・・・かお・・・ ・・・なっちのせいなの? ・・・い、いや・・・
切れ切れに降り注ぐ涙と嗚咽の隙間から
辛うじてセンテンスを拾い集めて、
中澤裕子は頭を振った。
(・・・そうじゃないでしょ・・・ なっち・・・)
飯田圭織の身体が温もりを失っていくのに、
合わせるかの様に、心に霜が降りていくのが裕子には自覚できた。
ただ、それ以上に、今はそれ所ではないことは理解できていた。
何かを振り切るかのように、裕子は数秒間固く瞼を閉じると、
必要以上に勢い良く立ち上がった。
− おい、中澤・・・ 安倍のせいで、ジョンソンのヤツ可哀相だったな・・・
・・・クリスタルの乗ってた台座の柱の所開けてみろよ。
護身用の武器が入ってるから。念の為に持っていた方が良いぞ・・・ −
タイミングを図っていたように、
ヘッドセットから石橋の声が流れ出した。
冷たくなった飯田と、泣き尽くす安倍、
寒々しい空と、鬱々しい木々、草、灰色の大地。
裕子には、もはや逃げ場は無かった。
(・・・良いよ、シナリオに乗ってやる。 絶対に、後悔させてやる・・・)
無言で、手早く銃を取り出した裕子は、
軽い悲鳴をあげ怯えたを浮かべ後退りかけた安倍に
最大限に優しい声で語りかけた。
「なっち、行こう。 ・・・その、あれは、あれは誰が悪い訳でも無いよ・・・
悪いのは、捻じ曲がったこの茶番劇の演出家なんだから・・・」
保田の声が耳に飛び込んできた時、
後藤真希は正直嬉しかった。ただ、それを言葉にすることが苦手なだけだった。
− あっ、圭ちゃん・・・ −
傍らまで来て、此処までの道程で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように
矢継ぎ早に話し掛ける保田のペースに付いて行けず
相槌を繰り返すだけで真希は精一杯だった。
口は悪いし、物凄く頼りがいがあるとも思えないけれども
それでも、この先輩が、自分を心配して、
単身己の身の安全を省みず追って来てくれたという事実は
どれだけ感謝しても足りなかった。
傍らに立つ汗まみれの保田の顔が妙に眩しく感じられた。
少し落ち着いたのか、保田は前面のソレを見、
真希を見、もう一度それに視線を戻し、
喉に何かがつかえたような声を漏らした。
「・・・これが、だよね?」
保田は、ちらりと真希の表情を伺い、言葉を続けた。
「・・・取ったから爆発するとかは流石に無いでしょ。
後藤が見つけたんだから、良かったら後藤が取りなよ。」
保田の言うことは、もっともだと思われた。
依然、そこはかとない危機感は覚えたものの
真希は、そろそろと、その手を伸ばした。