第8話「激闘!メロン」
監禁されているとは思えない程、豪華な部屋に石川梨華は一人でいた。
さっきからどうも表が騒がしいが、石川にはどうする術もない。
やがてノックの音が響く。自分を攫った一味の一人が姿を見せた。
彼女の名前は柴田あゆみ。
氷の様に表情を変えず、口数も少ないが、何処か優しさを感じる。
この様な出会いでなければ、友達になれたかもしれない。
だが今は空気が重い。耐え切れず石川から言葉をかける。
「どうかしたの?」
「侵入者らしい」
「そう…」
「三人組だが、その内の一人はボクシングのチャンピオンだって」
「えっ!」
「やっぱり君の知り合いか」
「どうして?会ったばかりの私なんかの為に…吉澤さんが…」
「残念だけど生きて帰す訳にはいかないな」
「やめて!あの人は関係ないでしょ!」
「関係?あるよ。彼女達は君を助けに来たのだろ。それで十分だ」
苦悶する石川を残し、柴田は再び扉の鍵をかける。
ボス達の所へ戻ると彼女達三人はモニターを眺めていた。
モニターには、部下達を倒しこのビルに入ろうとする侵入者の姿があった。
柴田は静かにその中の一人、吉澤ひとみを睨み付けた。
モニターを見ながら、ボス斉藤が三人に声を掛ける。
「これだけビックな獲物も久しぶり…いや初めてだね、大谷」
「ああ、あの吉澤ひとみを倒せばメロンの名も一気に上がるぜ」
「柴田。お譲ちゃんの様子はどうだったい?」
「別に…普通でした」
「そうかい。それじゃあ作戦タイムといこうかい、村田さん」
「ええ」
メロンの頭脳担当、村田が声をあげる。
普段無口な彼女が口を開くのはこのときだけだ。
「データは三人とも取れてますよ。まず高橋愛。18歳。
かなりの柔術の使い手で、冬に夏美会館が催したトーナメントで優勝している。
特筆すべきはそのスピードと技の数々。だが今ひとつ決定力に欠ける部分もある。
次に小川麻琴。17歳。同じトーナメントに出ているがこちらは二回戦止まり。
柔道と喧嘩の融合を公言してはいるが、中途半端の域は出ていない。
やはり最も警戒すべきはこの女ですね。ボクシング世界王者、吉澤ひとみ。19歳。
パワー、スピード、タフネス、全て超一流。弱点らしい弱点も無い」
村田の説明に、斉藤はおどけてみせる。
「たいしたデータね。それじゃ、私達に勝ち目は無いのかい村田さん」
「勝てませんね、1対1なら。だけど2対1なら話は別です。
そこで吉澤ひとみにはボスと大谷君をぶつけます。
いくら世界王者といえど貴方達二人は手に余る。よろしいですね?」
「OK」
「おっし!任せろ!」
「高橋愛は柴田ちゃんお願いね。あなたなら問題無いでしょう」
「…わかりました」
「残りの小川麻琴は私が軽くひねります。以上、質問は?」
「ねえよ。お前の作戦はいつも完璧だ。それじゃあ行こうか!」
斉藤の合図で、4人は一斉に廊下へと向かう。
最後尾の柴田がふと立ち止まり、モニターを向き直った。
モニターに映る吉澤ひとみの姿を睨む。
(石川梨華が慕う女…)
すぐに向き直ると、柴田はまた歩き出した。