136 :
Pちゃん:
「私にとって、モーニング娘。ってなんだろう?」
そのときだった。
キィ、と扉のあく音がして、はっと息を呑む。
「加護さん・・・・」
「絵里ちゃん、おったんか・・・泣いてるん?」
「・・・・・・」
絵里は何も言わなかったが、加護も全て悟っているかのように、黙って絵里を見つめた。
重い沈黙。
やがて、加護の方から口を割る。
「うちなぁ、6期で一番、絵里ちゃんのことが嫌いやってん」
「・・・・・」
「はじめは、暗くて、ジメジメしとって、『何でこの子がセンターなん!?』って思って・・・」
「・・・・・」
「だから、高橋とかに苛められとるの知っとったけど・・・無視しとった。
ののに『助けてあげようよ』って言われても、『あんな子、放っといたらええねん!』って・・・」
だんだんと、加護の声が震えていくのがわかる。
「・・・でも、違うかってん」
「違う・・・?」
「だって絵里ちゃんが―――」
絵里ちゃんが、怖かった。ずっと。
137 :
Pちゃん:04/01/13 23:45 ID:XUWs3fhG
(怖かった・・・?)
「絵里ちゃんに、全部奪われる気がしとった。自分のパートも、ポジションも全部。
だから、絵里ちゃんが苛められて、娘。やめたらええって・・・そう思って・・・・。」
加護の目からその白い頬に、涙が一筋、つぅっと流れる。
「ごめんな・・・ごめんな絵里ちゃん、ごめん・・・」
何度も謝る加護を前に、絵里は、微動すら出来なかった。
加護はまだ、言葉を続ける。
「うち・・うちな、聞いてもてん・・あかんって、思ったんやけど・・・
さっきの、会話・・・梨華ちゃんと、絵里ちゃんの・・・話、全部・・・」
(さっきの会話・・・)
(新生モーニングの話)
(聞かれた?加護さんに?)
目の前が真っ暗になる。
が、覚悟を決めて絵里は、裏切り者と罵倒されるのを待った。
でも・・・
138 :
Pちゃん:04/01/13 23:45 ID:XUWs3fhG
加護は、ただただ泣くばかりだ。
絵里を責めも、詰りもせずに。
苦しそうにしゃくりあげながら、何度もごめんと呟きながら。
「加護さん・・・泣かないでください・・あの、私・・・」
何を言おうとしても、加護は首を横に振るばかり。
やがて、少しはおさまったらしい加護が、涙で塗れた目でそっと絵里を見上げた。
「うち、誰にもいわへんから」
(え・・・・?)
「ののにも、よっすぃにも、絶対いわへんから・・・」
加護の、言葉の意味がわからない。
黙認する、というのだろうか。この「裏切り」を。
絵里への謝罪の気持ちから?
「なっちゃんとか矢口さんが、絵里ちゃんを選ぶ気持ち・・・わかるもん」
悔しいけど、と付け足す。
「うちは、選ばれるだけの器じゃなかったってことやから」
139 :
Pちゃん:04/01/13 23:49 ID:XUWs3fhG
いつのまにか、外は真っ暗になっていた。
何だか凄く疲れた気がする。色んなことがありすぎて。
早く帰って寝てしまいたい。目がさめた時は、全部夢だったらいいのに。
厳しいけど、優しいリーダーの飯田さん。
子供っぽいけどそれがすごく可愛い安倍さん。
いつも楽しく笑わせてくれる矢口さん。
いじられキャラだけど、でも一生懸命な石川さん。
ちょっと男っぽくて、とても便りになる吉澤さん。
たった一つしか違わないのに何でもやりこなす加護さん。
いつもにこにこ笑って場を和ませてくれる辻さん。
歌がすごく上手で、あこがれていた高橋さん。
ダンスがかっこよくて思わず見惚れてしまう小川さん。
大人しいけど、やさしく話し掛けてくれる紺野さん。
はきはきしてていつも羨ましいなぁって思う新垣さん。
一番年下で、でも誰よりも努力家のれいな。
天然だけど、顔も仕草も全部可愛いさゆ。
何も知らなかった、入ったばかりの頃。
ずっとあの頃のままだったら良かったのに。
140 :
Pちゃん:04/01/13 23:51 ID:XUWs3fhG
プルルルル、プルルルル、
「はい・・・石川です・・・はい、今日、伝えました・・・」
「・・返事・・・は、まだなんです・・・ええ、三日で、必ず・・・大丈夫です、あの子なら・・」
「よっちゃんは・・・まだ・・・ごめんなさい・・・はい、絶対・・・」
何度も謝って、ようやく電話を切る。
石川ははぁ、と一息、ため息をついた。
(よっちゃんに言わなきゃ・・・)
実際、絵里に言うよりもこっちの方が、石川にとっては憂鬱な仕事でもある。
ただでさえ険悪な状態のなか、最近は吉澤も藤本といることが多く、
なかなか近づき辛いということもあった。
だが、それよりも。
新生モーニングのことを話して、吉澤に拒絶されるのが怖い。
『よっちゃんが嫌だっていうんなら、それまでじゃん。新生モーニングは4人でいこう』
(そう、矢口さんには言われたけど・・・。)
二度目のため息をつこうとした時、また、石川の携帯が音をあげる。
(・・・・・・・・亀井からだ)
141 :
Pちゃん:
『あ、あの・・・石川さん?ごめんなさい、こんな時間に・・・』
「ううん、いいんだよ。どうしたの?」
『あの・・・今日の、返事のことなんですけど・・・』
「新生モーニングのこと?」
『はい・・・。返事、のばしてもらえませんか?』
「のばすって、でも・・」
「二週間後にあるコンサ会場・・・そこで、必ず、決めますから・・・』
「二週間後・・・?」
石川は迷った。
その日のコンサといえば、確か安倍さんと矢口さんが、新生モーニングを始動させる日を
その日にしようとか言っていたような・・・。
もちろん絵里はそんなことなど知らないのだろうが、
ぎりぎりまで返事を待つ・・・というのは、危険だろうか。
『石川さん・・・?』
電話のむこうで、不安げな絵里の声がする。
「・・・わかった。待つよ。そのかわり、いい返事期待してるからね」
『・・・・・・はい』
(結局、あたしも甘いんだよね)
少し自嘲気味に笑いながら、石川はそっと受話器を置いた。