あぁ!       

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177ミスト
角を曲がると2人の目の前には、ゴミバケツが積み上げられた路地が続く。
れいなはゴミバケツからバナナの皮を取り出すと、それを山崎の足もとに放り投げた。
「のわわわわわっ!」
バナナを踏んだ山崎の巨体が、その背後をついてきていた仲間の男たちも
まきぞいにしながら横転する。というか、転がる。

「へへ、見事なストライクでしょ。ねらいどおり」
本当かどうか分からないが、れいなは得意げに言ってのけた。

「おのれー、姑息な手をつかいやがって!」
低くうめいて、山崎は足もとのバナナを思いっきり蹴り上げる。役目を終えたバナナの皮は、
放物線を描き、再びゴミバケツの中へと帰っていった。

「ふっ、どうだ。うまいもんだろう」
「おおぉおお! さすが元サッカー部・マネージャー」
仲間たちから歓声があがる。その歓声に応えながら、ふと視線を移すと、れいなと絵里は、
こちらには一目もくれず走っていく。

「どあほう!こんなことしてる場合じゃないだろ!」

178ミスト:03/11/04 19:03 ID:RQ16qMPy

走り回った2人の右側には、大きな学校があった。背後から追ってくる気配はない。
山崎渉のひとりコントのおかげで、どうにか逃げおおせたようだった。ひとまず2人は胸をなでおろした。

「なに者なの? あの山崎ってやつ。とりあえず、また現れるかもしれないから、先生に迎えにきてもらうよ」

携帯を取り出して、れいなは辺りを注意深く見渡す。
「えーっと、ここ何て学校?」
「都ミス高校じゃないかな。前に来たことがあるから・・・」
受験生である絵里は、友人と何度か高校見学をしたことがあったので見覚えがあった。

「へー、ここが都ミス高校なんだ。うちの先生が通ってた高校だよ」
妙に感動した様子で、まじまじと学校を眺め始めるれいな。
特に外観に目に付くものはない、普通の高校だ。

「・・・あ、先生。いま、都ミス高校にいるんだけど・・・」
さっそく電話しているれいな。青年とは気まずい別れかたをしたばっかりのに
何事もなかったかのように自然に話しをしている。
電話を終えたれいなは再び学校を眺めはじめた。

179ミスト:03/11/04 19:05 ID:RQ16qMPy

「ねえ、絵里は昔、先生と同じ塾に通ってたんでしょ。仲良かったの?」

絵里のほうに顔を向けずに聞いてくる。

「れいなの先生かどうかは、まだ分からないんだけど、似たような雰囲気の人とは仲良かったよ。
 名前とか顔は忘れちゃったんだけど、よく友達と2人でその人の受験勉強の邪魔してたの。
 でも無事、その人、都ミス高校に合格したよ。たぶん、その人がれいなの先生だと思うんだけど」

「・・・・・・ん? それって、いつの話?」
「え? 私が小学2年生くらいの頃の話だけど・・・」
「そんなはずは・・・」
れいながつぶやきかけたとき、ドタバタとこちらに向かって走りよってくる足音が聴こえてきた。
慌ただしい足音にいやな予感を覚えながら、いやいや振り向くと、例の昭和の悪役の再登場であった。

「よぉ、見つけたぜ」
にやけた笑みを浮かべながら、山崎が声をかけてきた。

「しつこいな。あんたいつまで登場するつもり。 娘。小説なんだからいつまでも
 あんたのようなむさ苦しい男を出すわけにはいかないの!」

娘より男の登場人物の方が多い状況に、れいなが警告を発する。

180ミスト:03/11/04 19:06 ID:RQ16qMPy

「ふ、小娘がほざきおるわ! 雨の日も風の日も、良スレでも死にスレでも迷わず登場。
 どんなに熱い議論も、ぬるぽの一言で紛砕! これが山崎流だ!」

「言ってる意味がわかんないんだけど・・・」
れいなが苦々しく言うと、絵里がクイクイっと袖を引っ張ってきた。
逃げようとの合図のようだ。れいなはちらりと絵里を見てうなずくと、山崎に向き直った。

「あのさぁ、これ以上あんたの相手できるほど人間できてないから、じゃあね」
ニコッと笑うと絵里の手をとり校内に入っていく。
「あっ、待やがれ!」
男たちは叫び、校内に入ろうとしたが、山崎が立ち止まってるもんで躊躇した。
「なにしてるんすか山崎さん。早くあいつらを追いましょう」

「・・・・・・あの子」
完全に自分の世界に入り込んでしまっている山崎を、仲間たちは不思議そうに見つめた。
「・・・もしかして山崎さん、あのつり目女に惚れちゃったんすか?」

「だぁほ!! ウォッカを100杯一気飲まされ、120回のジャイアントスイングをされた後でも
 そんな過ちおかすか!!」
「・・・そうですか」
山崎の必死の否定を聞きながら、まんざらでもないんだな、と確信する仲間たちであった。

「生意気な小娘の方じゃなくて、上品で清楚で守ってやらなきゃと思わせる、お嬢様風の女の子いたろ」
「絵里とかいう子ですか?」
「そうだ。どっかで見たような気がするんだよ・・・あの子」