モーニング娘。の水着写真掲載について

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483書いた人

「これって…」
「あぁ…まあ、とりあえず座れや」

のんちゃんの肩越しに機械を見て声をあげた加護ちゃんに、つんくさんは静かに返した。
二人のこんな反応は予測済みとばかりに、その物腰は落ち着き払っていた。
そしてつんくさんのシナリオ通りに、ぺたんとソファーに腰を下ろす。
目の前では10年前のあの日と同じように、機械が低い音を奏でていて。
と、つんくさんは私たちの向かいではなく、のんちゃんたちの脇の床に静かに膝を突いた。
一瞬二人の目を交互に見ると、すっと手を床につく。

「二人とも…いや、小川も、今まで本当にすまんかった」
「…つんくさん! やめて下さい!」

悲鳴みたいなのんちゃんの声にも、つんくさんはぴくりとも反応せずに。
10年前に見たあの土下座よりも、遥かに真摯なそれはいつまでも続いて。
何とかやめさせようとするのんちゃんを他所に、10年前のつんくさんの土下座が冗談めいたものだったことを思い出した。
484書いた人:04/02/23 02:32 ID:HJezsCQt

「あいぼんも…なんか言ってあげてよ!」

つんくさんの身体を揺するのんちゃんが振り返った…けれど。
ソファーに座ったままの加護ちゃんの目は、突き刺さるように冷たくて。
薄い唇の間から漏れた言葉は、掠れていてもはっきりと耳に届いた。

「つんくさん…それ、何に謝っとんですか?」
「そりゃあ・・・」
「あいぼん!!」

何か返そうとしたつんくさんを、のんちゃんの叫び声が遮る。
でもその叫び声に首を振って、加護ちゃんは続ける。

「のの、違う。うちもまこっちゃんとののとした約束は守るから。
つんくさん、そのスマンって言うんは、何に謝ってるんですか?
まこっちゃんが生きてるときに碌な曲を作ってあげられなくて?
うちらを捨ててずっと閉じこもってもうたから?
それとも、今までまこっちゃんから…逃げてて?」
「……ッ!!」

つんくさんと加護ちゃんを交互に見ていたのんちゃんの肩が震える。
静かにつんくさんは立ち上がると、加護ちゃんにまっすぐに向かい合った。
485書いた人:04/02/23 02:33 ID:HJezsCQt

「……加護……
前の二つは謝らないかん。
確かに俺は碌でもないプロデューサーやったし、お前ら放って閉じこもったからな。
それに俺がずっと閉じこもったんを、逃げてたって言われればそうかもしれん。
でもな……これだけは信じてくれ。俺は、小川のことはこの10年忘れたことは無い」

二人は互いにその目の中の光を探り合っていた。
そしてキッとつんくさんを睨み上げていた加護ちゃんの目が、ふっと緩む。
2度3度懐かしげに頷くと、頭を下げた。

「それなら…ええんです。
もしもつんくさんがまこっちゃんのこと忘れようと閉じこもったんなら、容赦するつもりは無かっただけで。
で、それをスマンって言葉だけで片付けようとするんなら、許せんかっただけです。
生意気言って、すいませんでした」
「うん、俺は……小川のことは忘れたりはせんよ。これが…証拠や」

それだけ言ってようやく向かいのソファーに腰を下ろす。
つられて、のんちゃんと加護ちゃんも機械を目で撫でまわしながら、柔らかな感触に身を委ねた。
486書いた人:04/02/23 02:33 ID:HJezsCQt

話が読めた気がした。
つんくさんがこの10年間、何をやっていたか。
この10年間を何に賭けて、そしてその結果が…この機械なんだ。
のんちゃんの胸の鼓動が高まる。
加護ちゃんの左手をギュッと掴んで、二度三度、お互いに顔を見合わせた。
その顔はついさっきとは打って変わってだらしないほどの笑顔で…多分、のんちゃんの顔だって。
けれどソファーから身を乗り出したつんくさんは、下を向いて溜息を漏らす。

「これな・・・失敗作なんや」
「……失敗作?」
「ああ、昔作ったやつはお前らとの約束通り、バラして他のことに使えそうな部品以外は捨てたしな。
設計図も捨ててもうたから、記憶だけが頼りやったんけど…
やっぱり「あいつ」は天才だったわ。なかなかどうして、いい所まで行くんやけどな。
おんなじもんは、どうしたって作れん」

つんくさんは…未来を変えようとしたんじゃないか。
つまり…これで10年前に帰って、そして私が事故に遭うっていう過去を無かったものにして。
そしてこの未来を、変えたかったんじゃないだろうか。
487書いた人:04/02/23 02:34 ID:HJezsCQt

「…でも! いい所まではいっとるんですよね? だったら、可能性無いことないんじゃないですか!?」
「そうですよ、だって何年これ造るのに掛かっても、変わっちゃえば…」

下を向いたまますっと左手を前に突き出して、つんくさんが二人を制する。
口元が微かに蠢いて、ぶつぶつと何かを呟いているのが分かった。
その様子に一瞬顔を見合わせるのんちゃんたち。
と、大きく息を吸うと、つんくさんが真っ白な顔をこちらに向ける。

「俺もな…そのつもりやった…つい昨日まで。
辻から電話があって…その電話の中身を信じたくなくて、しばらく考えとったんやけど…」
「………」
「辻、ホンマに…小川は…来とるんか?」

すがるようなその目つき。
余りの勢いに気圧されて、のんちゃんが一瞬身を反らした。
息を飲み込みながら頷くと、極めて明るい声でつんくさんに微笑みかける。

「ええ! 来てますよ。つんくさんに電話したときにもやりましたけど、今ここでまこっちゃんに身体のコントロール渡すことも出来ますし」
「そう…か、やって見せてくれんか?」

まただ、またさっきの目つき。
「ほら、つんくさんが頼んでるから、まこっちゃん!」
その目つきには気付かないまま、
つんくさんの構想に期待を膨らましたのんちゃんの声は、底抜けに明るかった。
488書いた人:04/02/23 02:37 ID:LerhtoY3

一日に二度もやるのは正直疲れるけど…
意識を集中する、怒ったり泣いたりするときの、あの感情が爆発する感じを…
目を閉じたまま、のんちゃんの意識が次第に下がっていくのを感じる。
もう少し…
さあ!!

−−−

目を開ける。
つんくさんは相変わらず覗き込むようにこちらを見ている。
指を二回動かしてみると、一瞬の遅れもなくすらすらと残像が見えた。

「上手くいったみたいだね、まこっちゃん」
「うん」

のんちゃんの言葉が頭の中に響いた。
当然加護ちゃんとつんくさんには聴こえていないから、二人は私が頷いた意味を探ろうとしていて。

「つんくさん、お久しぶりです…って言っても、私はついこの間、会ってますけど」
「……ホンマに…小川か?」
「顔つき変わってますやん。ののはこんな、だらしない口元してませんって」

加護ちゃんの必死の援護射撃は身も蓋もないものだった。
489書いた人:04/02/23 02:37 ID:LerhtoY3

私の顔を穴が空くほど見詰めながら、つんくさんは小刻みに頭を横に振る。
唇だけが動いて何か言っているようにも見えた。
膝がガタガタと震えたのを認めて、必死につんくさんは両腕で自分を引き止めるけれど。
それでも、体全体に伝わる震えは止められないみたいだった。

「ウソや…俺は信じひん」
「…うちやののだって最初は信じませんでしたよ。
ののなんか幽霊に取り憑かれたと思ってお払いまで行ったんですから。
そんでも感じません? まこっちゃん特有のあの空気」

唇を曲げて私は顔全体に困惑を表す。
どうしよう…ちっとも信じてくれない…いや、信じる要素があるのに信じたくないみたい。
なんでだろう?

「困っちゃったねぇ…どうしよっか?」

頭の中ではのんちゃんの心底心配そうな声が聞こえる。
つんくさんはガタガタと、まるでホントに亡霊を見たみたいに恐れをあらわにしていた。
やせ細ったその外見のほうがよっぽどお化けっぽいのになぁ…

と、ぱん! と手を合わせる音。
490書いた人:04/02/23 02:38 ID:LerhtoY3

「そや!! つんくさん、これ…モーニングのラストシングル!」

ごそごそとバッグを漁ると、加護ちゃんは傷だらけのCDケースを掴み出す。
あれって…

「ああ、まこっちゃんも聴いたでしょ? ラストシングルのジャケット。
図書館じゃ見れなかったからねぇ…確かあれに…」
「つんくさん、この歌詞カードの真ん中のページ、まこっちゃんの手紙の文字と違います?」

のんちゃんの言葉の最後は、興奮気味な加護ちゃんの嬌声で掻き消される。
つんくさんは辛うじてソファーにしがみ付いたまま、虚ろな目をこちらに向けた。

「…『砂時計』…か。
お前、いつもそれ持ち歩いとったんか…」
「ええ、うちは東京離れるから、せめてこれくらいは傍に置かないかんと思うて…」

もう加護ちゃんは歌詞カードを抜き出して、ページを繰っているところだった。
いつもみたいに派手な仕様じゃなくて、セピア色が矢鱈に目に入る。
と、一つのページを指でグッと抑えると、こちらに向かって突き出した。
491書いた人:04/02/23 02:38 ID:LerhtoY3

【あさ美ちゃ〜ん
  クリスマスプレゼント買うお店見つかった!? なんと私が見つけてしまいました。
  明日収録終わったら、行こうじゃないか…】


ダメだ、恥ずかしくて最後まで読めない。
自分の書いた手紙をあとで読み返すのって、拷問に近いよ。
私が書いた覚えのない手紙…多分あさ美ちゃんと仲直りしたら、この手紙を書いていたんだろう。
しかしなんだ、このテンションは。
なんでクリスマスの所に吹き出しで『トナカーイ』って書いてあるのよ、ホントに。

手紙を遠目から写した写真が、つやつやのコーティングの向こうで輝いていた。
充分中身が読めるそれには、左下に小さく「小川麻琴の手紙」って注釈。
全体をセピア色に加工してあるから、妙に古臭い手紙に見える。

「まこっちゃん、それ…まこっちゃんが書いたもんやろ?」
「うーんと…私は書いてないけど、私の字だね」
「つんくさん…もし今…外見はののですけど、まこっちゃんが字を書いてこの字と一緒やったら、信じてくれますよね?」

「考えたねぇ…あいぼん」
のんちゃんの独り言を聞きながら、私はメモ帳を受け取る。
加護ちゃんに力なく頷いたつんくさんを見ながら、私は考えていた。
何故…つんくさんは、こんなにも私が来ていることを信じてくれないんだろう。
いや、信じようとしないんだろう。

……何で、信じたくないんだろう?