モーニング娘。の水着写真掲載について

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464書いた人

――― 夕方

「久しぶりに来た…な」
「まだこのマンション残ってたんだねぇ…あんまり10年前と変わってないよ」
「私とあいぼんは…過去から帰ってきた朝、殴りこんで…それ以来だ」

見上げたつんくさんのマンションは、つい先日見たそれと殆ど変わらずに聳え立っていて。
外の壁とかも特段汚れていたりしないで、まるでここだけは10年前そのもののような錯覚を覚える。
加護ちゃんは白い頬をほのかに赤くして、目を細めてはるか上を睨みつけて。
胸に感じるのんちゃんの鼓動は、走ってきたからだけじゃない。その高まりをいつまでも保ち続けて。
一瞬二人は顔を見合わせると、同時に右足を踏み出した。

「あ…ゴメン、ちょっと待って!」
「え!? あ、あいぼん! まこっちゃんが待って、だって」
「何や」

キッとこっちを見た加護ちゃんの目は、13年前私を渋谷で捕まえた時のあの目に似てた。
歳も外見も、何もかもが変わっているのに、まるであの日をそのまま持ってきたみたい。
…あれから13年経っていること、ここが渋谷じゃないこと、私の実体が無いこと、
そして…あと一人、あさ美ちゃんがいないこと…こんなにも違っているのに、彼女の目はそのまま。
465書いた人:04/02/21 19:32 ID:F+Dpl2Pu

「私は…なんでこの未来に来ちゃったのか、それだけ分かればいいから」
「?」

首を傾げながら私の言葉をのんちゃんが伝えると、見る見るうちに加護ちゃんの眉間に皺が寄る。
12月の早めの夕暮れのせいで、少し霞んで見えたけれど、確かに加護ちゃんは顔をしかめた。
のんちゃんはまだ私の言葉の意味が分からないみたいで、アスファルトの灰色に目を落とす。

なんとなく思っていたことだけれど、今加護ちゃんの顔を見て確信が持てた。
彼女がここに来たことには、多分二つの意味がある。
私が一体どこからどうして来ているのか…そして、つんくさんのこの10年間への非難。

「えーっと…まこっちゃん? もしあれなら、体貸すけど?」

自分の無力さに自嘲気味に笑うと、諦め口調でのんちゃんが漏らす。
ホントなら極力未来に関わるのは控えていたかったけど、当事者なんだもん。
唇の間から漏れる微かな音だけで応えると、意識を集中する。
…大分慣れてきたから、ゴメンね。また身体借りるよ。
466書いた人:04/02/21 19:33 ID:F+Dpl2Pu

凍えていた足の指をストーブに近付けたみたいな、あの痛痒さが体中を走る。
でも人として正常な状態にやっと戻っただけだから、けして不快なものではなくて。
二度三度瞬きすると、僅かに見下ろした加護ちゃんが口をぽかんと空けていた。

「ホンマ…顔つきまで変わるんやな…もう、まこっちゃんになっとんの?」
「うん、久しぶり」
「これなら…つんくさんも信じてくれると思うで。でもな…」

唾をゴクンと飲む音が私の耳にも聞こえた。
心の中ではのんちゃんが、静かに私たちを見詰めているのが感じられる。

「でも、うちは言わないかん」
「……」
「うちもののも、よっすぃ〜も梨華ちゃんも…あの時モーニング娘。にいたみんな、
多分あさ美ちゃんも、うちらは誰も逃げんかった。
芸能界に残ったんも辞めたんも、みんな世の中に向き合ってやってきたんと違う?
それなのに、つんくさんは……!!」

そこまで言って大きく息を吐く。
一瞬伏せた後にこちらに向けた目の色は、真っ赤だった。
のんちゃんが微かに肩を震わせて、「逃げる」って言葉に反応したのが分かる。
そして……私は何も返せなかった。
467書いた人:04/02/21 19:33 ID:F+Dpl2Pu

のんちゃんはあの図書館で言っていた。
逃げ続けていた、私が死んだことから逃れるために、ずっと逃げていた、って。
それでものんちゃんは、ここまでずっと頑張ってきて。
私には言わなかったけど、多分何度も他人(ひと)に心無い触れられ方をしたこともあっただろう。
それにも耐えてきたんだから、なにより、ずっと砂時計持っててくれたんだから。
のんちゃんはそうだった…そして……

「「でも…つんくさんだって」」

私とのんちゃんの言葉が重なったのに驚いて、一瞬息が止まった。
じっと私の眉間を睨みながら、加護ちゃんは続きを促す。

「…任せる、まこっちゃん」

そう、私はつんくさんも逃げていなかったことを知っている。
のんちゃんの受け売りだけど…つんくさんは私と向き合って、いや向き合い過ぎたから、殻に閉じこもった。
とても大人として誉められることじゃないけれど。
けれど、それは逃げてなんかいないんだって。
468書いた人:04/02/21 19:34 ID:F+Dpl2Pu

言葉を選びながら、頬にあたる夕暮れの風を感じながら、私はゆっくりと加護ちゃんに話し始めた。
私の言葉に何度か言い返そうとしたけれど、それを26歳の理性でグッと抑えて。
私を睨んでいたその目尻が、次第に下がってきた。

話し終わったときには、私は猛烈な疲れに襲われて。
やっぱり他人の体を使うのは、どうも体力を使ってダメだ。
私の様子には気付かず、加護ちゃんは腕を組んで空を見上げた。

「うちらは…あの時、捨てられたようなもんやったからなぁ。
10年間誰も口にせんかったけど、うちら何度壊れそうになったと思う?
何度、そん時つんくさんが守ってくれんかなぁ、って願ったと思う?
なぁ…まこっちゃんは10年前からふっときただけやから分からんと思うけど」

私の応えはとうに期待していなかったんだろう、静かに流れる言葉は止まらない。
それを聞きながら、のんちゃんの身体をそっと返した。

「そやな…責めるだけ無意味…か。
10年間何しとったか、聞くのそれだけにするわ。
言っとくけど、まこっちゃんに言われてから変えるんと違うからな。
この10年、一瞬でもつんくさんがまこっちゃんのこと忘れとったら、
梨華ちゃんも泣かせた関西弁でまくしたててやるんやから」
「……うん、そうしなよ。あいぼん」
「!? え? もう戻ってたん?」

まじまじとのんちゃんの顔を見詰める加護ちゃんの肩越しに、私は夕焼けを見ていた。
『何で夕焼けは赤いんやろ』ってつんくさんの言葉を、何故か思い出した。
469書いた人:04/02/21 19:34 ID:F+Dpl2Pu

―――

「それじゃ…押すよ」
「うん」
「いいで」

のんちゃんの指がインターホンを強く捕らえる。
小さく電子音が鳴り響いて………

……………

出ない。
何の反応も無い。

「あれ? つんくさん…いないのかな?」
「いやだって昼間に電話した時は、夕方からなら大丈夫やから来い、って言うとったで」
「もう5時半だしねぇ……おかしいなぁ…」

私の言葉に意を決したのか、もう一度のんちゃんがインターホンに指を掛けた、その時。

…カチャ
470書いた人:04/02/21 19:37 ID:2Q+39hxC

小さな音を立てて、厚いドアが開いた。
始めはゆっくりと、次第に速くその口を大きく開けていって。

「…お前ら…久しぶりやな」

つんくさんは立っていた。
髪も真っ黒で、10年前から更にやせ細って頬はこけていたけれど。
目はまるで死んでいるみたいに光が無かったけれど。
間違いなくつんくさん。

あの悪戯っぽい目つきも、いやらしい口元の笑いも、全てが失われていた。
のんちゃんや加護ちゃんを見たら、いつもだらしなく笑っていたのに。
少し下げた二人の頭に静かに手を挙げて応える。

「辻…加護……大人になったな」

つんくさんの口元が微かに緩む。
薄く青紫色の唇が1ミリずつ上がっていくその様は、10年ぶりに笑ったみたいに見えた。
471書いた人:04/02/21 19:37 ID:2Q+39hxC

「小川も…おるんか?」
「はい。なんなら、今すぐ身体の方、まこっちゃんに貸して見せますけど…」
「ああ、今はええわ…とりあえず、上がれや」

のんちゃんと加護ちゃんの前を行く彼の背中は、遥かに小さく見える。
10年間って年月は、人をこんなにも変えるんだ…
真っ暗な廊下をゆらゆらと亡霊みたいに歩きながら、つんくさんは何も喋らない。
加護ちゃんがピッタリとのんちゃんの右腕にしがみついていた。

私はといえば、すうっと期待がしぼんでいくのを感じていて。
つんくさんの青い顔、乏しい表情、骸骨みたいな指先。
10年前のつんくさんからはとても想像がつかない別人みたいで、
目の前のこの人が、私の問いへの答えを持っているとは思えない。
472書いた人:04/02/21 19:38 ID:2Q+39hxC

「まこっちゃん…」
「なに?」

のんちゃんの囁き声は、多分中にいる私以外には聴こえなかっただろう。

「大丈夫だよ。きっと…分かるって」
「うん」

気休めでしかないのは分かっていたけれど、頷いた私にのんちゃんは満足げに微笑む。
もう一言何か言い掛けて、ふと首を傾げた。

「何か…聴こえない?」
「?」
「さあ、入れや」

つんくさんがドアを開くと、ますますその音が増した。
どこかで聞いたことのある、この音。
冷蔵庫の回転音みたいな、何かが震える音。
何の音だったっけ…?

部屋に一歩入った瞬間、のんちゃんは立ち止まる。
いや、目の前の光景に呆然とした、って方が正確だろう。
私だって信じられなかった。
加護ちゃんが後ろで後ろで抗議の声をあげているのも構わずに、ただ立ち尽くしていた。

10年前に壊されたはずの機械、私を私の身体のまま2000年に送ったあの機械が、目の前にそびえていたから。
つんくさんが、ふっと笑った。