ある意味、千載一遇のチャンスと言えるのかも知れない。
市井紗耶香は、非日常的なスピードで乾き続ける
己の喉を、唇を、潤す為の努力すら無意識の内に放棄していた。
安全面を考えてというのは買いかぶり過ぎだろう、
紗耶香は、ただ、泣きはらした己の顔を、
取り乱した姿を誰にも見られたくなかったが為に
再度岩山に戻ったのだ。
− それが、こんなチャンスを・・・ −
信じ難いほどの偶然だった。
一方の垂直に近い程急峻な岩場の眼下に
あの忌まわしい銀ヘルメットが居るのだ。
服装からして、先ほどの二人組とは違う様だが
喜劇的なまでに特徴的なその姿は何れにせよ仲間には違いない。
不安定な崖際の岩群が
紗耶香に禁断の欲望を誘っていた。
− 押せば落ちる? 当たる? 死ぬ? 死なない? 殺す? は、まさか・・・ −
事情は判らないが、銀ヘルメットは岩山を何度も蹴りつけたり
かなり苛立った様相を見せていた。