小説「ジブンのみち」

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297辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU
高橋愛と柴田あゆみの死闘は続く。
愛はとっくに本気で、高橋流の技も存分に披露している。
なのに彼女を倒せない。柴田あゆみという女が本物だということだ。

「あゆみちゃん。格闘技の試合に出てみたら?きっと有名になれるって」
「興味ない」
「もったいないわ。こんな所であんな人達といつまでもメロン続けるんか?」

柴田は静かに目を伏せ、静かに口を開いた。

「あんな人達でも、私にとっては大切な家族の様なもの…
 孤児だった私をここまで育ててくれた人達だ。裏切ることはできない」
「裏切りじゃない。話せばわかってくれるよ」
「それでもできない。私はメロンの柴田だ」
「頑固やの。じゃあ、こうしよう。私に勝ったら好きにすればいいよ。
 でも私に負けたら、格闘技の大会出てみてよ」
「勝手な奴だな」
「強い奴っていっぱいいるんやよ。絶対おもしろいって」
「説得したいなら、私に勝ってみせろ」
「おっ、いいんか」

愛はその場でピョンと飛んで見せた。体が軽い、今なら何でもできそうだ。
298辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/12/09 23:43 ID:otaBvzlL
「吉澤さんと麻琴を上に行かせた理由、実は他にあるんやって。
 手の内を見せたくなかったんや。いずれ闘う可能性もあるしの」
「それを見せてくれるのか」
「ああ、新必殺技や。使わな勝てなそうやし」
「必殺技ならば私も持っている。勝負だ」
「おおっ!」

能面の様だった柴田の表情に変化が現れていた。
戦いたかったのは、石川梨華が慕う吉澤ひとみだった。
しかし今はこの高橋愛という娘に全てをぶつけたいと思っている。
(不思議な奴だ…勝ちたい)

「行くぞ!」
「行っくぞー!!」

二人は同時に前進した。

「赤いフリージア!」
「ラブ・クロス!」

偶然にも、二人が放ったのは共に蹴り技であった。柴田の右足と愛の右足がぶつかる。
(負ける訳がない!全霊を込めたフリージアがっ!!)
柴田の必殺技「赤いフリージア」は敵を打ち抜く槍。
相手の血により赤く染まる。その姿、華麗なる純潔の華の如く。
(メロンの名に賭けて!私は負けない!)
299辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/12/09 23:43 ID:otaBvzlL
地力が柴田を押し切った。愛の足が体ごと弾き飛ぶ。
勝利を確信した柴田のアゴに、愛の左かかとが飛び上がってきた。
(えっ…?)
愛の必殺技「ラブ・クロス」はその名の通り十字架を示す。
蹴り飛ばされた右足の反動をそのまま込めて、左足を一気に打ち上げたのだ。
右足が横に、左足が縦に、十字を切る。
言葉にするのは容易いが、人の反射神経を凌駕する動作である。
尋常ならぬ反射神経と柔軟さを兼ね揃えた愛だからこそ、可能な技なのだ。
宙に浮く程アゴを強打された柴田は、そのまま地面へと崩れ落ちた。
意識を失う直前に脳裏をかすめたのは古き思い出。
孤児だった自分を拾ってくれた優しい三人のお姉さん達の笑顔。
柴田あゆみ堕ちる。
彼女の人生において初めての敗北であった。

「ハアッ…ハアッ…ハアッ…いって〜。右足、当分使えんわこれ」

フリージアに突き刺された右足を抱えながら、愛は倒れた柴田を見下ろす。

「強かったぞ、あゆみちゃん。今度は格闘技の試合場で待ってる」

痛手を負いながらも、高橋愛は勝利を収めた。
彼女にもまた負けられぬ強き理由があった。

(これが私の道やよ、亜弥)
(もう一度決着を付けるまで、私は誰にも負けんからの)