真希がバイトしているスーパーはレジが縦に2台並んでいる。
空いているレジに入ると、亜弥が前のレジに入り舌をだし肩をすくめる。
今日も5時から閉店9時まで30分の休憩を挟んでレジうちをする。
有線は少し前の歌がカラオケで流れる。真希は頭の中で口ずさむ。
ふいに、けど確かにどこかで亜弥と会った記憶がよみがえる。
どこで…?
「後藤さん、お客さんですっ」
亜弥が小声で言う。考え事をすると、周りが見えなくなる真希の悪いクセ。
慌ててレジを打ち、預かった小銭を床に落とした。
冷たい床は真希をあざ笑う。
頭で色々考えるのはめんどくさかったので、聞いてみた。
すると亜弥は少し微笑んだ。自転車での帰り道、空気は澄んで、耳に痛い。
濃い白い息を強く吐き出すと、亜弥は言う。
「本当に覚えてませんか?」
「…ごめん。けど同じ高校だったんでしょ?」
「そうです、1こ下でした、入学式の日に初めて見たのまだ覚えてますよ。」
赤い手袋がぎゅっとハンドルにくいこむ。
「笑ってんの?」
「ふふ、思い出したらなんか。めっちゃ綺麗な先輩がいるって男子達がゆってたんですよね。」
「3日後、そいつら私に告白してきたんですよ。」
真希は思わず顔をあげた。つっこむべきか?ここは??
「自慢じゃないんですよ、そいつら私は届いても後藤さんじゃ届かないと思ったんでしょ。」
何が言いたいのかわからない、真希はまた顔を低くさげ風をよけた。
「後藤さん、今日はたくさん話した気がします。」
「うん。」
「また明日、ですね。」
「あぁ。」
気付いたように声を出す。分かれ道はもう目の前だ。
「じゃあ、明日。」
「え?明日も入ってんの?」
「ハイ、平日は取り合えず毎日。」
真希はうなずき、自分の帰り道にのる。
結局答えは聞けなかった、でもまだ明日聞ける話もあるだろう。
今日は帰ろう、うちに。