「・・・はい、お待たせしましたぁ。」
「んじゃ、早速だけどゲーム始めっか。」
「おぃおぃ、いきなり過ぎねえ?」
「んだよ、放送時間があんまりねーんだよ。はい、舞台さんお願ーい。」
「はい、皆さんは立ち上がってくださーい。」
石橋と中居のいつも通りの軽妙なやり取りと
TV的な強引さに小川麻琴は辟易としていた。
音も無く降りてきた円柱状の巨大なガラス管の中に
一人一人が別々に入る格好となった。
椅子は麻琴達が立ち上がるのを待たずに
半ば立ち上がることを強制するかのように降下し
嘘の様に影も形も無く床下に格納されてしまった。
空間の形状の突然の変化に伴う
斬新な音相が麻琴に久方振りの刺激をもたらしていた。
石橋と中居の作り物めいたナレーションは
尚も途切れること無く目に見えない何かを紡ぎ出していた。
「・・・要は、画面に映ってる中澤達が、
そのクリスタルを取った瞬間に
目の前のボタンを押せば良いんだよ。解るかぁ?」
「勿論フライングは駄目だぞー。」
「で、早く押せた順に得点が高いって、寸法よ。」
「で、お約束だけど一番遅かったヤツには罰ゲームが待ってまーす。」
「と言う訳で、何か質問がある人手を上げてー。」
!? ゲームの内容が台本と違う・・・
紺野あさみは不安を隠し切れなかった。
そこはかとなく感じられる今回の収録における何処か冷たい感じ。
同期4人のみでの移動だったが、
移動途中からこの建物の前で起こされるまで
眠っていたのは確かだけれど、
不自然に記憶が途切れていること。
更に今も姿が見えないし、到着以来この建物の中には
スタッフと言える姿が殆ど見られなかったこと。
何もかもが違和感を掻き立てずにはいられなかった。
ぼんやりとして、焦点が合ってはいないものの、
それらのピースが合わさって出来る事象が
良い方向のものであると考えられるほど
あさみはオプチミストではなかった。
そうする事で、兎に角何かする事で、
不安を振り払えるかのように
あさみは挙手し発言を求めた。
「すみません! ・・・えっと ・・・その、フライングも罰ゲームなのでしょうか?」
(・・・私ったら、いったい何を言っているのだろう?)
内心、若干苦笑しながら己の発言を省みることが出来る程度の余裕が
この時の、あさみには未だ残っていた。