◇
私が誰に声を掛けても、相手をしてもらえなくて、
私の存在はまるで無いようで、
そんな中で、私に向かって、私には見えない誰かがこう言っていた。
――――新しい人生はいかがですか?
それはとても悲しくて、でも、それはとても望んでいた事だった。
◇
夢から覚め、それでもまだうつらうつらしていると、誰かの気配を感じた。
ウェイトレスさんが注意でもしに来たのかな……、
なんて思いながら目を開けると、
そこには、ニコニコ顔でお子様ランチを食べているよしこが居た。
こんな光景前にも見たな、なんて思いながら、窓の外を見ると、
ネオンの嫌な輝きがここまで届いて、
更にまた、雨足が強くなっているみたいだった。
深い夜の暗闇は若々しい活気を蝕む。
今、よしこが私の目の前に居るというのは、やたらに現実的な夢みたいなもので、
例えば、気持ちよく空を飛んでる夢を見ていたら、飛行機と衝突した、みたいな、
そんなどうにも理不尽な状況なわけで、私はちょっとむかついた。
「何してんの。」
私はひどく冷めたというか、雑然とした調子でよしこに問う。
だけど、当のよしこにはその私の様子が伝わらなかったのか、
やけにあっけらかんとしていた。
「何って、ご飯食べてるに決まってるじゃん。」
そう言うと、よしこはニカッと笑って、「冗談、冗談。」と言った後、
今度は声を立ててケラケラと笑った。
私は無意識に両手を握り締めていて、手にはやけに汗をかいていた。
「ごっちんさぁ、そういう顔やめなよ、せっかくかわいいんだからさぁ。」
「台無しだよ?」
私は、ペラペラと喋るよしこの顔をじっと見つめる。
よしこの顔からは皮肉めいた笑いが覗いていて、
分かってはいたけど、また反吐が出そうになる。
よしこの持つ雰囲気は、あの陰気な活気と一緒だった。
「で、あんたは、何してんの。」
さっきよりますます刺のある言い方になったのが自分でも分かった。
よしこはわざとらしく「ひぇ〜、怖いねぇ〜。」なんて、
言いながらまたケラケラと笑ってる。
そのよしこのケラケラした笑い声は店の中に良く響いた。
私はそれを訝しく思って、周りを見回して気付いた、この店には人が居ない。
それどころか電気さえもこのテーブルの上のだけしかついていない。
だからなおさら、よしこの持つ嫌な雰囲気が私に突き刺さった。
私が拳を握る手にさらに力を込めたその時、
よしこは唐突に真面目な顔をしてしゃべり始めた。
「そろそろ本題に入るけど、どんな感じかな、人生ゲームは。楽しい?」
私がぶすっと黙っていると、よしこはさっきまでの雰囲気はどこへやら、
いつもみたいにふわっと笑ってまた言う。
「楽しい?」
「全然。」
私は即答した。
よしこはアハハと笑って、「かっけ〜なごっちん。」と何度も大声で言った後、
「じゃあ、これなら楽しい?」
と言って、見慣れないモノの先端を私に向けた。
銃。
私は一瞬目を疑ったけど、間違い無い。
吃驚して目を見開いて固まっている私を、
また愉快そうにケラケラ笑いながらよしこは続ける。
馬鹿みたいに丁寧に、ゆっくりと、小さい子供に言い聞かせるかのように、よしこは続けた。
「ごっちんね、たぶん勘違いしてると思うんだ。人生ゲームについて。」
「昨日、いやもう一昨日か。言ったじゃん?」
「自分の人生を懸けて遊ぶゲームだって。」
「まあ、ごっちんのことだからさー。」
「きっと普通の女子高生として人生を送れるんだ。」
「とか思ってそうだよねー。」
「まあごっちんじゃなくったって、誰でもそう思うか。」
よしこはケラケラ笑ってた顔を、また瞬間硬くして言う。
「でもさ、人生を懸けるっていうのは、そんな甘っちょろいもんじゃないよ。」
よしこはそこで私に向けていた銃を私の額に押し付けて、さらに固まる私を見て、
今までで一番愉快そうに笑った。