小説「ジブンのみち」

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303辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU
柴田との激闘を終え、愛はその場に座り込んだ。
やがてエレベータが下りてくる。笑顔の3人が戻ってきた。

「おお!勝ったか。高橋」
「当たり前や。吉澤さんこそ、ちゃんと助けたんやね」
「当たり前だ」
「アニキ、何にもしていな…」

吉澤のゲンコツで麻琴の言葉はそれ以上声に出ることはなかった。
愛は吉澤が助けた女性を見た。
(すっごくきれいな人…だけど、なんか…)
彼女も愛の視線に気付く。

「はじめまして石川梨華です。全然他人の私なんかの為に…ありがとう」
「別に、自分が来たいから来ただけや。お礼なんていらん」
「ううん、でもありがとう。あ、怪我してるわ!ごめんなさい」
「あんたが謝らんでいいって。のー吉澤さん」
「残念。怪我人を殴れねえしな。再戦はまた今度だな」
「なんや?私は別に今からでもええよ」

にらみ合う吉澤と愛を見て、麻琴は頭を痛める。
(本当にバカだ。まだやる気かよ)
不安気に見つめる石川を見て、吉澤はふっと頬を緩ませた。

「いや、やめとこう。石川さんもいるし。続きはまた次だ高橋」
「約束や」
304辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/12/13 17:23 ID:ToWLk1Se
こうして摩天楼の激闘は幕を閉じた。
行くアテのない石川を、吉澤は一緒に住もうと誘った。
この闘いできっかけを掴んだ麻琴は、柔道をさらに極めようと稽古に励む。
愛は怪我療養と更なる修行の為、一旦帰郷した。
戦士達に束の間の休息が訪れる。

それから約1ヶ月、女子格闘議界は大きな動きもなく過ぎていった。
安倍なつみが主催する夏のビックトーナメントに向けて、嵐の前の静けさである。
そんな中、ついにあの娘が動き出す。

「ダ、ダ、大ニュースです!」

畳敷きの道場に、大慌ての小川麻琴が流れ込んで来た。
声を掛けられた小さな娘はまるで聞こえていないかの様に、黙々と打ち込みを続けている。

「こ、国民栄誉賞の受賞が決まりましたよ!」

オリンピック48kg以下級、無差別級、金メダル。
世界女子柔道選手権、全階級制覇。
公式試合108試合無敗。オール一本勝ち。
かの小川五郎をして、自分より強いと言わしめた娘。
若干145cm。「柔を良く剛を制す」の体言。

「矢口さん!ちょっと聞いてますか!矢口さん!!」
「うっさいなぁもぅ。ずぅーっと聞こえてるよ」
305辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/12/13 17:25 ID:ToWLk1Se
打ち込みを止めた矢口真里は、不機嫌そうに騒がしい後輩の元へ近づいた。

「嬉しくないんですか?」
「嬉しいよ!」
「…の割りに、不機嫌ですね」
「べっつにぃ〜。彼から一週間も連絡がないとか関係ないしぃ〜」
「またっすか。男なんてシャボン玉っすよ矢口さん」
「うっさい!お前に言われたかねえや!」
「うげっ!」

矢口はあっという間に麻琴を投げ飛ばし、走り去っていった。
起き上がった麻琴は背中を押さえ呟く。

「イテテ…なんで私の周りはこんな人ばっかりなんだろ…」

男運は無い国民的ヒロイン、矢口真里。
彼女の一言で女子格闘議界が再び動き出す。
その始まりは、矢口の国民栄誉賞授与式場、まさにその場で起きたのだ。

第8話「激闘!メロン」終わり