ソレまで2m程度のところで、
一瞬何かにつまずいて体勢を崩しかけたが、
控えめに言ってもあまり良くはないと自覚している
運動神経を総動員し、事なきを得て
安倍なつみは、狙い通り一番最初にソレの側に立つ事が出来た。
(・・・凄い、綺麗・・・)
青く澄んだソレは、まるでそれが生きているかの様に
艶かしくも滑る輝きをひけらかしていた。
特に固定されている様子も無い。
ソレは、まるでこの空間に迷い込んだ別次元の異物だった。
際立って他とレベルが違うといわんばかりの
存在感を持っており、
片手に持てる大きさにもかかわらず
一向にそうと感じさせない、まさに場の支配者であった。
ちらりと後ろを振り向いた時、
飯田は未だ先程なつみが蹴躓いた辺りであり
中澤に至っては更に未だその数m後ろであった。
なつみは満面の笑みを浮べ、ソレに手を伸ばした。
一瞬モニターがノイズに満たされた後、
画面に映し出されたのは、先程の説明にあったクリスタルと
その側に立つ安倍なつみだった。
紺野あさみは慌ててボタンの上に手を伸ばした。
画面の中の、安倍は、まるで囚人服の様な
普通先ずあり得ない格好をしていた。
その風に揺れる髪に見え隠れする不思議なヘッドセットも
それなりに業界に居るあさみですら見た事が無いものであるし、
何よりも安倍の居る場所が
およそ通常のロケでは考えられない様な
現実離れした、逆にある意味自然すぎる光景であることも
あさみに、奥歯が軋むような違和感を覚えさせた。
(・・・音が無いのって、結構タイミング取り辛い・・・)
あさみが左右に視線を走らせ同期の面々の様子を確認しようとした時、
一瞬こちらを振り向いた安倍がクリスタルに手を伸ばした。