一瞬振り返った後藤真希は、
すぐ隣の保田の方に向き直りながら小首を傾げた。
保田がソレを取り上げた瞬間、
ラジオのノイズに近い様な音が、背後で鳴った気がしたのだ。
反射的に振り返ってはみたものの、
発生源となるようなものは、何も見当たらなかったので
真希は釈然としないものの結果を受け入れざるを得なかった。
少し紅潮した顔の、鼻の吹き出物まで
はっきりと判る位至近に立っている保田は、
少し慌てたようにソレを真希に差し出した。
− はい。ね、大丈夫でしょ。 −
断ってはみたものの、真希は半ば押し付けられる様な格好で
結局ソレを受け取る形になった。
肌寒さを感じている一方で、
真希には、風がやけに騒々しく、
空気が濃密に甘酸っぱく感じられた。
− 結構気に入ってたのになあ・・・ −
小川麻琴は零れ落ちだし、徐々に足元を浸し始める液体を、
諦め混じりに見ていた。
靴が、ソックスが、水面に歪み、色合いを変化させ、
そのデザイン的価値を著しく下落させつつあるのが、
奇妙におかしかった。
麻琴は、その脇に映る、己の顔を見て、
初めて自分が痴呆の様に、口を開けっ放しであることに気がついた。
麻琴の口を閉じる動作とシンクロするかの様に、
天井のスピーカーは気に障る程陽気な声を吐き出し始めた。
「あー、ガキさんゴメンな。コンピューターのミスだわ。
わりー。直すようにするから、ゴメンな」
「一人しか残らなかったからって、そいつが最下位ってのはマズいわなぁ・・・」
麻琴は、ちらりと新垣に視線を走らせたが、
新垣の様子は若干気色ばんでいる。という程度でしかなかった。
その程度に見えなかったのだ。
麻琴には、腰の辺りまで、このぬるま湯に浸かりながら悲痛な顔をして
何かを叫んでいる高橋と紺野の尋常で無い様子が同時に視界に入っていたから。