★■続亀井絵里の小説3■★

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136Pちゃん

「私にとって、モーニング娘。ってなんだろう?」

そのときだった。

キィ、と扉のあく音がして、はっと息を呑む。

「加護さん・・・・」
「絵里ちゃん、おったんか・・・泣いてるん?」
「・・・・・・」

絵里は何も言わなかったが、加護も全て悟っているかのように、黙って絵里を見つめた。
重い沈黙。
やがて、加護の方から口を割る。

「うちなぁ、6期で一番、絵里ちゃんのことが嫌いやってん」
「・・・・・」
「はじめは、暗くて、ジメジメしとって、『何でこの子がセンターなん!?』って思って・・・」
「・・・・・」
「だから、高橋とかに苛められとるの知っとったけど・・・無視しとった。
 ののに『助けてあげようよ』って言われても、『あんな子、放っといたらええねん!』って・・・」

だんだんと、加護の声が震えていくのがわかる。

「・・・でも、違うかってん」
「違う・・・?」
「だって絵里ちゃんが―――」

絵里ちゃんが、怖かった。ずっと。

137Pちゃん:04/01/13 23:45 ID:XUWs3fhG

(怖かった・・・?)

「絵里ちゃんに、全部奪われる気がしとった。自分のパートも、ポジションも全部。
 だから、絵里ちゃんが苛められて、娘。やめたらええって・・・そう思って・・・・。」

加護の目からその白い頬に、涙が一筋、つぅっと流れる。

「ごめんな・・・ごめんな絵里ちゃん、ごめん・・・」

何度も謝る加護を前に、絵里は、微動すら出来なかった。
加護はまだ、言葉を続ける。

「うち・・うちな、聞いてもてん・・あかんって、思ったんやけど・・・
 さっきの、会話・・・梨華ちゃんと、絵里ちゃんの・・・話、全部・・・」

(さっきの会話・・・)
(新生モーニングの話)
(聞かれた?加護さんに?)

目の前が真っ暗になる。
が、覚悟を決めて絵里は、裏切り者と罵倒されるのを待った。
でも・・・

138Pちゃん:04/01/13 23:45 ID:XUWs3fhG

加護は、ただただ泣くばかりだ。
絵里を責めも、詰りもせずに。
苦しそうにしゃくりあげながら、何度もごめんと呟きながら。

「加護さん・・・泣かないでください・・あの、私・・・」

何を言おうとしても、加護は首を横に振るばかり。
やがて、少しはおさまったらしい加護が、涙で塗れた目でそっと絵里を見上げた。

「うち、誰にもいわへんから」

(え・・・・?)

「ののにも、よっすぃにも、絶対いわへんから・・・」

加護の、言葉の意味がわからない。
黙認する、というのだろうか。この「裏切り」を。
絵里への謝罪の気持ちから?

「なっちゃんとか矢口さんが、絵里ちゃんを選ぶ気持ち・・・わかるもん」

悔しいけど、と付け足す。

「うちは、選ばれるだけの器じゃなかったってことやから」

139Pちゃん:04/01/13 23:49 ID:XUWs3fhG


いつのまにか、外は真っ暗になっていた。
何だか凄く疲れた気がする。色んなことがありすぎて。
早く帰って寝てしまいたい。目がさめた時は、全部夢だったらいいのに。

厳しいけど、優しいリーダーの飯田さん。
子供っぽいけどそれがすごく可愛い安倍さん。
いつも楽しく笑わせてくれる矢口さん。
いじられキャラだけど、でも一生懸命な石川さん。
ちょっと男っぽくて、とても便りになる吉澤さん。
たった一つしか違わないのに何でもやりこなす加護さん。
いつもにこにこ笑って場を和ませてくれる辻さん。
歌がすごく上手で、あこがれていた高橋さん。
ダンスがかっこよくて思わず見惚れてしまう小川さん。
大人しいけど、やさしく話し掛けてくれる紺野さん。
はきはきしてていつも羨ましいなぁって思う新垣さん。

一番年下で、でも誰よりも努力家のれいな。
天然だけど、顔も仕草も全部可愛いさゆ。

何も知らなかった、入ったばかりの頃。
ずっとあの頃のままだったら良かったのに。

140Pちゃん:04/01/13 23:51 ID:XUWs3fhG

プルルルル、プルルルル、

「はい・・・石川です・・・はい、今日、伝えました・・・」
「・・返事・・・は、まだなんです・・・ええ、三日で、必ず・・・大丈夫です、あの子なら・・」
「よっちゃんは・・・まだ・・・ごめんなさい・・・はい、絶対・・・」

何度も謝って、ようやく電話を切る。
石川ははぁ、と一息、ため息をついた。

(よっちゃんに言わなきゃ・・・)

実際、絵里に言うよりもこっちの方が、石川にとっては憂鬱な仕事でもある。
ただでさえ険悪な状態のなか、最近は吉澤も藤本といることが多く、
なかなか近づき辛いということもあった。

だが、それよりも。
新生モーニングのことを話して、吉澤に拒絶されるのが怖い。

『よっちゃんが嫌だっていうんなら、それまでじゃん。新生モーニングは4人でいこう』

(そう、矢口さんには言われたけど・・・。)

二度目のため息をつこうとした時、また、石川の携帯が音をあげる。

(・・・・・・・・亀井からだ)
141Pちゃん

『あ、あの・・・石川さん?ごめんなさい、こんな時間に・・・』
「ううん、いいんだよ。どうしたの?」
『あの・・・今日の、返事のことなんですけど・・・』
「新生モーニングのこと?」
『はい・・・。返事、のばしてもらえませんか?』
「のばすって、でも・・」
「二週間後にあるコンサ会場・・・そこで、必ず、決めますから・・・』
「二週間後・・・?」

石川は迷った。
その日のコンサといえば、確か安倍さんと矢口さんが、新生モーニングを始動させる日を
その日にしようとか言っていたような・・・。
もちろん絵里はそんなことなど知らないのだろうが、
ぎりぎりまで返事を待つ・・・というのは、危険だろうか。

『石川さん・・・?』

電話のむこうで、不安げな絵里の声がする。

「・・・わかった。待つよ。そのかわり、いい返事期待してるからね」
『・・・・・・はい』

(結局、あたしも甘いんだよね)

少し自嘲気味に笑いながら、石川はそっと受話器を置いた。