(・・・くっ、 ・・・侭よ。)
相手が飛び道具らしきモノを即射体制では携行いないと判断した
加護亜依は、己の腰のホルスターの中に行儀良く収納されている
鈍色の凶器のグリップに手を添えたまま、
滑るようなサイドステップで座標を移動すると
ターゲットとされている輩の前に敢えて姿を晒した。
落ち着かない気持ちをなだめる為、
無意識に顔に手をやろうとして
冷たいヘルメットの感触に阻まれ
亜依は、軽く舌打ちした。
刺激させるのを避ける為、ゆっくりと、
派手なモーションにならないように
膝を軽く内側に絞り込み、その後に、
極端に前後にウエイトをかけ過ぎない事を意識しながら
少しずつ重心を落とした。
ターゲットは、何か耳障りな叫び声を上げながら
少しずつ近づいてきつつあった。
(・・・敵意はあるんか? くそっ、わからへん、どないしたらええんや・・・)
二人の様子から目が話せなかった。
新垣里沙は、水蒸気が不規則かつアーティステイックな模様を作り上げた、
この湿った筒の内側に、遂に、へばり付かんばかりの勢いであった。
完全に蒼白な面持ちで、垂直に立っていられない
といった様子を見せていた二人は、
その後沈黙を守り続けるモニタを他所に
もはや冗談にも正常状態とは言い難い様相であった。
高橋は押しボタンの台に縋り付いて
痙攣し続ける下肢を辛うじて
その本来の機能を果たしているかのように
見せているだけであったし、
紺野に至っては、ぐったりと筒に身体を預け
徐々に半身浴に近い格好に移行しつつあった。
視覚以外の二人の情報が一切無いことと、
そのあまりにも非日常の場景が、二人の筒までの
絶望的な迄の距離感を醸し出していた。
どれ位の時間が浪費されたのだろう。
一瞬大きく反り返った紺野が、口に手をやろうとしかけ、
まるでピナツボ火山の噴火の様に激しく嘔吐し始めた。