小説「ジブンのみち」

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320辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU
国家の催しを妨害したにも関わらず、安倍なつみは警察の注意だけですんだ。
その帰り道、安倍なつみは藤本美貴だけに本音を漏らした。

「いやぁ〜美貴を連れて来て正解だったよ」

藤本は横目に見た。
安倍なつみの手のひらが汗で濡れている。

「大会に誘うだけのつもりだったのに、本気で始めちゃいそうだった」
「…」
「あの矢口ってえのは相当だよ」
「…」
「だがこれで役者が揃ってきた」
「…」
「そろそろなっちも応じなきゃいけないね」

藤本は無言で、安倍なつみの語る言葉に耳を傾ける。
その瞳は冷たく燃えている。

そして翌日、矢口真里の大会出場に呼応する様に、吉澤ひとみが出場を明言した。
元々、格闘技日本一を宣言していただけに、この対応の速さは流石である。
これに合わせ大会主催者である安倍なつみがついに詳細を発表。
各スポーツ紙は一斉にこのニュースを取り上げた。
321辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/12/20 16:12 ID:g+3E5GR4
優勝者には安倍なつみと闘る権利を与えること。
この大会出場者を8名に絞り込むこと。
記者会見でなっちは、その8名の内訳を語った。

「まず矢口真里と吉澤ひとみ。この二人は実績も実力も申し分ないからね。
 それと、冬に開催した18歳以下トーナメントの優勝者にも、
この権利を与えると約束している。そう、あの高橋愛ね。
 約束といえばもう一つ。飯田圭織のハロープロレス。
 あそこからも一名選抜されることになってる。誰が来るかはあっちの社長次第だけど」

続々と語られる名前達。いずれも夏美会館、安倍なつみの打倒を掲げる者達。
これだけの名を相手に、夏美会館の最強神話は守りぬけるのだろうか?
そんな記者たちの不安を一層する様に、安倍なつみは堂々と言葉を続ける。

「うち(夏美会館)からの代表は当然、藤本美貴だ」

藤本美貴。圧倒的強さで昨年の夏美会館空手全国大会を制した女だ。
だがその全国大会も彼女の全てを引き出したとは考えがたい。
真の実力は未だ闇に隠されたなっちの片腕が、ついにそのベールを脱ぐ。
矢口真里。
吉澤ひとみ。
高橋愛。
ハロープロレスの選抜者。
藤本美貴。
明らかになるビックネームの数々に、その場にいる記者たちの興奮も際立ってくる。
322辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/12/20 16:13 ID:g+3E5GR4
「ここまでで5人。実を言うと残り3枠はまだ決まってないんだ。
 だから予選をしようと思う。東日本と西日本からそれぞれ1名ずつ優勝者を」
「東と西で2名?もう1人は?」

記者の質問に、なっちは笑みを浮かべる。

「とりあえず館長推薦枠ってことにしておくべ」

記者会見は終わった。
仕事を終え、夏美会館本部の館長室に戻ったなっちを、藤本が待っていた。

「なにが館長推薦枠だ」
「名案でしょ」
「それは何だ。館長が自分自身を推薦するってこともあり得るのか」
「アハハ、どうだろうねぇ〜」
「まぁいいさ。誰が来ても倒すだけだ」
「予選も楽しみだね〜。どんな隠れた凄い奴が出てくるかわかんないし」
「それより当面はあそこだろ。ハロープロレス」
「そだね。飯田本人が来るか?相方の石黒か?ソニンってのもいるね。それから例の…」
「松浦亜弥か。デビューから一ヶ月で人気も実力もエース級だってな」
「ありえる線よ。ああ、もう一人、おもしろい娘が手に入ったって飯田が言ってたっけか」
「おもしろい娘?」

ここで舞台はハロープロレスに移る。
格闘議界が安倍なつみの総合トーナメントで揺れ動いている頃、ここハロプロでも
波乱が巻き起こっていた。それは一人の娘のデビュー戦に起因する。