90 :
名無し:
Memory 〜青春の光〜
スレ立てられないのでゴメンナサイ(笑
中居「本日は『モーニング娘。同窓会』にお集まりいただき、誠にありがとーございます。」
石橋「しっかし、お前等、まぢ久しぶりだねぇー。」
うたばん出演なんてどれだけぶりだろうか…
最近ではシングルの売上が1万枚に届くことさえ無くなった『娘。』達は、
めっきりメディアへの露出が減った。
無論、本体の沈没に伴って、卒業メンバーも同様に
いや、それ以上に忘れられた存在へと追いやられていた。
あの一時の狂騒時代に比べ、遥かに落ち着いて一つ仕事に取り組めるメリットがある。
なんて、人に強がってはいるものの、やっぱり、本音を言えば寂しかった。
勿論、幸せだった時期もあるが、ある意味自分たちなりに頂点をしってしまったが故に、
現状があまりにも不幸だと感じられた。
保田圭は、ゆっくりと懐かしのスタジオを見渡した。
しかしまあ、何たる企画だろう。
最近辞めたばかりの藤本や、吉澤はまだしも
明日香や彩っぺに、それに紗耶香迄、引っ張り出してくるとは…
中居「でもなぁ、お前等も落ちぶれたもんだねぇ。」
そんなこと無いですよぉ。
矢口が腰に手を当てて、半ばおどけたような調子で
明るい口調で、受け答えをしているのが耳に飛び込んでくる。
石橋「そっか? 昔は何処のチャンネルでも、ごっつあんに会えたんだけどなあ…」
日常的な非日常。何処か遠くの方の、
まるでブラウン管の向うのやり取りを見ているようだった。
私の思惑には一切構わずに進行する事態。
何処か不安定な、何か性悪な印象を与える不安定な茶番劇…
中居「そんじゃあ。今日のメインコーナー!」
石橋「おい。保田こっち向けよ。」
っと、つられて振り向いた瞬間。視線は白煙に包まれた。
何て優秀な番組スタッフ達なのだろう、
しばらくの間、意識を失ったことに気付かないほど鮮やかな手際だった。
石橋「起きろよババア!」
中居「なぁかざわー」
耳元の下品なガナリ声が堪らなく不愉快だ。
最低の二日酔いの時の様な酷い偏頭痛がした。
言うことを聞かない下肢に、あらん限りの叱咤を飛ばし
辛うじて立ち上がった。
執拗に意識を覆い隠そうとするモヤのカーテンを抉じ開けるように、
軽く頭を振った時に、初めて中澤裕子は、
己の頭に何処かの胡散臭い新興宗教団体が使っている様な
ヘッドセットが装着されていることと、
囚人服の様な簡素な衣装に着替えさせられていることに気が付いた。
極めつけなのが、肌触りから明らかなのだが、
自分が囚人服の下には何も着ていないということだ。
裏を返せば全て脱がされてから、これを着せられたのだ。他人の手で…
無意識に眉根に皺をよせた。
ヘッドセットを剥ぎ取ろうと手を伸ばしかけた所を
石橋の声が邪魔をした。
石橋「おいおい、無理に外そうとすると爆発するぞ、ソレ」
中居「何たって、特効さんの自信作だからな。」
石橋「まあまあ、中澤も焦らずにこれでも見てろや。」
言い終わらないうちに、斜め左前の味も素っ気も無い誇りにまみれたTVが
エレキテルが充ちる気配と共に耳障りな音を発しながら粗雑な画像を映し始めた。
味も素っ気も無いくすんだコンクリートの部屋で、
その古ぼけた小さなTVは何か激しく自己主張を繰り返していた。
薄汚い画面の中で小柄な人影が何かを叫んでいる。
耳障りなノイズに掻き消されて、言葉は判らない。
ブラウン管を見る限り、叫んでいると言うよりは
喚き散らしているという態だった。
中澤裕子にはそれが誰だか考えるまでも無かった。
メンバーの矢口真里だ。
裕子は、無論自分の状況が、充分に不快で十二分に不安だったが、
画面を通してでも、近しい者の姿を見られて
多少なりとも安堵感を得ることが出来た。
少なくともその時は、例えそれが結果的に刹那的だったとしても。
だが、次の石橋の台詞が、そんな裕子の心に遠慮無く氷柱を打ち込んだ。
石橋「おい矢口。んじゃ、もうヘッドセット外しても良いぞ。」
95 :
名無し募集中。。。:03/09/09 23:19 ID:rEEswgE6
期待age
96 :
名無し募集中。。。 :03/09/10 17:17 ID:dtGZzkqX
先日福井県で「モーニング娘。コンサート」を見てきたぞ。
雑居ビルの一室で、客席は俺を含めてジイサンばっか10人くらいのみ。
辻・加護はあいかわらず可愛かったよ。
加護が入れ歯を落として場内大爆笑。
辻がてへてへ笑いで拾ってあげてた。気持ちがホンワカしたぞ。
モーニング娘80周年記念パーティーに
出席しました。歴代メンバー17人中16人が死去
してしまいました。
そんな中、100歳をこえてなおご健在の
中澤裕子さんはパーティー会場で食事中に
のどを詰まらせて失神するというハプニングに
見舞われ、会場内大爆笑でした。
98 :
わははは:03/09/10 23:32 ID:JF0qN/KR
>97
ワラタ
石橋の一見いつも通りに思える計算された粗暴な口調の裏に、
不吉な、ある意味突き放すような無責任な残忍さというモノが感じられたのは、
裕子の気のせいだったのだろうか。
ブラウン管の中では、矢口が若干不審気だが、
それでも嬉々としてヘッドセットに手を伸ばしかけている。
不安が等比級数的に増大する。
時間が重苦しく、それでも淡々と強制的に更新を続けていた。
矢口の、その手が、それに触れんばかりの所に至って
ようやく裕子の身体の金縛りが解けた。
裕子は文字通り椅子を蹴る様に立ちあがって、
ブラウン管に抱きつく様にして制止の言葉を叫んだ。
後から思えばその時、矢口は一瞬躊躇してあたりを見回した様に見えた。
肺の中のものを全て振り絞った成果がそれだった。
眩い閃光の僅かばかり後に、空気が爆ぜた。
空気に殴られる。という感覚が理解できた。
地の底から響くような轟音と同じタイミングで
部屋全体の空気が打ちつける様に痙攣したのだ。
古ぼけたコンクリートの壁から、
埃なのか壁その物なのかは判らないモノがパラパラと降り注ぐ中、
裕子は灰色の砂嵐しか映さなくなったTVを眺めていた。
あまりにも非現実なガラスの向うの出来事から、
現実感を掘り起こすのは困難だったのだ。
周囲の状況が徐々に現実感を促進させる間、
裕子は文字通りポカンと眺めていた。
状況を論理的に理解出来るようになってくると、
まるで一気に室温が低下した様に感じられてきた。
さっきまで暖房がきっちりと効いていたのに、
そこはまるで屋外に、ほっぽり出された様な寒さだった。
そして、裕子に抗議しようと思い立つ間も与えずに、
下品な馬鹿笑いの後に石橋と中居は恫喝を続けた。
石橋「あ〜あ。ステラおばさん逝っちゃったか。」
中居「自分で選んだ事だから良いじゃんかよ。はい、矢口死亡。」
石橋「外しちゃ駄目だって言ったのによ。」
中居「あんた、矢口には言ってねーじゃんかよ。」
石橋「あ?そうだっけ?まぁー良っか。」
中居「おい、中澤!そんなに怯えてんじゃねーよ。」
石橋「安心しろよ。俺達はお前の味方なんだよ。」
裕子は悪寒が止まらなかった。
コイツ等は何を考えているのだろう?人間を一人殺して、
人間一人が死んだと言うのに、どうしてコイツ等はこんな調子なのだろう?
リアルな痛みと言うものが理解できないのだろうか?
それとも、何処かこの世界の歯車が狂っているのだろうか?
石橋達の声のする方 ― 無論、単なるスピーカなのだが ― を求めて、
裕子の視線は、千鳥足で宙を彷徨っていた。
中居「おーい。キョロキョロしてねーで、話を聞けや。」
石橋「今から簡単なゲームをお前等にやってもらう。」
中居「内容は今は言えねーけどさ。オレ等はお前に優勝して貰いたいのよ。」
石橋「今まで中澤には冷たくしてきたから、今回はプッシュするよ。マジマジ・・・」
意識の表層を鑢がけするように、ノイズが飛び交っていた。
中居「・・・それ便利だからよ。他のヤツには聞こえない様に色々助けてやるからな。」
石橋「頑張れよ、中澤。ガキ供に負けんじゃねーぞ。」
…ウソダ… ゼッタイニダマサレナイ… ナゼ… ヒドイコトヲ・・・
壁の一角が、緩やかにスライドし始めた。
隙間から顔を覗かせる薄暗い通路が、
未来の不安と、この状況が如何に作りこまれたものであるかを雄弁に物語っていた。
「行け」と言うことだろう。
躊躇していても状況の進展は望めないことは明白だったが、
理性と感性の両方が先に進むのを引き止めていた。
それでも、裕子は身体を引きずる様に通路の奥に向かった。進むしか道はなかった。
… 矢口…
まだ空気がビリビリと振動していた。保田圭は、きつく唇を噛むと、
机の上に置かれている紙にもう一度視線を戻した。
― ヘッドセットノツカイカタ ―
バクハツキケン。トッタラシヌデ。
ゴシック体の味も素っ気も無い字によるシンプル過ぎる文面だったが、
今となっては、その裏にある悪意が嫌らしいほど感じられた。
穴の開くほどソレを睨み付けていたので、
最初壁の一角が動いて通路が出来ていたことには全く気が付かなかった。
見るからに重厚そうな扉だったが、裕子が軽く力を込めただけで、
嘘の様に音も無くスライドした。
5mばかり先に一卵性双生児の様に同じ様な扉があるのを見て、
裕子の疑念はいよいよ募るばかりであった。
二重扉って… たかだかTVのセットにしては厳重過ぎやしない?…
…たかだかTV …たかが、TVに… 矢口…
踏みこめば戻ることが出来なくなる事には薄々感づいていた。
それでも、裕子は行動して解決する道を選んだのだった。
振りかえって、再び音も無く閉まった扉を見て、
裕子は引き攣った笑いを浮かべた。
扉のこちら側には手をかける様な部分は一切無かったのだ。
光を網膜に感じた時、微かに霞む視野が不快だった。
石川梨華は、軽く頭を振ろうとして感覚的な違和感を感じた。
やがて、はっきりとして来る視界の中で、
吉澤ひとみ、加護亜依、辻希美の姿を認識した時、
否応も無く自らの違和感の正体が判明することとなった。
それは何とも滑稽な光景だった。
3人は己の頭部に、元々の頭の倍はあろうかと言う
巨大なフルフェイスのヘルメットを装着していたのだ。
およそハリボテには見えない、何か明確な意図を持って造られたそれは、
重厚な銀色にぬめり、凶凶しい迄の存在感を誇示していたのだ。
更に、それでいて殆ど苦にならない程度の軽さであることが、
およそバラエティ番組には似合わない程、紛れも無い本物を感じさせた。
そして、言うまでも無いが、自分もアレを被っているのだ。
短い電子音の後に、ヘルメットのスピーカーから石橋と中居の声が流れ出してきた。
狭いヘルメットにしては大きめの音量なので、一瞬、加護亜依は若干ながら顔をしかめた。
石橋「・・・今から、君等に簡単なゲームをやってもらうんだけど・・・」
中居「ど?」
石橋「ゲーム時間は長いから、心配な人は先にトイレにいっておくように。」
中居「そうそう… って、ちげーだろ?おぃ、ルールの説明だよ。」
石橋「あー、そうだっけ? まあ要するに腰のホルスターの銃で、
登場するモンスターを撃てば良いんだよ。
で、制限時間内に一杯得点した人の勝ちって訳よ。」
中居「ちなみに、おやつは禁止だぞ。」
石橋「・・・」
中居「何だよ?」
石橋「・・・」
中居「でも、すげーリアルだよな。これ。
さっきやった時マジで、オレ感動したもん。バイタルリアリティーってヤツ?」
石橋「・・・アミノじゃないんだから、それを言うならヴァーチャルだろ。
まあ、という訳で勝った人が中澤たちの中の勝者と決勝を戦えます。
じゃ、そこの出口から出たところでゲームスタート。
あー、因みにヘルメットは戻ってくるまで脱げないからな。」
不満の声をあげるメンバー達を尻目に、ヘルメットの内で亜依は苦笑を噛み殺していた。
自分達は一体いつまで新旧ネタをやらされるのだろう・・・
何か、それ以上に発展するものを見つける事が出来なかったので、
今じゃ、こんな様。まあ、自業自得なんだけどね・・・
この数年で、身長はメンバーの中でも、大きい方に成長していた。
伸び行く身長に反比例して無邪気さを失った亜依は、
茶番劇をいつもの様に距離をとって観察していた。
ヘルメットからこぼれた短めの髪が、微かに襟足をくすぐったように感じた。
ここは何処なのだろう?
漆黒の闇の中で、市井紗耶香は呆然と立ち尽くしていた。
混乱に包まれながら、頭を軽く2、3回振ってみたが、
今この状況に至る過程を思い出すことは、どうしても出来なかった。
やがて盲滅法歩き出した。どれだけの時間が経った頃だろう。
微かな細い泣き声を聞いて振り返った時、
紗耶香は狐につままれた様な光景を見た。
闇の中で、中澤裕子が泣いていたのだ。
後藤真希も泣いていた。安倍なつみも泣いていた。
飯田圭織も、福田明日香も…
皆が闇の中で異様にくっきりと、
しかも、一体どうした事なのだろうか、空中に思い思いの状態で。
それは、まるで悪夢の様だった。
慣れ親しんだ者達が、自分の前後上下左右で泣いているのだ。
幾ら歩みを速めても一向に傍には寄れず、
どんなに力の限り呼びかけても、
声も、思いも届く気配すら感じられなかった。
誰が、これに耐えうるというのだろう。
程なく紗耶香の、空間認識が、自己認識さえもが、
得体の知れない不透明さに侵食され始めていた。
石黒彩は、改めて強く唇を噛み締めた。
目を覚ました次ぎの瞬間には、
状況が普通でないこだけとが理解できていた。
何せガスの様なモノで眠らされた上に、
こんな何処か解らない場所に、一人でほっぽり出されているのだ。
TVロケと言うには、笑って済まされない程のたちの悪さだった。
絶対普通じゃないって、これ・・・
勿論、気がついた後、何度か声を張り上げてはみたが
一向に応答の返ってくることは無かった。
返ってきそうな気配すら全く感じられなかった。
疎らな木々の間から、少し離れた所に小高い岩山が見えていた。
状況が解らない以上、多少なりとも高い場所から、
現況の把握に努めるのが得策だろう。
山の手前側は切り立った岩板になっており
明らかに素手で登れないことは見て取れたが、
向こう側は、登れないことは無いかもしれない。
厚く薄暗い冬の雲が、薄手のカーディガンだけの彩には不安だった。
日が落ちてしまえば、この季節が一番大敵だろう。
時間制限を強要された訳では無かったが、
状況が時間の大切さを雄弁に物語っていた。
それでいて何をすべきかは、皆目判らないのだ。
目の前の課題に取り組むことで気を紛らわさなければ
不安に押しつぶされそうだった。
110 :
po:03/09/19 08:09 ID:idVJYyor
もっとわかりやすく書く努力をしろよ。
簡単なコトバで書くのが一番ムズカシイんだからな。
サラッと読めて、それでいて しっかり頭に入るように。
うーん、一番難しいかどうかは知りませんが、
仰ることは、よく解りますよ。
ただ、如何せん冒頭で
poさんの望むの正反対の方向に
努力を始めてしまったモノなので・・・
悪しからずご了承ください。
明るく比較的清潔感を感じさせる部屋だったが、
さっきの部屋との共通項は生活感に全く欠ける感じ、
究極の機能美と言うべき様相だった。
目線だけを動かして二度部屋の中の面々を確認し、
中澤裕子は自分自身にしか判らない程小さく一つため息をついた。
なっちゃん、圭織、圭坊、後藤… だけか… 矢口は…
石川達は、若い娘達は居ないの…
足りない顔が、この部屋に奇妙にポッカリと穴が空いた感じを演出していた。
寂寥感に浸る裕子の表層を、浮ついた声は淡々と流れ、
壁に写る歪んだ粗末な映像が素っ頓狂な茶番劇を続けていた。
「…で、ゲームでのお前等の目的は、このクリスタルを集めること…」
「…幾つあるとかは言えねーけど、制限時間内に一番多く集めたヤツが勝ち…」
「…特設ステージは大して広くねーから、すぐ見つかるって…」
永遠とも思える長い沈黙の中、何時の間にか能書きは終わり、
重厚そうな出口が似つかわしくない安っぽい音を立てて開いた時、
裕子は黙って機械的に歩みだしていた。
4人分の足音が続いた。
何処までも、何処までも、漆黒の闇の中を落ちてゆく感覚。
息苦しいほどの急降下ではないが、
かと言って、その場に浮かんでいるような感覚では無い。
人体構造上の限界まで四肢を伸ばしても、無論触れるものの無い闇である。
市井紗耶香は、どこまでも落ちていくだけだった。
何時間か、いや或いはコンマ何秒後だったのだろうか、
紗耶香は眼前に巨大な水面が見えた時、
ただ呆然とそれを眺め、それに高速移動していった。
それに向かうことには何の懸念も無かった。
むしろこの暗闇に、終焉を告げるように
突然ポッカリと詐術の様に浮かび上がっってくれた
相当量の水?のサービス精神に半ば感心していた。
程なく、紗耶香は、それに叩きつけられた。
それは想像してた光景とは全く異なっていた。
自然が一杯、一面樹木、文字通り森の中だったのだ。
念押しするように振り返った中澤裕子の目に映ったのは、
硬く閉ざされた扉と、窓一つ無い古ぼけた巨大なコンクリートの建物だった。
建物の際はビッシリと植物に密着され、辛うじて木々の隙間から見える限りでは、
左右方向には数メートル高さの手がかり一つも無いコンクリート壁が続いており、
明らかによじ登れる様子ではなかった。
目の前にある森の奥へと続く小道は、
自分達を次の地点に、あからさまに誘導していた。
そこに演出者の悪意が敷き詰められていることは自明であろうが、
それでも、ここに立ち止まっている方が演出者の意に背くことになるだろう。
進むしかないのだ。
それが、賢明だと思わざるを得なかった。
誰も一言も喋ろうとしなかった。
やがて、ゆっくりと、重々しい歩を進め始めた一行から、
後藤真希が遅れ始め、歩みを止めるまで、ものの20メートルも要さなかった。
― 後藤、どうしたの? ―
振り向いて、最初に声をかけたのは保田圭だった。
飯田圭織は俯いて押し黙ったままであり、
安倍なつみは、何か言いたいのか若干口を動かしかけた。
裕子は一同の様子を、横目で確認した後に、
口を開きかけたのだが躊躇していた。
確かにゲームだとは言われた。
でも、あからさまに危険そうなこの状況で、
どうしてこの子は、勝手な行動を取ろうとするのだろう…
いつもいつも… そう、いつもいつも…
どうしてこの子は… ドウシテコノコハ・・・
激し始めた裕子の、その気勢を削ぐかのように、
押し黙っていた後藤が、何か思いつめたようにポツリと言った。
― 心配しないで先に行ってて貰って良いよ。 ―
額の真中に落ちた一滴の雫が、眉間から頬を伝い首筋を流れていった。
…冷たっ…
意に染まぬ突然の覚醒時に反射的に身を起こした市井紗耶香は、
盛大に露を満載した葉の中に顔を突っ込むこととなった。
目の前に盛大に垂れ下がる葉を払いのけ、
自らの全器官に覚醒を促しながら、紗耶香は状況の認識に努めた。
…っつ、どうして、こんな所に居るんだろう。
…収録中に、スタジオで…
…要するに …眠らされて運ばれてきた訳かな…
どう考えても、まともな状況だとは思えなかった。
兎にも角にも、打開策を考えようとした紗耶香は、ある事に思い立って、
そのピチッとフィットしたジーンズのポケットに手を伸ばした。
あった。
携帯電話だ。
本来はスタジオに持ち込んだりはしないのだが、
あの時に限り、まるで何かを予見するかのように
何となくバイブにして持っていたのが幸いだった。
外部かメンバーの誰かに連絡を取る事さえ出来れば、
状況は今より遥かにマシになる筈…
っと、愛用の携帯の液晶画面を覗き込んだ紗耶香は、
すぐに目を伏せて、軽く溜息をついた。
― 圏外 ―
まあ、ひょっとしたらと言う思いはあったが、
現実にそれを提示させられると、否が応でも不安をかきたてられた。
スタジオに居たのが昨日の夕方であるから、
それからおよそ一日弱が経過している事になる。
屋外であるにもかかわらず、電波の届いている気配は全く無いのだ。
一体ここは何処なのだろう… 何処に連れてこられたのだろうか…
幸いというべきか幾らも無い場所に、
登ることの出来そうな岩山が在るのが解った。
場所の確認と高いところに行けば電波が入るかもしれないという思いから、
立ち上がった紗耶香は、足早にそれへ向かった。
日時を確認したことで若干の空腹感を感じ始めていた。
一行が森の奥に消えたのを確認すると、後藤真希は方向を転じた。
やばい事は十分過ぎるほど解ってるよ。
正直言って結局誰も残ってくれなかったことは寂しいけれど、
それはそれと割り切るしかないってことか…
軽く小鼻を鳴らした後に、
真希は今出て来たばかりの建物を再び慎重に確認し始めた。
普段のぼーっとした姿からは想像出来ないほど
緻密に、かなりの時間をかけて、出口周辺を確認していた。
どうも、これは古い建物っぽく見せかけてるだけだね・・・
・・・マジで、やばいと思われ。はは…
しばらく口をすぼめて考え込んだ後に
真希は建物に沿うように茂みの中に、
強引に分け入っていった。
道無き道と言うほどではないのだが、
非常に歩きにくいことは確かだった。
足元は泥濘気味であり、
生い茂る雑草、樹木が巧妙に行く手を阻んでいるようだった。
森全体が不快な湿り気を帯びていた。
一見した印象とは裏腹に、進むほど、その性悪な本性が感じられた。
気力を振り絞り一歩進む度に、体力が鉋で削り取られていく様だった。
その奇妙な人?に、石黒彩が気がついたのは
岩山の周りを3分の1程まわった頃だった。
最初は遠目なのでそれ程はっきりと解った訳ではないが、
明らかに奇妙な光景だった。
彼女等は足元のダサい長靴以外、全身普通の衣装であるにもかかわらず、
頭部のみ銀色のフルフェイスヘルメットで覆われていたのだ。
さらにその二人の手には明らかに銃?と思われる武器が鈍い光を発していた。
…何よ、あれは? 宇宙人?コスプレ?…
双方の距離が近づくにつれて、はっきりとその様態が見えてきた。
と同時に、彩は緊張していた肩の力を一気に抜いた。
何のことは無い、それは石川梨華と吉澤ひとみだったのだ。
黒い半透明のフェイスガードの下の顔は、よくは見えないが間違いない。
その肌の色、体型、片方のちょっとセンスを疑いたくなるようなピンク基調の服装と言い、
幾ら付き合いの浅い彩でも見間違え様が無い位はっきりと、
その二人を形作っていた。
彩は軽く二人に声を投げかけた。
「よっすぃー、何かモンスターは見える?」
「うんにゃ全然。しかしさあ、この画面、何と言うか・・・ 凄いよね。」
「うん。何か解らないけど、メーターみたいなのが一杯あるね。」
「貴さん達も、もう少しちゃんと説明してくれれば良いのに…」
「うん。でも、その方が面白いと思うよ。とにかく頑張らないと。」
「はは、梨華ちゃんらしいコメントだね。」
石川梨華は他愛無い言葉を、右側を歩く吉澤ひとみと交わしていた。
そのヘルメットのフェイスガードの部分は閉じた状態であるが、
内側には若干セピアっぽい色彩ながらも外の光景がハッキリと映し出され、
そこに重なる様に様々なメーターが映し出されていた。
それらが、どういう仕組みなのか、梨華には全く理解出来なかったが、
何か凝った仕掛けであることは判るし、
フルフェイスのヘルメットも特に閉塞感は感じなかった。
気の利いた事に、隣を歩く吉澤の顔の部分は
まるでフェイスガードが無いかのように
ハッキリと映る様に出来ていたし、会話も特に意識すること無く
喋れば伝わるし、吉澤の言葉も違和感無く聞こえていた。
あまりにも自然で、梨華が意識することは無かったが
それは驚くべき技術の結晶であった。
出発してからどれほども歩いたのだろうか、
殆ど時間が経った気もしなかったが、
突然立ち止まった吉澤が、ポツリと言った。
「ねえねえ、梨華ちゃん、あれがモンスターじゃない?」
なるほど、言われてみれば、前方の木々 ― 楡か何かだろうか ― の間から、
白熊の様な姿がチラチラと見えている。
「あ、この左側のヤツがレーダーじゃない?丸付いてるし。」
吉澤の言う様に、左側の端にある計器はレーダーらしかった。
よくゲームとかであるように真中やや下よりが自分の位置で、
前方少し右手にある丸印がモンスターを示しているようだった。
確かに実際の白熊?の位置と合致している。
・・・1、2、3本
白熊までの距離が30mぐらいだから
レーダーの自身の位置を基底とする円の一つが
10mを示しているようだった。
いよいよゲームの開始なのだ。
梨華はモデルガン?を握った手に若干力を込めた。
少し汗ばんでいたが、それは心地良い緊張感だった。
颯爽と銃を胸の前に持ち上げると、
画面の中に二つの四角が現れた。
動きからみて、一つは自分の銃の照準らしく、
もう一つはターゲット上に固定されていて、
そのすぐ上に「SHOOT!」と表示されていた。
「いくよ!よっすぃー。絶対負けないからね。」
梨華は、高々と戦闘開始を宣言した。
右腕に感じられるモデルガンのリアルな重さが
否が応にも気分を高揚させていた。
石川梨華と吉澤ひとみの銃から放たれる光弾が、
石黒彩の周りの己の胴ぐらいある太さの枝を
次々といとも容易く粉砕するのを見て、初めて現実の危機感を認識できた。
福田明日香は迷っていた。
明日香の目の前には ― と言っても20m程度の距離はあるが ―
石川と吉澤の二人の背中が見えていた。
明日香は、二人のその風体から、確たる根拠は無かったけれども
敢えて一旦無言でやりすごしたのだ。
目を覚ましてすぐに状況がまともでないことは想像出来た。
何故こんな所に放置されているのか?
明らかに何かの意図をもって意識を奪われた後の出来事だし・・・
信頼できる娘以外はシカトしようと決めたばかりだったのだ。
この状況、どう見ても冗談で済まされる様子ではない。
放っておけば石黒の人生は遠からず幕を降ろす事になるだろう。
・・・どうする? …って出て行くしかないよね。
・・・見過ごせる訳無いよ・・・
小さく一つ息を吐いて、唇を硬く結んだ明日香は、
老木の陰を飛び出ると一直線に二人に向かって走り出した。
…はは。結局、私って根が甘ちゃんなんだよね。
二人居ても距離を詰めて引き倒せば何とかなる。
…お願い、何とかなってよ。・・・
te
この岩の上が頂上かな…
斜面にもたれかかるように身体を預けながら、
市井紗耶香は再びポケットから携帯電話を取り出した。
― 圏外 ―
…くそっ、駄目か・・・
誰も居る訳ではない。落胆の色を隠す必要も無いので、
盛大に溜息をついて、再び岩登りに移ろうと身体を捻った時だった。
紗耶香の耳に、押し潰されたエネルギーが
弾ける様な禍々しい音が次々と飛び込んできた。
携帯を取り落としそうになりながらも、
上半身の力で身体を最上部の岩の上まで引っ張り上げた。
ようやく視界に取り込んだ、その光景は
紗耶香の目には、とてもリアルなものとは思えなかった。
眼下 ― 反対側は殆ど垂直の急斜面だった ― には、
頭部を銀鈍色のヘルメットで覆われた人間が二人が
とち狂ったドラマを実演していた。
その狂演者二人の乱射に晒されている者、その二人の背後から飛び出した者…
たちの悪い茶番劇が丁度クライマックスを迎えているところだったのだ。
…あれって… 明日香と彩だよね?
ho
て
t
んとっと
130 :
彼氏募集中。。。:03/10/19 10:53 ID:JVdP3Avv
やめろよ、こんなカス小説
131 :
:03/10/19 15:33 ID:g1oiN5Ob
保全
小説期待してます
10発も撃つと隣の石川梨華も、そして自分も
徐々にコツを掴んできたようだった。
撃った瞬間の若干の反動で、弾道が上に逸れるのだ。
二人とも、グリップを握る手に力を入れて、
気持ち抑え目に撃つ様にすれば良いと言うことを理解してきていた。
そうは言っても、銃器など普段取り扱ったことの無い。
それから数発無駄に段階的に精度を高めた後、
ようやく石川の放った弾が背を向けて逃げようとした白熊に
続けざまに2、3発吸い込まれるようにヒットした。
白熊の頭上に「800」と表示されたのを見て、
ひとみが軽く舌打ちした時だった。
突然モニタのレーダーの部分の下、自分の後ろ側に反応があり、
と同時に画面の右上が分割され、
猪?の様なモンスターが突進してくる様が映し出された。
(…すっごーい。 !? ・・・そっか、後ろか! よっしゃいただき!)
ひとみは振り向き様、腰溜めにした銃を乱射した。
あと5、6歩…
手を伸ばせばその背中に届かんばかりの距離で、
ソイツは突然振り向き様に撃った。
もんどりうった福田明日香の身体を、
続け様に何発ものエネルギーの塊が蹂躙した。
その力で明日香の小さな身体が踊るように宙を待った。
(…あっつぅ。やっぱり…
…ゴメン ・・・ゴメンね 彩っっ…)
視線の遥か先で同じ様に崩れ落ちつつある石黒彩に向かって、
明日香は決して届くことは無い、その手を生命を振り絞り伸ばすとした。
(・・・もうダメかな・・・
・・・せめて ・・・もう一度 …に …)
それが最後の生命の炎だったことを
結局明日香自身認識することは適わなかった。
次の一撃が明日香の思考源を粉砕したのだ。
健常体ではありえない明日香の呼吸音が
瞬く間に強制的に停止させられた。
134 :
名無し募集中。。。:03/10/22 23:55 ID:F0I4Z/J3
ほ
135 :
名無し募集中。。。:03/10/24 19:10 ID:Y0xQRENp
そういえば、石川梨華って子もいたなあ。
確かおやじの影響で阪神ファンになったものの、
幼なじみの山本賢寿ってヤツが巨人に入団した途端、巨人ファンに鞍替え。
それから5年後にモー娘。を卒業し結婚。引退はせずに「山本梨華」として活動していたんだよなあ。
あ、そうそう、「はなまるマーケット」にも出ていたっけ。懐かしいなあ。
137 :
名無し募集中。。。 :03/10/26 00:13 ID:9Z6f5O4I
ぜ
>135-137
今の流れは小説の勝ち。
ん
141 :
なななし:03/10/28 11:04 ID:Ghie1sZO
新垣の命名によって北京がチャンポンチャンに改名されるとはなあ。
(よし、800点!)
白熊をしとめて、梨華が小さくガッツポーズをした時だった。
唐突にレーダーに反応があり画面が分割された。
しかも、そのウィンドゥ上部には小さく「Danger!」と表示されていた。
喜んでいたのが一瞬の遅滞に繋がったのだろう。
反射的に梨華が振り返った時には、
一足先に振り返った吉澤によってしとめられた猪?が宙を待っていた。
その頭の上には「1200」と表示されており、
もどかしい位ゆっくりと落下して地面に落ちた後も、
数発ひとみの射撃が命中すると、
それは2、3度点滅した後に、跡形も無く消滅した。
戦闘が終わっても、さすがに梨華は若干の興奮を隠し切れなかった。
上ずった声で、頭を吉澤の方に向けて矢継ぎ早に口を開いた。
「ねえねえ、よっすぃー。すっご〜いリアルだね。このゲーム。」
「後ろからも来るなんて吃驚したよ。マジで。」
「何で、よっすぃーの方が点が高いのかなあ?」
「そりゃあ、後ろからの方が強敵だからだって。」
「う〜ん。でもコツは解ってきたから負けないよ。」
「ははは、流石に梨華ちゃんには負けないって。」
「ひど〜い。」
二人は、もう現場には何の関心も示さずに、
この薄暗い森の中を再び歩き始めた。
(あっ あっ… あぁ… 何で? 何故? どうして?)
市井紗耶香は眼前で一瞬にしてかけがえの無い友人を
二人同時に失った悲しみもさることながら、
この現実を認識できずに、ただ混乱していた。
無意識に口を抑えた両手の隙間から、
呼吸困難に近い嗚咽が低く静かに漏れていた。
穏やかな風が風が髪をかき乱し、ようやく落ち着いてきた頃に、
ポロリと大粒の涙が一つ紗耶香の頬を伝い落ちた。
理不尽さへの憤り、悲しさ、何も出来なかったことの悔しさ…
四方の空間の余裕が、何処までも続く灰色の空が、
一面の海原が、今の紗耶香には残酷なほど広大だった。
何度も、何度も深呼吸を繰り返した後に、
やがて紗耶香は、滑るように岩斜面を降り始めた。
144 :
あほか:03/10/29 03:05 ID:CuO13Rvm
そう言えばあの頃2chなんて掲示板があったなあ。皆色々な書き込みをしたもんだ。
でも中には場違いで意味不明で面白くも無い小説みたいの書いているバカがいたなあ。
しかもそれを賞賛している大バカもいたっけ。
そんな程度の低かったヤツ等、今はどうしているのかなあ……
145 :
名無し募集中。。。:03/10/29 03:11 ID:OfcevR5t
なんか大勢いたよね
全部で350人くらいだっけ
福田明日香以外思い出せないけど
「ねえ、裕ちゃん… 後藤…」
「ん… うん…」
立ち止まった保田圭の呼びかけに、
中澤裕子は振り向いて、何か言いかけて、言葉にならなかった。
勢いで乱れた髪が裕子の頬を乱暴に撫でていった。
こう、改めてみてみると、何て他人なのだろう。
確かに何年も一緒にやってきたけれど、
正直言って、今の裕子には保田の気持ちが全く解らなかった。
無論若干の理性が邪魔をして口には出さなかったが、本音で言えば、
− 放っておけば良いのに。貴方は何て底抜けなお人好しなの? −
と言う気持ちで一杯だった。
「ねえ、裕ちゃん。やっぱ、ここはやばいよ…
ゴメン。やっぱり、ちょっと後藤の様子を見てくるね。
連れて来るから、先に行ってて。」
2、3歩後ずさりした後に少し遠慮するように躊躇ってから
踵を返してもと来た道を走っていった。
最後まで実直に見える表情を崩さなかった保田の声が、
裕子の中で虚ろに反響していた。
裕子は、安倍なつみと飯田圭織に見られないように
小さく一つ溜息をついた。
まるで笛でも吹いているような
自分自身の呼吸音を聞きながら、
藤本美貴は小さく一つ身震いした。
(・・・身体が、まるで自分のじゃないみたい・・・
・・・寒い ・・・寒いよ。お母さん・・・)
気だるい身体に鞭を打って、
美貴は、もう一度だけ、道重と田中を見た。
正確には、道重さゆみと田中れいなだったモノ・・・
もはやそれは魂の抜殻でしかなかった、
無残に穴を穿たれ、赤い化粧にまみれた器。
口の中一杯に広がるの鉄の味が、
今更悔やんでも悔やみきれない事を
美貴に雄弁に語っていた。
(・・・迂闊だった。)
は
>>144 何に対して言いたいのかハッキリしろ馬鹿
150 :
144:03/11/04 16:14 ID:OYfwWMic
151 :
149:03/11/04 18:03 ID:s07ugWtm
>150=>144
その「小説みたいな物」ってのがどう言う物なのかを聞いてるんだ俺は。
「小説みたいな物」ったって多少だけどあるぞ。
152 :
144:03/11/04 20:49 ID:OYfwWMic
本当に低脳だな、お前は。
これじゃもう、どうしようも無いね。
精々これからも元気で居てくれや。じゃあな。
同窓会と銘打ったロケ。
突然の意識消失。覚醒と混乱。
そんな状態の時に、あの銀のヘルメット男は現れた。
楽しげに、まるでじゃれるかの様に
私達は撃ちまくられた。
反撃も抵抗も、状況の認識さえ許されていない。
それは単なる虐殺以外の何物でもなかった。
避けようとして避けられるものではなかった筈だ。
視界が霞み、うっすらと靄がかかり出したのが
この状況では、鬱陶しくて堪らなかった。
(・・・暗いよ、暗いの・・・ ・・・もう、夜なの?・・・)
美貴は孤独に押し潰されそうだった。
正直、ガキ、素人と内心蔑んできた、自らの周りに散らばっている
道重達の存在が、これほど愛しく感じられたのは初めてであった。
美貴の手が、近い方の田中に届きかけた時、
全身八箇所の穴から、美貴の生命の最後の雫が流れ落ちた。
精神の魂の消え去る直前、足音が聞こえたような気がした。
154 :
名無し募集中。。。:03/11/07 01:17 ID:nArJDf9v
はぜ
立ち止まって、片足ずつ少し疲れた脚を宙でブラブラと揺さぶった後に、
後藤真希は、このあからさまに登る事を拒否している
切り立った壁を見ながら、片頬をへこませてウンザリした様子で首を振った。
期待していたように壁際は植物もあまり茂ってはおらず、
それなりに歩き易かった。
しかし、期待していたようには壁は途切れることを知らず、
どこまで歩いても真希の横に聳え立ち続けていた。
壁ではない方には笹主体の藪が生い茂り、
どう見ても樹木を登って壁を越える訳には行かないようだった。
むしろ、それを防ぐ為に人為的に
壁に近い植物を伐採した名残であると考える方が自然だと思われた。
それでも真希は歩きつづけた。
理屈で理解している訳ではない。
ただ、何となく中央?に向かうのはヤバイと勘が告げていたのだ。
考えるまでも無い。今までの人生において真希の勘は、
本人の期待を裏切る事無く正解を予言し続けてきたのだ…
小説期待保全
亀井絵里が目を覚ますのと、それが倒れこんでくるのとは
どちらが先とは言えない位近いタイミングであった。
絵里が、云われないこの状況の
詳細な認識と抗議の声をあげようとして、
初めて自らの異常を知覚することが出来た。
体中が考えられないほど重いのだ。
手足はまるで鉛で出来ているかの様で、
幾ら叱咤激励を飛ばしても、頑として
喜劇の様なスローモーションでしか動かなかった。
声帯は必要な振動を制御することも出来ず、
瞼すら、通常の広さ近くまで視界を確保するのに
あらん限りの努力を必要とした。
それが背格好から馴染みのある人物であることを
認識することはさほど時間を要さなかった。
そしてその人物の頭部に輝く
見覚えのある禍禍しいヘルメットと
自らの脇腹と左腿に穿たれた穴。
まるで他人事の様に、非日常的な速度で溢れ出る物。
そこまで積み重なって初めて、絵里は状況に得心がいった。
そして、自らのこれからの運命にも。
(・・・ドウシテ? ・・・嫌ぁ ・・・いやっ ・・・イヤァァァァ)
ほほほ
159 :
あ〜あ……:03/11/15 19:43 ID:7jmdvYlC
小説スレじゃないのになあ………………
いいじゃん。小説漏れは好きだな。しかも元々このスレ自体書き込みすくなかったし。こんなスレ探せばいくらでもあるよ。
161 :
名無し募集中。。。 :03/11/16 03:02 ID:ng8q7RhJ
モー娘。って元々人間のオリジナルが存在してたの?
俺最初からバーチャアイドルかと。。。。
市井紗耶香は、その白い手足が擦り傷だらけになるのにも一切構わずに
文字通り滑るように岩山を降りた。
最後には勢い余って、泥濘に尻餅をついてしまったけれども、
一瞬の遅滞も無く直ぐに腰を上げ、
湿った森の中を、その惨劇の場所へと全力で走った。
途中2度ほど盛大に転倒したが、
そのことも、泥に塗れて汚れたことも、
謎の二人への恐怖も全く気にならなかった。
泥人形のような状態で、その現場に到着した時に、
謎の二人の姿は何処にも見当たらなかった。
ただポツンと取り残されていた石黒と福田が、
石黒と福田だったモノが、寒々しい風に晒されていた。
医学の知識がある訳ではない紗耶香にも、
明らかに二人の生命が途切れていることは
見るまでもなかった。
二人の人生の不条理な結末が納得いかなかった。
あのヘルメットの奴等は、まるでゲームでも楽しむかのように、
一方的に、極めて楽しげに攻撃していたのだ。
(・・・誰に、何の権利があって、何で、明日香と彩の…)
紗耶香の頭の中で、思考がグルグルと無限循環していた。
それはシビアでリアルな質問だったが、
変え様の無い既に結果の出ている現実の前では、
あまりにも無力で、結論を出すことは不可能だと
自覚することさえ難しかった。
二人の亡骸を木陰に移動させ、
その姿勢と服装を整え、瞼を閉ざしてやってから、
紗耶香は、その傍に座り込んだ。
髪から滴り落ちたものだったのだろうか、
少し泥の混じった雫が、ゆっくり何粒も
この狂った森の大地に落ちた。
(・・・どっ、のわぁ・・・)
青天の霹靂とはこの事だった。
加護亜依は、一瞬スクリーンに写し出した赤い光点に誘われるように
数十程歩を進めたが、まさか何も無い筈の空間で、何も無い筈のものに
蹴躓くとは事前に予想がつく筈も無かった。
そこは若干大きめの木の脇、やや開けた場所であったが、
スクリーンには空間以外何も映っていない、
地上数cmの高さに踏み出した亜依の足が
何か柔らかくかなりの大きさと重量を兼ね備えたものに引っ掛かったのだ。
避け様も無くソレの上に倒れこんだ亜依は、
更に二重三重の驚きを隠せなかった。
ソレは僅かながらの温もりを持ち
緩慢ではあるが、明らかに自らの意思で動いているのだ。
宙に浮いてるようにしか見えない自分の下の
その十数cmばかりの空間が。
傍から見れば、狂人の行いに見えるかも。
加護亜依は、その行為を続けているうちに徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
実際何と言うことだろう、自分の視界に映るのは透明な空間を
ある形に沿うようにまさぐる自らの掌のみなのだ。
まるで酷く趣味の悪いパントマイムを演じさせられている様だった。
(・・・肩? ・・・顎?顔? ・・・髪?)
その触感、その柔らかさ、その形状。
考えられるものは一つしかなかった。
(・・・人間? ・・・女の子? って、透明人間?)
顔と思しき場所を、状況を認識できつつある優しさをもって
撫で回した時、亜依はその表面を
粘性の低い水脈が行く筋か流れ落ちていることに気が付いた。
ほ
亜依はソレが急速に温もりを失っていく事に気がついていた。
ソレが何かの意思を持って亜依の手を掴んだ時、
もはや恐れは無かったし、あえて振りほどこうともしなかった。
ソレは震えながら、亜依の手に微かな刺激を与えていた。
亜依は一瞬戸惑ったが、ソレが何か意味をもった文字を
書こうとしていることにすぐに気がついた。
そして、その意味を一字一字追いようやくソレの正体と
穏やかならぬ状況に僅かながら触れることが出来た。
(エリ・・・ アイ・・・ エリ、エリ、エリ、エリ・・・)
その指が力尽き、亜依の手から崩れ落ちた時、
ヘルメット越しで拭うことも出来なかったが、
亜依は溢れる涙を止めることが出来なかった。
震える覚束ない手つきで
温かみの感じられなくなってしまった亀井の目蓋を閉じながら
亜依は無意識のうちに痛いほど奥歯を噛み締めていた。
この辺りでは、その壁際の隘路であるという特性上
殆ど無風であったが、それでも時折巻き込むように吹き降ろす風が、
保田圭の頬を緩やかに撫でる事が在った。
(たくっ、世話が焼けるなぁ・・・
何で私がこんな探偵みたいな真似をしないといけないのよ・・・)
圭が後藤の跡を追うのは、さして苦にはならなかった。
最初に出てきた建物脇に戻った時には、
建物壁際の藪は、乱雑ではないにしろ、隠し様も無く
明らかに、そこに侵入者があったことを雄弁に物語っていたのだ。
その慎重な進路の取り方、
几帳面に一人余裕を持って通れる程度に折り倒された雑木、
大胆なんだか繊細なんだかわからなさ加減が、
圭に後藤真希を確信させた。
凄く度胸があって、殆ど何でもこなせる割には、
酷くナイーブで、何処か世話を焼かずにはいられない・・・
付き合いも長く圭自身そんな後藤を
ある程度理解していると思っていたし、
後藤の方も何かにつけて、ことある時は圭を頼ってくれていた。
もう一人の大切な友人とは別の意味で、
何だかんだ言っても、圭にとって後藤はかけがえのない友人だった。
亜依は気の向くままに歩きまわった後に、
目的とした地形に近い、僅かに開けた草地に出るとその歩みを止めた。
少し湿り気を帯びた緩やかな風が、
ヘルメットからこぼれている長い髪を揺らした。
邪魔そうにヘルメット付の頭を軽く振ると、
腰のホルスターの銃を抜いた。
ヘルメットがどうやっても脱げそうに無いのは、
既に何度も確認した。「脱ぐな」ということは痛いほど解った。
次は物々しげな銃だ。
両手を使って、銃口からグリップ、安全装置?に至るまで
じっくりとソレを検分する。
(・・・なるほど。 「見た目」と同じの様やわ。)
と、亜依は銃口を少し先の古木に向けた。
慎重に狙いを定め若干汗ばんだその人差し指に力を込める。
次の瞬間、光と音の糸が一直線に伸びていった。
(…まあ、70点ってところやろなあ。)
静寂を打ち破った銃弾は狙った洞の20cm程上を破壊していた。
軽やかな足取りで幹の傍まで移動した亜依は、
丹念に、たった今破壊した部位を調べ始めた。
(…それなり …と言うか十分な威力がある訳や。
傷痕も「見た目」通りやな・・・
…それにしても、このヘルメットけったくそ悪いで…
…何かが …何か …っつぅ!!)
突然、亜依の右中指に焼ける様な痛みが走った。
無理もない。見ての通り銃痕の逆立った部分が
指の腹に突き立っているのだ。
脈打つような痛みが続き、
生暖かいものが盛大に体外に溢れ出すのが感じられた。
そして、亜依はソレを見てようやく、
どこかホッとしたような、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
(…はは。ソレはと言うか、ソレも、やっぱり画面には映らへんのか。)
どれ位待たされたのだろう。
座った状態とはいえ、これほど味も素っ気もない部屋で待たされることが
意外な程苦痛である事に、新垣里沙は今更ながらに気がついた。
正面の灰色のスクリーンは依然として、辛気臭い沈黙を続けていた。
紺野あさみが小さなクシャミを発したのを契機に
何となく口数の少なくなっていた四人は、
改めてお互いの顔をまじまじと見合い、苦笑を浮かべた。
何となく、空気が軽くなったように感じられた。
タイミングを逃さぬよう、理沙が口を開きかけた時
初めて部屋の様相に変化が現れた。
入口扉がまるで氷の上を滑るような極上の静粛性を発揮し
音も無く新たな二人の侵入者を迎え入れたのだった。
5期キター
更新乙です
「・・・はい、お待たせしましたぁ。」
「んじゃ、早速だけどゲーム始めっか。」
「おぃおぃ、いきなり過ぎねえ?」
「んだよ、放送時間があんまりねーんだよ。はい、舞台さんお願ーい。」
「はい、皆さんは立ち上がってくださーい。」
石橋と中居のいつも通りの軽妙なやり取りと
TV的な強引さに小川麻琴は辟易としていた。
音も無く降りてきた円柱状の巨大なガラス管の中に
一人一人が別々に入る格好となった。
椅子は麻琴達が立ち上がるのを待たずに
半ば立ち上がることを強制するかのように降下し
嘘の様に影も形も無く床下に格納されてしまった。
空間の形状の突然の変化に伴う
斬新な音相が麻琴に久方振りの刺激をもたらしていた。
石橋と中居の作り物めいたナレーションは
尚も途切れること無く目に見えない何かを紡ぎ出していた。
「・・・要は、画面に映ってる中澤達が、
そのクリスタルを取った瞬間に
目の前のボタンを押せば良いんだよ。解るかぁ?」
「勿論フライングは駄目だぞー。」
「で、早く押せた順に得点が高いって、寸法よ。」
「で、お約束だけど一番遅かったヤツには罰ゲームが待ってまーす。」
「と言う訳で、何か質問がある人手を上げてー。」
!? ゲームの内容が台本と違う・・・
紺野あさみは不安を隠し切れなかった。
そこはかとなく感じられる今回の収録における何処か冷たい感じ。
同期4人のみでの移動だったが、
移動途中からこの建物の前で起こされるまで
眠っていたのは確かだけれど、
不自然に記憶が途切れていること。
更に今も姿が見えないし、到着以来この建物の中には
スタッフと言える姿が殆ど見られなかったこと。
何もかもが違和感を掻き立てずにはいられなかった。
ぼんやりとして、焦点が合ってはいないものの、
それらのピースが合わさって出来る事象が
良い方向のものであると考えられるほど
あさみはオプチミストではなかった。
そうする事で、兎に角何かする事で、
不安を振り払えるかのように
あさみは挙手し発言を求めた。
「すみません! ・・・えっと ・・・その、フライングも罰ゲームなのでしょうか?」
(・・・私ったら、いったい何を言っているのだろう?)
内心、若干苦笑しながら己の発言を省みることが出来る程度の余裕が
この時の、あさみには未だ残っていた。
ほぜむ
-小説更新乙-
通電を匂わせる一瞬のノイズの後に、
天井に埋め込まれた小さなスピーカーが
しゃがれた中居の声を再現した。
「あー、そりゃ勿論フライングも罰ゲームだっぺ。」
高橋愛は答えに納得しかけた所で、些細な困惑を覚えた。
試行錯誤し脳内の情報保管を取り払うことに
数瞬を要した後、愛は、ようやくその原因を探り当てた。
ソレは紺野あさみの質問に対する返答だったのだろうが、
あさみの質問する様は、勿論ガラス越しに見えてはいたのだけれども、
その質問した声は、一切、愛には聞こえなかったのだ。
つまり、このお世辞にも広くいとは言えない室内で
自分達4人は、お互いの姿は手に触れんばかり近くで見ることが出来るけれど
それ以外の、視覚的な情報以外は一切合切お互いの様子が判らないのだ。
何かが少しずつ間違った方向へ動き出している、
何か得体の知れない重圧感に息が詰まりそうだった。
愛は、無意識に両の掌で口を覆っていた。
他人のように大きな自らの呼吸音が割れ鐘のように耳に響き渡っていた。
− Allez cuisine! −
愛が何かを叫びかけた時、
4人の思いを他所にゲームは淡々と開始を告げられた。
いい加減変わらぬ光景に何回目かの飽きがきた頃
後藤真希の眼前が忽然と開けた。
執拗に視界を遮ろうと奮闘する笹を
こじ開けるように突破すると
壁際に直径20m程度の半円状の広場が
まるで馬鹿にするかの様に
その開放的な姿を惜しみなく披露していた。
(・・・んぁ!?)
その、広場の丁度真中辺りに、あからさまに人工的な
まるで司会台の様なオブジェが鎮座しており
一番目立つ台上の中心には、
そう、あの今回のゲームの目的であるクリスタルが
取ってくれと言わんばかりに、その煌びやかな姿を
見せびらかしていた。
(・・・あれが ・・・例のブツだよね・・・)
真希は、発見以来その物体を凝視し続けていた。
我知らず、呼吸器と循環器が回転数を上げ、
新鮮な空気をより以上に取り込もうと
小鼻がその存在を主張していた。
手を伸ばせば届くような距離に立っても、
真希は、両掌を、まるで何かを抑えるように
自らの髪を撫でつける事に専念させていた。
風が堪らなく生暖かく感じられた。
180 :
名無し:03/12/07 00:43 ID:N8mL81fI
んー、スレ建て日敵にはそろそろ即落ちモードなのでしょうか・・・
じゃぁ保
漏れも保
ホゼン
「ねぇ、あれ見て? あれがその何とかって言う宝石じゃない?」
安倍なつみが突如素っ頓狂な大きな声をあげたので
飯田圭織は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべかけたが
慣れない努力に励み、何とかそれを奥底に投げ込んだ。
(何で、いつも、なっちは・・・ ばか・・・)
その行為自体は何ということは無いことは
理性の片隅で解ってはいるものの
圭織自身は何か得たいの知れない焦燥感に掻き立てられていた。
空気が読めない、配慮が出来ない、
危機感がない、自分勝手・・・
暴走気味になつみに対し次々と浮かびかける罵詈雑言を
理性で辛うじて押さえ込み、数瞬の後、
圭織は何とか角が立たないと想われる内容で口を挟んだ。
「・・・でもさ、なっち。この距離だとはっきりとは判ら・・・」
「でも、きっとそうだべさ。」
最後まで言わせず、歩みを速めたなつみに向かって
圭織は尚も何かを言いかけたが、中澤裕子と顔を見合わせると
慌ててその後を追いかけ始めた。
確かに、狭い森の小道の奥の開けた場所に、
何か人工の台のような物は見えていた。
その上に何か綺麗なオブジェが乗っているのことは
遠目といえども判別は出来た。
それでも、圭織の早足に枯葉を踏みしめる足には若干の力がこもった。
流石に辟易としてきて、保田圭は少し乱暴に頬を撫でる笹の葉を振り払った。
少しずつ顔を覗かせた苛立ちがその顔を7分目まで見せた頃に
ようやく、少し開けた場所に辿り着くことが出来た。
視線の先に見覚えのある後姿があった。
その向こう側には何か装置か構築物のようなものがある様だった。
すらりと引き締まった体躯と、僅かながらの風に揺れる長い髪、
何処か誇り高い野生を感じさせると共に、
儚げな哀しさもその後姿に纏わりついていた。
ほっとした気持ちの反面、それは、
圭に、手の届かない、望んでも得ることの出来ない
何かを痛切に感じさせた。
しばしその後姿に言葉を失っていた自分を恥じ入るように
圭は無意識のうちに軽く唇を噛んでいた。
歩を進めながら、その後ろに声を投げかけた。
− 後藤っ −
186 :
名無し:03/12/08 23:05 ID:1KPyQEH8
ほぜありがとうございます。
更新乙〜。
更新待ち保
保
念のため保全
ソレまで2m程度のところで、
一瞬何かにつまずいて体勢を崩しかけたが、
控えめに言ってもあまり良くはないと自覚している
運動神経を総動員し、事なきを得て
安倍なつみは、狙い通り一番最初にソレの側に立つ事が出来た。
(・・・凄い、綺麗・・・)
青く澄んだソレは、まるでそれが生きているかの様に
艶かしくも滑る輝きをひけらかしていた。
特に固定されている様子も無い。
ソレは、まるでこの空間に迷い込んだ別次元の異物だった。
際立って他とレベルが違うといわんばかりの
存在感を持っており、
片手に持てる大きさにもかかわらず
一向にそうと感じさせない、まさに場の支配者であった。
ちらりと後ろを振り向いた時、
飯田は未だ先程なつみが蹴躓いた辺りであり
中澤に至っては更に未だその数m後ろであった。
なつみは満面の笑みを浮べ、ソレに手を伸ばした。
一瞬モニターがノイズに満たされた後、
画面に映し出されたのは、先程の説明にあったクリスタルと
その側に立つ安倍なつみだった。
紺野あさみは慌ててボタンの上に手を伸ばした。
画面の中の、安倍は、まるで囚人服の様な
普通先ずあり得ない格好をしていた。
その風に揺れる髪に見え隠れする不思議なヘッドセットも
それなりに業界に居るあさみですら見た事が無いものであるし、
何よりも安倍の居る場所が
およそ通常のロケでは考えられない様な
現実離れした、逆にある意味自然すぎる光景であることも
あさみに、奥歯が軋むような違和感を覚えさせた。
(・・・音が無いのって、結構タイミング取り辛い・・・)
あさみが左右に視線を走らせ同期の面々の様子を確認しようとした時、
一瞬こちらを振り向いた安倍がクリスタルに手を伸ばした。
ホゼン
ほ
ほ
ほぜーん
念のため保全。
期待sage
安倍なつみが、ソレを取り上げた時、
中澤裕子は、思わず声をあげかけた。
まるで空間が突如牙を向いた様だった。
数度響き渡った乾いた打撃音と同時に、
眼前数mの所にいた飯田圭織の身体が宙を舞い、
酷く不吉なダンスを演じながら、
ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
奇妙に規則正しい数秒間隔で、
飯田の身体は地面の上で、尚ダンスの続行を試みていたが、
やがて徐々に動きを緩慢にダンスをフェードアウトさせた。
裕子は、振り返った安倍と顔を見合わせながら、
ただそれを呆然と眺めているしかなかった。
自分の鼓動がやけに耳につくことが不思議だった。
飯田の極限まで見開かれた動かない瞳を見ていると
まるで自分がそこに吸い込まれていくかのようだった。
モニタの中の安倍の手元がズームインされ始めた。
高橋愛はボタンの上に伸ばした手に神経のフォーカスをセットし
モニタの中の安倍に視線を走らせた。
(・・・負けたく、負けたくない。)
同期の中で負ける訳にはいかなかった。
その後の経過がどうであれ、同期の中で、加入したその時から
己が一番優れてい続けていると言うプライドが愛の拠り所だった。
そこだけは絶対に譲る訳には行かないのだ。
何が原因であるのか異常に気分が高揚していた。
すうっと視野がモニタのみに限定され、
時折起こる筋肉の僅かなひくつきが奇妙に気になった。
掌や腋、背中の表面を零れ落ちる汗の量、軌跡までも
知覚できるほど感覚も鋭敏になっていた。
無意識に喉の渇きを癒す為、愛が僅かに唾を飲み込んだ時
安倍の手に動きが起きた。タイミングを図り、その動きを追い、
生涯最高の大胆な正確さで、愛は自らの腕に力を込めた。
ほぜ
更新乙保全
ほ
押下したボタンが予想以上にスムーズに浮かび上がってきた。
小川麻琴は、その動きに合わせるように、床に落としていた視線を上げた。
モニタ上に過剰な演出効果に彩られながら、
先程の一幕の結果がゆっくりと、馬鹿にしたような大きなフォントで映し出された。
(よしっ、一位!)
薄暗いモニタには、上から順に、1位小川、2位新垣、3位紺野と並んでおり、
その下の高橋の横には×印が付加されていた。
一瞬の通電ノイズの後、天井のスピーカーから、中居の素っ頓狂な声が響き渡った。
「おいおい、高橋そりゃ早過ぎるっぺ。
取ったってのは、触った時じゃなくて、持ち上げた時だぞ。とろくせーなぁ。」
反射的に、麻琴が視線を投げかけた時、
高橋は蒼白な顔面で、右手薬指の爪を噛み、
カタカタと小刻みに身を震わせていた。
その高橋の居る筒と、三位の紺野の筒の表面を、
何か靄がかかるような液体が盛大に流れ落ちだし始めたのを
麻琴は黙って見つめていた。
我知らず、麻琴自身の身体も微かに震えだしていた。
天井に吸い込まれている、この鬱陶しい筒の際から
何かが盛大に流れ落ち始めた。
この狭い筒の中では、盛大に流れ落ちるソレの発する
音響が想像以上に騒々しく、紺野あさみは僅かに眉をひそめた。
ソレに濡れることを回避すべき行動に一瞬思いを馳せたが
あさみが無駄を悟るのに殆ど時間を要しなかった。
筒の狭さに比して、ソレの勢いが良すぎた。
何より上下に逃げる術がないのだ、それこそ目の前の
ボタンの上に立つ位しかこの空間には逃げ場が用意されていなかった。
(・・・お、お湯?! ・・・それにしても、生暖かくて気持ち悪い・・・)
生暖かいソレは凄まじい勢いで狭い筒の中を満たしつつあった。
あさみは己の靴と靴下が沈んでいく様を
憮然として眺めているしかなかった。
− 苦虫を潰したような顔ってこんなのかな。 −
反射率の高い床を被う水面に歪んで映る
己の顔を見て、あさみは一人ごちた。
更新乙保全。
漏れも保全する
んぜほ
( ^▽^)<保全なのら〜
ほぜ
− かおりっ −
我に返り飯田の所に駆け寄ろうとし
中澤裕子は、慌てて足を止めた。
何かがその原因なのだ。
飛来するものが認識できなかった以上、
何かが、原因となった何かが
飯田の居る空間にあったとしか
裕子は考えざるを得なかった。
急激にペースを落とし、
慎重に歩を進めた裕子の眼に
飯田の足元のあるものの存在のアピールが飛び込んできた。
土が薄くなったその部分から顔を覗かせる、黒いケーブル様のもの。
思えば安倍が躓いたのもこれによるものだったかもしれなかった。
黒く鈍くメタリックな光沢を見せるソレは、
形状的にクリスタルの乗ったオブジェを
ぐるりと囲むように埋設されている様だった。
(・・・感、電!?)
歪みきった表情の飯田は、
裕子の疑問に答える気配の欠片も無かった。
開ききった飯田の瞼に
ゆるゆると手を添えた裕子の髪に
嗚咽と涙が降り注いだ。
ノノ*^ー^)<ほぜんしまーす
保
ぽ
更新乙!そして保全!
・・・かお・・・ ・・・なっちのせいなの? ・・・い、いや・・・
切れ切れに降り注ぐ涙と嗚咽の隙間から
辛うじてセンテンスを拾い集めて、
中澤裕子は頭を振った。
(・・・そうじゃないでしょ・・・ なっち・・・)
飯田圭織の身体が温もりを失っていくのに、
合わせるかの様に、心に霜が降りていくのが裕子には自覚できた。
ただ、それ以上に、今はそれ所ではないことは理解できていた。
何かを振り切るかのように、裕子は数秒間固く瞼を閉じると、
必要以上に勢い良く立ち上がった。
− おい、中澤・・・ 安倍のせいで、ジョンソンのヤツ可哀相だったな・・・
・・・クリスタルの乗ってた台座の柱の所開けてみろよ。
護身用の武器が入ってるから。念の為に持っていた方が良いぞ・・・ −
タイミングを図っていたように、
ヘッドセットから石橋の声が流れ出した。
冷たくなった飯田と、泣き尽くす安倍、
寒々しい空と、鬱々しい木々、草、灰色の大地。
裕子には、もはや逃げ場は無かった。
(・・・良いよ、シナリオに乗ってやる。 絶対に、後悔させてやる・・・)
無言で、手早く銃を取り出した裕子は、
軽い悲鳴をあげ怯えたを浮かべ後退りかけた安倍に
最大限に優しい声で語りかけた。
「なっち、行こう。 ・・・その、あれは、あれは誰が悪い訳でも無いよ・・・
悪いのは、捻じ曲がったこの茶番劇の演出家なんだから・・・」
保田の声が耳に飛び込んできた時、
後藤真希は正直嬉しかった。ただ、それを言葉にすることが苦手なだけだった。
− あっ、圭ちゃん・・・ −
傍らまで来て、此処までの道程で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように
矢継ぎ早に話し掛ける保田のペースに付いて行けず
相槌を繰り返すだけで真希は精一杯だった。
口は悪いし、物凄く頼りがいがあるとも思えないけれども
それでも、この先輩が、自分を心配して、
単身己の身の安全を省みず追って来てくれたという事実は
どれだけ感謝しても足りなかった。
傍らに立つ汗まみれの保田の顔が妙に眩しく感じられた。
少し落ち着いたのか、保田は前面のソレを見、
真希を見、もう一度それに視線を戻し、
喉に何かがつかえたような声を漏らした。
「・・・これが、だよね?」
保田は、ちらりと真希の表情を伺い、言葉を続けた。
「・・・取ったから爆発するとかは流石に無いでしょ。
後藤が見つけたんだから、良かったら後藤が取りなよ。」
保田の言うことは、もっともだと思われた。
依然、そこはかとない危機感は覚えたものの
真希は、そろそろと、その手を伸ばした。
ホゼソ
ノノ*^ー^)<ホゼンしま〜す
Xmas保全
割鐘を叩く様な音が部屋中に響き渡っていた。
視界は歪み、滲み、霞み、目の前のボタンは
まるで漫画の毒キノコのような
滑稽な不吉さをその全身に醸し出していた。
呼吸をする度に胸の奥で何かが悲鳴を上げていた。
楽になろうと、呼吸を早めたが
早めた呼吸を元に戻せなくなっている事すら
高橋愛には自覚できなかった。
(・・・霧が ・・・邪魔。邪魔。邪魔。
・・・霧?霧だったっけ? くっ、解らない。邪魔。邪魔。邪魔なの・・・)
沈黙を続けていたモニタが、唐突に後藤を映し出した。
画面右端に映る歪みの向こうのその姿が無性に懐かしかった。
(・・・負けない。負けない。負けられない、負けたくないよ・・・)
画面を凝視する愛の頬を額から雫がつたい落ちていった。
ボタンの僅かに上で意図していないのにカタカタと小刻みに震える自らの腕が
あまりにも頼りがいが無く、他人のものに見えた。
後藤が、ゆっくりとクリスタルに向かって手を伸ばした始めた時、
保田圭は、我知らず唾を飲み込んだ。
圭は、それが思ったより大きい音を立てたと知覚していたので、
慌てて後藤の表情を伺ったが、
後藤のその若干翳った表情は一向に変化する様子を見せなかった。
肌寒さを感じさせる光景の中、
クリスタルに向かって、ゆっくりと伸びていく
微かに日に焼けた後藤の腕がしなやかさが、
圭は、妙に気恥ずかしかった。
触れるか触れないかの所で、後藤は頭を振り始めた。
それでもクリスタルに一応一旦触れる事は触れたが、
ソレを取り上げようとはせず。ポツリと言った。
− やっぱり駄目だよ・・・ −
圭は、自分の頬が若干熱を持っていることを自覚していた。
後藤にソレを取る気はあるのだが、何かを警戒していて
ソレを取ることが出来ないのだ、と判断した瞬間、
後藤の言葉が終わるや否や、圭は横合いから手を伸ばした。
圭は、まるでソレを後藤に取ってやれば、
このおかしな照れくささが振り払えるかの様な気がしていた。
226 :
めり-:03/12/25 17:47 ID:l8LqFK4m
° .☆ ゚ ° ゚ ゚
° ,个、 ° 。
ノ ♪ミ ゚ 。 このスレのみんなにも、50回目のメリークリスマス ゚ 。
イ 彡※ヽ ° °
.ノ,● ※☆ミゝ゚ ゚ ゚ 。 。
彡 ※,, †,, ヘ
ν※ ,,★,,※〃ノノハヾヽノハヽヘ ゚ ゚ ゚ 。 °
⌒⌒i⌒i⌒ 从*VvV) ‘ 。‘ )
┬┬┬┬┬--つ☆⊂-つ†O┬ ☆ ▲ °
‐┼┼┼┼┼‐┼┼┼┼┼┼ ゚ ヽ(・・)(・・)/ ゚
┼┼┼┼┼┼‐┼┼┼┼┼┼ ゚ ( ) )
とにかくホゼンだ
遅筆な様ですがホゼン。
せっかくきたんだし、保全。
保
ぜ
へ
肺の中の空気を目一杯吐き出してから、
新垣里沙は額を伝いかけた幾筋かの汗を拭った。
里沙は、確信に満ちたスローペース頭を上げると
上目使いに眼前やや高い所にあるモニタを確認した。
里沙を除く3人の名前には×印が付記されていた。
(よし! て言うか、さすがに皆引っかかったんだ・・・)
後藤が取らなかったこと、に加えて
画面外の誰かがその後すぐに取ったこと。
その二つのハードルをクリア出来たのは
偶然の悪戯としか言えなかった。
実際には、「持ち上げた時」と言う台詞を意識しすぎて、
後藤の手にタイミングを合わせ損ねただけなのだ。
その直後の手に関しては、既に完全に集中力を失っていた。
それなりのタイミングで反応できた様な出来すぎた結果に、
里沙は慌てて少し顔を伏せた。
頬の血行の良さが普段より少し気になった。
その時点では、まさか数秒後に音を立てて液体が
自分の筒を振り落ちて来ることなど、里沙には知る由もなかった。
(何だってんだよ・・・)
吉澤、石川、加護が、ゲーム開始と共に
思い思いに散り散りなって以来、
辻希美は何度目かの同じ台詞をヘルメット内側にぶつけた。
確かに、決してベタついた関係ではなかったが、
希美としては仲が悪かったつもりは無い。
お互い良い仕事仲間だった筈なのだ。
(・・・くそっ、一緒に行こう。とか何で言わないんだ・・・)
目の前の急な岩肌に腹立ち紛れに
数回立て続けに前蹴りを入れた後、
希美は、改めて深い溜息をついた。
ゲームのターゲットも一向に見当たらないし、
段々と肌寒くなってくるはで、気分は腐る一方であった。
希美は、何度も苛立たしげに
腰の銃をのグリップを握る手に力を込めた。
同期三人に対する憤懣に浸りきっていた希美には
小石が自らの脇を数個転がり落ちていったことは
何の関心も払えない程度の事であった。
ほ
ほ
ぜ
ぜ
一瞬振り返った後藤真希は、
すぐ隣の保田の方に向き直りながら小首を傾げた。
保田がソレを取り上げた瞬間、
ラジオのノイズに近い様な音が、背後で鳴った気がしたのだ。
反射的に振り返ってはみたものの、
発生源となるようなものは、何も見当たらなかったので
真希は釈然としないものの結果を受け入れざるを得なかった。
少し紅潮した顔の、鼻の吹き出物まで
はっきりと判る位至近に立っている保田は、
少し慌てたようにソレを真希に差し出した。
− はい。ね、大丈夫でしょ。 −
断ってはみたものの、真希は半ば押し付けられる様な格好で
結局ソレを受け取る形になった。
肌寒さを感じている一方で、
真希には、風がやけに騒々しく、
空気が濃密に甘酸っぱく感じられた。
− 結構気に入ってたのになあ・・・ −
小川麻琴は零れ落ちだし、徐々に足元を浸し始める液体を、
諦め混じりに見ていた。
靴が、ソックスが、水面に歪み、色合いを変化させ、
そのデザイン的価値を著しく下落させつつあるのが、
奇妙におかしかった。
麻琴は、その脇に映る、己の顔を見て、
初めて自分が痴呆の様に、口を開けっ放しであることに気がついた。
麻琴の口を閉じる動作とシンクロするかの様に、
天井のスピーカーは気に障る程陽気な声を吐き出し始めた。
「あー、ガキさんゴメンな。コンピューターのミスだわ。
わりー。直すようにするから、ゴメンな」
「一人しか残らなかったからって、そいつが最下位ってのはマズいわなぁ・・・」
麻琴は、ちらりと新垣に視線を走らせたが、
新垣の様子は若干気色ばんでいる。という程度でしかなかった。
その程度に見えなかったのだ。
麻琴には、腰の辺りまで、このぬるま湯に浸かりながら悲痛な顔をして
何かを叫んでいる高橋と紺野の尋常で無い様子が同時に視界に入っていたから。
ホゼン
保全。
ガチャンと。古風な作動音を立ててソコが開いた時、
思わず保田圭は反射的に仰け反った。
正確には、仰け反ろうとして
それを達成する前に突き飛ばされた。
ソレが特に害が無い事が判るまでに数瞬、
後藤に押されたと言うことを理解して、
後藤の様子を確認しようとするまでに、もう数瞬を要した。
− ご、ごめん、圭ちゃん。 びっくりして・・・ −
圭が、数m後方で、ぎこちない笑顔を作りながら
少し慌てたように言い訳をしている後藤を認識したのに合わせるかのように
唐突にヘッドセットから聞き慣れた声が流れ出した。
「おーい、保田ぁ。わりぃわりぃ。驚かせちゃったか?
そこ見てみろよ。武器があるだろ?
このゲームはスゲー危ないから特別にプレゼントしてやるよ。
おいおい、んな、顔するなよ。
オレは昔から結構お前のことが気に入ってるんだぜ・・・」
よく言えば未来的、悪く言えば玩具っぽい、
モノがそこに鎮座していた。
ただ、それの持つ禍々しいまでの重厚感は
紛れも無くそれが、本物であることを感じさせた。
圭が再度、振り返って確認した時、
後藤は相変わらず眉根に皺を寄せていた。
後藤は何度か圭の顔とソレに視線を往復させた後、
やがて、ゆっくりと一歩一歩確かめるかのように
歩み寄って来ながら、圭を促すかの様に、微かに数度頷いた。
ゆっくりと手を伸ばし、ソレに触れた圭は、
その冷たさに僅かに顔をしかめた。
間違いない。人を害することを目的に
作られた機械だけが持ち得る冒涜的な権力の威圧。
− これを、自分が正しく使えるのか?その資格があるのか? −
コレを手に取ってしまった事を後悔する思いが、
圭の心を侵食し始めていた。
後藤に見られないように注意深く俯きながら、
圭は、深い溜息を一つ漏らさずにはいられなかった。
年始更新乙
今年も保全
ほほほ
ほ
254 :
名無し募集中。。。:04/01/06 06:51 ID:MRoDir2U
空襲警報が鳴った時もよく防空壕の中で聞いてたな…。なつかしいよ、真夏の光線
保全
田
小説面白いよ
がんばって書いてください。
256 :
名無し募集中。。。:04/01/06 21:38 ID:OORxs2ta
そういえば、今年でつんくが刑務所の服役を終えるなぁ・・・。えっ?何でって?お前忘れたの?つんく、コンサート終了後にトイレで新垣をレイプしたんだよ
257 :
∩ :04/01/06 21:41 ID:0R5Qe0PV
258 :
名無し:04/01/06 22:08 ID:Hqvon06w
>>256 まさかその一回で新垣が妊娠しちまうとはな。
でももっと驚いたのは、新垣がその子供を出産した事だな。
hozen
ほ
保全
田
ある意味、千載一遇のチャンスと言えるのかも知れない。
市井紗耶香は、非日常的なスピードで乾き続ける
己の喉を、唇を、潤す為の努力すら無意識の内に放棄していた。
安全面を考えてというのは買いかぶり過ぎだろう、
紗耶香は、ただ、泣きはらした己の顔を、
取り乱した姿を誰にも見られたくなかったが為に
再度岩山に戻ったのだ。
− それが、こんなチャンスを・・・ −
信じ難いほどの偶然だった。
一方の垂直に近い程急峻な岩場の眼下に
あの忌まわしい銀ヘルメットが居るのだ。
服装からして、先ほどの二人組とは違う様だが
喜劇的なまでに特徴的なその姿は何れにせよ仲間には違いない。
不安定な崖際の岩群が
紗耶香に禁断の欲望を誘っていた。
− 押せば落ちる? 当たる? 死ぬ? 死なない? 殺す? は、まさか・・・ −
事情は判らないが、銀ヘルメットは岩山を何度も蹴りつけたり
かなり苛立った様相を見せていた。
ほ
あぶねーあぶねー。保
ただ小説が読みたいがために
保全
田
念のため
掌は盛大に汗にまみれていた為に、岩の表面の黄土色に近い砂の粒子で
芸術的な化粧を施されていた。
何度目か、岩を軽く押してみては、その振幅幅、重量、材質、配置。
紗耶香は、それが、ある目的に使用可能であるという確信を高めていた。
眼下には銀ヘルメットが小刻みに動きながら滞留していた。
(・・・何を苛立ってるの・・・ くっ・・・ こっちだって・・・)
銀ヘルメットは、まるで水面に漂うカラフルな浮きの様に
地味過ぎる森の光景には場違いだった。
(・・・明日香は ・・・彩だって ・・・何を ・・・私だって・・・)
ゆらゆらと動く銀ヘルメットは、時折リズミカルに沈み込んでいた。
紗耶香は、視界一杯に広がるほどの銀色のソレに吸い込まれそうだった。
(・・・く、私の方がムカツイテルンダ・・・ クソ・・・ クソォ・・・
アスカノ・・・ アヤ・・・ カタキ、カタキ、カタキ、 シ、シ、シ・・)
紗耶香の全力の助力を受け、ゆっくり傾ぎ、遂に臨界点を越えたそれは、
経路と己自身に副次的な破壊をもたらしながら、
一直線に狙い定められた標的に向かって落下していった。
前を歩いていた後藤が突然立ち止まったので、
保田圭は思わず大きくなったその背中に飛び込むところであった。
後藤が森の中央方向を見て一瞬眉を顰めたのを、
圭は見逃さなかった。
− ううん、何でも無いよ。 何か音が聞こえたような気がしただけ・・・ −
髪を風に泳がしながら、圭の質問に明るく答える後藤の、
僅かに突き出し気味の唇を、その上の特徴的な可愛らしい鼻が、
小刻みに落ち着き無く動き続けているのを、
圭はじっと眺めていた。
(・・・ははは、昔から本音を言ってない時の後藤の癖はソレだね。
そんなところは変わらないんだ・・・)
些細な発見が妙に嬉しかった。
横を見れば、相変わらず延々と続く壁、壁、壁。
それは圭に、この永劫に続くかと思われる閉塞感の中で、
極めて貴重な息継ぎを提供してくれたのだ。
ほっぜーん
ほぜっん
モニタは依然として沈黙を貫き通していた。
再び、同期のメンバーに視線を投げかけてみて
小川麻琴は、ある変化に気がついた。
先ほど異常なほど赤面していた高橋と紺野の顔が、
正反対に、すっかり蒼白になってしまっており、
二人とも、明らかに平衡感覚を保っていない様で
前後左右に、危なっかしいほどに全身をふらつかせていた。
(・・・何? 何が起こってるの?)
麻琴は、僅かに身を屈め、もう一度
膝の辺りまで満たしているモノを確認してみたが、
それは、「お湯」であるとしか思えなかった。
確かに、それは生温かくて気持ちは悪い。
確かに、狭い筒の中で若干湯気が立ち息苦しいとも言える。
それにしても、あの様子は一体何が起こっているのか。
何かに救いを求めるかの様に、
麻琴は、当て所無く視線を部屋中に彷徨わせた。
レーダーらしき計器に二つの光点が現れた為に
加護亜依は、身体の向きを55度ばかり左に回転させた。
古ぼけた巨大な、逆に言えばその二点しか価値が無い
ありふれた巨木の陰に身を隠し、
亜依は慎重に来訪者の様子を伺った。
大きめの砂時計が4分の3程度仕事を終えた頃、
それらが亜依の視界に姿を表した。
− 何? あれがターゲット!? ・・・ −
それは、まるでヨーダかグレムリンかと言った
皺くちゃな気味の悪い生物と、
TVゲームに出てくる豚人間の様な醜悪な生物だった。
画面上に浮かび上がった四角いラインの枠が
それらの二匹の上に二つ固定されていた。
亜依は腰の銃に手をやりかけて、
グリップを撫でただけで、手を離し、頭を振った。
(・・・コレを使って良いの? ・・・見えるものを信じられない・・・)
誰かにとって都合良く情報のカットされたスクリーン、
確かな破壊力を持った武器、何かに敷かれたレールで
断崖絶壁に誘導されているような感が拭えなかった。
そう、見えはしなかったが、確かに、あれは確かに亀井だった筈なのだ。
保全
田部
ほ
ぜ
276 :
:04/01/15 20:36 ID:tJx0THzI
(・・・くっ、 ・・・侭よ。)
相手が飛び道具らしきモノを即射体制では携行いないと判断した
加護亜依は、己の腰のホルスターの中に行儀良く収納されている
鈍色の凶器のグリップに手を添えたまま、
滑るようなサイドステップで座標を移動すると
ターゲットとされている輩の前に敢えて姿を晒した。
落ち着かない気持ちをなだめる為、
無意識に顔に手をやろうとして
冷たいヘルメットの感触に阻まれ
亜依は、軽く舌打ちした。
刺激させるのを避ける為、ゆっくりと、
派手なモーションにならないように
膝を軽く内側に絞り込み、その後に、
極端に前後にウエイトをかけ過ぎない事を意識しながら
少しずつ重心を落とした。
ターゲットは、何か耳障りな叫び声を上げながら
少しずつ近づいてきつつあった。
(・・・敵意はあるんか? くそっ、わからへん、どないしたらええんや・・・)
二人の様子から目が話せなかった。
新垣里沙は、水蒸気が不規則かつアーティステイックな模様を作り上げた、
この湿った筒の内側に、遂に、へばり付かんばかりの勢いであった。
完全に蒼白な面持ちで、垂直に立っていられない
といった様子を見せていた二人は、
その後沈黙を守り続けるモニタを他所に
もはや冗談にも正常状態とは言い難い様相であった。
高橋は押しボタンの台に縋り付いて
痙攣し続ける下肢を辛うじて
その本来の機能を果たしているかのように
見せているだけであったし、
紺野に至っては、ぐったりと筒に身体を預け
徐々に半身浴に近い格好に移行しつつあった。
視覚以外の二人の情報が一切無いことと、
そのあまりにも非日常の場景が、二人の筒までの
絶望的な迄の距離感を醸し出していた。
どれ位の時間が浪費されたのだろう。
一瞬大きく反り返った紺野が、口に手をやろうとしかけ、
まるでピナツボ火山の噴火の様に激しく嘔吐し始めた。
ん
保全です。
同上
ほ
保全
田
帆
木立の狭間からソレが飛び出した時
中澤裕子は、フィクションの渦に引きずり込まれかけたが
理性を振り払い、本能を懸命に総動員し、
理屈では無く、直感で現実を咀嚼しようと努めた。
最悪の作為と最高の自然に溢れるこの森で遭遇した
目の前の滑る銀のヘルメット頭の女。
あまつさえ、その腰には
裕子自身が現在所持しているモノと、ほぼ同一に見える
鈍い光沢を放つ凶器様のモノまで備えている。
それは平常時であれば、スクリーンか書物の中、
一次元低い世界でしか存在し得ない光景であった。
無意識にソレを握る手に力が篭ったのを
悟られるのを恐れるかの様に
裕子が掌に視線を落とした時に、
素っ頓狂な声が右の頬をいきなり痛打した。
− ねえ、裕ちゃん。あれって加護じゃない? −
安倍なつみの顔に視線をやる前の一瞬で、
裕子は吊り上げかけた右の眉を
慌てて正常な角度に修正した。
小川麻琴が酷い痛みに気がついた時、
可哀想な麻琴自身の無口な働き者の右の手は
赤く腫れ上がり無言の抗議を繰り返していた。
それも無理も無かった。
文字通り痛いほど認識できた、この異様に頑丈な筒を、
状況に対する最大限の抗議の意を込め、
繰り返し十数度力任せに殴打したのだ。
麻琴が、どんなに叫び、荒れ狂っても
隔絶された向こうの閉鎖空間の中の状況は
一向に好転する気配を見せなかった。
開ききった口を閉じるのも忘れ
麻琴は、その水面に歪む紺野に対し、
全く無力な己に歯噛みしていた。
麻琴は、ただ見ることしか出来なかったのだ。
激しく嘔吐しながら、前のめりに崩れ落ち、
腰の高さ程の水面に沈んでいく紺野を。
何度か立ち上がろうとし、そのたびに崩れ落ちる紺野を。
吐瀉物に塗れ水面に髪を泳がす紺野を。
せーふ
も
ぽ
ほ
保全しますよ―
まもー
保全
田
軽い音をたてて崩れていく足下の落ち葉が
二人の軌跡を描き出していた。
安倍なつみは距離の消失に反比例して
それが加護亜依であることの確信を増大させた。
背格好、ヘルメットからこぼれる髪、
そして何よりも、その身に纏った雰囲気が
加護そのものであった。
徐々に、その姿が鮮明になるに連れて、
なつみの確信に、新たな不信が重ね塗りされ始めた。
隈取のようにヘルメットの表面に、上着も、脚も、
加護は全身に点々と赤黒い化粧を施していたのだ。
その上加護は、幾ら、なつみ達が呼びかけても
腰の武器らしきモノに手を添えたままだったし、
むしろ近づくに連れて警戒の色を強めていた。
それは責められるべき事ではなかったが、
その時の、なつみには、次の一歩が
限界のラインを越えるとは認識できてはいなかった。
鯖重すぎsage
298 :
空気嫁 ◆v/1SSCML0. :04/01/26 21:44 ID:20rHb4jC
モームス言うな
ほ
右足の斜め上方15cm辺りにあった
小さな砂質の岩に狙いを定めると、
辻希美は、軽く持ち上げた右足を
正確にその上に渾身の力を込め打ち下ろした。
満足を感じられる若干の抵抗感の後、
ソレは、砕け、さらさらと崩れ落ち始めた。
希美の視線は、尚もソレに固定されていた。
文字通り粉砕されたその流域の中に、
若干、未だ破壊しきれていない大粒のモノが幾つか混じり、
まるで、嘲るように、ゆっくりと転がり落ちていった。
(くそっ・・・ くそったれぇ・・・)
今日何度目かの大きな舌打ちをした時だったろう。
静寂に包まれたこの森に、似つかわしくない
非創造的な大音響に顔を上げた、希美の眼に映ったのは
大きく跳ね上がり、攻撃的かつ芸術的な放物線を描き
襲いかかる己の頭部の数倍はある巨岩だった。
一瞬、崖上に見知った顔が、昔よく見せていたような
追い詰められた表情を浮かべていたような気がしたが
希美には、それ以上認識を深める時間は存在しなかった。
(・・・もう、あかんで。限界や・・・)
加護亜依は腹を据えた。
−これ以上距離を詰められると、万が一の時に対処出来なくなる。−
無論、今の距離なら絶対大丈夫という訳ではないが、
遠目ヨーダのような怪物の方は銃器らしきものを携帯しているので
あまり近づかれては、決定的な状況になりかねない。
勿論、いざとなれば距離を詰めると言う策もあるのだが、
向こうは豚人間も居るし、2対1は決して望ましい状況ではない。
(・・・くっ、どないしたらええんや・・・)
我慢しきれずに、亜依は銃を抜いた。
左手を右手に軽く添え、十分に反動に備えた後に、
上体を大きく使い、腰を若干捻り、豚人間に狙いを定め様とした。
それを契機に二匹の様子が、にわかに混乱し始めた。
ヨーダが銃に、緩慢に手をやりかけたのを見て、
亜依は慌てて上体をヨーダの方に向き直そうとした。
はっきりしない、むしろ誘う様な緩慢な二匹の怪物の動き。
不十分な彼我の距離と、緩慢だが着実なその更なる消失。
そこが我慢の限界だった。
亜依は無意識の内に人差し指を引き絞っていた。
へ
ほ
ん
ソレは一段と加速したようにさえ見えた。
急角度で錐揉み状態に、まるで獲物を狙う鷹のように、
避ける術の無いスピードと、助かる術の無い質量を持って
飽きれる程の精緻さで、ソレは銀ヘルメットに襲い掛かっていった。
もう巻戻せない事に気がついた時、
憑かれた様に駆り立てられていた
市井紗耶香は、初めてその事に気がついた。
(・・・アノコモ、ニンゲンナンダヨネ・・・)
出来すぎたその光景を、
紗耶香は最後まで見続けることが出来なかった。
顔を伏せた紗耶香の耳に
悲しくも鈍い音響が一つ飛び込んできた。
薄黒く少し湿り気味の地面を掴む、
紗耶香の指は少しずつ少しずつその中へと沈んでいった。
ほ
おっ、大丈夫?
一応
保全
一切の自立的な行動を廃止し
プカプカと漂うばかりの紺野の姿は
悪い冗談としか思えなかった。
小川麻琴が腫れ上がった己の掌と
紺野の黒髪に視線を往復させ疲れた頃に
天井のスピーカーは唐突に無機質な
ある意味ソレだからこそ不快な投げやりさを感じさせる
単調なブザー音を吐き出し始めた。
「おいおい、小川ぁ。叩いたらダメだぞ。ワンペナな。」
「あのな、おめーって、自販機とか叩くタイプだろ?」
「今時小学生でも叩かねーって。 っておい、高橋!何押してんだよ。」
麻琴は、軽薄な台詞の合間に
己の刑の執行にサインが書き入れられたことを認識するよりも
同期の名前に反応した。
麻琴が最速の努力の結果補足しえたのは、
白目を剥いた高橋が崩れ落ち、
最後の支えにとボタン台に伸ばした手が
虚しく滑り落ちる瞬間だった。
麻琴の筒の表面をソレが流れ落ちてきだした。
高橋はソレに若干勢いを削がれながらも
底面に身体の左側面から衝突しすると、
ゆっくりと再浮上してきていた。
安倍なつみが短い悲鳴をあげかけた時、
けたたましい音と共に十メートル余り後に
一足先に分断された、なつみの腕程もある枝が落下した。
加護らしき者の放った一撃は
大きく逸れていったが、その過程において
紛れもなく、それが極めて暴力的な力を持っていることを
雄弁に証明していった。
− あの子・・・ 加護・・・ アイツ、私達に向けて撃ったべ。 私達を殺そ・・・ −
一瞬の喧騒に反抗する様に、滞留し続ける静寂に耐え切れず
堰を切ったように喋りだした、なつみを遮る様に、中澤が言った。
「・・・うん、あ。 ・・・うん ・・・でも、私には、
あの子には当てる意思は無かった様にも・・・ 見えた・・・ かな・・・」
なつみは、加護の走り去った方の林を向き、
少し唇を噛む様にして、じっと立ち尽くしている中澤の横顔を見つめていた。
その表情から中澤の思いを読み取ることは殆ど出来なかったが、
少なくとも、なつみの個人的な事情には
全く気づいた様子が無いことだけは理解が出来た。
なつみは、少し濡らしてしまった下肢に、望まず着せられた
この安っぽい衣装が、へばり付きかけるのが不快だったが
細心の注意を払い、何事も無い様を装いながら立ち上がった。
316 :
ねぇ、名乗って:04/02/07 09:23 ID:CNHSv/0W
もう50年たったのか。知らなかったよ
保全!
Yes.We can do.
ぽ
つぇ
保全
田
記念sage
遅筆でつね
ミニモニ。アルバムがよかったから保全
がんばれ
も
期待保全
高橋は、ゆっくりと身体前面を下向きにする体勢に移行していった。
同時進行的に、かなりの回数、その中の何度かは特に激しく、
ソレの中に気泡を吐き散らした後に、
ようやく落ち着いたのかの様に、その中を漂っていた。
少し茶色に染めた髪が四方に広がり、
時折痙攣する高橋の動きを、忠実に根本から拡散し形作っていた。
小川麻琴が、量を増しつつある、己自身に関与するソレを意識したのは、
紺野と高橋が、完全にその動きを止めたのを確認したかのように
透明なガラス様であった二人の筒が、前触れも無く鏡面化し、
二人の様子が計り知れなくなった頃になって、ようやくの事であった。
(・・っっ、これって、お、お酒!?)
膝の辺りから腿の辺りへと量を増しつつあるソレの
嗅いだ事のある、どこか甘ったるいような刺激臭は強まるばかりであった。
僅かの時間の中で、皮膚を刺すような感覚が我慢出来ないほど気になりだし、
眼や、鼻、口の粘膜も、その見えざる攻撃に晒されている事を
嫌でも自覚出来るほど通常機能を損ないだしていた。
涙に霞む目で、己の太腿部から更にその上を浸そうとしている
ソレを再確認した時に、遂に麻琴の口から短い悲鳴が漏れた。
ro
na
ほ
mo
333ゲト
Ho
保全するから
気長に続けてくだされ