小説「ジブンのみち」

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227辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU
高校を卒業した高橋愛は実家で悶々とした生活を続けていた。
名目上は高橋流柔術の当主。道場に通う生徒を教える立場にある。
だけど親友の松浦亜弥は大会の後、すぐ高校を中退しハロープロレスに入団してしまった。
なんだか自分だけが取り残された様な気になっていた。
そんなときだ、あの電話が届いたのは。

「愛!デビュー戦決まったよ!」

東京にいる亜弥からだった。早くもプロデビューが決まったとの知らせ。
絶対見に行くと約束した。親友の成長を喜んだ。だけど…
あの大会の優勝から早2ヶ月。自分は一体何が変わったのだろう。
(あさ美ちゃんとの試合、間違いなく私は輝いていたって)
(でもなんや、今は何にも変わってえんよ)
着実に自分の道を進む亜弥を見れば、何か変わるかもしれない。
悩む愛は東京行きのチケットを握り締めた。
228辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/11/16 22:03 ID:nFoLSAKP
ハロープロレス春の一大イベント開催。
ジョンソン飯田、クロエ石黒、EE・ソニン等メイン所は総登場。
さらに超大型新人アヤヤのデビュー戦も控える。
アヤヤの対戦相手は、今最も勢いのあるヒールレスラー、デビルお豆。
そのデビルお豆こと新垣里沙に指導を受けている辻希美は、一人ワクワクしていた。

「ついにガキしぇんしぇーの試合が見れるのれす」
「辻!ガキしぇんしぇー言うなっていっつも言ってんだろ!」
「はい!ガキしぇんしぇー!」
「ダメだこりゃ。お前って本当に頭悪ぃよな。私も人のこと言えねえけど」
「ごめんなしゃい」
「まぁ辻、この試合でお前にプロレスってもんを教えてやるよ」
「アーイ!」

(ガキしぇんしゃーは強いからきっと勝つのれす!)
辻希美はまだプロレスを知らない。
229辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/11/16 22:04 ID:nFoLSAKP
吉澤ひとみは困っていた。
高橋愛が福井にいると聴いたものの、財布を落とし金欠状態で交通費がない。
ボクシングで稼いだ莫大なドルは全部アメリカに残してきてしまった。
どうするか思考している所へ、茶髪の変な奴が近づいてきた。

「アニキ!アニキじゃねえっすかぁ!おひさしぶりっす!」

(うわーなんだこの気持ち悪いの。関わらねえ方がいいな)
有名になるとこういうのも多い。相手するのもうっとおしい。
吉澤は顔をそむけて、早歩きになった。

「ちょ、ちょっと何処行くんすかアニキ!私ですよ!」
「悪いけど、あんたみたいな知り合いいないんで」
「ひでえ!私ですって!小川麻琴ですって!」
「小川…?あー、もしかしてお前ピーマコか!!」
「そうっす!アニキの一番弟子、越後の虎、小川麻琴っすよ!おひさしぶり!」

小川麻琴。吉澤が中学の頃、よく一緒に悪さした後輩であった。
家が柔道の名門でケンカも強く、気も合ったので可愛がったものだ。
(昔はもうちょっときれいな奴だったのに、変わるもんだなぁ…)

「ちょっとアニキ何見とれてるんですかぁ。照れますよぉ」
「いやいやいや。それよりピーマコ今何してんだ?新潟から出てきたのか?」
「実は、こっちの講道館でまた柔道やってるんですよ」
230辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/11/16 22:04 ID:nFoLSAKP
大会の後、麻琴は祖父の小川五郎に東京の講道館へ連れ込まれた。
大会に負けてしまったので言い訳もできない。柔道漬けの日々が続いたのだ。

「へーそっかぁ。ピーマコもちゃんと柔道やってんのか。そりゃ良かった」
「ちっとも良くねえっす!地獄っすよ地獄!」
「ところでさピーマコ、高橋愛って知ってるか?」
「高橋…!なんでアニキがあいつを?」
「ちと野暮用で会いたいんだ。けどそいつ福井にいるんだろ。今金がなくてさ」
「愛なら今度、こっちに来るって言ってましたよ。確かハロープロレスを見に…」

麻琴の言葉に、吉澤の目がギラついた。

「ハロープロレスってことは飯田圭織もいるんだよな」
「多分…」
「高橋愛に飯田圭織。そりゃあ一石二鳥じゃねえの」
「何をする気っすかアニキ?おもしれえことなら誘って下さいよ」
「へへっ、とりあえずそのハロプロのチケット取ってくれピーマコ」

こうしてハロープロレスのビックイベントが始まる。
松浦亜弥。
新垣里沙。
辻希美。
飯田圭織。
吉澤ひとみ。
小川麻琴。
高橋愛。
それぞれに異なる思惑の中、事態は異なる方向へと向かう。
その異変を呼び込むのは石川梨華という娘であった。