モーニング娘。の水着写真掲載について

このエントリーをはてなブックマークに追加
501書いた人

【小川麻琴 モーニング娘。 紺野あさ美 加護亜依 辻希美
 クリスマスプレゼント お店 収録 …………】

思いつくままにテーブルに突っ伏して文字を連ねる。
少し悪いのんちゃんの視力、この手だって私のじゃないから、私自身の字が書けるか不安だったけど。
私の手元を前のめりに覗き込んでいた影が、ふっと引いたと思うと、静かな吐息が聞こえる。

「……辻…いや、今は小川やな。もう、ええ」
「…信じてくれました?」
「ああ、加護。もう分かったから…もう、やめてくれ」

顔を上げたそこには、片手で目の辺りを抑える真っ青な顔。
全身の血の気が引いたみたいに、つんくさんは虚ろな目を向ける。

「確かに…小川……なんやな?」

加護ちゃんと私が図ったように同時に頷くと、彼は大きく息を吸う。

「…それで小川、お前は…電話で言うとったみたいに、
12月19日、お前が死んだのよりも後の時間から来た、こういうわけやな?」

今にも髪をかきむしって叫びだしそうなのを、理性で抑えているみたいに。
つんくさんは一つ一つの言葉を区切りながら続ける。
502書いた人:04/02/24 01:28 ID:iP3/giOZ

「……おかしい……ね」
のんちゃんもその様子に気付いたらしく、訝しげな声をあげた。
私の隣の加護ちゃんの顔からも、能天気な笑顔はとうに消え去っていて。

「…今は死んどるけれど、お前が死んだ時間にはお前はまだ生きとった…そうやな?」
「……はい」

口から出た返事は、私のものとは思えないような、押し殺した吐息で。
つんくさんはさっきまでの挙動を不意にやめると、静かに笑った。
静かに、正確には口元だけで笑っていた。

「多分……時間が分岐したんやと思う」
「分岐…っつーと、分かれるってことですか?」
「そう、その分岐や。
いつくらいからか詳しく聞かんと分からんけど、小川が死ぬ未来と死なん未来が分かれたんや」

何日か前、のんちゃんが紙に書いたあの絵を思い出した。
一本だった線が二つに分かれて、そのまま平行線になって…

「ほら、まこっちゃん。私の頭も舐めたもんじゃないでしょ?」
頭の中でのんちゃんがガッツポーズしているのが、目に浮かんだ。
503書いた人:04/02/24 01:29 ID:iP3/giOZ

「…小川、そして辻も加護も。
10年前の12月18日…辻と加護はもうえらい昔のことやけど、思い出してくれんか?
どこが同じで何が違うか…そこが分からんと…」

さっき私が字を連ねたメモを裏に返して、真ん中にピッと線を引く。
天井の隅を睨みながら加護ちゃんが腕組して。
私はのんちゃんと身体を入れ替えながら、あの日を思い出す。
私にとってはつい一週間ほど前だけど、二人にとっては遥か昔。
16歳の私に6歳のある日を思い出せ、って言ったって、土台無理な話だ。

それなのに、メモ帳の裏はすぐに真っ黒に埋まっていった。
二人とも私が死んでからお葬式までの記憶は酷く曖昧なのに
、私が死ぬ前のことはつい昨日のように克明に覚えていて。
メモを取りながらつんくさんが…
つんくさんも10年前に保田さんから聞いただけで受け売りだそうだけど、理由を教えてくれる。

「なんやったかな…自分にとって大きな意味を持ったことがあると、その周辺の記憶は凄い鮮明に残るんやと。
保田が…懐かしいな、久しぶりにこの名前も口にしたわ。
ともかく、保田が心理学の本抱えながら自慢げに話しとったわ」

10年前のことも詳しく出来たのは、それ以上にのんちゃんと加護ちゃん、二人いるのが大きかったんだろうけど。
504書いた人:04/02/24 01:30 ID:iP3/giOZ

充分すぎるほどの資料を前に、つんくさんは大きく溜息をつく。

「俺が薬を完全に捨ててへん…ってところが始まりっぽいな。
そこが始まりで……完全に分かれたのがどこかはちょっと分からんな。
ギリギリ12月18日に薬を捨てる可能性もあったわけやしなぁ…」

寂しそうに後ろにそびえる機械を見上げると、じっとこちらを見詰めた。
いつものあの保護者としての目線。
上目遣いではない、そして見下す風ではない、私たちと対等に接しようとするあの視線。

「小川、大丈夫や。お前が来てもうたここは、本来のお前たちの未来と違うところや。
だから10年前の…めんどいな、お前が出てきた所の俺が解除薬を飲ませれば、問題無く元に戻ると思う」
「けど…なんでまこっちゃん、こっちに来たんですかね?」

加護ちゃんの疑問は尤もで。
そりゃそうだ。私はつんくさんに、未来に行く薬、って聞いてこれを貰っていたのに。
なんでこんな、別な未来に来なくちゃいけないんだろう。
それなのに、つんくさんは床に目を落とすと吹き出した。
…失礼な。

「そりゃあ…多分、薬の正常な効果…ちゃうんか?」
「これがですかぁ?」

ついつい間抜けな反応もしてしまうってもんだ。
のんちゃんが頭の中で「これが『正常』なら、世界の殆ど異常だよねぇ」と毒づいていた。
505書いた人:04/02/24 01:30 ID:iP3/giOZ

それなのに至極当然、とでも言いたさげにつんくさんは笑う。

「ああ、本物の薬見てへんからなんとも言えんけど.
過去に行く方を原料にした…って言うとったよな?
……ある程度過去に戻った上で、そこから未来に一気に飛ぶ、っていう薬なんとちゃうかな。
小川だって薬を飲む前のしばらくの間、ボーっとした…丁度今の辻みたいに、
頭の中でもう一人がいてるような感覚あったと思うけどな?」
「…どうなん? まこっちゃん?」

加護ちゃんに向かって『まさかぁ、そんなわけ無いじゃん』と言おうとしたその瞬間。



思い出した。
薬を飲む三日前くらいから、随分頭がボーっとしていた。
それでムカムカしててあさ美ちゃんと喧嘩しちゃったんだし…
丁度今みたいに頭が重かった、のんちゃんの身体なのにこんなこと言うのは失礼だけど。
あの時も…私が中にいたってこと…?

「まこっちゃんさぁ…中に自分以外のがいるんだったら、気付けよ」
のんちゃんの声が呆れ半分だったのは、まあ気のせいということにしておこう。
506書いた人:04/02/24 01:32 ID:W9f1glVJ

「…覚えあったか?」
「はぁ」

私の気の無い返事に、つんくさんは目を細める。
でもそのすぐ後、すぐに保護者の顔は消え失せて。
言葉を喋ろうとしているのに、つんくさんの唇はわなわなと震えたまま。
歯がカチカチと鳴っているのが、微かに聴こえる。

「そやな…お前が来たんは、分かれた全く違う未来の方や」

その言葉に自然に頷いたけれど、つんくさんが私のそれを見ていたのかは分からない。
そしてその後の彼の言葉に、私たちはやっとつんくさんの白い顔の意味が分かった。
彼が今まで何をしていて、そして何故、私が来ていることを信じられなかったか。
いや、信じたくなかったか。

「俺はな…これで小川が死ぬの、止めるつもりやった」
507書いた人:04/02/24 01:32 ID:W9f1glVJ

「小川が死ぬのを止められれば、この未来も変わるんやと思ってた。
加護、辻。お前たち、2000年から帰ってきた時、言うとったやろ?
ちょっとだけ、未来が変わってますよ…って。
それみたいに俺が過去に戻って、防げば済むと思うとった」

私たちが期待していた、そして予想していたこの機械に対する答え。
そしてつんくさんのこの10年間の答え。
なのに。

「けどな…小川がここに来てる……ってことは、時間は分岐するんや!
過去を変えたかて、そこから新しく別に未来が出来るだけで。
俺たちのいる時間は、そのまま存在しつづける」

途中から声に涙が混じって、聞き取りにくかったけれど。
つんくさんが泣いたのを…ふざけないで泣いたのを、初めて見た。

「この機械作ってても可能性は捨てきれんかった…もしかしたら、時間は一本道じゃなくて、分かれてるんちゃうかって。
そうやもんな、お前らが変えた未来と違って、俺が変えるんは不可逆的なもんなんやから。
仮定が真実だって…認めるのが…怖かった。
でも…もう、認めざるをえん。時間は分岐する。俺が過去行って何しようと、俺たちの時間は別々に存在しつづける」

私たちは何も言わなかった、いや、言えなかった。
つんくさんはテーブルに肘をついて、顔を両の掌で覆った。
最後の声はかすれたような、途切れ途切れの声。

「…認めざるをえん……………俺の10年間は、無駄やった」