モーニング娘。の水着写真掲載について

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372書いた人

―――

夜。
今日も結局、つんくさんからも加護ちゃんからも連絡は無かった。
私はただ漫然と、のんちゃんの頭の中にいるだけで、それがもどかしい。

「のんちゃんさぁ、何で昼間、溜息ついたのよぉ?」

ストーブのファンが静かに回っている。
お風呂から出て・・・当然私はその間、ずっと目をつぶらされていたんだけど・・・
パジャマに着替えたのんちゃんは、化粧水をペシペシと顔に叩き付けている所で。

喉に刺さった小骨みたいに突っかかっていたこと。
昼間確かに、のんちゃんは溜息をついた。
『何で私がこの未来に来ちゃったのか』・・・その理由が分からない私についた溜息なのか、
それとももっと、別の理由なのか。
タオルで手を拭き取ると、『よし』と呟いて、鏡に向かってふっと笑う。

「溜息なんかついたっけ・・・? 覚えてないけど」
「ついたじゃんさぁ・・・あのケーキ屋さんで、何でこの未来に来たのか私には分かんない、って言ったときに」
「そうだっけ?」
「覚えてないならいいけどさぁ」
373書いた人:04/01/29 20:37 ID:APL8pvC3

私の問いに笑顔を絶やさないまま、さっさと化粧道具を片付け始める。
化粧道具もよく整理されてて、この変わり具合を見る限り、私の知ってるのんちゃんとは別人みたいだけど。

そうなのだ、この10年後が私のいた10年前と全く違うものでも、過去を共有していたとしても、
それでもつんくさんが元の時代で私に処置をすれば、すんなり帰れるはずだもん。
この薬もどうやら失敗作である以上、ホントに帰れるか、っていう保証は無いけどさ。
その辺は信じなくちゃしょうがない。

のんちゃんと昨日一晩中話して良く分かった。
お互いに思い違いが無ければ、やっぱり私たちは全く違う12月18日を過ごしている。
私とあさ美ちゃんは仲直りしてるし、大体のんちゃんがその仲裁に入った覚えも無いらしい。
そしてその夜、私はつんくさんのところではなく、あさ美ちゃんと買い物に行ってるってことも。
でもそれより前の記憶をたどってみても、大した違いは見当たらなくって。

・・・ってことは、やっぱり私たちは、同じ過去を辿ってたのかな?
二人の意見が一致しかけた瞬間、のんちゃんは大きく首を振ったのだった。
374書いた人:04/01/29 20:37 ID:APL8pvC3

―――

「でもさぁ・・・私たちが過去に行ったとき、ちょっとだけ未来が変わったでしょ?」
「そう? だって私はあさ美ちゃんの鉄拳制裁で、結局全治二週間だったよ」
「いや、そこは変わらなかったけどさ、でも私がお菓子で注意されまくってたのとか、
あいぼんの前髪が妙に多かったりとか、あさ美ちゃんが娘。ヲタになってたりとかさ・・・」
「そういやぁ、変わってたねぇ」
「・・・・・・呑気だねぇ。
ってことはさ、私たちが出発したときの2003年はどこ行ったのよ?」
「さぁ? のんちゃんたちが2000年に色々やったから、変わっちゃったんじゃないの?」

机に片肘をついて、その上に頬を乗せてのんちゃんは唇を尖らせる。

「でもね、私たちが出発したのは、そうじゃない方の2003年だったのよ?
もしまこっちゃんが死んだ未来とそうじゃない未来が両方ありうるなら、
私たちが出発したときの2003年だって、あったっておかしくないんじゃないの?
なのになんで、変わったほうの未来に帰ったんだろ?
もし私たちが同じ過去を過ごしてたとして、そこから分かれた先の未来にいるんだったら、10年前のことって説明・・・できるのかな? 難しすぎてよくわかんないんだけど・・・
まこっちゃんの言うみたいに未来が変わるんだったら、何で私たちの未来は並行に存在するの?」

結局二人とも、この答えを出せずに昨日は寝たんだった。
そして昼間、あのお菓子屋さんでの会話以外は、のんちゃんはあの手の話をしなくなった。
375書いた人:04/01/29 20:38 ID:APL8pvC3

ただ一つ、のんちゃんが携帯を確かめる時間が妙に増えた。
仕事が終わったあと、いつもだったらしばらくマネージャーさんと打ち合わせに入るのに、
すぐに携帯を取り上げて、熱心に着信履歴を調べる。
そして・・・その打ち合わせの最中であっても、ちらちらと携帯の窓を見つめる。
注意しようかと思ったけど、そのときはやめておいた。
どこか・・・その落ち着きのないところに、10年前の彼女の片鱗を見たからかもしれない。

「ちょっとぉ・・・辻ぃ、ちゃんと打ち合わせやってよ」
「へへ・・・ゴメン・・・ちょっと・・・ね」
「もしかして、男?」

『違うよぉ!!』と真っ赤になって否定するのんちゃんもどこか懐かしくて。
まあ、そのあとに『週刊誌とか、気をつけなさいよ』という言葉が続いたのにびっくりしたんだけどさ。
すげぇ・・・恋愛すらオッケーになったんだ・・・
26歳で禁止もおかしいもんね、当たり前と言えば当たり前か。
376書いた人:04/01/29 20:41 ID:9x1se8sn

―――

そんなところを除けば、のんちゃんはごく普通の生活を送っている。
あさ美ちゃんの結婚式を控えてるって言っても、特にこれといった準備もないんだろう。
今ごろはあさ美ちゃんは、てんてこ舞いなんだろうなぁ・・・
あの窮地に陥ったときの、あたふたと困った人形みたいな動作が目に浮かぶ。
多分『あぁぁぁ』とかよく分かんない音声を口に出しながら、目を泳がせているんだろう。
この時代のあさ美ちゃんに会ってみたい、という考えはけして口にはしなかった。

今ここであさ美ちゃんのことを口にするのは、どこか気が引けたのだ。
別にのんちゃんとあさ美ちゃんが喧嘩しているわけでもないし、
まあ、そりゃあ確かに10年間殆ど連絡してないみたいだから、聞いたところで無駄だろうけど。
でもそれ以外に、どこか、あさ美ちゃんの話になったときに、のんちゃんの頬に走る緊張感を感じたからだ。
こうして上機嫌にベッドに入る前のひと時を過ごしているのんちゃんからは想像もつかないけれど、確かに存在する緊張。
外から見たら気付かないだろう、私がのんちゃんの身体にいるからこそ感じるものなのかもしれない。
あさ美ちゃんの話題になったときには必ず、どこか首筋にひんやりとしたものを感じるのだ。
377書いた人:04/01/29 20:42 ID:9x1se8sn

「私はもう寝るけど・・・まこっちゃん、どうする?」

ご機嫌に音を奏で続けていたヘッドホンを外す。
私とのんちゃんの生活リズムは必ずしも一定じゃないから。
私が寝ているときに既にのんちゃんが活動していることもあれば、その逆もあるってわけ。

「んー・・・ちょっとしばらく、考えごとしてるよ」
「そう? 明日ちょっと早いから、私もう寝るからね・・・くれぐれも・・・」
「・・・寝てる間に勝手に身体使うな、でしょ? 分かってるよ」

比較的スムーズに身体のコントロールが出来るって分かった後、これだけは約束したんだ。
私だってのんちゃんに迷惑をかけるつもりもないし。
のんちゃんはいつも寝るときに念を押すけど、正直、神経質すぎるような気がする。
まぁ・・・勝手に体使われる不気味さからすれば、しょうがないよね。

「まこっちゃんさぁ、やっぱりつんくさんに聞かないとわけ分かんないんだから。
あんまり深く考えすぎない方がいいよ?」
「・・・・・・ん、ありがと」

部屋の電気を落として目を閉じた途端、のんちゃんの寝息が聞こえてきた。
凄いなぁ・・・のび太並に寝付き早いんだけど・・・
あんまり未来に関わりすぎてもしょうがないね。
のんちゃんだって、あさ美ちゃんが立ち直れるように頑張ってくれそうだし・・・
そう、私はあくまでも、何で私が死んじゃってて、何で私が生きてるか、それだけ分かればいいんだから。

のんちゃんの寝息に引きずり込まれるように、私の意識も徐々に薄らいでいった。