちゃんとの距離は詰まらない。

携帯電話ッ……ダメだ。
あさ美ちゃんはいっつもバッグの中に携帯を入れている。
着信音にすぐに気付いてくれる保証が無い。

私は……昨日見た10年後では、この時間に死んでいた。
もう起こるはずのない現象、そう分かっているのに。
馬鹿馬鹿しいって分かっているのに、心に浮かんだ闇はもう全てを覆い尽くしていた。

もしも今、あさ美ちゃんがあの交差点に入ったら…
その瞬間、私の視界が回った。
659書いた人:04/03/14 03:17 ID:s6A14mmC

「痛ッ……!!」

口をついて出たその後に、膝に痺れるような痛みが走る。
……転んだのを理解したのは、その直後だった。
あさ美ちゃんは!?
咄嗟に顔を上げて、あさ美ちゃんの背中を探す。

もしかしたら私の考え過ぎかもしれない。
それなのに、今の私には絶対に彼女をあの交差点に入れてはならない気がする。
立ち上がりながらもう一度、声の限りに叫んだ…けれど。

あさ美ちゃんは立ち止まらなかった。
信号が点滅し始めた横断歩道に入って行くその後姿が、まるでスローモーションみたいで。
視界の端に映るヘッドライトが余りに眩しい。
目を閉じた私に感じられたのは、耳を劈(つんざ)くブレーキ音だけ。


何もかもが、止まった。

660書いた人:04/03/14 03:20 ID:s6A14mmC

今日はここまで。次回、最終回。
多分…60レスは越えてしまいそうです。
661名無し募集中。。。:04/03/14 04:48 ID:yUqkdsQf
ともかく何も言わずとりあえず更新乙です。
662ねぇ、名乗って:04/03/14 10:06 ID:/WB8vdnh
うわぁーこの後どうなるんだろう。(・∀・)ワクワク
663ねぇ、名乗って:04/03/14 20:57 ID:txqEbrjf
前回めちゃくちゃ泣いて、今回すっごいわくわくしています
更新乙です
664書いた人:04/03/15 00:47 ID:TMMZ7UWS


            :
            :
            :


目を開けたくない。
何も聴きたくない。

目をギュッと閉じて両手で耳を塞いだまま、アスファルトに跪(ひざまず)いた。
分かったんだ、今。
私が昨日死ななかった代わりに、何が起こったか。
代わりに、あさ美ちゃんが死んだ。

昨日のはずが今日になって。
私のはずがあさ美ちゃんになって。
確かに私が見た10年後とは全然違うけど、でもよく似た未来になったんだ。
ただの偶然? そう考えればそうかもしれない…けど。
でも…どうだろう?
どうでもいい

今は一分でも一秒でも、現実と向き合う時間を先に延ばしたい。
665書いた人:04/03/15 00:48 ID:TMMZ7UWS

顔にあたる風が冷たい。
…泣いてるからだね。
これからもっともっと、泣かなくちゃいけないのに。
でも惜しみなく涙は溢れる。


ッ…あさ美ちゃん……
どうして…


と、ポンと肩に手が置かれる。
……誰?
思いもかけない外からの刺激に、思わず仰ぎ見て目を開いてしまう。

「まこっちゃん……大丈夫やから」

白い頬に車道の青信号の光が反射している。
その光の中で、その人は…優しく微笑んでいた。
雪だるまみたいに着膨れした、加護ちゃんだった。
666書いた人:04/03/15 00:49 ID:TMMZ7UWS

…どういうこと?
なにが大丈夫なの?
っていうか、何で加護ちゃんがここにいるの?
何もかもが分からずに首を振る私の頭を、彼女はそっと撫でた。
そして繰り返す。

「まこっちゃん…もう全部大丈夫やから」
「……」

大丈夫って…全部?
私のことも、あなたのことも…
…!!

「あさ美ちゃんッ!!」

なにが大丈夫なもんか、あさ美ちゃんが…
彼女に返事をすることもなく、もう一度…二度と見たくなかった交差点に振り返る。
667書いた人:04/03/15 00:50 ID:TMMZ7UWS

彼女は立っていた。
交差点の街灯の光を上から受けて、まるでステージに立っているみたいに。
あさ美ちゃんも何が起こったのか分からずに、呆然と私を見ていた。
そして…彼女の右手首をしっかりと握るのんちゃんが並んでいる。
私が見ているのに気付くと、彼女は空いた手を額に当てて敬礼して見せた。

ブレーキ音を発した車はとうに遥か彼方へ走り去っていて、交差点には何もない。
赤に変わっていた歩行者信号が、また青に変わるとサラリーマンの群れが動き出す。
のんちゃんとあさ美ちゃんだけを交差点に残して。
そして、横断歩道を向こうから渡ってくる影があった。

…つんくさん?
紺色のスーツにバーバリーのコート、そして黒縁のメガネ。
いつもよりも遥かに地味で…だけどやっぱりサラリーマンの集団の中では浮いて見える。
のんちゃんの横に立つと、つんくさんは右手を彼女の肩に優しく置いた。

…私には、説明が必要だった。
3人がこっちにゆっくりと歩いてくるのを見つめながら、口を開けっ放しにしていた。
668書いた人:04/03/15 00:51 ID:TMMZ7UWS



 時計の針をもう一度進める


――― 小川麻琴が過去に戻ってから10時間後 
                    2013年12月18日深夜


669書いた人:04/03/15 00:51 ID:TMMZ7UWS

「だからぁ…今でも、なっちは旦那さんとラブラブなんだべ」
「うわぁ、安倍さんのろけまくり!」
「なっち、殺してええか?」
「……裕ちゃん、目がマジだよ」

みんなベロンベロンだなぁ…
何件お店を梯子しただろう…そろそろまったりしてきてもいいのに。
披露宴からずっとこんなペースで飲んでんだもん、そりゃみんな酔っ払うか。
まこっちゃんがいなくなったっていうのに私の頭が鈍いのは、多分お酒のせいだ。
披露宴が終わった後も、帰ろうとは誰も言わなかった。
流石に紺野ちゃんは2次会で帰ったけれど、いや私たちで帰らせたけど、
他の面子はまるでこの10年を取り戻そうとしてるみたいで。

なっちゃんののろけに中澤さんとおばちゃんがブチ切れ、
愛ちゃんとマメは肩を組んでシャンパンを水のように空ける。
あいぼんとよっすぃ〜がごっちんを間に妙な火花を散らすし、
既にソファーでは、シゲさんの膝枕でれいながご就寝……お子ちゃまめ。
多分私たちが10年前にお酒を飲んでも、こうなったかもしれない風景。

そして私は、

「ののぉ〜……ホントに、よかったよねぇ…
紺野あんなに幸せそうでさぁ…」
「紺ちゃんがッ…あんなに笑顔で結婚式挙げるなんて…私、ホントにッ…!!」

泣き上戸二人組みの相手をさせられていた。
梨華ちゃんは予想ついたんだけど…美貴ちゃん、泣き上戸なのか。
670書いた人:04/03/15 00:52 ID:TMMZ7UWS

「俺はなぁ…もういっちょ、凄い曲書くで!!」
「おぉ! つんくさんかっこいいッ!!」
「そうや…俺は書くで! 
センチメンタル南向きを凌駕するようなもんを一発、な!!」

矢口さんに水割りを作ってもらいながら、つんくさんは上機嫌。
相変わらず頬はこけて、顔色も悪いけど。でも、目だけは変わった。
目だけは10年前と同じ、あの野心めいた鋭い光を秘めて。

薄暗いお店の中で本当によかったと思う。私の今の顔を誰にも悟られることはない。
私は、泣きそうだった。
紺野ちゃんと仲直りできたことにも、またこの面々が集まれたことにも、
つんくさんの目に光が戻ったことにも、そして、まこっちゃんが帰ってしまったことにも、
全てに泣きそうだった。
けして飲み干したワインのせいじゃない、私は泣きそうだったんだ。
671書いた人:04/03/15 00:53 ID:TMMZ7UWS

まこっちゃん、あなたって人は…
いっつもだらけた笑い浮かべてても、人一倍みんなに気を使ってたもんね…
死んじゃっても別の昔から来て、それで私たちを元に戻してくれた。
幽霊扱いしてゴメンね。
まこっちゃんのおかげで私たち、きっと最高の時間を過ごしてる。

まこっちゃんが死んじゃった後の悲しむ時間は、今日で終わり。
それは分かってるけど…それでも。
今だけは、あなたがここにいないことを、泣かせてよ。

滲み出る涙を手の甲でぬぐう。

「ゴ、ゴメン…二人とも、ちょっと私トイレ行ってくるから、ね?」
「ののも分かってくれたんだねぇ。紺野幸せそうでよかったよねぇ…」

すっぽ抜けもいいところの言葉を涙と鼻水を垂らしながら言う梨華ちゃんに、笑顔で頷いておく。
何故か私は今、涙を人に見られたくはなかった。
672書いた人:04/03/15 00:53 ID:TMMZ7UWS

慌てて飛び出した廊下は拍子抜けするほど静かで冷たくて。
出た途端に涙が溢れてきた。
廊下の柱に背中を預けたまま、ハンカチで止め処ない流れを必死に抑える。

まこっちゃんも紺野ちゃんも…なんでだろう?
あんなにみんなを楽しくしてくれたまこっちゃんが、何で今、この場にいられないんだろう。
そしてその人を大好きだった紺野ちゃんは、
なんで彼女との別れを経なければならなかったんだろう。
二人とも私なんかよりとっても素敵な人、笑顔も輝いて…なのに。
なのになんで、私の今現在はこんなに幸せなんだろう。

まこっちゃんは言った。
これからの私の時間は、私次第でどうにでも変わる。
だけど…今の私に、何ができるんだろう?
もう、取り戻せないんだよ…?

俯きながら目頭をずっと抑えていたけれど、やっぱり涙は止まらなくて、
濡れて役に立たないハンカチをどうにかしようとした、その時

……つんくさん?
673書いた人:04/03/15 00:54 ID:TMMZ7UWS

つんくさんは立っていた。
私をじっと見ながら、優しく笑っていて。
泣いていることの言い訳を言おうとしたけれど、
口からは笑いとも溜息ともつかないブレスが漏れただけだった。
でもそんな私を見てもなお、つんくさんは笑っていた。
ただ微笑みながら、その手にある青いハンカチを差し出していた。

「……あんな、辻」
「………」
「返事できんのやったら、そのままでええから聞いてくれるか?」

なんとか頷くことで意思を伝える。
私の動作にもう一度差し伸べた手を突き出した。
まるで決められていた動作のように、私はそれを受け取ると涙を拭く。

「一昨日お前らが帰ったあと、ずっと考えとった。
お前、最後に言うとったやろ?
なんで小川は色々ある未来の中で、この未来に来たんか、って。
もしかしたら…ホントにもしかしたらやけど…
……この未来が、本筋なのかもしれん」

喉の奥にしゃくりあげるものを押し込めて、私はキッと上を向いた。
まだ両目から流れるものは止まらなかったけれど、私は彼の目をじっと見つめた。
つんくさんが少し目を逸らしたのが分かった。
674書いた人:04/03/15 00:56 ID:NL+V4lOu

「どういうことですか?」

状況に感情が負けて、涙が少し引っ込んだように感じる。
私の様子につんくさんは大きく頷くと、淡々と喋り始めた。

「つまり…小川が薬を飲んだ少し前の日…
実際にあいつがどれくらい過去に遡ってからこっち来たのか分からんけど、
その日から進みうる一番可能性のある未来は、こっちの未来だった、っちゅーこっちゃ」
「?」

彼が何を言いたいのか、何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
つんくさんは少し唇を尖らせると、こめかみに指を二本置く。

「宇宙有限論、って知っとるか?」
「さぁ…何しろバカ女ですから」
「懐かしいこと言うなや…別に知らんでも恥ずかしいことや無い。
宇宙ってのはな、広がっとるんや。膨張しとる、って言うた方が正しいのかもしれんけど」
「…」
「ただな、どこまでも際限なく広がるか、っていうんにはみんながみんなそうや、って言わん。
どこか限界があって、そこで止まるって言うヤツも居るし、
むしろそこまで来れば反対に縮まるって言うヤツも居る」
「それと何の関係があるんですか?」

ニッ、っとつんくさんは笑った。落ち窪んだ目と相俟って、無気味な笑いだった。
675書いた人:04/03/15 00:56 ID:NL+V4lOu

「未来は分岐する、って話は一昨日したな。
今日紺野の結婚式に俺が来た未来がここなら、俺が来なかった未来も当然あると思う。
実際小川が死んでる俺たちの未来と、死んでない方の未来だってあったわけやから。
でもな……そんな分岐をやっていったら、恐ろしい数になる」
「なりますねぇ…」
「せやけど考えたんは、これにも限界があるんちゃうかな、ってことや」
「…未来の分岐にですか?」

私の問いかけに大きく頷くつんくさん。

「…ある程度まで分岐が大きくなると、いや、もしかしたら大きくなるのを止めるために、
分岐しても殆どの枝は本筋に戻るようになるんちゃうかなぁ…って。
一度別の事象が起こっとるわけやから完璧に同じ状況にはならんやろうけど、
似たような枠の中に収めんと違うかなぁ…」
「ちょっと待ってくださいよ…ここが本筋だからまこっちゃんが来ちゃった、っていう理屈は分かりますよ?
でもそれと今の話、なんか関係あります……? …あ」

気付いた。
この未来にまこっちゃんが来てしまったってことは、この未来が一番可能性の高い未来だったから。
そしてまこっちゃんが死なない未来って言うのは…つまり分岐した亜流の未来であって。
一度過去に戻ったとはいえ、亜流の未来からこっちに来たってことは、
分岐しててもこっちの未来と近いところにいるわけで…ってことは。
………本筋に戻される・・・かもしれない?

「あくまでも、仮定の話や。
仮定の話やけど……もしかしたら。可能性を俺は捨てきれん」
676書いた人:04/03/15 00:58 ID:NL+V4lOu

私の身体が震えたのは、肩を出したドレスのせいでも、冷たい廊下のせいでもなかった。
思わず両腕で自分の身体を抱き締めたけど、それは止まらずに。
蛍光灯の瞬きが増えたように見えた。

「でも…可能性の分岐が有限だ、っていうのはつんくさんの仮定ですよ!!」
「昔…これも10年前か。お前ら言うとったやろ?
過去から戻ってきたら、少しだけ未来が変わっとったって。
でもお前らが戻ったのは、お前らが出た2003年のはずや。
なのになんで未来が変わった?
つまり…お前たち3人が出発した2003年は、お前たちが発生させた2003年に…」
「…吸収された?」
「いや…。影響されて曲っていった、って方が正しいかもな。
磁石に吸い寄せられるみたいに」

頭痛が増した。
確かに私たちは、変化した2003年に帰った。
何の不都合も、何の不具合もなく、自分の身体のようにこの身体に戻ったのだ。
私の身体を出た私の意識は、間違いなく私自身の身体に戻って…
それは…私がいた未来がそのまま動いてきたから…?
677書いた人:04/03/15 00:59 ID:NL+V4lOu

「もしも…紺野がモーヲタじゃなくて、加護の前髪が薄くて、辻の食い意地が張っとる世界が俺たちのいる世界と平行に在るとしたら、
そっちの世界の辻たちは、意識が戻ってないことになるんやろうか?
今、目の前にいる辻たちが別の世界の辻たちだったら、俺が送り出した辻たちの帰る場所はどこにあるんやろうか?
そう考えると…もっと極端な本流があってそれに引き寄せられていった、そう考えんと…」
「説明がつかない…ですね。当時からそれを?」

つんくさんは力なく首を横に振って応えた。
当時はそこまで考えもしなかったんだろう、つんくさんもあの薬を捨て、機械を壊して全てを終わらせたんだから。
目の下にあるクマと乾ききった唇が、この数十時間の精神的な格闘の全てを物語っていた。
でも私は彼の労に報いる気力はない。

だって…もしもそれが正しかったら。
そしてこの2013年が本筋で、ここに色んな未来が集約されるとしたら。
口に出したら現実になってしまいそうで、痛いほど唇を噛み締める。
目の前のつんくさんが口の端で息を吸うのが分かった。
そして私は次に彼が出す言葉を、止められるんだったら止めたかった。
678書いた人:04/03/15 01:00 ID:NL+V4lOu

「今帰った小川ももしかしたら…」
「…言わないで!!!!」
「いや、多分…」
「つんくさんッ!!!」

拒絶に軽く目を見開くと、怯んだように一瞬下を向く。
が、次の瞬間つんくさんはもう一度私を睨み付けて、一気に言葉を吐き出した。

「いや!! 俺は言う!!
小川は帰ったあと、死ぬかもしれん!!」

つんくさんの絶叫が廊下の壁を伝っていって、もう一度私の耳を打ったような錯覚を覚える。
その声に答えられず、ただ睨み付ける自分の目から再び涙が流れるのに気付いたのは、唇の上で塩の味がしたからだ。
身体を怒りと悲しみに震わせる私を凝視し続けたあと、大きく息をついてつんくさんはさっきの優しい目に戻った。
679書いた人:04/03/15 01:02 ID:HvEB2Z3+

「あんなぁ、辻。俺はこの10年間、ずっと逃げとった。
自分が小川にしてやれたことがあったかって、結局考える振りして。
自分にはあの機械や薬は到底作れんって、作りながらも納得することで逃げとった」
「……でも…」
「だからな、これが最後のチャンスやと思うんよ。
俺が現実に目を向けてそして過去に肩をつける、最後のチャンスやと思う」
「……でもどうすることもできないじゃないですか。
まこっちゃんはもう帰っちゃったんですよ? 
誰もまこっちゃんに教えることは出来ないんですよ?」

重い重い言葉だと思っていたのに、私の目の前ではつんくさんがまだ微笑んでいた。
現実すら受け止められなくなったんだろうか。
そう心配したくなるほど、軽やかなそして少し湿った笑いを浮かべていた。

「昔な…」
「…」
「昔、小川が死んだあと、一度だけ考えたことがあった。
せめて過去に戻って小川に事故のことを教えられんかなぁ、って」
「機械ならつんくさんの家で見たじゃないですか。
でも…未完成だったけど」

私の言葉にニヤッと笑う。
狂気的なその笑いに、背筋が凍る。

「機械はな…でももう一つ、過去に行く方法があるはずや」
「ッ!? 薬!!」
680書いた人:04/03/15 01:03 ID:HvEB2Z3+

私の目は多分輝いていたと思う。
もしもあの薬があれば…でも、つんくさんは顔を伏せた。

「不思議なもんやなぁ…この10年であの機械はどうしても作れんかったのに。
薬は…24時間ちょっとで作れたんやから。
お前らが行ったあと自分の無力さにどうしようもなくってな、機械ばらしたんや。
そしたら……昔の部品の裏に…入ってたわ。調合方法のメモがな」

ポケットを弄ると、つんくさんの手には黄ばんだしわくちゃの紙が握られていた。
つんくさんの筆跡ではない、走り書きの記号やメモが散りばめられていて。
所々セロハンテープで止められている。
私には読めないそれは、「あの人」のものだってことだけは分かった。

「……」
「結局俺は、自分自身に固執しすぎとったんや。
俺が小川を取り戻すって、そうやってつまらん意地張って。
機械をばらしさえすれば、すぐに分かったことなのに」

どう声を掛ければいいか分からなかった。
ただ確実なのは、つんくさんは逃げてはいなかったってこと。
つんくさんは逃げずに、ずっと自分自身の力で探していたんだ。
もう一度顔を上げた彼の顔には、もう自嘲も湿り気もなかった。
681書いた人:04/03/15 01:14 ID:AbT3BohP

「もし昔に戻って小川の事故を防いだとしても、俺たちのいる未来に小川が戻ってくるわけがない。
当然やな、もしも過去に戻って小川の死を修正したところで…
そして万一にでも、その未来が本筋になったとしても、
俺たちのいるこっちではもう小川は死んどるからな…取消せるわけがない。
お前たちが2003年を変えたのより、遥かに大きな変化なんやから」

つんくさんが微かに笑った。
諦めているようにも、何かを楽しんでいるようにも見えた。
言っている内容の憂鬱さにも関わらず、それなのに彼は笑った。

「どうしたんですか?」
「うん、確かに俺たちのいるここに小川は戻らん。
けど…それならそれでええ、って薬作りながら考えたんや。
うちらの世界で小川が死んだままでも、別の世界にいる小川が救えるなら、本望や。
お前だって…そう思ってくれるな?」

スーツの内ポケットに手を突っ込むと、彼の白い手に握られていたのは忘れもしない、茶色い瓶だった。
10年前に見たそれよりは遥かに大きいサイズで、いつかのように蛍光灯の光に薄く鈍く輝いて。

「小川が死ぬ前の分岐…多分、俺が薬を完全に捨てたかどうか、そこかと思う。
だから10年前の11月に戻れば確実に防げると思うんやけど。
10年前はあの量で3年と3ヶ月戻ったんやから。計算上はこれだけ飲めばビンゴのはずや」

そう語るつんくさんは、新曲の楽譜を私たちに配るときのあの目をしていた。
少し不安げで、そして凄く自身ありげな、あの表情。
目の中に揺らぎが見えるけど、口元に浮かぶ確信。
682書いた人:04/03/15 01:14 ID:AbT3BohP

その確信を破るのは忍びないけど。
むかしつんくさんに『こんな曲歌えない!!』とか我侭も言ったっけ。
あの時は子どもだったから…でも、今は別の意味で確信を破らなくちゃいけない。
26歳の脳味噌は、とっくにつんくさんの理論の穴を見つけている。

「ちょっと待ってください。
もし10年前に行っても、可能性が一番強いのはこの未来に来ちゃうことなんでしょ?
今戻っても、結局まこっちゃんが12月18日に死んじゃうこちら側に来ちゃうんじゃないですか?
だったら、さっき帰ったまこっちゃんは救えませんよ?」
「そやな…まず小川が12月18日に死なない方の未来に行かなならん」
「どうやって?」

歯を見せながらはにかんで、唇を少し舐める。
私たちの横を、ウェイターが訝しげな目をして通り過ぎていった。
その背中を目だけ笑って見送ったあと、もう一度つんくさんはこちらを向いて右手の人差し指を立てた。

「そこや。俺が一番確証を持てんけど、でも一番賭けてみたいところはそこや。
小川がこっちに来て帰って行ったってことは、
今、向こうの未来とこっちの未来の間に、糸みたいなものが繋がってると思う。
2013年から一度2003年の11月頃まで戻って、その後12月まで遡る、糸や。
その流れを伝って小川が帰っていってる…
昔お前らを過去に飛ばしたときも、お前らはちゃんと自分の身体に帰った。
それは未来自体が変化して…お前らの身体も一緒に移動したからや。
でも…身体が過去に行っとった小川も、ちゃんとうちらのいる未来に帰ってきた」

言葉を重ねるごとにつんくさんの声は澄んでいった。
まるで語れば語るほど、自分の言葉を信じることができるかのように。
683書いた人:04/03/15 01:15 ID:AbT3BohP

「…言われてみれば……つまり、私たちが辿った…時間移動の線? とでも言いますか?
その線がまだ残っていたから、まこっちゃんも戻ってこれた、ってことですか?
…でも、それってあくまでも可能性ですよね?」

今日何度目かの指摘。
お酒がむしろ、私の頭を澄ませていた。
普段だったら私の思考を邪魔する「感情」が、全く入ってこなかった。
まこっちゃんを助けたいという感情が、つんくさんの考えを全肯定させていてもおかしくはないのに。

いやもしかしたら、私は怖かったのかもしれない。
下手に希望を持つことで、その希望が破れたときの敗北感を味わうのが怖かったのかもしれない。
でもつんくさんは、むしろ私の追及を喜んでいるようにも見えた。
私の問いに答えるその目は、答えのどうしようもなさにも関わらず、生き生きとしていたから。

「確かに俺が言っとるのは膨大な予想のうちの一つかもしれん。
何せ今まで俺が見たんはたった2例しかない。
その2例だけで物事を一般化するなんて、狂気の沙汰やと思うで。
あいつが…あの機械と薬を作ったあいつが見たら、多分大声で嘲笑(わら)うな」
684書いた人:04/03/15 01:16 ID:AbT3BohP

つんくさんはまるで『あいつ』が見えているみたいに、天井を見上げて少し笑いかける。
一瞬同じ方向に目が行ったけど、私には蛍光灯の光が眩しいだけで、すぐに目を細めた。

私には分かっていた。つんくさんはもう、逃げるのをやめた。
いやむしろここでやらなくちゃ、一生逃げることになると思ってるんだ。
周りがどんなに自分を弁護してくれても、今ここで動かなかったらつんくさんは自分に押した烙印を消しはしないだろう。
そしてもう一つ、分かっていたこと。
私も……最後の戦うチャンスを目の前にしていたんだ。

「賭けたいんですね?」
「ああ」

低く抑えたその声に、その意志の強さが凝縮されていて。

「私が行くんですよね?」
「ああ」

そんなこと、つんくさんが私をここに呼んだ時点で分かってる。
685書いた人:04/03/15 01:17 ID:AbT3BohP

それでも、彼は言葉をつなげた。
私に対してではない、自分が行かない…
いや、この場合は『行けない』ことを、自分自身に納得させるための言葉。

「俺が行くわけにはどう考えてもいかん。
もしも俺が帰って10年前を変えたら、小川がこっちに来たことがなくなりかねん。
そしたら折角向こう側の未来に行ったのに、また別の未来に迷い込んでしまうかもしれん。
一番あいつの近くにいて、そして一番未来への影響を少なくできるのっていうたら…
「私と、あいぼん…ですね」
「紺野ってのも考えたんやけどな。でも紺野新婚さんやし。
それにあいつと買い物に行ったときに事故に遭う、っていうんが確定しとるからな。
多分それと限りなく近い…日にちだけは別にして、殆ど同じ状況で事故があると見ていいやろ。
買い物に行くこと自体をなくしてしもうたら、小川がいつ事故に遭うかが予想できなくなる」
「一応聞いておきますけど、じゃあ、なんであいぼんではなく私に?」
686書いた人:04/03/15 01:18 ID:iLidWhF6

別に行きたくないわけじゃない、むしろ行きたい。
ただその思いはあいぼんだって同じ筈だ。

「1日とちょっとじゃ、作れる薬はこれとあと少しが限度やったからな…試験用に少し使こうたし。
お陰で結婚式遅刻してもうたけどな。
10年も遡るには、一人分しかない。おう、お前である理由か?
一つは、10年前とのギャップが大きければ大きいほど、変動を及ぼしやすそうやからな…
加護は昔からどこかしっかりしとったけど……」

そう言うと、私の目を覗き込む。
まぁ…否定しにくいのが、情けないんだけど。
687書いた人:04/03/15 01:19 ID:iLidWhF6

「いいです、分かってますから。
で、もう一つは?」
「もう一つは……」
「?」
「すまん、加護から聞いてしもうた」

あいぼんが何を言ったのか、聞くまでもない。
私が何故まこっちゃんと紺野ちゃんをここまで救いたいのか、それだけの理由だ。
一つは紺野ちゃんを引っ叩いた、そして今日まで謝らなかったことへの償い。
そしてもう一つは、まこっちゃんを忘れることで今日まで来たことへの償い。
あとは…紺野ちゃんと仲直りするのを手伝ってくれたことへのお礼だ。
あいぼんがそれを言ったからって、私にはそれを責める資格はない。
いや今回はむしろ、感謝しよう。

「いえ…理由の方、よく分かりました。それじゃ」
「うん」

つんくさんの手から渡された瓶は、いつかと同じように冷たかった。
688書いた人:04/03/15 01:20 ID:iLidWhF6

「小川の時も、お前らが2003年に帰って一週間経ってもちゃんと帰れたからな。
たぶんそれくらいの間は『糸』は確実に持つと思うけど…
早いに越したことはないかな……あ」

「こぉ〜んな所にいたんですかぁ〜? だめれすよぉ…みんな怪しんでますってぇ」
「よっすぃ〜…あんた、酒臭い」

私たちの間に入ってきた影は、ベロンベロンに酔っ払ったよっすぃ〜だった。
今にも倒れそうに…いや、正確にはもうつんくさんにしな垂れかかっていたけど。
つんくさんの最後の声は探しに出てきたよっすぃ〜の酔いどれ声に打ち消された。
でも、もう大丈夫。やってやるんだから。

「梨華ちゃんがもう帰んなきゃいけないって言ってますからぁ、最後に乾杯するんですってぇ…」
「分かった…分かったから、俺の胸元を弄(まさぐ)るのはやめてくれ」
「よっすぃ〜、それじゃ、もどろ!」
689書いた人:04/03/15 01:22 ID:N9QJ8dMl

部屋に戻った私たちを迎えたのは、恐ろしいブーイングの嵐。
飯田さんは何故かつんくさんのネクタイを締め上げて、今にも殺しそうな感じだし、
中澤さんとおばちゃんに至っては、『辻に先を越された』って泣いてるし
…私の相手はつんくさんなんかい。
一人素面の…いや、素面のときも酔っているのと変わんないテンションのやぐっさんが、みんなのグラスにワインを注いで回る。

「えっとぉ〜…それじゃ、私朝から仕事なんでぇ……帰りますっ!!」

梨華ちゃん、それは分かるんだけど、なんで言葉の合間合間にくるくる回る?
敬礼して舌を出しておどけて見せながら、綺麗なステップ。
その度にピンク色のドレスがスーフィズムの踊りのときみたいに綺麗に広がって。
しばらくみんなその様子に見惚れていた。

「ハイ! じゃ、石川が帰る前に、最後にみんなそろって乾杯するよ!」
「矢口ぃ〜、圭織を差し置いて仕切るなぁ〜」
「そぉやでぇ〜、裕ちゃんも置いてきぼり食らったみたいで悲しいわぁ〜」
「てめぇらが仕切れないほど酔っ払ってるから、私が仕切ってんだろ!!
ハイ、つんくさん、最後の乾杯の挨拶!!!」

雑然としていた室内が、まるで水を打ったように静かになって。
みんなの視線の先にはつんくさんが颯爽と立っていた。
690書いた人:04/03/15 01:23 ID:N9QJ8dMl

右手でグラスを持って、左手を後ろに回して。
つんくさんは一人一人の目を順番に見ているみたいに、
部屋の隅から隅へと顔を向けていった。

「乾杯の前につまらん挨拶をさせてもらうけど…ええか?」

さっきまで野次を飛ばしていたみんなが、
笑顔で頷いているのが暗い室内でもはっきりと分かる。
一人一人、じっとその眼を見ながら、つんくさんは穏やかな顔をしていた。
自分の育てた娘。たちがこんなに成長しているのを、驚きつつも、優しく受け止めていた。
彼から溢れる言葉の一語一句に、その感情がギュッと詰まっているみたいで。
691書いた人:04/03/15 01:23 ID:N9QJ8dMl

「中澤、後輩に先越されたとか言っとらんで、ちゃんと相手見つけないかんで?
お前ほどのええ女やったら、我侭言わんかったらいくらでも候補おるんやから」

「保田も仕事頑張んのはええけど、少しは男でも漁れよ…
今度俺が復帰するときにでも、パリッとした衣装、一つ作ってくれや」

「飯田。一番つらい時に、一番つらい仕事してくれたな…
あん時は俺もあんなんやったから言えんかったけど、本当にありがとう」

「安倍…お前の式、行かんでゴメンな。元気そうで安心したわ。
今度一回、子ども見せてくれや・・・ああ、いかんな、なんかジジ臭いわ」

「矢口も、仕事しすぎちゃうんか? 10年前に比べればマシ? …スマンな。
また電話せえよ、お前の事務所の偉いさんと、新曲マジで打ち合わせしてやるから」

「石川ぁ、けったいな私服は相変わらずやなぁ…なんで頬染めてんのや、誉めてないで。
あんまり人のことばっかり構っててもあかんで? 昔っからそうやもんなぁ、お前」

「吉澤! いや、ジャージで来たりせんかったから安心したわ。
あんなに沈んだお前を見たのはあの時が初めてやったけど、こんなに楽しそうなお前を見るのも、今日が初めてやな」

「後藤ぉ〜、起きとるか? 舞台まで近いんやろ? あんま無理すんなよ。
演技とかは教えられんけど、困ったことあったらいつでも来いよ。まだ、少しは業界に力あんねんから」

「藤本、泣き止んだか? あぁぁ…また泣くし。お前の持ってるその『幅』って、大切やで。
いつもクールにせんでもええから、泣きたいときは泣いとけ、な?
お前の周りには、それを受け止める奴らがこんなにおること、忘れんなよ」
692書いた人:04/03/15 01:24 ID:N9QJ8dMl

「高橋、ミュージカルは面白くやっとるか? 稽古がキツイ? そりゃそうやろ。
お前が求めた道やったら、何があったって絶対後悔しないはずや。がんばれよ」

「辻……………お前はけして逃げてはない。もちろん、俺もや。
全てにおいてそうなんやろうけど…後悔しないように、お互いにやっていこうな」

「加護はメガネがよう似合うようになったなぁ…かっこよぅなったで。
そんじゃ関西に家買うときは、世話になるかなぁ…うん、少しはまけてくれ」

「新垣は貫禄出すぎやないか? いや、ええんけどな。
今度俺にも一つ、プロデュースさせてもらうかな? 大丈夫、次は投げ出したりせん」

「亀井も、もう奥さんか…早すぎちゃうか? いや、俺基準やけど。
はい中澤、亀井を睨みつけない。
お前の式も行かんでスマンかったな、うん……旦那大切にしてやれよ」

「道重…そうかぁ、お前がダンサーになったんかぁ…いや、信じられないんとちゃう。
俺の目に狂いはなかったってことや。ステージの日程教えや、絶対見に行くから」

「田中は寝てるか。お? 起きたか? …いや、俺はお前のパパとちゃうで、寝ぼけとるなぁ。
ええか? 歌うときはマイクの前だけがステージとちゃう、
お前は左右も前後も、そして上にだって、もっともっと大きくステージを使えるはずやで。
今はステージの上にはお前一人やけど…それができてこそ、エンターテイナーや」
693書いた人:04/03/15 01:25 ID:N9QJ8dMl

「………」

つんくさんがれいなから目を横に移したけれど、そこにはただ闇が広がるだけだった。
思わずその目の動きにつられて、みんながその闇に顔を向ける。
あと二人…あと二人、足りないんだ。
誰からでもなく、嗚咽が聞こえたその時、

「紺野…結婚おめでとうな。旦那優しそうなヤツやんか。安心したで」

つんくさんは言葉を続けた。
ただ闇を見据えながら、二度とそこから目を背けまいとするように。

「美味しいもんが好きなんやから、料理も精進せな…これからは、食事もお前のためだけとちゃうからな。
お前だったら、いい嫁さんになれると信じてるからな…時々でええから、うちらも思い出せよ」

そしてもう一つ、横のソファーに目を移す。
誰もいない、照明もよく届いていない漆黒をじっと見ながら、
つんくさんは真面目な顔をしていて。
そして、ふっと微笑んだ。

「…………小川。
見てるかな? 俺は…いやみんながずっと、どこか足踏みをしてたのかもしれん。
でもな、今日からまた動き出すから見ててくれや。
お前のことを忘れるわけと違うから…
お前が見ててくれる、って考えるだけで、きっと最高の一歩を踏み出せると思うから…
だから見ててくれよ……な?」
694書いた人:04/03/15 01:27 ID:ZTQqyME4

もう、誰も泣いてはいなかった。
つんくさんがゆっくりと掲げたグラスに合わせて、静かに息を止めたまま、全員がグラスを上げる。
照明に近づいた17のグラスが瞬(またた)いて、星空みたいに私たちの頭上に広がる。

「全員でやる最後の乾杯と違うで…これが、最初の乾杯や。
みんなの過去と…そして、みんなの未来に!!」
「「「「「「「「「「「「「「「かんぱーーーーーーーーーい!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」
695書いた人:04/03/15 01:28 ID:ZTQqyME4

          :
          :
          :


その後何時間飲んでいただろうか。
梨華ちゃんが帰る時に、
『それじゃ、チャーミー石川でした!! チャオー!』ってやらされてたのは覚えてるんだけどなぁ…
確かテイク23くらいまでやらされて。
『石川!! あの恥じらいの無さはどこ行ったッ!!』って、中澤さんがずっとダメだししてた。

あのお店を出た辺りのところは覚えてるんだよなぁ…
駅前の違法駐輪をよっすぃ〜が『ドミノ理論だぁッーーー!!』って、意味も無く将棋倒しにする。
追っかけてきたお巡りさんに、何故かつんくさんが土下座して…

本当に夢みたいだった。
目が覚めた時部屋のベッドに寝ていたから、本当に夢かと思ったくらいだ。
でも……バッグの中の瓶が、全てが本当だと教えてくれていた。
696書いた人:04/03/15 01:29 ID:ZTQqyME4

―――

「あの」交差点の近くの喫茶店。
つんくさんとのんちゃんを前に、
私は右隣のあさ美ちゃんの左手と反対の加護ちゃんの右手をギュッと握り締めていた。
のんちゃんの話が終わったあと、誰一人として声を出さなかった。
加護ちゃんとあさ美ちゃんは穴が空くような目で、のんちゃんを見詰めていて。
私は天井から下がった照明を眺めて、昨日見たばかりのみんなを思い出していた。

「お前が…」

沈黙を破ったのは、その様子を優しく見ていたつんくさんだった。
窓の外に映る闇から目を離すと、私たち一人一人の目を見詰めながら、ゆっくりと続ける。

「昨日小川、お前が薬を飲んだすぐ後、電話が鳴ったんや。
最初は冗談かとも思ったで。
でもな、そもそも小川が薬を飲んだのを、なんで辻が知っとるのかとか、よく考えれば…」
「それでね、すぐにつんくさんのところに行ったの。
私が10年後から…違う10年後から来てて、それで、まこっちゃんが死ぬかもしれない、って。
でも…まさか紺野ちゃんの方に起こるとは思わなかった」

あさ美ちゃんがビクッと肩を震わせる。
白い白い手首には、まださっきのんちゃんに掴まれた跡が赤く残っていた。
交差点に入る直前、のんちゃんが無理矢理歩道に彼女を引き戻したときの、あの跡。
697書いた人:04/03/15 01:30 ID:ZTQqyME4

「ほんなら、やっぱりうちら全員で。のの…? まぁ…ののでええか。
ののとつんくさんとうちで出てきたのは、正解やったんな」

加護ちゃんの問いに、のんちゃんが少し俯きながら笑った。
自分が10年も前の加護ちゃんにも「のの」って呼ばれるのが、嬉しかったらしく。
その笑いが外見は全然違うのに、10年後ののんちゃんそのものに見えて。

「うん、多分まこっちゃんが自分の死ぬ可能性を知っちゃったから、微妙に変わった未来になったんだと思う。
だからそれによく似た出来事・・・紺野ちゃんに同じ結果が生じるように、変化したのかも」
「お前が未来行ったことを言わせんようにしたのも、おかしな変化があると困るからや。
兎に角…小川も紺野もどうにかなったにはなったんやけど…」

このまま祝杯をあげてもいい、って思ってたのに、つんくさんの表情が曇る。
私たちは…のんちゃん以外は、覗き込むようにつんくさんのその変化を見詰めた。
唾を飲むと、意を決したように、つんくさんは青白い顔で続ける。

「…けど、な。今日は防げたけど、明日も同じことが起こるのかもしれん。
そうやろ? えっと…俺の言う『本筋の未来』か? 
それに引き寄せられるのは、別に今日である必要も無い。
小川かその周囲の人間が死ぬ、っていう同じような結果がまたでてくるのかもしれんで」
「「「……あ」」」

馬鹿丸出しの声をあげる私たち三人。
…けれど、10年後ののんちゃんだけは少し寂しそうに目を落とした。
698書いた人:04/03/15 01:32 ID:ZTQqyME4

「…それなら大丈夫ですよ」
「何で?」

あさ美ちゃんの食い入るような目付きに一瞬仰け反って、そして笑った。

「言ったでしょ? 「糸」を辿って私は来てるって。
今ね…すっごく糸が伸びきってるんだと思うよ」
「ハァ?」

口をぼんやり空けたまま、今度はつんくさんがのんちゃんに向き直った。
いつも二人がやるのとは立場が逆でちょっとおかしい。
ふと、のんちゃんの目尻に涙が浮かんでいるのに気付いた。

「…そろそろ糸が切れそうなんだ。
私たちの未来がお互いに離れていってるんだよ。
つんくさんも…10年後のね、つんくさんも言ってたから。
もしも許容できないほど違う未来に分岐したときは、
10年後にある私の身体が無理矢理私の意識を呼び戻すだろうね、って」
699書いた人:04/03/15 01:33 ID:ZTQqyME4

頬に涙が垂れている。
今までテーブルの上に組んでいた腕が、だらんと垂れ下がって。
黒目の色が淡くなって、なんだか虚ろな感じ。
口は動いているけど、うわごとみたいに感情が欠如している。
それなのにのんちゃんは喋りつづけた。

「もう…大丈夫だよ。
あっちの世界の私がこれ以上こっちにいられないってことは、
もう二度と引き合うことはないだろうから」
「……辻、よく頑張ったな」

つんくさんの言葉が耳に入ったのか、一瞬だけのんちゃんは目を見広げる。
だけどすぐに、眠たそうに頭を振ってしまった。
700書いた人:04/03/15 01:34 ID:ZTQqyME4

「つんくさんも頑張ったんですよ…
あいぼんも紺野ちゃんも…まこっちゃんも、元気でね。
こっちの私たちって、多分全然違う未来になるんだろうね…ちょっと見てみたいかな」

身を乗り出して、のんちゃんの腕を掴みあげた。
あさ美ちゃんも加護ちゃんも、3人で彼女の手を握り締める。
一瞬だけ、それに応えてのんちゃんは笑った。

「まこっちゃん……手紙届くの、楽しみにしてるよ…じゃあね」

不思議と涙は出なかった。
もう2度と会うことはない人だって言うのに。
ありがとう、それだけを心の中で繰り返した。
だって………

「あのさ…3人とも、そんなに掴むと腕痛いから」

私たちには、こっちののんちゃんがいるから……ね?
顔を顰めて困った風にしながらも、それでも彼女は手を振り払わなかった。
701書いた人:04/03/15 01:34 ID:ZTQqyME4



――― エピローグ


702書いた人:04/03/15 01:35 ID:ZTQqyME4




ステージ上の熱気からは少し離れた舞台袖には、手を取り合ってステージを見つめるみんながいた。
二人の…のんちゃんと加護ちゃんの卒業の日。
デビュー曲を歌い終わり、観客席を仰ぎ見ながら二人は最後の挨拶をしている。

クリスマスの後、すぐにつんくさんは二人の卒業を決めた。
年明けに二人から卒業を聞いて、私とあさ美ちゃんはつんくさんをシメてやろうかと思ったけど。
でも…それは、二人に止められた。

『今はまだ上手く言えないけど、私もあいぼんにも、夢があるの』
『そやな…そのための第一歩、ってやつやから…な』

顔を見合わせて笑う二人に、私たちは何も言い返せなかった。
703書いた人:04/03/15 01:37 ID:Ddlkr9y5

瞬きもせずに、飯田さんがずっと二人を見ていた。
私の右手を、あさ美ちゃんがさっきから痛いほど握っている。

私が死ぬことはなくなって…これからもずっと一緒にいられると思っていた…けれど。
でも…そうじゃないんだ。
もしかしたら…これが、二人が離れていくことが、私が死ぬことの代わりの別れなのかも。
そんなことが、ふと頭をよぎる。

もうつんくさんがボロボロになって私を救う手立てを考えることも、
加護ちゃんが土地を転がしながら、部下を叱り付けることも、
あさ美ちゃんがあの日にウエディングドレスを着ることも、
そして…のんちゃんが砂時計を握り締めながらあの石段に並ぶことも。

もう私たちのこれからには、起こらないだろう。
それなのに、私の頭にはまだあの日々の記憶が残っている。
もう二度と出会うことのない日々。
気が付くと、あの歌を口ずさんでいる自分がいた。


♪ 時間が経つのは あっという間 そんなのウソだって思ってた…
        でも あなたと過ごした日々は 遥か 心の彼方……

704書いた人:04/03/15 01:38 ID:Ddlkr9y5

「まこっちゃん…それ、何の曲?」
「…え? うーんとぉ…未来で聴いたの」

それだけ答えると、私はまた口ずさむ。
一つの音しか私の唇は奏でられないけれど、
頭の中でコーラスからハモリ、弦楽器や低音、ドラムの音まで一緒に流れていて。
この曲の持つ色んな背景を、私は言う気にならなかった。
だってそれはどうでもいいことだから。
確かにこれは私が死んだ時に作られて、そしてあさ美ちゃんは歌えなかった曲だけど。
でもそれはどうでもいいことだ。
私の耳に入った瞬間から、そして私があの未来で過ごして行くことで、
この曲は私自身の意味を持つようになったから。

あさ美ちゃんはにこっと微笑むと、ぴたりと耳を私の口元に近付けた。
一瞬止まった私の歌を、あさ美ちゃんは目を閉じて続きを促す。
髪が微かに唇を撫でて、ちょっとくすぐったい。

手をつないだまま寄り添うように、
あさ美ちゃんの呼吸を、あさ美ちゃんの温度をすぐそこで感じながら、
私は再び歌いだした。
ステージで顔を見合わせて笑う加護ちゃんとのんちゃんを見詰めながら。
705書いた人:04/03/15 01:39 ID:Ddlkr9y5

……彼女たちは、何になりたいのだろう。
私が見た10年後からはもう遥かに遠ざかっていて、全く違う未来が始まっている。
私が見たあの未来が実現することは、もうないだろう。
のんちゃんが帰っていったあの時、
私たちはあの未来に近づくのをやめて、永久の平行線を辿ることになったから。

私とあさ美ちゃんの視線に応えるように、一瞬二人が舞台袖を見てこちらに笑ったように見えた。
でもその笑顔は、いつか見たようなシンクロした笑顔ではなく、二人それぞれの笑い。
あさ美ちゃんが右手をわずかに振って応えたのを認めると、再び客席に向き直る。

そうか…もう、娘。になるっていう夢は叶えたんだ。
私たちが昨日までずっと一緒だったのも本当に偶然で、これからは全く違う夢を追っていくんだ。
だから二人も今日は…そして明日から、偶々二人一緒の場所にいるだけで。

その悪戯っぽい口元から溢れ出す夢がなんなのか、今は言わなくてもいいよ。
どうせあと数十秒後にはステージ上で私たちに囲まれて、泣きじゃくって話も出来ないだろうからさ。
少し強く握りしめたあさ美ちゃんの手が、また強く私を握り返してくれる。
私とあさ美ちゃんはあともう少し、ここにいるけれど。

私たち4人が一緒だった時間はもう終わり、今は砂が落ちきって、ひたすらに静かな砂時計みたいに。
706書いた人:04/03/15 01:39 ID:Ddlkr9y5

だけど、ちっとも寂しくなんかないから。
だってすぐに砂時計はひっくり返る。
これから始まる砂時計にどんな砂が流れるか、それは私たちが決められることだから。
だから、寂しくなんかないよ。

でもね…いつか聞かせてよ。
のんちゃんと加護ちゃん、それぞれの夢。
私たちもその時までには、熱っぽい目で自分の夢を話せるようになるからさ。
二人の夢がかなうこと、ずっと祈ってるよ。

口ずさんでいたあの歌が終わった丁度その時、二人の挨拶も終わる。
怒っているみたいに大声を上げる客席に、飛び上がるように全身で手を振る。
707書いた人:04/03/15 01:40 ID:Ddlkr9y5

「…行こう! まこっちゃん!!」
「うん!!」

あさ美ちゃんの声は、今まで聞いたどんな声よりも大きくて。
手を繋いだまま舞台袖の階段を駆け上がって、そのまま全速力で走りつづける。
もう一度無性にあの歌が歌いたくって、唇の端で歌い始めて。

星空みたいな客席。
サスペンションライトに照らされた二人は、優しい目で私たちに振り返った。
スポットライトに目を細めて、私たちは手を繋いだまま、二人に飛びついた。

708書いた人:04/03/15 01:42 ID:gofPzkJt




             「昨日見た日々2 〜 砂時計 〜」



709書いた人:04/03/15 01:42 ID:gofPzkJt



     時間(とき)が経つのは あっという間 そんなのウソだって思ってた


     でも あなたと過ごした日々は 遥か 心の彼方



710書いた人:04/03/15 01:43 ID:gofPzkJt

―――


「裕ちゃんさぁ…ホントにその格好で行くのぉ?」
「なんや? 圭坊。裕ちゃん久々のデートでめっちゃ気合入れてんのに」
「いや…頼むから服屋の私の前で、そんな10年前のスタイルするのやめてよ」
「ウソやん? 結構流行最先端やと思ってたんけどなぁ…」
「…しょうがないなぁ…まだ時間あるよね? 
お店寄るよ! あたしが色々見繕ってあげるから」
「ホンマ? うぅぅ…ありがとな、圭坊」
「あぁぁ…泣くな裕ちゃん! そして今度こそ逃がすな!」


―――
711書いた人:04/03/15 01:44 ID:gofPzkJt



     笑いながら 踊ったあの曲 ずっと終わらないって思ってた


     でも あなたは踊った後も 目を 細めて笑う


712書いた人:04/03/15 01:44 ID:gofPzkJt

―――


「うーんとなぁ……もうちょい、30代の持つ色気、ってもん出せんか?」
「えぇぇ…抽象的過ぎて分かんないんですけど…つんくさぁん」
「いや、やっぱいいわ。なんか矢口に求めた俺がアホやった気がしてきた」
「失礼ですね! いいですよ、だったら私の色気ってもん、見せてやりますよ!
伊達に元セクシー隊長じゃないんですからね!」
「……お前、相変わらず扱いやすいなぁ…」
「え? 何か言いました?」
「いやいや…よし! んじゃ頭から通してやるで!!」


―――
713書いた人:04/03/15 01:46 ID:8SYqdXSq



     さよならの日が いつかは来るって 気付かないふりして


     Ah 今お別れを 言わなきゃダメなの?


714書いた人:04/03/15 01:47 ID:8SYqdXSq

―――


「えっとぉ…あぁ! やっと見つけたよ、さ・ゆ!」
「あ…絵里…見に来てくれてたの?」
「いやぁ…こういう楽屋とか久々に入ったから、迷っちゃった。
すっごい良かったよぉ…なんかね、かっこよかった」
「エヘヘ…ありがと。あれ? 今日、旦那さんは?」
「流石に女の人の楽屋に入れられないって。外で待ってる」
「そだよねぇ…やっぱり私に会わせたりしたら、夫婦の危機だもんねぇ」
「……相変わらずだねぇ…取り敢えず、殴っていい?」


―――
715書いた人:04/03/15 01:48 ID:8SYqdXSq



     ジングルベル もうそんな歌 歌えない


     きっと 雪を見るたび 考えるから


716書いた人:04/03/15 01:48 ID:8SYqdXSq

―――


「ごっちんさぁ…舞台大変なのは分かるけど。
トーク番組の仕事で来てるんだから、そっちの台本読めよ」
「う〜ん、でもさぁ…載ってるの段取りだけでしょ?
トークの内容なんかその場の流れなんだからさぁ、台本読んでも無駄だよ」
「あ? 分かってないなぁ…バカな話でも、下準備が大変なんだよ?
何も用意しないで行くと、すぐに話が詰まっちゃうって」
「よっすぃ〜見てる限り、バカインフレーションじゃん」
「……ごっちん、あんた来月から仕事、2倍な」


―――
717書いた人:04/03/15 01:49 ID:8SYqdXSq



     ジングルベル もうそんな歌 聞こえない


     ずっと 私いつでも 忘れないから


718書いた人:04/03/15 01:51 ID:PL6bzK+W

―――


「ちょっと自分、郡山の競売(けいばい)の書類、もう作ったん?」
「あ…すいません、主任! まだ作ってないんすけど……」
「早めにやっとかなあかんで? よし! じゃあ、さっさと作る!!」
「…はい、すぐやります」
「……加護嬢、なんか妙に最近張り切ってるよなぁ…」
「…そうですよねぇ…もしかして、男とか?」
「なるほど、振られて吹っ切れたとか?」
「そこ! くっちゃべってる暇あったら、仕事してや」
「「…ッハイ!!」」


―――
719書いた人:04/03/15 01:52 ID:PL6bzK+W



     いつかさよなら 言う時なんて ずっと来ないって思ってた


     でも さよならの言葉 絶対 言いたくない


720書いた人:04/03/15 01:53 ID:PL6bzK+W

―――


「うーーーん、もう少し…この青の色、くすんだ感じに出来ませんか?」
「いや飯田さん…ちょっとですねえ、原画で出せても印刷する時にこの色、拾えないんですよ…」
「…そうなんですか…」
「いや、そんな目で見られましても、こればっかりは…」
「…せっかく一番の出来の絵で、展覧会のパンフレット、勝負できると思ったのに…」
「……ああ、もう! 分かりましたよ。頑張ってみますから」
「ホントですか! ありがとうございます!」
「今更、頭下げないでくださいよ…係長に怒られるな、こりゃ」


―――
721書いた人:04/03/15 01:54 ID:PL6bzK+W



     泣いたりしたよね そんな時でも 最後は笑って


     Ah いつか笑える時が 私に来るかな?


722書いた人:04/03/15 01:55 ID:PL6bzK+W

―――


「はぁ〜い!! 止めて! 高橋以外休憩!」
「!!」
「あのねぇ…ステップもう一回やってみ?」
「ハイ…えっと……」
「……そう……うん……そこで飛ぶ! うん、出来んじゃない」
「やっぱりさっきの、ずれてました?」
「基本はあんたが合ってる。
何度も言ってるけど、どんなに自分が正しくやってても、
周り見て周りが揃ってたら、それに合わせなきゃ。
そこの微妙なところだけ」
「……舞台は全員でやるもんだ…でしたっけ?」
「分かってんじゃない。ほら、ちょっと休め! またすぐ始めるから」


―――
723書いた人:04/03/15 01:57 ID:GdQW29KP



     ジングルベル もうそんな歌 歌えない


     きっと 雪を見るたび 考えるから


724書いた人:04/03/15 01:57 ID:GdQW29KP

―――


「藤本さん!! これから歌撮りですか?」
「うん。あ、さっきのれいなのステージ、袖で見たけど凄いねぇ…」
「ええ!! つんくさんに言われたように、もっとステージ大きく使おうと思って!!」
「そっかぁ…頑張ってるねぇ。
でもさ、たいせーじゃないんだから、あんたが空中でぐるぐる回る必要、あんの?」
「……え? つんくさんが言ってたの、『俺たちの紅白を見習え!!』ってことだったんじゃないんですか!?」
「…いや、多分違うでしょ」


―――
725書いた人:04/03/15 01:58 ID:GdQW29KP



     ジングルベル もうそんな歌 聞こえない


     ずっと 私いつでも 忘れないから


726書いた人:04/03/15 01:59 ID:GdQW29KP

―――


「うーん……あんまいいのいないなぁ…折角安倍さんにも見てもらってんのに、申し訳ないですよ」
「でもさ、募集かけんの3回目っしょ? そろそろ決めたほうがいいんじゃない?」
「ダメだなぁ…こう、『売れる!!』って直感に来るようなの、いないんだよなぁ…」
「じゃあ具体的に、どんなのがいいのよ? やっぱなっちっぽいのがいいの?
そっかぁ、そうだよね。いやぁ、流石はおマメ、いい後輩だべ」
「そうじゃなくてですねぇ…えっとぉ…具体的に、ですか?
最初すっごく生意気で、歌とかダンスもそこそこできて天下とってやる! とか言いそうなんだけど、
その実ホントのところは弱い所もあって、事務所と給料で軽く衝突してみたり、
南京錠開けらんなくて泣いたり、富士山で足とか怪我してみたり、突然ぎっくり腰になってみたりして、
1年もせずにヘタレなキャラが世の中に浸透するんだけど、実は思い遣りとかあって、
女の子に意味もなくドキドキしてみたりして、妙におばさんぽくて歩き方のSEはひょっこりがよく似合う、
そんで笑い方は『でへへ』って擬音がピタリと来るような、女の子……がベストですね」
「んなやついねーべ」


―――
727書いた人:04/03/15 02:00 ID:GdQW29KP



     お願い ウソだって言ってよ 振り向けば


     もう一度 笑ってくれるんでしょ?


728書いた人:04/03/15 02:02 ID:+2vFi+KO

―――


「梨華ちゃ〜ん、お願いだからもうNG出さないでよぉ…ただ叫ぶだけなんだよ?」
「何でかなぁ? 何で私の極上の演技に、あの監督ダメ出しなのかなぁ?」
「さっきから言ってんじゃん、普通に叫べばいいのよ。なんで妙にぶりっ子ぶって叫ぶのよ」
「え〜そう? ののだってそう言ってて、ホントは胸の奥が焦がれてきちゃってんじゃないの?」
「焦がれないって。やっぱりあれ? チャーミー石川が覚醒しちゃった?」
「ふふふ…なんのことかしら?」
「…(日付変わるまでに終わるかな?)」


―――
729書いた人:04/03/15 02:03 ID:+2vFi+KO



     ―― もう帰らない もう戻らない


     時間(とき)は 張り付いた 砂時計


     時間は(とき)は 凍り付いて 動かない


730書いた人:04/03/15 02:04 ID:+2vFi+KO

―――


「…あなた、夕食できたよ」
「……うん、お! カボチャの煮物、作れたんだ…」
「初めて作ったけどね…頑張ってみた」
「冬至に海外にいて食べなかった分、その取り返し……かな?」
「えへへ……それもあるけどね…さ! 食べて!」
「………? まあ、いいや。それじゃ、頂きます」
「……はい、どうぞ」
「うん…おいしい……あれ? この手紙…どうしたの?」
「うん、ちょっと。昔の…今もだけど、友達から。
すっごく遠くに行っちゃったけどね………でもきっと、今も笑ったり泣いたりしてるよ、きっと」
「そっかぁ…この人は結婚式、来てくれたの?」
「……」
「あさ美?」
「……来てくれたよ。すっごく遠いところから、ね」

731書いた人:04/03/15 02:05 ID:+2vFi+KO

             :
             :
             :
             :
             :
             :
732書いた人:04/03/15 02:05 ID:+2vFi+KO

―――

メンバー全員でのんちゃんと加護ちゃんを取り囲む。
それぞれが口々に、もう言葉になっていない嗚咽を漏らしながら。
私とあさ美ちゃんはその輪の真ん中の方で、ギュッと二人に抱きついていた。

「まこっちゃん、あのね…」

マイクに拾われることが無いような小さな声。
のんちゃんが私の耳のすぐ横で、泣きじゃくりながら小さく囁く。

「私、ずっとモーニング娘。になりたい! って思ってた…」
「……」
「それで…これからは…………!」



          …新しい時間は、今始まったばかり。
733書いた人:04/03/15 02:07 ID:LYQta0zQ



          昨日見た日々2 〜 砂時計 〜


                           おわり