猛忍具娘

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199名無し完璧です!
     29.スローボール攻略
回は進むが、道重は相も変わらずのスローボール戦法で早大付にランナーすら許していない。
一方の紺野も、毎回のようにランナーこそ許すものの、打たせてとる投球で初回の1失点のみに抑えていた。
緊迫した試合展開の中、回は早くも7回裏、早大付の攻撃を迎える。
打席に1番の里田が向かう。
そんな中、さすがに早大付ベンチにも焦りが見え始めていた。

「完璧に捉えているはずなのに、なんで打ち取られるんだろう……。」

飯田がマウンドに立つ道重を見つめながら呟いた。
全員が全員、快心の当たりを打っているにも関わらず、全ての打球が途中で失速してしまう。
おそらく微妙に芯を外されているんだと思うけど…。
この原因を解析する為に、飯田は道重にずっと目を凝らしていた。
果たして本当に打てるのかすら怪しく思えてきた。

「どう考えてもただのスローボールなのにねぇ……。」

安倍も思わずため息を漏らす。
200名無し完璧です!:03/12/02 03:21 ID:V0DxVHmg
「まるでタンポポの綿毛みたいなふわふわボールなのに……どうしてスタンドまで届かないのかねぇ?」
「綿毛か……。ん?もしかして……。」

石黒のふと漏らした言葉に、飯田はバラバラだったパズルが解けたかのように何かが閃いた。

「紺野、ちょっと来て。」
「はい?」

飯田はネクストに控える紺野をすぐさま呼び寄せ、ひそひそと何かを耳打ちし始めた。

「いい?お願いね、紺野。」
「はい、わかりました。」

紺野がそう返事をした時、ちょうど里田が例の如く外野フライに打ち取られた。
打席に紺野が向かう。
そして道重がいつもの様に第一球を投げた時だった。
201名無し完璧です!:03/12/02 03:22 ID:V0DxVHmg
なんと紺野がバントの構えを見せる。
三塁方向へプッシュ気味に打球を転がす。
三塁際へのバントに道重が急いでダッシュ、捕球しようとするが慌てたのかバランスを崩して投げられない。
結果、内野安打で紺野は早大付初安打を放った。
と同時にネクストに控えていた飯田がうっすら笑みを浮かべる。

「圭織、なんかわかったべか?」

その様子に気付いた安倍が飯田に問いかけた。

「まあね、確証とまではいかないけど……でもこの打席でわかると思うよ。」

静かにそういうと飯田は打席へと向かっていく。
すると飯田が何かをボソボソと呟き始めた。
202名無し完璧です!:03/12/02 03:23 ID:V0DxVHmg
「へぇ、圭織が鎮魂歌(レクイエム)を詠うなんて……この打席に勝負を賭ける気みたいね。」

石黒がちょっと驚き混じりにそう言った。
飯田は集中力を高める時、ボソボソと詩を読みだす。
特に勝負を決めにいく時は必ずといっていいほどやっている。
その詩が『鎮魂歌(レクイエム)』だ。

「風なき空を舞う龍よ、我が魂に宿り、白球を喰らいたまえ……。」

鎮魂歌を詠いながら飯田が打席に入る。
と同時に、球場が若干どよめく。
飯田の構えが普通とは違う。
まるでホームベースに被さるようにバットを構えている。
果たして飯田は何を狙っているのか…それでもマウンド上の道重はまったく動じない。
そしてセットポジションからいつものスローボールを投げてきた。
飯田はバットで軽くリズムを刻む。
そしてそのままバックスイングなしでボールを掬い上げた。
打球はバックスイングがなかったために、さっきまでと比べて明らかに力がない。
しかし、さっきまでと違って失速しない。
そして打球はそのままレフトスタンドへと吸い込まれていった。
飯田の逆転弾に、ベンチも応援団も大歓喜した。
ベースを一周した紺野と飯田をベンチが手荒く出迎えた。
203名無し完璧です!:03/12/02 03:24 ID:V0DxVHmg
「圭織、ナイスバッティング!よく打てたね!」

安倍の問いに飯田は僅かばかり興奮しながらも答えた。

「あやっぺの綿毛って言ったので思ったの。もしかしたら風が影響してるんじゃないかって。」
「風?」
「スイングをしたら、必ずバットに気流の乱れができるでしょ?その影響でボールの軌道が変化してたみたいなの。」
「それでずっと芯を外れてたべか……。紺野にバントさせたのは?」
「うん、風の影響がホントにあるか確かめたかったから。バントなら気流の乱れとかないからね。あの時は確実に芯に当たってたからほぼ確実だなって。」
「さすがだねぇ、圭織。」
「これでスローボールは攻略できた。こっから一気にたたみかけてきてね、なっち。」
「まかせて。」

そして今度は安倍が打席に向かう。
が、その時道重の様子が何かおかしい事に気がついた。

「私よりかわいいなんて……許せない……。」

その目は血走っていて、殺気すら感じられる。
言っている事は相変わらず意味不明だが、明らかにさっきまでの道重とは何かが違う。
打席に入る安倍。
そして、道重は先ほどまでとは違ってダイナミックなフォームからボールを投げてきた。
今、第一試合の第二幕が幕を開けた。