台本どおりに進行するスレ

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186HN募集中。。。

裕ちゃんが抱きしめてくれること、変に優しい言葉をかけてくれることを、
私は胡散臭く感じながらも、いつの間にか安心しきってしまった。
人肌の温かさは、理屈抜きに、私の求めていたものだった。

疲れた疲れた。本当に疲れた。それでもって、なんだか眠い。

私はごく自然に目を閉じると、体重を裕ちゃんに預けた。

「ちょ、ごっちん、ちょっと待って。」

裕ちゃんの戸惑ったような、焦ったような、情けない声が聴こえて、
脳みそがぐらりとしたところで、

途切れた。


187HN募集中。。。:03/11/25 00:22 ID:d/UkKnJc

目が覚めると、どこかの部屋の中だった。
部屋の中は夏なのに、ぽかぽかと暖かく、とても気持ちよくて、
あのベタベタとした不快な感じがまったくしなかった。

寝起きはいつも、身体の節々がこわばってる感じがするもので。
私は掛かっていた毛布蹴飛ばして、背伸び足伸びあくびをした。
スジがぐいっと伸びる感じが気持ちいい。
そうして、蹴飛ばした毛布をまた肩までたぐりよせると、
うすぼんやりとした部屋の中を眺めた。

部屋の中は全くといっていいほど色気というものが感じられなかった。
タンスやベッド、テレビや鏡台といった少ない家具が、少し広い部屋に、
ただ雑然とぽつりぽつり、なんの関連性も無く置かれている。
トータルコーディネートにこだわる私は、こういう部屋を見ると、
どうしてもウズウズしてくる。だって女の子だもん。
188HN募集中。。。:03/11/25 00:23 ID:d/UkKnJc

―――まず部屋全体の色調を整えなきゃいけないね。

―――ここは壁紙が白で、カーペットがベージュだから、
     木の感じを基調にするのが落ち着いた感じでいいかもなぁ。

―――それにしても鏡台がピンクでテレビ台が黒ってのは、いくらなんでもちょっとねぇ……。

いっちょまえにコーディネーターっぽく、そんな評価をつけて行く。
ピンクの鏡台、梨華ちゃんはこんなの好きそうだな、と思うと、
鏡台に映った自分の顔が一瞬、梨華ちゃんに見えて苦笑いした。
もう一度しっかり鏡台を見ると、今度はしっかりと自分の顔が見えて、また苦笑いした。

窓に目をやると、ダラダラと降り続いていた雨はいつのまにか止んでいて、
そこからは黒々とした曇り空が覗いていた。暗さから言って、今はもう夕方みたいだった。
視界の端をチラチラとするカーテンの色は、趣味の悪いド派手な赤色だった。
それは私に何かを思い出させた。

カーテンの色がヤグチさんの血の色に見えた。
189HN募集中。。。:03/11/25 00:25 ID:d/UkKnJc

ちぢこまったヤグチさんの姿が私の頭を掠める。私は右手を見る。ぶるぶると震える右手を見る。
この手が、ピストルの引き金を引いて、その弾がヤグチさんの頭を吹き飛ばしたんだ。
いくらゲームと言われても、自分で自分のしたことが信じられなかった。
私は、ゲームに組み込まれていきそうな自分が恐かった。

―――あんなの、もう嫌だ。

すると、いきなり電気がついた。

黒々とした窓が鏡になって、裕ちゃんのシルエットだけが浮かぶ。
裕ちゃんのシルエットは、やたら厳かに、ゆっくりと動いた。

「ごっちん、起きたか。」

後ろからする裕ちゃんの声に思わずドキッとした。
なんでか分からないけど、また裕ちゃんは怒ってるみたいだった。
190HN募集中。。。:03/11/25 00:26 ID:d/UkKnJc

私はやっぱりいつものようにふにゃっと笑顔をつくると、後ろを振り向く。
振り向くとやっぱり、裕ちゃんは怒っていた。眉間にしわがびっしりと刻みこまれている。
おでこにはまるで漫画みたいに血管が浮き出て、目は静かに血走っていた。

これは尋常じゃない。

私はとっさにそう判断すると、無理矢理明るく、楽しそうにベラベラとしゃべった。

「おはよー。」

「裕ちゃん家に来るの初めてだな〜。」

「いいね〜。この部屋。落ち着くし。それに……」


「そうやろ。ええ部屋やろ。」

裕ちゃんはそうした私のへらへらベラベラとした喋りを、吐き捨てるような口調で切り捨てた。
そして、私の目の前に乱暴に腰を下ろすと、私と裕ちゃんは向かい合って座るような形になった。
私の目の前に座っている裕ちゃんは、何かを考えるように、じっと下をむいていた。
私はそんな裕ちゃんを前にして、ただただ固まってしまうほか、何もできなかった。
191HN募集中。。。:03/11/25 00:27 ID:d/UkKnJc

そうしてお互いにただ黙っていると、裕ちゃんは視線を上げて私の目を見据えた。
そして、低くて小さいけど威圧的な声で話し出した。

「あんなぁ、なんか、ヤグチ、死んでしまったらしいねん。」

「死んでしまった、ちゅーか、殺された。銃でな。めちゃくちゃに撃たれて。」

「ウチも詳しいことは知らんのやけど、よっさんから電話でな」

「どこぞのファミレスでヤグチは見つかったらしいんやけど、」

「そのファミレスってのが、ウチがごっちんとあった場所の近くやねん。」

裕ちゃんはそこで話を切ると、私の目を一層まじまじと見つめた。
私は顔を少し引きつらせながら、ただ、黙ってそれを返した。
192HN募集中。。。:03/11/25 00:29 ID:d/UkKnJc

「でな、いきなり寝てしまったごっちんを、ここまで運んで来たはいいけどな」

「ごっちんびしょぬれやったし、このまんまで風邪引いても困るしと思って」

「ごっちんには悪いなと思いつつ、勝手に服着替えさせてもらったんやけど」

そう言われて私はハッとした。そして、ポケットをまさぐった。
当然、そこにピストルはなかった。しまった、と思った。

私が視線を戻すと裕ちゃんは「これか?」と言って、ピストルを私の前に投げ捨てた。
急にどっと汗が流れるのを感じる。心臓がバクバクいうのを感じる。

「ウチが何を言いたいんか、分かるよな?」

分かるけど、分かりたくなかった。あれは私だったけど、私じゃなかったと言いたかった。
ヤグチさんもあれは、ヤグチさんだったけど、ヤグチさんじゃなかった。
全てが間違ってた。ここに裕ちゃんがいることも、私とこうして話をしていることも、
全部間違いだ、勘違いだ、思い違いなんだと言いたかった。
193HN募集中。。。:03/11/25 00:30 ID:d/UkKnJc

「どういうことか、説明しぃや!ごっちん!」

裕ちゃんは私の襟をつかんでむちゃくちゃに揺さぶった。
私は振られて更にぐちゃぐちゃになった頭で、何も言えなかった。

助けが欲しかった。私を正当化してくれる助けが欲しかった。
私は悪くない、そう断言できる証拠が、私から罪の意識を取り除いてくれる言葉が、
欲しかった。私の良心とは逆に、本能的にそれを求めていた。

そして私が何者か分からない誰かに助けを求めて、裕ちゃんから目をそらすと、
傍らに見覚えのあるくちゃくちゃの紙が落ちているのが見えた。
それは、あの時、よしこから貰った紙切れだった。

私は、その紙の存在を思い出して安堵した。
その紙には、私を正当化してくれる言葉が詰まっている。
だけど、そうして安堵してしまう自分が嫌だった。
そうやって自分を正当化してしまうのは嫌だった。

できることなら、裕ちゃんに、私を殺して欲しかった。