308 :
書いた人:
―――
「・・・・・・じゃあ、掛けるけど・・・・・・準備いいね?」
「うん」
再び携帯を目の前にかざすと、少し凛とした口調で最後の確認。
その勢いに気圧されて、私の返事はどこか喉につかえた感じだった。
結局変に作ったことをせず、素のままの私でいけばいい、とやっと結論が出たんだけど。
最後の方、のんちゃんキレ気味だったもんなぁ・・・
『もういいよ!! さっさとまこっちゃんが決めちゃってよ!!』って。
恐ろしい投げっぱなし具合だ。
ドレミの歌の2番の『ラ』と同じくらい、投げっぱなしだ。
何だよ、『ラーララララララー』って。ちゃんと考えてやれよ。
もう一度途切れ途切れの発信音が聞こえると、
「いいよ、話して」
のんちゃんが小声で呟いた。
309 :
書いた人:04/01/14 23:56 ID:+VZcfb12
「えーっと・・・つんくさん、お久しぶりです。
私は・・・・・・小川です。喋ってるのはのんちゃんですけど、意識だけ10年前から来てます」
私が言葉を区切ったと同時に、慎重に声のイントネーションをなぞらえてのんちゃんが続けた。
自分の話し方がどんなんかなんて知らないけど・・・ここは、のんちゃんの模写能力に期待しよう。
・・・・・・期待していいのか?
記憶をたどる限り、明らかに不安要素の方が濃いんだけど。
「未来へ行く方の薬は・・・つんくさんが薬を処分する前にその作り方のメモを見つけたはずです。
あの機械や薬を作った人のメモがあったって・・・言ってましたけど。
過去に行く薬を元の材料にして、それで作ったって聞きました」
のんちゃんが喋っている間も、相変わらず聴こえてくるのは絶え間ない無音。
ホントに・・・つんくさんはこれを聞くんだろうか?
そして、私の話を信じてくれるんだろうか?
310 :
書いた人:04/01/14 23:56 ID:+VZcfb12
「つんくさんは言ってました。知的好奇心だって。
何で夕焼けが赤いのかとか、そういうのを知りたいっていうのと同じ感覚だったって。
まぁ・・・飲まされた私は堪ったもんじゃないんですけど」
『知的好奇心で』っていうのがのんちゃんのツボだったらしく、唇の端で笑いながら私の声を音にする。
もう・・・これじゃちっとも、私が喋ってるって感じが伝わってないじゃない。
少なくとも私は、こんなうぷぷぷ、って笑いながら喋ったりはしないもん。
「私が薬を飲んだのは、2003年12月18日の・・・もう、24時を回ったくらいです。
でも2013年に来てみたら、私は18日の夜11時にもう車にはねられてますし・・・」
これだけは、ホントにここだけは分からない。
現場も見た、死亡記事も読んだ、保田さんの話も聞いた。
なのに・・・まだ信じられないし、信じたくない。
311 :
書いた人:04/01/14 23:58 ID:uOKe0gtS
・・・・・・ホントに、つんくさんはこれを聞いてくれるんだろうか。
話が核心に入った瞬間から、さっきから心の隅にあったこの懸念が急激に大きくなってきて。
それと同時に、いろんなことが頭の中に浮かんできた。
あさ美ちゃんはこの10年、どんな想いで過ごしてきたんだろう。
モーニング娘。はどんな風に終わっていったんだろう。
みんな幸せなんだろうか・・・もしかしたら、私のせいでみんなが掴むはずの幸せを逃していたら?
こんな状態で、私は本当に10年前に帰れるんだろうか。
もしかしたら10年前のつんくさんは私を見捨てたんじゃないだろうか。
デヘヘヘ笑ってポリポリ身体を掻いて、みんなにキショイとか言われてても楽しかった10年前は、本当に存在してたんだろうか。
心配は焦燥に変わって、私の心を支配する。
312 :
書いた人:04/01/14 23:59 ID:uOKe0gtS
「ちょっと・・・ねえ、まこっちゃん・・・?」
のんちゃんが必死に私に呼びかけているのも全く耳に入っていなかった。
次の言葉なんか・・・何を言ったとしても無理だよ。
「・・・次何言うのよ?」
私の言葉なんか届かないんだよ。
私みたいに、この時代で実体を持たない人間の言葉なんて。
そもそもこんな電話・・・・・・意味あんの?
あとはもう衝動だった。
飛び出す言葉も、なにもかもが。
「・・・・・・つんくさん・・・どうなってるんですか? あの薬、完璧じゃなかったんですか?
ホントにここ、未来なんですか? お願いです・・・電話してきてください。
いっつもキショイって思ってました・・・けど、つんくさんの力が必要なんです」
それだけ一気に言い放つと、私は殆ど勢いで電話を切る。
・・・・・・電話を切る?
313 :
書いた人:04/01/14 23:59 ID:uOKe0gtS
のんちゃんはまだ携帯を見つめていた。
そして私は、一瞬の出来事に何も分からずにいて。
今の言葉・・・私が言ったそのままの言葉だった。
そして今電話を切ったのは、間違いなく私だった。
「ウソ・・・今、のんちゃん何もしなかったよね?」
「口と身体が、勝手に動いた」
今度の言葉は、間違いなく脳内でのみ伝えられた言葉。
さっきと違ってのんちゃんの鼓膜を通しては、私の声は聞こえていないらしい。
まだ呆然としたまま、ようやく携帯を畳むとのんちゃんは目を伏せる。
もしかして・・・私がのんちゃんを動かすことができたの?
そう考えると、すっごく嬉しくて。
別に支配欲が満たされたわけじゃなくて、ただ自分が実体として存在できていることが嬉しくて。
歓喜の声をあげる私に対して、のんちゃんは何故か憮然としたまま席を立ったのだった。
314 :
書いた人:04/01/15 00:06 ID:rkJ11muY
今日はここまで。
シゲさん似の女性を偶然服屋さんで発見しました。
なぜこんこんさん似は出ないのだろう。
>>303 今考えると、「私の願い」って、素晴らしいスレタイに思えてきます。
>>304 ありがとうございます。
>>305 そうですか? 私は楽しませてもらっていますから、構わないのですが。
ご自分が納得できるようになさってください。まあ、「うーん」で分かる気もry)
>>306 愛が足りない。
>>307 ハワイ写真集でもお買いなさいな。