小説「ジブンのみち」

このエントリーをはてなブックマークに追加
159辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU
「高橋さん!高橋さん!」

控え室を叩く声に、眠りについていた愛は目覚める。
大会運営委員の男性が大声で入ってきた。

「なんやも〜うるさいな〜」
「高橋さん。あなたの優勝です」
「あー優勝かーうん、わかった、おやすみ」
「起きてください!これから表彰式です。早く会場へ…」
「もうわかったって!だから優勝やろ。はいはい…ゆうしょ……えーーーーー!!!」

目が覚めた。飛び起きようとしたが手足が動かずまたコケタ。

「決勝戦は?亜弥は?どうなったんやって!」
「それは向かいながら説明します。とにかく急いで下さい!」

自由の効かない手足を引きずりながら、愛は会場に入った。
何とも言い難い周囲の空気と、中央に安倍なつみが待ち構えていた。
『18歳以下総合格闘技トーナメント優勝!高橋愛!』
アナウンスが流れると、あちこちから拍手が起こる。
その中を愛は進んだ。安倍なつみの待つ壇上へと。
160辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/10/25 01:35 ID:V9VEJwbv
「こんな形の優勝だけど、受け入れてくれる?」

開口一番、安倍なつみはそう尋ねてきた。
亜弥と加護亜依の試合の結末はすでに聞いていた。自分が優勝になった訳も。

「安倍さんこそいいんですか?私が優勝で?」
「貴方はうちの紺野に勝ったんだ。誰も文句は言わないさ」
「じゃあ優勝するわ」

日本一に…優勝する為に来たのだ。断る理由なんてこれっぽっちもない。
愛は素直にその権利をもらいうけた。18歳以下女子最強の称号。
ただひとつ気になるのは、あの亜弥と引き分けたという娘。

「優勝者には来年開くオープントーナメント出場権利が与えられる」
「もっと強い奴とやれるんか!楽しみやわ」
「必ず勝ち上がりなさい…夏美会館が叩きのめしてあげるから」

最後の一言は小声で愛だけに聞こえる様囁かれた。
すでに高橋愛は、安倍なつみのターゲットとしてロックオンされているのだ。
トロフィーを受け取る。それを脇に抱え、愛は笑顔で会場を後にした。
もちろんこの状態で福井へ帰れるはずなく、近くの病院へ直行となった。

こうして若き娘たちの激闘は、幕を下ろした。
しかしこれはこれから始まる真の闘いの序章にしか過ぎないのである。
161辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/10/25 01:40 ID:V9VEJwbv
愛は診断の結果、三日の入院となった。改めて紺野の正拳の恐ろしさを感じる。

「ハァーしかしよくあんな化け物に勝てたわ」
「誰が化け物ですか?」
「うわぁ!紺野!いたんか!何してんの!」
「見ればわかるでしょう」

隣のベットに紺野が寝ていた。よく見ると包帯グルグル巻きだ。

「そっか、お前も入院か!」
「でも私は二日だけです。貴方の方が重傷です。だから本当は私の勝ちです」
「なんや意外と負けず嫌いなんやの」
「そ、そんなことない!」

紺野はポッと頬を紅く染めた。闘いの場では決して見せなかった表情だ。

「結構かわいい所あるんや」
「茶化さないで下さい。殴りますよ」
「うえ〜もういいよ〜」
「次やるときは絶対勝ちますからね。覚悟しておいて下さい」
「うん」
「それまで誰にも負けないで下さいよ。あなたを倒すのは私と決めたんですから」

紺野の言葉に愛は微笑を返す。彼女はきっと戻ってくる、さらに強くなって。
愛は約束した。誰にも負けない!
162辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/10/25 01:40 ID:V9VEJwbv
バケツに入った水を思いっきり浴びせかけられる。
亜弥が目を覚ましたそこはハロープロレス本部道場のリングの上だった。
そして目の前に立つのはずっと憧れ続けたあの人。広い道場に二人きり。

「気がついたか」
「…ジョンソン飯田さん!?」
「お前の試合、みせてもらったよ」
「え?…はい」

亜弥はようやく思い出す。加護亜依の顔、高橋愛の顔、そして安倍なつみ…

「大会は、どうなったんですか?」
「お前と加護亜依は共に失格。優勝は高橋愛。それが安倍なつみの出した結果さ」
「愛が優勝…」
「だが俺から言わせりゃ本当の優勝はお前だ、松浦」
「え?」
「ベスト4の残り三人は全員今ごろ病院のベットの上だ。立ってるのはお前だけ」
「…!」
「だから俺はお前が優勝だと思っている。俺は間違っているか?」

プロレス界に燦然と輝くカリスマが、自分を認めてくれた。
その一言一句が亜弥の胸に染み込んでゆく。
(そうだ、この人の言っていることは正しい、私はこの人の元でもっともっと強くなる!)

「いえ。飯田さんは間違っていません。一番強いのはあややですから」