119 :
書いた人:
―――
「・・・っていうか、『俺はもう、こんなことやめる』って言いましたよねぇ?」
説教はいまだに継続中。
何が悲しくて30男を前に深夜に説教しなくちゃいけないのか分かんないけど、とりあえず説教。
ちなみに、私が椅子に腰掛けて、つんくさんはフローリングに正座。
「いや、その、やめるとは言うたんやけど・・・知的好奇心が出てきてもうたっつーか・・・」
「でも確か、涙流しながら『俺の考えが間違っとった・・・! ごめんな、みんな!』とか言ってましたよね?」
「いや・・・それは多少事実の認識に誤りが・・・俺、泣いてへんし。
ほら、あるやろ? 何で夕焼けが赤いんやろ、とか。『日常での些細な疑問』っちゅーんかな?
それと大体同じなんやけど・・・」
「30過ぎて、まだそんなこと言ってるから、碌な歌詞が書けないんです!」
テーブルを叩いて『ガオゥ!』と吼えそうな私に、つんくさんは肩を落とした。
こんなことに力を注ぐんだったら、妙な台詞回しや変な歌詞が入らない、まともな曲を作っていただきたい。
120 :
書いた人:03/12/02 09:07 ID:VPjoEW+u
なぁ〜に考えて生きてるんだろ、この人。
そもそも同じ手が通じるとでも思ってるんだろうか?
半年前は、確かに私は軽く口車に乗せられた。
結果的には・・・まあ、いい方向に転んだけど、一歩間違えば私は永久に3年前に取り残されるところだったし。
「・・・で? 今回は毒薬かなんかですか?」
いつもは締まりの無い顔だと自分で自覚してるけど、目がキュウって細くなったのが分かった。
あさ美ちゃんほど賢くはないけど、つんくさんの考えることなんか、大体お見通しだ。
どーせこれ飲んだら、取り返しがつかないくらいとんでもないことになるに決まってるんだから。
「いや、それはちゃうで! これは正真正銘、未来に行ける・・・いや、勿論意識だけやけどな」
両手のひらを前にかざしてぶんぶん振るつんくさんが、ますます胡散臭い。
嘘がばれそうな子供が『嘘じゃないよぅ!!』って、顔を真っ赤にして必死に否定するときの、あの感じ。
121 :
書いた人:03/12/02 09:07 ID:VPjoEW+u
必死で弁明をしてるつんくさんを見ると、みんなを呼んで一緒に鉄拳制裁をしたい衝動に狩られる。
ホントに、電話してやろうかなぁ、今すぐ。
あぁ・・・・・・・今、あさ美ちゃんとケンカしてるんだった。
ここでのんちゃんと加護ちゃんだけ呼んでもいいけど、それじゃ仲間外れにしちゃうみたいだし。
確かにあさ美ちゃんはむかついたけど、でもそういうのって好きじゃない。
これはあくまでも、私とあさ美ちゃんの問題だから。
「・・・・・・あの、小川? 聞いとる?」
膝の上に手を置いた情けない格好で、これまた情けない顔つきをするつんくさん。
何で私って、こういうくだらないことに、一番に巻き込まれるのかなぁ・・・
ちょっぴり神様を呪った・・・・・・ちなみに信じてはいない。
122 :
書いた人:03/12/02 09:08 ID:VPjoEW+u
「・・・お願いやから、ちゃんと聞いてくれや。
確かにおまえらと約束したとおり、あの機械は全部壊したんよ。
で、薬も捨てようとしとったんけど・・・」
考え事に入っていた隙に、つんくさんがセールスマン張りのトークをはじめる。
聞いちゃダメ、って思うんだけど。
でも・・・・・・次第に引き込まれている私がいた。
私みたいなのが30万の羽毛布団を買って、消費者センターに駆け込む主婦になるんだろう、多分。
「そしたらな、あいつが・・・って、あの機械と薬作ったやつやけどな。
あいつが書いた、ノートが見つかったんよ」
「・・・・・・」
「で、それ見たらな・・・未来へ意識移動できる方法ってのが、載っとったんや。
過去に行くあの薬、あれを元にして、応用・・・・・・ってのがややこしかったから時間掛かってもうたけど」
123 :
書いた人:03/12/02 09:09 ID:ItTJgjQP
とことん自分の駄目さ加減を痛感した。
半年前も、確か『これでお前は、ぎっくり腰も無かったことにできるし、娘。のセンターにだってなれる!』とか言われたっけ。
分かってるのに。
このまま話を聞けば、どうせつんくさんの口車に乗っちゃうって分かってるのに。
でも、私は身を乗り出さずにはいられなかった。
この半年で、私は随分成長したと思う。
テレビで使ってもらえるVも増えたし、半年前に持っていたような焦りなんかない。
そして何より、毎日をみんなと楽しくやっていってる。
それなのに、つんくさんの話から心が離れないのは、ホントに純粋な好奇心なんだろう。
見たことがないものに触れてみたくなって、何でそれがそうなってるのか知りたくなる、あれ。
小学校の理科の実験で、先生が魔法を使ってるみたいに見えたときの、ドキドキ。
まったく同じ感覚が身体を走る。
124 :
書いた人:03/12/02 09:10 ID:ItTJgjQP
確かに本業ほったらかして、薬品合成に全精力を費やすのはアレだと思う。
お陰でレイナちゃんのユニット名は変なのになっちゃった。
「脳みそ大丈夫なんですか、あの人?」って、レイナちゃんは目を見広げたっけ。
「なっちの卒業ソングなのに、『アッパレ』はねーべさ」
っていう、安倍さんの阿修羅面怒りみたいな表情も。
プッチモニの曲が、いまだに一曲しか与えられていないのも。
すべてに今、答えが出せた気がする。
いや、正確に言えば最後のひとつには、ちっとも納得いかないけど。
早く書いてください、お願いですから。
とにかく、そんないい加減なつんくさんの気持ちも、ちょっとだけ分かる気がした。
125 :
書いた人:03/12/02 09:10 ID:ItTJgjQP
何時の間にか、まだセールストークを続けてるつんくさんを見る自分の目が、少し柔らかくなったのに気付いた。
まだ子供なんですねぇ・・・いい意味にも、悪い意味にも。
「・・・っちゅーわけで、「あいつ」のノートで書いてあった通りに、作ることができたんや。
おかげで、過去に行く薬は全部、この原料に使ってもうたけどな」
最後の方は少し喉を枯らしながら、つんくさんは私の目を不安げに見上げる。
そうですか・・・そんなに、未来に行ってみたかったんですね。
多分つんくさんは、自分の未来をすっごく見てみたかったんだ。
だから私に、その様を見届けてほしいと思ったんだろう。
そして私にも、未来を見せたいと思ったんだろう。
「・・・で、小川を呼んだのは他でもない、是非試してみてほしいなぁ・・・と」
「はぁ?」
126 :
書いた人:03/12/02 09:11 ID:ItTJgjQP
前言撤回。
『試す』って何?
「え? これ・・・まだやってみてないんですか?」
私の言葉にきょとんとなるつんくさん。
思わず椅子から立ち上がった自分に気付いた。
「いや、おかしくありません? つんくさん、自分でこれ使ってみたんですよね?」
「いいや、まだつこうてないけど・・・何で?」
「何で? って・・・何で私で効果を試そうとしてるんですか!!」
思わず叫んでしまった私に照れ笑いすると、つんくさんは頭を掻きながら立ち上がる。
「せやけど・・・辻や加護や紺野に頼んだら、絶対殺されると思わんか?」
自分で試そうとしないつんくさんの脳味噌に乾杯・・・と思いつつ、
あ〜でも、この三人に頼んだら、絶対殺されるよなぁ、と妙に納得するのだった。