【6】
夜のホテル。部屋のドアを静かに叩く少女の姿があった。
辺りを気にしながら、囁くような声。
「こんばんわ。シイナです」
どうぞ、お入りなさい・・・語りかけるようにドアが静かに開いた。
部屋に入ると、まずその広さと豪華さに目が奪われる。
綺麗な装飾や調度品を思わず眺めてしまうシイナであった。
「わぁー、飯田さんの部屋って素敵ですねー。いいなぁー」
「ま、一応リーダーだからね。ねぇ、それよりこっちに来てよ」
飯田はベッドに腰を下ろし、シイナに隣に来るように命じた。
シイナもそれに従って腰を下ろす。
すると飯田はシイナの肩を抱いてきた。
「あのね〜私がキス魔だってこと、知ってた〜?」
「・・・・・・・」
「今からお前にキスしてあげる〜」
飯田は、からかうような口調でおどけてみせた。
これは飯田にとっての一つの儀式でもある。
モーニング娘。のような大所帯では組織の統制が何よりも重要だ。
特に加入したばかりの新メンバーに対しては、
まずリーダーの怖さを知ってもらわねばならない。
そこで伝統として「キス」が使われている。
もっとも飯田にしてみれば、
大義名分を使って可愛い少女達にキスしている訳だが・・・
(シイナ、唇はもらうからね!ふふっ・・震えてるな。かわいいヤツ・・)