通電を匂わせる一瞬のノイズの後に、
天井に埋め込まれた小さなスピーカーが
しゃがれた中居の声を再現した。
「あー、そりゃ勿論フライングも罰ゲームだっぺ。」
高橋愛は答えに納得しかけた所で、些細な困惑を覚えた。
試行錯誤し脳内の情報保管を取り払うことに
数瞬を要した後、愛は、ようやくその原因を探り当てた。
ソレは紺野あさみの質問に対する返答だったのだろうが、
あさみの質問する様は、勿論ガラス越しに見えてはいたのだけれども、
その質問した声は、一切、愛には聞こえなかったのだ。
つまり、このお世辞にも広くいとは言えない室内で
自分達4人は、お互いの姿は手に触れんばかり近くで見ることが出来るけれど
それ以外の、視覚的な情報以外は一切合切お互いの様子が判らないのだ。
何かが少しずつ間違った方向へ動き出している、
何か得体の知れない重圧感に息が詰まりそうだった。
愛は、無意識に両の掌で口を覆っていた。
他人のように大きな自らの呼吸音が割れ鐘のように耳に響き渡っていた。
− Allez cuisine! −
愛が何かを叫びかけた時、
4人の思いを他所にゲームは淡々と開始を告げられた。
いい加減変わらぬ光景に何回目かの飽きがきた頃
後藤真希の眼前が忽然と開けた。
執拗に視界を遮ろうと奮闘する笹を
こじ開けるように突破すると
壁際に直径20m程度の半円状の広場が
まるで馬鹿にするかの様に
その開放的な姿を惜しみなく披露していた。
(・・・んぁ!?)
その、広場の丁度真中辺りに、あからさまに人工的な
まるで司会台の様なオブジェが鎮座しており
一番目立つ台上の中心には、
そう、あの今回のゲームの目的であるクリスタルが
取ってくれと言わんばかりに、その煌びやかな姿を
見せびらかしていた。
(・・・あれが ・・・例のブツだよね・・・)
真希は、発見以来その物体を凝視し続けていた。
我知らず、呼吸器と循環器が回転数を上げ、
新鮮な空気をより以上に取り込もうと
小鼻がその存在を主張していた。
手を伸ばせば届くような距離に立っても、
真希は、両掌を、まるで何かを抑えるように
自らの髪を撫でつける事に専念させていた。
風が堪らなく生暖かく感じられた。