◇
ねえ、ワカルカナ?
人間は外面じゃない中身だ。なんてよく言うけどさ。
実際、人間ってのは他人の目から見える面が一般に真実じゃん?
だから、周りが変わっちゃえば自分も結局変わっちゃうんだよね。
恐いよねー。
まあそういうわけで、
もうあんたは私の友達だったゴトウマキじゃないし、
あんたはこの人生ゲームに参加した時点で、
こうなる運命だったわけだから。
サヨナラだよ、ごっちん。じゃあね。バイバイ。
◇
そう言いながら、よしこが引き金に指をかけるのが分かった。
よしこは愉快そうな笑いを崩さない。
私も終わりか、なんというか、あけっない人生だった。人生わずか17年。
死ぬ直前には過去の出来事が走馬灯のように駆け抜けるっていうけど、
別にそんなこともないし、死ぬってのも、実は……。
そこで、私の額の銃が、カチッと鳴った。
よしこの笑いが歪んだ。だけど、何も起きなかった。
よしこはチッと舌打ちして、その銃を床に投げ捨てて、
そして、私をものすごい顔で睨んだ。
私はふと、銃を額に当てられてから今まですごく冷静な自分に気付く。
そして私は、そんな自分に勇気をもって、よしこを同じように睨み返す。
よしこの顔がふっとやわらかくなった。
「ほんと、あんたはついてるよ。」
「殺そうと思えばいつでも殺せたんだけどさ。」
「私があんたの家に行った時には、もうあんたは家を出た後で。」
「あんたのお母さん、怒ってたよ。」
よしこは私のお母さんの怒りぶりを思い出したのか、ニタニタと笑った。
私はお母さんがどんだけ怒ってたのか想像して、条件反射で背筋が寒くなった。
よしこは続ける。
「面白かったよ、あいつ。」
「あんまりうるさいんで、コレ見せたら。」
「途端に青白くなっちゃって。ヘコヘコしちゃって。」
「なんかその態度の変化がむかついたから殺しちゃったよ。」
「頭ぶち抜いてやった。」
「そしたら、その音が聞こえたみたいで。」
「奥からあんたの弟が出てきたから、ついでにそいつも殺してやった。」
「下手に運動神経良いんだろうねー、避けて急所外しちゃって。」
「しばらく苦しんでたなー。」
よしこのニタニタとした笑みに、私はゾッとしながらも、徐々に頭に血が上るのを感じた。
よしこがその時の事を思い出して、ニタニタと笑っているんだと思うと、
悲しみより、ただよしこに対する怒りばかりが湧き上がって来る。
そうすると、私はもうどうにもこうにも歯止めが利かなくなった。
握り締めていたこの正義の拳に怒りを託して、怒りの鉄拳。
ふざけんな、と言いながらよしこに飛びかかった。
よしこの顔が私の目前まで迫った時、すぐ耳元で、
バンッ
と乾いた音がした。
肩に、するどくしびれる痛みを感じて、私はテーブルの上に勢い良くつっぷした。
よしこの食べかけのお子様ランチが、お気に入りの服にぐちゃっと付いた。
「あーぁ、汚いなー。」
「あんたなんかいつでも殺せるって言ってるじゃん?」
そのまま視線を上げると、よしこの右手には、さっきの銃とは違った銃が握られていた。
私は今度こそ終わりか、と思って、目を瞑って言う。
「じゃあ、殺せば?」
目を瞑ってるから表情は分からなかったけど、よしこは心底愉快そうにアハハと笑った。
そして、私の額にまだすこし熱い銃の感触が伝わって来た。
私とって、その銃は全く恐くなんかはなかった。
次の瞬間、またバンッと乾いた音が、今度は他人行儀に響いた。
目を開けると、銃口は私の数センチ横を向いていて、
よしこの顔を見ると、笑顔が歪んでいた。
「だから。殺さない。」
よしこは私の髪の毛を乱暴に鷲掴みにして、
私の身体が背もたれにもたれるように、私をぐいと持ち上げて、ポイと投げた。
背もたれに身体をぶつけた私は肩に激しい痛みを感じた。
私がその姿勢で痛みに耐えながらかろうじて目を開けると、
よしこは苦々しそうに続けて早口に喋った。
「あんたは私の決意を3回踏みにじった。」
「1回目は、あんたの家に行った時。」
「2回目は、あんたが変なオヤジに援交誘われてた時。」
「あの時も、あんたを殺そうと思えば、殺せたんだよ。」
「だけど、あのオヤジがやたらにむかついてさ。」
「あんたが逃げてったのに、しつこいオヤジを殺してやった。」
「で、3回目は、さっき、ちょうど弾切れであんたを殺せなかった。」
「これで3回。仏の顔も3度までって言うでしょ?」
「だから、あんたを今殺しはしない。」
「その変わりっちゃあなんだけど、これを置いてくよ。」
よしこはポケットの中から、くしゃくしゃの紙切れと、
細身の銃と弾とを取り出して、机の上に置いた。
そしてまた表情をがらりと変えて、ニッコリと私に微笑みかける。
よしこが何を望んでいるのか何を考えているのか、私は、その意図が読み取れ無いながら、
肩の痛みに朦朧としながらも、ニッコリとなんとかぎこちなく微笑みながら問い掛ける。
「ねぇ、よしこぉ。なんでこんなことするのぉ?」
ふと、私の頬に涙が伝う。なんだか私はすごく悲しくなった。
カツゼツの悪い私の問いかけに、よしこは、また愉快そうにアハハと笑って答える。
「なんでって、そりゃ、ゲームだから。」
よしこの銃を握った右手がすばやく動いたかと思うと、次の瞬間、
私は側頭部に鈍くて激しい痛みを感じて、目の前が真っ暗になった。