モーニング娘。の水着写真掲載について

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237書いた人
―――

「大丈夫?」
「・・・・・・うん、だいぶ落ち着いた」

図書館のブラウジング。
紙コップのコーヒーから上がる湯気が、嗅覚を突く。
誰もいないその一角で、ソファーに身を沈ませる。

のんちゃんの様子にホッとするのと同時に、私の脳みそはパンクしそうで。
私は死んでるんだろうか? 生きてるんだろうか?
この時代は死んでるらしいけど・・・じゃあ、出てくる前の私は、いったい何?
今ののんちゃんに、この疑問を投げかけるのはちょっと危ない。
・・・だから、頭で考えてるんだけど・・・ダメだぁ、成果ゼロ。
238書いた人:03/12/29 20:26 ID:G1A+UTpA

どんな天才だって、こんな問題解けるわけが無いよ。
私の脳みそがスポンジ状だからじゃなくって、これは絶対解けない問題。
・・・・・・ん?
なら、問題を作った張本人は?
考えた瞬間に、口をついて言葉が出ていた。

「あ、あのさ・・・のんちゃん、つんくさんに・・・・・・連絡取れる?」
「つんくさん? あぁ、寺田さん・・・・・・か」

『寺田』がつんくさんを意味してる、って理解するのに少し時間がかかった。
そう言えば、本名は寺田だったような気がする。
つんくさんの本名なんて、世界のミジンコの数よりどうでもいいことだから。

コーヒーを啜りながら、のんちゃんはもったいぶったように、一語一語区切って喋る。
まるで・・・・・・話しにくいみたいに。
239書いた人:03/12/29 20:27 ID:G1A+UTpA

「寺・・・つんくさんのね・・・番号は知ってるけどねぇ・・・」
「なら、早く電話して!!」
「・・・・・・・・・無駄だと思うよ?」

窓に映ったのんちゃんの顔つきが、凍りつくような涼しさをもっていて、私は息を飲んだ。
・・・・・・無駄?
私の答えを待つまでも無く、じっとガラス窓を見つめながら続ける。

「無駄・・・だと思う。
つんくさん、モーニング娘。が解散した後・・・あ、ラストシングル出したすぐ後、ね。
その後、芸能界辞めちゃったから・・・」
「・・・でも・・・連絡は、付くんでしょ?」

私の言葉に、のんちゃんが少し笑ったように感じた。
240書いた人:03/12/29 20:27 ID:G1A+UTpA

「・・・・・・まこっちゃん、もしかして・・・
過去から来たこと、証明しようとでも思ってる?」
「・・・・・・」
「なら、尚更、つんくさんに連絡とるのやめた方がいいよ」

のんちゃんの乾いた笑いが、私がその証明をやろうとしていることへの愚かしさを笑っているのか。
それとも、別の・・・どこか自嘲めいた意味なのか。
私には分からなかった。

「つんくさんね、私たちからの電話に・・・絶対出ないもん。
あの人も・・・私や、みんなと同じように、後悔で押し潰されそうになってたから」
「え? 別に・・・つんくさんとはいい友達じゃなくてもいいんだけど」
「そうじゃなくてさ」
241書いた人:03/12/29 20:33 ID:ThX0+2rr

「まこっちゃんさぁ、私たちが歌ってた歌、覚えてる?
あぁ、そうか。まこっちゃんの言う通りだったら、つい昨日まで歌ってた歌・・・かな」
「うん、昨日も・・・2003年の12月17日も、歌ったよ」
「あれってさぁ・・・マトモな歌だったと思う?」

いや、そりゃあ、あれをマトモと言える神経の持ち主は中々いないでしょ。
・・・多分、つんくさんくらいかな?
歌詞も、曲も、アレンジも、果てにはステージ衣装や、ヘアメイクも。
ケレンミでは済まされないものばっかり。
『こいつ、私たちに喧嘩売ってんのか?』って思ったこともあった。

けど・・・
242書いた人:03/12/29 20:33 ID:ThX0+2rr

「でもさ、芸能界で『マトモ』なことやったって、しょうがないでしょ?
今までに無いもの目指して、一か八かじゃないの?」

いつか・・・・・・加入した時かな? つんくさんが言ってた。
お前達は、今までいたアイドルになる必要なんか無い。
もちろん、モーニング娘。の先輩たちみたいになる必要も無い。
お前達は、お前達が持ってるものを出していけば、それで十分だ。
俺はそれを、全力で手伝うつもりだ、って

あの時は、『何かっこつけてんだ、この男女』とか、心の中でぶつくさ言ったけど。
つんくさんの作る無茶苦茶な曲も、『モーニング娘。』らしさを必死で出そうとした成果だ、ってことは理解できた。
・・・理解はしてても、やっぱり初めて楽譜をもらったときは、いつもみんなで顔をしかめるけど。

・・・のんちゃんだって、まぁ、10年前ののんちゃんが理解してるとは・・・ちょっと思えないけど。
でも、今ののんちゃんだったら、十分分かってるはずじゃない?
243書いた人:03/12/29 20:33 ID:ThX0+2rr

私の言葉を聞いて、のんちゃんは少しため息を漏らした。

「・・・・・・多分・・・そうだね。つんくさんもそう思ってたんだと思うよ。
飯田さんや安倍さんだって、口ではぶつぶつ言ってたけど、
でもつんくさんが、『いつも新しくなくちゃいけない』ってことにもがいてるのは、分かってたんじゃないかな」

確かに、新曲の楽譜をもらったとき、確かに安倍さんは『天晴れはねーべさ』って言ってた。
でもどこかその目も、しょうがないよね、って諦観と、やってやる!って決意。
どっちも秘めてた気がする。

「・・・・・・でも、ね」
「でも?」
「でも・・・まこっちゃんが、ホントにああいう曲を歌ってて満足だったのか。
CD聴いても自分の歌声がどれか、もう分からないくらいに加工されてて、
ぶつ切りのパート割で・・・そういう所で、ホントに満足してたのか、考え込んじゃって」
244書いた人:03/12/29 20:34 ID:ThX0+2rr

つい数時間前まで見ていた、あの軽薄なつんくさんからは想像もできなかった。
どっちかって言ったら、『反省』って言葉と無縁な人なのに。

「・・・・・・それで・・・最後に、死ぬ気で一曲書いたの。
レコーディングの時、みんな放心状態だったけど、でも・・・つんくさんが一番酷かった。
『幽鬼』っていうのがいたら、あんな感じだと思うよ。
その一曲だけ書いたんだけど・・・まこっちゃんへのお別れの曲ね。
でも・・・やっぱり後悔してるのは消えなくて、それで・・・芸能界も辞めちゃった」
「・・・・・・だから、昔のモーニング娘。を思い出させる人たちと、会いたくないってこと?」
「・・・うん」

私だけじゃなくて。
私だけじゃなくて、この時代のみんなが・・・なんで、こんな方向に行っちゃってるんだろう。
私が死んだことが原因だとしても。
10年前からは予想もつかないように、冷酷な10年後。
245書いた人:03/12/29 20:38 ID:Q8MrYr7f

「まだ・・・信じられない?」

コーヒーを飲む干して立ち上がった瞬間、のんちゃんが呟いた。
信じないわけじゃない、けど・・・

「ゴメン、ちょっと・・・・・・突然すぎて」
「そう・・・か」

のんちゃんは責める風でもなく、ただ頷いて見せた。
そして腰に両手を当てて伸びをすると、もう一度、窓の外を一瞥する。
のんちゃんの一つ一つの動作が、10年前からは考えられないほど大人のそれで。
ちょっぴり・・・ドキドキした。

「あのさ・・・まこっちゃんも、ラストシングル聴いてみれば・・・分かるよ。
あのシングルだったら、この図書館にも入ってるだろうし」
246書いた人:03/12/29 20:38 ID:Q8MrYr7f

―――

司書さんによく分からない手続をして、のんちゃんはブースに腰掛けるとヘッドホンをした。
パソコンから・・・聴けるのかな?
その辺の仕組みも、法律も、私にはちっとも分からない。
10年後はこれが普通なんだろうか。

「図書館とか・・・あとは・・・・・・カフェとか? そういう所なら、お金払えばすぐ聴けるよ」

私がボーっと口を空けていそうなのが伝わったのか、のんちゃんはくすくす笑いながらセッティング。

「まこっちゃん死んだ頃は、まだこんなの無かったもんね。
まぁ、でも・・・つんくさんがこの曲の著作権放棄したから、
図書館とかも仕入れやすい、って言うのもあるんだけど」
「何で放棄しちゃったの?」
「まぁ・・・多分、自分の曲に権利を主張するほどの価値があるか、って考え始めちゃったんでしょ。
それに・・・放棄したときには、もうミリオン超えてたし。
その前に稼いだ分もあるからねぇ・・・」
247書いた人:03/12/29 20:38 ID:Q8MrYr7f

そういうのんちゃんの口ぶりは、完全に大人のそれだった。
事務所の人とかが、お休みとかギャラの話をするときの、あんな口振り。
そんな話をするときの大人は、すっごく嫌いだ。
・・・・・・もう、大人なんだね。

と、のんちゃんがディスプレイを指で押した。
ヘッドホンから微かに聴こえる『サーーーー』って音。
そして・・・イントロ。

え?
これ・・・ホントにつんくさんの作った曲?
いつものピコピコした音とは全く違う、鋭く尖ってそして暖かい音。
多分・・・生バンドだよねぇ、これ。
スローテンポのピアノの綺麗な旋律の下で、ベースが白い音符を静かに奏でてる。

のんちゃんも久しぶりに聴くんだろう。
机の上にぎゅっと手を組んで、目を閉じた。
248書いた人:03/12/29 20:39 ID:Q8MrYr7f


――


時間(とき)が経つのは あっという間 そんなのウソだって思ってた
でも あなたと過ごした日々は 遥か 心の彼方
笑いながら 踊ったあの曲 ずっと終わらないって思ってた
でも あなたは踊った後も 目を 細めて笑う

さよならの日が いつかは来るって 気付かないふりして
Ah 今お別れを 言わなきゃダメなの?

ジングルベル もうそんな歌 歌えない
きっと 雪を見るたび 考えるから
ジングルベル もうそんな歌 聞こえない
ずっと 私いつでも 忘れないから
249書いた人:03/12/29 20:41 ID:iv0Hsi3v

いつかさよなら 言う時なんて ずっと来ないって思ってた
でも さよならの言葉 絶対 言いたくない

泣いたりしたよね そんな時でも 最後は笑って
Ah いつか笑える時が 私の来るかな?

ジングルベル もうそんな歌 歌えない
きっと 雪を見るたび 考えるから
ジングルベル もうそんな歌 聞こえない
ずっと 私いつでも 忘れないから

お願い ウソだって言ってよ 振り向けば
もう一度 笑ってくれるんでしょ?
―― もう帰らない もう戻らない
時間(とき)は 張り付いた 砂時計
時間は 凍り付いて 動かない


――

250書いた人:03/12/29 20:42 ID:iv0Hsi3v

最後のハイハットの音がやんでも、私ものんちゃんも黙っていた。
曲の終わりを告げるメッセージがディスプレイに流れる。

つんくさん・・・こんな曲書けたんだ。
あっけにとられるのと同時に、私のためにここまでやってくれたことに、感謝する。
なんかもう、これじゃ私の知ってるつんくさんと別人みたい。
いや、ちょっと待て。
これじゃ、私が死んだことが確定じゃない。

でもその前にもう一つ。
声に何のエフェクトもかかってないこの曲・・・
みんなの生に近い歌声だったのに。
あさ美ちゃんの声だけが・・・・・・聴こえなかった。