− かおりっ −
我に返り飯田の所に駆け寄ろうとし
中澤裕子は、慌てて足を止めた。
何かがその原因なのだ。
飛来するものが認識できなかった以上、
何かが、原因となった何かが
飯田の居る空間にあったとしか
裕子は考えざるを得なかった。
急激にペースを落とし、
慎重に歩を進めた裕子の眼に
飯田の足元のあるものの存在のアピールが飛び込んできた。
土が薄くなったその部分から顔を覗かせる、黒いケーブル様のもの。
思えば安倍が躓いたのもこれによるものだったかもしれなかった。
黒く鈍くメタリックな光沢を見せるソレは、
形状的にクリスタルの乗ったオブジェを
ぐるりと囲むように埋設されている様だった。
(・・・感、電!?)
歪みきった表情の飯田は、
裕子の疑問に答える気配の欠片も無かった。
開ききった飯田の瞼に
ゆるゆると手を添えた裕子の髪に
嗚咽と涙が降り注いだ。